咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第38話 7日目 side 咲夜 王都の散策

 大聖堂の外に出た私達は、王都の商店通りに移動する。その名の通り、道沿いには露店や屋台が並び、買い物客で賑わっていた。

 私はリンゴの砂糖漬け、ユウはミートパイを注文し、食べ歩きを楽しんでいた時、ユウに声が掛かる。

 

「あれ、ユウじゃん? こんな所で何してんの?」

 

 隣を見ると、ホットドッグを頬張る赤髪赤目の少女がいた。

 動きやすそうな服装の上にローブを羽織り、腰のベルトには魔導書がホルダーに仕舞われている。彼女は魔法使いなのかしら? 武装しているところからみても、戦闘経験がありそうですし、少なくとも他の王都の住人とは違うわね。

 

「友達と食べ歩きしてたところだよ。リリアンは何してるの? いつもの仲間は?」

「今日は皆、別々に行動してるわ。私はたまたま仕事が早く終わったから、ここで食べ歩きしてたの」

 

 快活な笑みを浮かべながら彼女は私を見て言った。

 

「ねえねえユウ、この綺麗な女の子は誰?」

「彼女は咲夜、魔法使いよ」

「初めまして、咲夜です」

 

 私はリリアンと呼ばれた少女に挨拶をすると、彼女は顔を輝かせる。

 

「魔法使い!? しかもサクヤ様と同じ名前なんて、凄いわね!」

「サクヤ様ってそんなに凄いの?」

「そうよ! 伝説の魔法使い、イザヨイサクヤ。魔力・技量共にアルカディアの歴史上最高峰と謳われていて、100年前の魔王軍との対戦の時に、杖を一振りしただけで1万の軍勢を吹き飛ばした――なんて逸話も残っているわ! それだけではなく、戦後にマジックボックスの開発や、ミニファイア魔法に代表される生活魔法を人々に広めたり、素晴らしい功績を持っているのよ!」

「良く知っているのね」

 

 興奮気味に話す彼女の反応的に、この世界のサクヤはかなりの偉人みたいね。全然知らなかったわ。

 

「魔法使いならこんなの常識じゃん。ていうか、同じ名前なのに知らなかったの?」

「それは……」

 

 私が言い淀んでいると、彼女は更に、「……あれ? 銀色の髪に青色の眼、そして深い海のような魔力量……ま、まさか……!?」とその眼が驚愕に変わっていく。

 

「それ以上は駄目よリリアン。咲夜が困ってるでしょ?」

「え、でも……えっ!? というかユウ! 貴女知り合いだったの!? 私がサクヤ様を尊敬しているのは知っていたでしょ! どうして教えてくれなかったのよ!?」

「サクヤはさ、あまり人と関わるのを好まないからね。今日だって、どうしても外せない用事があるからお忍びで来てるんだ。リリアンも、今日の事は内密にお願い!」

 

 ユウが手を合わせて頼み込むと、リリアンは私を一度だけ見てから溜息を吐いた。

 

「――そう。サクヤ様の意思なら仕方ないわね。ということは、貴女も同姓同名の別人では無く、100年前の英雄様だったのね」

「うん、そうだよ。別に隠して無いからね」

「100年前の勇者様とその仲間達が現在も生きている――なんて都市伝説は、真実だったのね。ユウ! 後でじっくり話を聞かせてもらうからね!」

「はいはい」

「いい? 絶対だからねっ!」

 

 ユウに念を押すように言い放ったリリアンは、私に「それでは失礼します」と一礼して、正門の方に向かっていった。

 

「元気な子だったわね」

「私も知り合った時に咲夜と同じ事思ったよ。彼女はリリアン・ダシルヴァって言ってね、王都周辺で主に活動してる冒険者なんだ」

「冒険者?」

「前にちょこっと話したけど、冒険者ギルドに舞い込む様々な依頼を解決して、生計を立てているのが冒険者という職業なのよ」

「確かに、そんな事を話していたわね」

「ちょうどこの近くに冒険者ギルドがあるんだけど、もし興味があるのなら見学に行ってみる?」

「そうね。折角ですし、行きましょうか」

「決定! ……でもその前に」

 

 ユウは収納魔法から黒いフレームの伊達眼鏡を出した。

 

「また騒ぎになったら困るし、ちょっと変装していった方がいいね」

「私は構わないけど……貴女はやらないの?」

 

 受け取った眼鏡を掛けながら訊ねると、「私は100年前当時とは全然姿が違うからね。ほら」と、1枚の写真を収納魔法から出して見せる。

 そこには、日本のごく普通な一軒家の『桜木』の表札がある玄関前で、ピースサインをする私服姿のユウが映っている。だけど、今のユウよりも背丈が一回り小さく、髪と瞳の色は黒かった。

 

「本当に貴女の写真なの? まるで別人じゃない」

 

 日本に居た時の彼女がアジア人だとしたら、今の彼女は白人にしか見えないわ。

 

「こっちの世界に来て神聖魔法を連発しているうちに、今の姿に変わっていったのよ。まあこの辺りの事情は、気が向いた時にでも話すよ。行きましょうか」

 

 私達は冒険者ギルドへと足を運んでいく。

 

 

 

 商店通りを抜けて西門近くに向かうと、冒険者ギルドの看板が掲げられた2階建ての建物があったので、中へと入っていく。

 ギルドの中は意外と広く、1階と2階部分に分かれており、酒場も併設されているようで、ちらほらと酒を飲んでる人達がいる。

 扉から入って正面に受付があり、左右にはいくつもの掲示板が設置されている。びっしりと張り紙が貼られていて、冒険者と思われる人達が真剣な眼差しで張り紙を吟味していた。

 

「あの掲示板には冒険者ギルドに寄せられた依頼が張ってあってね、1階は主にCランク以下の冒険者向けの依頼が貼られているのよ」

「Cランク?」

「冒険者はF~Sまでのランク制になっているの。最初はFランクから始まって、依頼を多くこなしたり、難しい依頼を達成するとランクが上がっていくのよ。ランクが高いと、それだけ命の危険が増すけれど、その分報酬が多くなるから、冒険者は皆高ランクを目指しているわね」

「そうなのねぇ」

 

 私は掲示板の前に移動して、依頼の内容を見ていく。ペット探し、家のお掃除、宅配、魔物退治、指定された素材の納品等、多岐に渡るジャンルの依頼があった。

 

「本当になんでも屋さんみたいね。依頼を受けようと思ったらどうしたらいいの?」

「張り紙を剥がして受付カウンターのお姉さんに話しかければ、依頼を受注したことになるわ」

「ふ~ん?」

「でも咲夜は無理にやらなくてもいいのよ? 貴女はこの世界の人間じゃないんだし、待っている人がいるんだからね」

「……そうね」

「他に見たいところはある?」

「2階には何があるの?」

「ついてきて」

 

 私はユウの後に続いて階段の前に歩いていく。ユウが階段の前に立つ制服の女性に一枚のカードを見せると、彼女は道を開けた。

 

「これで良し。行こうか」

 

 私とユウは2階に上がっていった。

 2階も同じように掲示板と休憩スペースがあるものの、1階に比べて人がまばらで依頼数も少なく、何も張られていない掲示板もある。

 

「2階はBランク以上ではないと受注できない依頼が貼ってあるわ。報酬が多い分命の危険があるものばっかりね」

 

 試しに近くの掲示板を見てみると、アドレイ火山の火炎竜討伐、シッスニ海の海賊団退治、A級ダンジョンファラードの攻略人員募集の依頼が並んでいる。どれも最低1万G以上の報酬なのね。

 

「おや、ユウさんではありませんか」

 

 近くで高い声が聞こえて振り返ると、斧を背負い、全身を金属鎧で固めた茶髪の女性がユウに話しかけていた。

 

「久しぶりだね、マリーさん。これから仕事に行くの?」

「ええ、まあ。良ければサクラギさんも一緒にどうですか? 貴女の魔法剣があれば、心強いのですが」

 

 マリーと呼ばれた女性が、依頼書を見せながら提案をしたけれど、ユウは首を振った。

 

「悪いけど、今は友達を案内しているところなんだ。また今度ね」

「分かりました。では私はこれで」

 

 彼女はユウと私に頭を下げて、階段を降りて行った。

 

「彼女も友人なの?」

「そこまでじゃないかな。前に一回だけ、密林のラフレシア討伐でパーティーを組んだくらいだよ」

「そう」

 

 それから私達は、暗くなる時間まで冒険者ギルドの中を見て回った。

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