咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第34話 7日目 side サクヤ ユウとのテレパス②

 時刻は午後8時。外はすっかり夜の帳が降りているけれど、あいにく大図書館には窓が無いので分からない。

 机の上にはパチュリーが選んだ本が並んでいて、私、魔理沙、パチュリーで手分けして読み進めていったけれど、これといった進展は無かった。そういえばユウ達はどうなったのかしら?

 

「そろそろテレパスを始めたいのですが、よろしいですか?」

 

 訊ねると、パチュリーは本を閉じて顔を上げる。

 

「確かに、いい頃合いね」

「ふわ~ぁ、なんだか眠くなってきたぜ」

「寝たらたたき起こすわよ?」

「分かってるよ」

 

 背もたれに身体を預けながら大あくびをする魔理沙の後ろを通って、パチュリーは私の隣に歩いてくると、先程と同じように魔力の塊を私に分け与えてくれた。

 

「これでいいわよ。今度は、さっきよりも少し多めにしたわ」

「ありがとうございます。もしよければ、パチュリーさんと魔理沙も、テレパスを通じて私達の会話を聞いていきませんか? お二人からも、色々質問したいことがあるでしょうし、説明する手間も省けますから」

「確かにそうね」

「異世界人と話せるのは面白そうだな!」

「それでは、お二人にもテレパス魔法を一時的に繋げますね」

 

 私は詠唱を行い、パチュリーと魔理沙にも会話が聞こえる状態にする。

 

「それでは始めます」

 

 パチュリーが席に着くのを待ってから、私はテレパスを開始した。

 

『もしもし、ユウ? 聞こえる?』

『バッチリ聞こえているわ! ふふ、連絡が来るのを待っていたよ!』

 

「おぉ、本当に頭に響いてるぜ」

「なんだか不思議な感覚だわ」

 

 魔理沙とパチュリーはテレパスに感心しているようだった。

 

『今パチュリーと魔理沙にもこのテレパシーを聞こえるようにしてるけど、大丈夫よね?』

『問題ないよ! 初めまして、パチュリーさん、魔理沙さん。サクラギ・ユウです』

『よろしくね、ユウ。私の事はパチュリーで構わないわ』

『私が魔理沙だ! 気軽に呼び捨てで呼んでくれていいぜ!』

『ふふ、よろしくねパチュリー、魔理沙』

『早速本題に入るけれど、結果はどうだったの?』

『サクヤの体と心には問題はないみたい。ただ――』

『ただ?』

『そこから先は私が説明します』

 

 いきなり私たちの脳内に、鈴のような声が響き渡る。

 

『この声は……リィン!?』

『久しぶりですねサクヤ。事情は聞いています。なんだか大変なことになっているみたいですね?』

『ええもう本当に色々大変よ……。それで、結果はどうだったの?』

『聞いて驚かないでくださいね。イザヨイサクヤの体を隅々まで調べた結果、幻想郷の十六夜咲夜さんと、アルカディアのイザヨイサクヤは全くの同一人物だという事が判明したのです』

『えっ!?』

 

 彼女の言葉に私は大層驚いた。確かに似てるとは思っていたけれど、全くの同一人物と言われるとは思わなかったからだ。

 

『同一人物ってなんだ?』

『リィン、根拠を聞かせてくれる?』

『前提として、精神の入れ替わりは滅多なことでは起きません。綿密な準備と複雑な手続きを通して行わなければ、肉体と精神の齟齬が発生して、自我の崩壊が起こる可能性が高くなるからです。ところが、サクヤ達にはそれが起こっていない。これは二人の魂が極めて似ているからだと思われます』

『でも待って。そっちの世界のサクヤが幻想郷の咲夜の体に乗り移った時に魂の封印をすることになったわ。根拠としては弱くないかしら?』

 

 パチュリーの質問に、リィンは答えた。

 

『サクヤは後天的に魂が変容しただけで、本質的な部分は変わってないのですよ。こう考えれば矛盾してる事にはなりません』

『ふむ……』

 

 リィンの答えを聞いたパチュリーは何か考え込む姿勢を見せた。

 

『2つ目の根拠は、二人はこの入れ替わり現象が起こる前に、前兆として夢を介してお互いの日常を覗き込んでいたそうじゃないですか。その時に、何か言葉では表せられないような複雑な感情が込み上げてきたのではないですか?』

 

 リィンの言葉に私は少し考えてから答えた。

 

『そういえばそんな感じだったような……』

『それは魂の共鳴現象です。魂が限りなく近い――双子のような関係性の人物に極まれに起きる現象なのですが、これこそが同一人物の証になるでしょう』

『なるほど……。確かに、言葉で説明するのは難しいけれど、お互いのことがなんとなく分かるような感じがあったわ』

『そして最後の根拠は、咲夜さんとユウの話を聞く限りでは、お二人の姿がそっくりだということですね。長々しく語りましたが、私はこれが一番根拠としては大きいものだと思います。人間、自分そっくりの人というのはそうはいませんからね』

『まあ確かにしっくりくるよなぁ』

『同一人物である事を突き詰めていけば、この入れ替わりの原因も分かりそうね』

 

 魔理沙とパチュリーは頷いていた。

 

『ねえリィン。肝心の入れ替わりが起きた原因は分かったの?』

 

 私は肝心要となる部分をリィンに訊ねた。

 

『候補は幾つかあるのですが、残念ながら断定には至っていません。ですが、原因は分からなくても解決する方法はあります』

『聞かせて!』

『先程私が言ったような、しかるべき手続きを踏んでもう一度サクヤ達の精神を入れ替わらせれば元通りになるでしょう。現在の私ならそれが可能ですが、2人のサクヤが私の元に来てくれないとできません。今回の入れ替わり現象の原因を究明して解決法を探るか、世界の壁を飛び越える方法を考えるか、この2択ですね』

『う~ん……、どっちも難易度が高いわね』

 

 現状どちらの方法も解決の糸口すら掴めていないのよね。

 

『なあ、召喚魔法でどっちかの咲夜を呼ぶってのは無理なのか?』

『召喚魔法は、対象となる被召喚者が存在する世界の場所を感知していなければ不発に終わるわ』

『う~ん、いい方法だと思ったんだがな』

 

 魔理沙は落胆しているみたいだけど、私は彼女の言葉に雷に打たれたかのような衝撃を受ける。

 

(そうよ! 召喚魔法ならもしかしたら可能性があるかもしれないわ! だけど問題があるわね……)

 

 私と咲夜が魂の共鳴が起きるくらい、魂の結びつきが強いなら、そのラインを利用して、咲夜に私の現在位置を知らせる事が出来るかもしれないわ。

 だけど、この方法には膨大な魔力が必要になる。このテレパスのように、魔力の一時的な供与だけでは到底足りないし、必要な魔力量を供給してもらった場合、魔法使いではない咲夜の身体は間違いなく壊れてしまうでしょう。

 パチュリーか魔理沙に頼み込んで使用する手もあるかもしれない。

 実は先程リィンが話していた『綿密な準備と複雑な手続き』――つまり今回の私と咲夜のような、精神を交換する魔法についても知識だけはある。100年前、魔王軍との戦いに役立つかもしれないと思って、リィンと共同開発したのだけれど、あまりにも危険すぎるから結局1度も使わなかったのよね。

 まあ今の私には到底使えない魔法ですし、パチュリーと魔理沙は信用しているけれど、こんな危ない魔法を幻想郷に残すつもりは無いので、やっぱりこの方法は諦めましょう。

 

『でもさ、私みたいな例外もあるんだし、案外世界の壁を破るほうが簡単なんじゃないかなぁって、思うけど』

 

 魔理沙をフォローするようにユウは言うけれど、リィンは否定する。

 

『ユウの場合は例外中の例外でしょう。二度と異世界から侵攻されないように結界を張った事を、アルカディア様が仰られていましたから』

『でも実際に、今回の現象は世界を超えて起きているわけだし、アルカディア様は関知していらっしゃらないのかしら』

『――そうですね。今回の件についてアルカディア様に伺うべきかもしれません。私はこれから神託を勧請しようと思っています。他に此方でも独自に調べてみるので、何か分かったらすぐに連絡しますね』

『ありがとう、リィン』

 

 リィンのテレパスが切断された。

 

『さて、リィンはこれから忙しくなりそうだし、そろそろ私と咲夜は家に帰るから一旦切るわね。また明日の夜にテレパスをちょうだい』

『分かったわ』

『パチュリーさん、魔理沙さん。サクヤをどうかよろしくお願いします』

『任せなさい』

『おう』

 

 その言葉でテレパスは終了し、私達も解除する。

 

「ふう、意外とテレパスって疲れるのね。小悪魔にやるのとは大違いだわ」

「恐らく通信相手が異世界で、人数が多いからだと思います。私もこんなに疲れるとは思っていませんでした」

「そうね……」

「サクヤ、お前、いい仲間を持ってるな」

「ありがとう。ユウもリィンも、自慢の仲間よ」

 

 魔理沙に答えた私はふう、と息をついた。

 

「それにしても私と咲夜が同一人物かあ……」

 

 改めてこの事実に驚嘆の念を禁じ得ない私だった。

 

「魔法使いの咲夜とメイドの咲夜。性格は似てるのに世界が違うだけで、こうも生き方が変わるんだな」

「まあ言われてみれば、貴女と咲夜って何となく似てるわよね。時々私も、貴女が別人って事忘れそうになるもの」

「えっ、そうなんですか。なんか嬉しいような、悲しいような」

「察しがいいところとかが特に似ているわ。仮にもし帰れなかったとしても、メイドとしてここで働いていけそうね」

「いざって時はそれもいいかもしれませんね。アハハ……」

 

 私は乾いた笑いで、彼女の冗談を軽く流しつつ、「――でも、それだと咲夜が浮かばれないでしょう。彼女の気持ちを考えると、私なんかがここにいてはいけません」

「どうしてそう思うの?」

「私が入れ替わる前、彼女がレミリアお嬢様に仕えている姿を夢で観た時に感じました。この二人は単なる主従関係ではない深い繋がりがあるのだな、と。それを私が破ってはいけないと思うのです」

「咲夜は人間社会に馴染めなかった子だったからね。今では普通に接してるけど、一時期は人間全てを憎んでいたわ。なんとか私達でその考えを矯正することができたけど、あの時は大変だったわ」

「アイツ……そんな過去があったのか。全然知らなかったぜ」

「咲夜はあまり他人に心を開かないからね。知らないのも無理は無いわ」

「理由を聞いても?」

 

 恐る恐る訊ねると、パチュリーは言った。

 

「咲夜の話だと、彼女の固有能力が人間達に恐れられていたようね。この能力のせいで親や友達からも見捨てられたと聞いたわ」

「……そうだったんですね。とても悲しい話です」

「だけどね、咲夜は『今はここのメイドとして楽しく毎日を過ごしているので、もう心の整理はついてます』と話していたわ」

「咲夜は幸せだったのね。そんな彼女の日常を取り戻すためにも早くこの問題を解決しなくちゃね」

 

 私は決意を新たに、問題の解決に一層取り組んでいくことを誓った。

 

 

 

 問題の解決を誓ったはいいが、いつのまにか夜も更けてきたので、魔理沙は「そろそろ帰るぜ。また明日な!」と元気よく帰っていき、パチュリー様にも「今日はもういいから、そろそろ寝なさい。忘れているかもしれないけど、貴女は怪我人なのよ? 早く治しなさい」と言われたので、私は部屋に戻っていく。

 部屋に帰ってパジャマに着替えた途端、今日の疲れが出たのか急に眩暈がして、私はそのままベッドに倒れこんだ。

 

(ああ、これはこのまま明日まで眠っちゃうわね……)

 

 目を閉じてすぐに、私の意識は深く落ちていった。




この話で7日目のサクヤsideは終了です。
次の話から7日目の咲夜sideに入ります。
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