咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第35話 7日目 side 咲夜 朝①

 ――side 咲夜 7日目――

 

 

 

 朝日が昇り始めた時間に自然と目が覚めた私は、ベッドから起き上がる。世界が変わっても、メイドをしていたころの習慣は変わらないわね。

 早々にサクヤの魔法使いっぽい私服に着替えた私は部屋を出る。誰もいないロビーは、朝早い時間のせいか冷たい空気でしんとしていた。さて、どうしましょうか。朝食にはまだ早い時間なのよね。

 

(……庭にでも出ようかしら。流石にそれくらいなら大丈夫よね)

 

 私は玄関に向かった。

 

 

 

 外に出た私は思いっきり深呼吸をして、朝の空気を味わっていた。

 

(ん~気持ちいいわね~)

 

 海鳥の鳴き声と、海風が運ぶ潮の香りは、幻想郷では味わえないわね。

 とその時、奥の方から風を切るような音が聞こえてきた。見ると、白いTシャツと短パン姿のユウが木刀を握り、素振りを繰り返していた。

 彼女は私の姿に気付くと、素振りを止めて木刀を置き、首から掛けたタオルで汗をぬぐいながら私の元に近づいてきた。

 

「おはよう、咲夜。早起きね」

「おはよう。何してるの?」

「鍛錬よ。毎日反復練習を繰り返す事で腕を鈍らせないようにしてるのよ。いつ何時、何があるか分からないからね」

「へえ、真面目なのね。そういえば美鈴も同じように毎日中国拳法の鍛錬をしていたわね。武人って皆こうなのかしら」

「美鈴さんって、確か紅魔館の門番をやっている人だっけ? 一度手合わせしてみたいなあ」

「彼女結構強いわよ? しかもかなり頑丈だから多少の攻撃じゃダメージ通らないし、私が思いっきりナイフ投げつけたのに刺さったまま平気で会話するもの。あれには呆れたわ」

「えぇ……?」

 

 私の言葉にユウはなぜか引いているようだった。

 

「……ナイフを投げられて平気なのもおかしいし。咲夜もナイフを投げるなんて一体何があったのよ? ていうか、メイドさんなのにナイフ持ち歩いているの?」

「美鈴はサボリ癖があってね、いくら注意してもしょっちゅう寝ちゃうから眠気覚ましに投げているだけよ。それにね、例えメイドと言えども自衛手段を持つのは幻想郷なら普通よ?」

 

 そう言って私は足元に1個だけ落ちてた石を拾い上げると、ユウの後ろ側の開けた空間に向かって投げつける。その石は見事に蜂に命中して、ひっくり返りながら墜落していった。

 

「へえ、コントロールいいのね。的を用意するからさ、ちょっとこれ持って投げてみてもらえない?」

 

 彼女のほうを見ると、またまたどこから出したのか、一本の金属製ナイフが握られていた。

 私がナイフを受け取ると、彼女は少し離れた位置に移動して、虚空から木の棒で固定された的を取り出して、芝生に突き刺す。

 ユウが私の隣に来たのを確認してから、私は的めがけてナイフを投擲する。目標に向かって一直線に飛んでいき、的の真ん中に突き刺さる。それを見てユウは感嘆の声を漏らしながら拍手していた。

 

「わぁっ、凄いわね! さっきよりも威力が増してて、投げやすそうだわ!」

「まあ、使い慣れているからね。……そういえば一昨日から気になっていたけど、いつもどこから物を出してるのよ?」

 

 何もない空間から物が生まれるのは有り得ないし、まさか彼女も時間を止められるのかしら?

 

「あぁ、そういえば言って無かったね。原理はこれよ、これ」

 

 そう言った直後、彼女の後ろの空間がぐにゃりと歪む。呆気に取られている間にも、彼女は歪んだ空間に手を突っ込み、中から一振りの剣を出した。

 

「これはサクヤが開発した異空間に物を収納できる魔法でね、魔力量に応じて中の大きさが変わるから、魔力が多いとかなりたくさんの物が入るのよ。しかも中に入れた物は全然腐らないし、かなりの万能魔法よ」

「便利な魔法ね。買い物した時も荷物要らずじゃない」

「でしょ? ちなみにアルカディアではね、この魔法が掛けられた箱――マジックボックスが広く流通していてね、冒険者の必需品になっているのよ」

「私もこの魔法が使えないかしら?」

「いいわよ」

 

 私は彼女から収納魔法が記された1枚の紙をもらい、そこに記された呪文を唱える。すると、私の中に何か新しい空間が生まれたような感覚が発生する。試しに的に刺さったままのナイフを抜いて、その空間を意識して後ろ側に手を伸ばすと、手首から先が何かに呑みこまれる感覚が伝わり、咄嗟に手をひっこめつつ振り返る。握っていた筈のナイフは私の手から消えていて、背後の何もない空間がユウと同じように歪んで波打っていた。

 

「まさか1回目を通すだけで完全に習得しちゃうなんて! やっぱり世界が違っても咲夜には魔法の才能があるのね! きっと咲夜が幻想郷に帰った時も、使えると思うわ」

「う~ん、でも私魔法全然使えないのよねえ。きっと今だけだと思うわ」

「えぇっ、そうなの!? なんだか勿体ないわね。魔法使いを目指す気は無いの?」

「私はお嬢様のメイドですから」

「そっかぁ」

 

 とその時、ユウはふと何かを思いついたかのようにこう言った。

 

「あ、そうそう! 言い忘れていた事があったわ。実はサクヤの収納魔法はね、市販のマジックボックスと違って、人間が中に入ることもできるのよ! 試しに私の中に入ってみる?」

「えぇ……?」

 

 予想だにしていない事を言われた私が返答に詰まっていると。

 

「いいからいいから入ってみて!」

「え、わ、ちょ」

 

 彼女に手を掴まれた私はそのままユウに引っ張られて、歪んだ空間の中に入って行く。

 中は、白い壁に覆われた円形の部屋となっていて、二十畳はありそうな部屋にはベッド、ソファー、ダイニングテーブルと椅子、生活用品がしまわれた収納棚が置かれていた。

 壁には四方に8つの扉が設置されていて、私から見て左から順に木製の扉が3つ、鉄製の扉、金色の扉、襖、曇りガラスの扉、そして光で出来た扉があった。

 

「収納魔法の面白いところはね、やろうと思えばこの中で暮らすこともできるところなのよね。長距離の移動中や、ダンジョンの中で休憩を取る時にとっても便利なのよ」

「確かにそうね。この部屋にある扉は何処に繋がっているの?」

「木製の扉がキッチン、食糧庫、トイレで、鉄の扉が主に武器を置いてる部屋ね。金色の扉は金庫で、襖は和室、ガラスの扉が浴室で、光の扉はこの空間の出口ね。

「きっちりしてるのね。最初からこんな風になっていたの?」

「いえ、これは私がイメージした通りになるように改造したのよ。ここまでするのに結構大変だったわね」

「ふ~ん? 私も自分で自由に部屋を作れるのかしら」

「それにはまず咲夜の異空間の中を見てみないとね。一旦外に出てから中に入ってみましょう」

 

 私はユウの言葉に頷き、光のドアを通って屋敷の玄関に出る。そして私は異空間を開き、いざ入ろうとする前にユウから一言。

 

「あ、そうそう。ちゃんと出入り口のイメージをしっかり作ってね? じゃないと脱出が非常に面倒になるから」

 

 彼女に言われて大急ぎで扉を作り、私達は改めて異空間の中に入る。

 

「わあ……」

 

 私の異空間の中は開けた真っ白な空間で、後ろに自分の作った赤色の扉がポツンと浮かんでいる。少し歩いた先には、私が先ほど入れたナイフが床に落ちていた。

 

(これは私の心象風景なのかしらね?)

 

 ナイフを拾い上げながら、ふとそんな事を思ってしまった。

 

「う~ん、目が痛くなるほどに真っ白だねえ。でもこれなら改造しやすいかもね。下手に個性があるよりいいと思うよ」

 

 ユウの感想を聞きながら私は訊ねる。

 

「どうすればいいのかしら?」

「この空間の中では自分自身のイメージが全てよ。咲夜の思うがままに考えるといいわ」

「急に言われても何を思えばいいのか……」

「貴女にとって、身近にある物をイメージしたらどう?」

「身近な物……」

 

 私はしばし考える。真っ白い空間に色が浮かびあがり、形がどんどん変わっていく。やがて自由自在に形が変わっていったものは、どんどんと落ち着いていき、変化が落ち着いた頃には私が慣れ親しんでいるものが目の前に出来ていた。

 私が考えた後に思い浮かんだものは、紅魔館だった。

 

「凄い、本当にできたわ……!」

 

 私は目前に広がる光景に驚くと共に、懐かしい気持ちを抱いていた。

 

「この建物は?」

「紅魔館――私がメイドとして仕えている家です」

「へぇ~」

 

 ユウも紅魔館を見て情緒的な趣を感じているようだった。

 私は建物の前に歩いていき、玄関の扉を開ける。ところが中はがらんどうとしていた。さながら舞台のセットのように外側はしっかり作られているけれど、中は張りぼてだった。

 

「建物の中身もしっかりイメージしないとこうなるわよ? 建物系はしっかり細部までイメージをして作らないといけなくて難しいから私はあまりオススメしないわ」

「……結構面倒くさいのね」

「魔法は万能じゃないからねえ。――それでどうするの?」

「そうねえ、ここまで来たら細部まで頑張って作ることにするわ」

「オッケー。私はそろそろ屋敷に戻って、シャワーを浴びてくるわ。ついでに朝ご飯も作ってくるね」

「分かったわ」

「もし万が一の事があったら、さっきの紙に書いてあった緊急脱出用の魔法を使ってね。それじゃ頑張って」

 

 彼女は、空間の外に繋がる扉を開けて外に出て行った。

 

(さて、頑張りましょうか)

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