咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
「咲夜ー! ご飯できたよ~」
扉の外からユウの声が聞こえる。私は地面に両手をつき、肩で息をしながら、なんとか声を振り絞る。
「はあっ、はあ……、今、行くわ……!」
「大丈夫? なんか息遣い荒いけど」
「大……丈夫よ! ちょっと疲れただけだから」
「そう?」
私の返事を聞いた後、ユウの声は聞こえなくなった。
(ふう……、こんなにきついなんて思わなかったわ)
紅魔館を再現することを目指したものの、半分も進まずに私は疲労困憊だった。
(いつかパチュリー様が『魔法は精神力が大事よ』と仰られていたけれど、身に染みて理解したわ。とりあえず今は、ユウの元に行かないと)
私はヨロヨロと立ち上がり、出口のほうへ向かった。
「「いただきます」」
私は今、ダイニングルームでユウが作った朝食を一緒に食べている。お品書きは、バターパンに野菜のスープ。
「あれから、どのくらいまで再現できたの?」
「まだ半分にも達してないわ。ずっと頭を使っていると、精神的にかなり疲れるのね」
「私も初心者の頃はそんな感じだったわ。でも魔力をコントロールする術を身につければ――キャッ!」
「ど、どうしたの!?」
話の途中で突然小さな悲鳴を上げた彼女は、やや恥ずかしそうに答えた。
「ご、ごめん。急にリィンからテレパスが入って驚いちゃった。悪いけど、少し静かにしてて」
私はユウの言葉に従い再び黙々と食事を摂ることにした。テレパスというのは、恐らく電話みたいなものでしょうね。
彼女が再び口を開いたのは、私が完食した頃だった。
「お待たせ。えっとね、急患が入ったから、今日の10時からの診療を午後3時からに延期してほしいって連絡が入ったわ」
「そう、別に構わないわ。ちょうど終わらせておきたいものもあったしね」
個人的に、物事を中途半端な状態で投げ出すのはなんだかソワソワして落ち着かないですしね。
「無理しすぎちゃダメよ?」
「大丈夫よ、なんとなくコツが分かってきたから」
そう言って私は席を立ち、片付けをした。
「ついにできたわ!」
現在の時刻は午後1時を回った頃、私は歓喜に満ち溢れていた。
先ほどのハリボテのような建物ではなく、しっかり中身も完全に再現することができたからね。……まあ、ちょっと怪しいところはあるけれど。
私は早速ユウを呼び出して、紅魔館内の施設を案内する。彼女は完成の速さに驚きつつ、関心を示しながら私の案内を聞いていた。
最後に私は偽紅魔館の自室に案内し、私たちは座席に座り一息入れることにした。
「紅魔館って広いのねえ。こんなに広いお屋敷は見たことないよ。これを咲夜1人が管理してるっていうのが驚きねえ」
「メイド妖精は注意しないとすぐ遊んじゃうからあまり戦力にならないのよね」
「あはは、面白いねそれ」
「こっちからしたら笑い事じゃないわよ、もう少し指示に従って欲しいわ」
私は溜息を吐く。そういえば、元々の私はどうなっているのかしらね? お嬢様に不敬を働いていなければいいけれど。
「ここって咲夜の部屋でしょ?」
ユウは私の部屋を見渡してからさらにこう言った。
「なんか物寂しい部屋ねぇ。棚にナイフとか飾ってるし、生活感があまりないわ。もう少し女の子らしくしたほうがいいんじゃないの?」
「うるさいわね、私はこれでいいのよ。今更女の子らしく、なんて言われても、もうそんな年でもないわよ」
「まだ十代でしょ?」
「そうだけど……私にはそんなの全然似合わないわ。只のメイドで結構よ」
「う~ん、もったいないなぁ……。サクヤの話だと私そっくりの風貌って言ってたし、きっと元の身体の貴女もかなりの美人でしょうに」
彼女は私の事をとても残念に思っているようだけど、反応に困るわね。
「でもさ――」
何かを言いかけたユウは、急に真剣な表情になって押し黙る。
「どうしたの?」
「…………」
彼女は私の問いかけに答えず、急に泣きそうな顔になったかと思えば、笑い始めたりと、コロコロ表情が変わっている。本当にどうしたのかしら?
「咲夜! 私の知っているサクヤからテレパスが来たわ!」
ユウの言葉に私は思わず立ちあがり、「え!? それ本当!?」と言った。
「うん! 紅魔館地下の大図書館にいるらしいわ!」
「!!」
私は口を手で隠し目を丸くした。
「これって、貴女が元居た世界で間違いないよね?」
「ええ」
「すぐにサクヤに返事のテレパシーを送るわ! ついでに貴女も聞いていって!」
ユウが私の頭に手を当てた直後、脳内に何かが繋がったような感覚が起きる。
『…………うん、確認が取れたわ。今私の隣にいる咲夜も間違いないって言ってる。これで貴女と幻想郷の十六夜咲夜が入れ替わっているというのは確定的になったわね』
ユウは口を閉じているのに、彼女の声が頭の中に響く。更に続けて、私ではない私の声が聞こえてきた。
『やっぱりね。一体何がどうしてこうなったのかしら……』
(これ、私じゃないわ! この声の主がこの世界のイザヨイサクヤなのね)
私が念じても私の声は頭の中に響かないし、間違いないでしょう。
それからユウとサクヤは互いの状況について情報交換を行い、夜に再び連絡する事を約束して、テレパスが切れた。
「連絡が来て良かったわ!」
「ええ、本当にね」
特に紅魔館での状況を聞けたのは私にとっては大きい。お嬢様が心配ではあるけれど、パチュリー様やついでに魔理沙も動いているのなら、心強い事この上ない。
「咲夜達に朗報を届ける為にも、そろそろリィンの元へ行きましょうか!」
「ええ、そうね」
私とユウは意気揚々と部屋を出た。