咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第39話 7日目 side 咲夜 診察結果

 レストランで晩御飯を食べて、私達がリィンの診察室に戻って来る頃には、外は真っ暗になっていた。

 

「お帰りなさい、結果はもう出ていますよ。そこに掛けてください」

 

 リィンに促されて、私達は壁際のソファーに座る。

 

「さて、まずは何から話しましょうか……」

「順番に話してくれていいわよ」

「では――」

「待って!」

 

 リィンが話をしようとしたところをユウが止めた。

 

「いきなりどうしたの?」

「サクヤからテレパスが来たわ。リィンの診察の結果を聞きたいらしいわ」

「いいタイミングですね。私も参加しましょう」

「私が繋げるから、咲夜も聞いていってね」

「聞くだけではなくて、私も話に加わりたいのだけれど」

「ユウ? まさか咲夜に教えていないのですか?」

「ごめん、うっかりしてたよ! 後で教えるから今は我慢して!」

「……仕方ないわね」

 

 リィンが詠唱を始めると、昼間のように脳内に声が響く。

  

『早速本題に入るけれど、結果はどうだったの?』

『サクヤの体と心には問題はないみたい。ただ――』

『ただ?』

『そこから先は私が説明します』

『この声は……リィン!?』

 

(何度聞いても、私ではない私の声を客観的に聞くのは、不思議な気持ちになるわね)

 

『久しぶりですねサクヤ。事情は聞いています。なんだか大変なことになっているみたいですね?』

『ええもう本当に色々大変よ……。それで、結果はどうだったの?』

『聞いて驚かないでくださいね。イザヨイサクヤの体を隅々まで調べた結果、幻想郷の十六夜咲夜さんと、アルカディアのイザヨイサクヤは全くの同一人物だという事が判明したのです』

『えっ!?』

 

(!? それってどういう事よ? だって、私はここにいるわけで……)

 

 向こうの入れ替わったサクヤも、リィンの言葉に困惑しているようだった。

 

『同一人物ってなんだ?』

 

(魔理沙の声……。彼女も参加していたのね)

 

『リィン、根拠を聞かせてくれる?』

 

 サクヤの問いかけにリィンはこう答えた。

 

『前提として、精神の入れ替わりは滅多なことでは起きません。綿密な準備と複雑な手続きを通して行わなければ、肉体と精神の齟齬が発生して、自我の崩壊が起こる可能性が高くなるからです。ところが、サクヤ達にはそれが起こっていない。これは二人の魂が極めて似ているからだと思われます』

『でも待って。そっちの世界のサクヤが幻想郷の咲夜の体に乗り移った時に魂の封印をすることになったわ。根拠としては弱くないかしら?』

『サクヤは後天的に魂が変容しただけで、本質的な部分は変わってないのですよ。こう考えれば矛盾してる事にはなりません』

『ふむ……』

 

(パチュリー様も悩んでいらっしゃるのね)

 

『2つ目の根拠は、二人はこの入れ替わり現象が起こる前に、前兆として夢を介してお互いの日常を覗き込んでいたそうじゃないですか。その時に、何か言葉では表せられないような複雑な感情が込み上げてきたのではないですか?』

 

(う~ん、確かに気になりましたけど、そこまで強い感情にはならなかった気がするわ)

 

『そういえばそんな感じだったような……』

『それは魂の共鳴現象です。魂が限りなく近い――双子のような関係性の人物に極まれに起きる現象なのですが、これこそが同一人物の証になるでしょう』

『なるほど……。確かに、言葉で説明するのは難しいけれど、お互いのことがなんとなく分かるような感じがあったわ』

『そして最後の根拠は、咲夜さんとユウの話を聞く限りでは、お二人の姿がそっくりだということですね。長々しく語りましたが、私はこれが一番根拠としては大きいものだと思います。人間、自分そっくりの人というのはそうはいませんからね』

『まあ確かにしっくりくるよなぁ』

『同一人物である事を突き詰めていけば、この入れ替わりの原因も分かりそうね』

 

(同一人物……) 

 

『ねえリィン。肝心の入れ替わりが起きた原因は分かったの?』

『候補は幾つかあるのですが、残念ながら断定には至っていません。ですが、原因は分からなくても解決する方法はあります』

『聞かせて!』

『先程私が言ったような、しかるべき手続きを踏んでもう一度サクヤ達の精神を入れ替わらせれば元通りになるでしょう。現在の私ならそれが可能ですが、2人のサクヤが私の元に来てくれないとできません。今回の入れ替わり現象の原因を究明して解決法を探るか、世界の壁を飛び越える方法を考えるか、この2択ですね』

『う~ん……、どっちも難易度が高いわね』

『なあ、召喚魔法でどっちかの咲夜を呼ぶってのは無理なのか?』

『召喚魔法は、対象となる被召喚者が存在する世界の場所を感知していなければ不発に終わるわ』

『う~ん、いい方法だと思ったんだがな』

『でもさ、私みたいな例外もあるんだし、案外世界の壁を破るほうが簡単なんじゃないかなぁって、思うけど』

『ユウの場合は例外中の例外でしょう。二度と異世界から侵攻されないように結界を張った事を、アルカディア様が仰られていましたから』

『でも実際に、今回の現象は世界を超えて起きているわけだし、アルカディア様は関知していらっしゃらないのかしら』

 

(アルカディア様って、この世界の神様のことね)

 

『――そうですね。今回の件についてアルカディア様に伺うべきかもしれません。私はこれから神託を勧請しようと思っています。他に此方でも独自に調べてみるので、何か分かったらすぐに連絡しますね』

『ありがとう、リィン』

『さて、リィンはこれから忙しくなりそうだし、そろそろ私と咲夜は家に帰るから一旦切るわね。また明日の夜にテレパスをちょうだい』

『分かったわ』

『パチュリーさん、魔理沙さん。サクヤをどうかよろしくお願いします』

『任せなさい』

『おう』

 

 ここでテレパスが切れた。

 

「ふう、なんだかいつもよりも疲れた気がしますね」

「あっ、それ昼間のテレパシーでも思った! 相手が異世界だからなのかな?」

「サクヤはユウの故郷の日本という国にいるのでしょう? 魔法が無い世界なのに、テレパシーが普通に通じているってのも不思議ですね」

「そういえばそうね? 考え付かなかったわ」

「……それは幻想郷が特殊な土地だからよ。幻想郷は結界で覆われているから、幻想郷の外の世界の人間達には関知されないし、外では忘れさられた物や概念が、幻想郷に入って来るのよ」

「なるほどねぇ」

 

 私の意見に納得したように頷いている。

 

「それにしても咲夜、随分と暗い顔をしているけど、大丈夫なの?」

「……そう見えるかしら?」

「うん。貴女とは短い付き合いだけど、それでもはっきりと分かるわ。もしよかったら、話してもらえないかな?」

「私も貴女の力になるわよ」

 

 ユウとリィンからの気遣いを感じ、私は思い切って打ち明ける事にした。

 

「幻想郷の私と、この世界のイザヨイサクヤが同じ人間ということは、私は結局何者なのかしら?」

「???」

 

 ユウは疑問符を浮かべていて、伝わっていないようなので、私は更に補足する。

 

「つまり、今ここにいる私と、紅魔館にいるイザヨイサクヤが入ってる私、どっちが本物なのかしら?」

「どっちが本物って……咲夜は咲夜でしょ?」

「ユウの言う通りです。どちらが本物とか偽物とかありませんよ? 少し解説しますね」

「お願いするわ」

「と言っても、そんな大げさな話ではありません。アルカディアのイザヨイサクヤが歩んできた人生、幻想郷の十六夜咲夜が歩んできた人生、そのどちらも紛うことなきイザヨイサクヤです。貴女から見れば、アルカディアのイザヨイサクヤは可能性ね」

「可能性……」

「はい。もし貴女がこの世界に生まれていたならば、魔法使いとしての人生を送って、今の富と名声を得ていたでしょう。逆にイザヨイサクヤが日本に生まれていたのなら、貴女が入れ替わる前までの人生をなぞった事でしょう。……まあ、証明のしようがない仮説にすぎませんが」

「何となく分かる気がします」

 

 要はフィクション作品にありがちな並行世界の自分という事なのでしょうね。

 

「ねえ、リィン。その説に則るなら、私もこの世界にいる、もしくはいた可能性もあったの?」

「かもしれないわね」

「そっかー、リィンってよくそこまで頭が回るわね」

「こんなの大したことじゃないわよ。私の専門分野に近かっただけよ。咲夜、他にも何か聞きたいことありますか?」

「……いえ、特にないわ」

「そうですか。もしまた何かあれば、遠慮なく相談してくださいね」

「それじゃ帰りましょうか咲夜。リィンまたね」

「ええ、また会いましょう」

「今日はありがとうございました」

 

 私はリィンにお礼を伝え、ユウと共に魔法陣を利用して外に向かっていく。

 

 

 

 大聖堂の外に転移した後、サクヤの別宅から再び転移魔法陣を使ってセムイト島の屋敷に帰ってきた。

 申し訳なさそうにしているユウからテレパス魔法を教わり、彼女と頭の中で会話できるようになったところで、彼女は急に思い出したように言った。

 

「――そうだ! 今日の話をミーシャに伝えておかなくちゃ。ちょっと冒険者ギルドの本部に行ってくるから、咲夜は先に寝てて!」

「分かったわ」

 

 ユウは転移魔法陣の上で、王都に行くときとは異なる呪文を唱えて転移していった。恐らく行先別にワードが設定されているのね。

 私はシャワーを浴びてパジャマに着替えると、自室のベッドに横になる。

 

「それにしても今日は色々なことがあったわねぇ」

 

 私は今日の事を思い起こす。

 

(私とサクヤの関係、入れ替わり現象、まだまだ分からないことが多すぎるわ。私も何とかしたいとは思っているけれど、魔法とか人の精神とか全くの専門外ですし、何をしたらいいのか分からないのよね……。紅魔館にいる私とパチュリー様と魔理沙に期待するしかないのかしら? 私に何か出来ることがあればいいのだけれど……)

 

 私は不安を覚えながらも、目を閉じて眠りに就いた。




次の話からは8日目のsideサクヤになります
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