咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
―― sideサクヤ ――
翌朝、普段よりもかなり早く目が覚めた私はベッドの上で考え込んでいた。
(うーん……これはどういう事なのかしら? 昨日と同じような夢を2日連続で見るなんて……。しかも、昨日よりもはっきりと会話が聞こえるようになってるし)
昨日よりも夢の内容が鮮明になっている事も不思議だけれど、一番驚いたのは夢の中のメイドさんが『さくや』と呼ばれていたこと。
私と同じ姿、同じ名前の少女。これは最早ただの夢ではなく、運命さえも感じてしまう。
(最近異世界研究にも行き詰りつつあったし、この謎の夢の研究を始めましょう)
私はベッドから降りて窓際の机の前に座り、引出しに入った羊皮紙と万年筆を取り出して、今日みた夢と昨日の夢の内容を書き出していく。
しばらくした後、自分の思い出せる限りで夢の内容について書き終えたので改めてその紙を見る。
「ふむ……」
私は頭の中で状況を整理する。
夢の中で【さくや】と呼ばれていた少女は、淡い青髪の幼い女吸血鬼に仕えるメイドのようで、妖精? と思われるメイド達に指示を出していたことから、メイド長と思われるわね。
彼女の仕事内容は、基本的に『お嬢様』と呼ぶ吸血鬼のお世話と紅色の館の維持管理、そして『まりさ』と呼ばれた侵入者と思しき金髪の魔法使いとの戦闘から察するに、彼女はナイフと体術を使った戦闘能力もあるみたいね。
(吸血鬼に仕えるメイド、さくや。彼女は自発的に奉仕しているのか、それとも魅了されているのかしら?)
吸血鬼は人間を襲う夜行性の魔族で、再生能力が高く、精神耐性が低い人間を操る能力を持つ。もし現れた場合、複数の腕利きの冒険者と聖属性魔法を習得した神官のパーティーで最優先で倒さなければならない人類の敵だ。
私もかつて戦った事があるけれど、驚異的な生命力と尋常ならざる膂力で苦戦を強いられた苦い記憶がある。特に下級吸血鬼の軍勢を率いたヴァンパイアロードとの戦いは苛烈で、勇者がいなければ私達は全滅していたかもしれなかったわね。
吸血鬼という種族は、100年前に勇者によって滅ぼされた筈なのだけれど、まだ生き残りがいたのね。
(だけど、この“お嬢様”は、私の知っている吸血鬼とは何かが違う気がするわね)
彼女は昼行性で、私の見た限りでは人間の血を飲んでいる様子は無かったし、さくやをかなり気遣っていた。いわば主従の絆を感じたわ。人間を見下す傲慢な種族とは到底思えないわ。
それに妹様と呼ばれる金髪の吸血鬼の姿も確認できた。あの美貌の吸血鬼の姉妹が現代に存在するのなら、もっと有名でもおかしくないのだけれど。
(……駄目ね。情報が全く足りないわ)
謎はお嬢様だけではなく、さくやにもある。
(時々視点が急に飛ぶのは何故かしら)
日常的な仕事の時も感じたけれど、顕著に表れたのは、まりさとの戦闘だった。
まりさの魔法が当たる! と思ったらいつのまにか躱していたり、ナイフが【さくや】の周囲の空間に忽然と浮かんだかと思えば、そのまま相手に向かって一直線に飛んで行ったりしていたわ。どんな原理なのかしら。
(これはただ単に夢だから? それとも彼女の持つ能力なの?)
夢の世界では、支離滅裂で奇想天外な事象が当たり前に起きるので、夢の内容を過信しすぎるのは良くない。しかしその一方で、私の見た夢は現実なのではないかという気持ちもある。
果たして真実はどこにあるのかしら? 思考に没頭していると、お腹の虫が鳴る。
「……ひとまず朝食にしましょう」
私は席を立ち、身嗜みを整えて普段着に着替えた後、そのままダイニングルームに向かっていった。
ダイニングルームに到着すると、エプロンをつけたユウが配膳しているところだった。
「おはようサクヤ。朝ごはん出来てるよ~」
「ありがとう」
私は座席に着き、ユウが席に着くのを待ってから食事を摂り始めた。そろそろ彼女にも相談した方がいいかもしれないわね。
「ねえユウ、貴女って今日見た夢の内容を覚えている?」
「それはまた唐突な話だね」少し考えてから「ん~そうねえ……全く覚えてないわ。どうしてそんなこと聞くの?」と尋ねてきた。
「実は――」
私は昨日と今日見た夢について、要点をかいつまんで話していった。
「自分そっくりの女の子の夢かぁ、それは確かに気になるねぇ」
「これって何かの暗示なのかしらね? 不思議で仕方が無いわ」
「夢ってさ、聞いた話だと、自分の頭の中に入ってる情報を脳が整理する時に見せる映像らしいから、どこかで彼女を見たんじゃない?」
「う~ん、身に覚えが無いわね。もし私そっくりの人を見かけた事があるのなら、そうそう忘れることはないと思うんだけど……」
「じゃあさじゃあさ! その子はサクヤに何かメッセージを伝えようとしているんじゃないかな? 物語とかだとさ、助けを求めて夢枕に現れるというのが定番じゃん?」
「助けを求めている感じでは無かったわよ。夢の中の『さくや』は、“お嬢様”にとても大切に扱われていて、さくや自身も精力的に仕事をしていたみたいだから」
「ん~……全然分からないなぁ。もっと情報が必要だね。現状だと、これ以上あれこれ考えても分からないや」
「今夜から夢の中の世界を意識して眠るようにするわ」
「私の方でも調べてみるね。リィンならもしかしたら何か知っているかもしれないし、明日までには戻ってくるよ」
「お願いするわ」
ロンガディア国の聖女リィン。彼女は過去に何度もアルカディア神からの神託を授かり、魔王軍の侵攻の食い止めたかつての仲間。彼女程に適切な人材はいないでしょうね。
その後朝食を食べ終わった私は、後片づけをしてから図書室へと足を運ぶ。
「さて、まずは何から手を付けましょうか」
本棚を見渡せる位置に立って呟く私。とりあえず夢の内容を詳しく調べると決めたはいいものの、何から始めればいいのかしらね?
「……とりあえず関係がありそうな書籍を片っ端から読んでみましょう」
私は関連がありそうな書籍が置いてある本棚へと向かい、次々と手に取っていく。
「ざっとこんなものかしら」
目の前のテーブルには4冊の本が積んである。題名は『効率の良い睡眠法』『レイの異世界旅行記』『夢と魔法の関連性』『精神の修行』
(たぶん、これで全部のはずよね)
私は椅子に座り、一番上に積んである本から読み始めた。
四冊目の本を半分ほど読み終えた時、ふと壁に掛け時計を見上げる。
「あら、もうこんな時間?」
いつの間にか窓の外は夜になっていた。読書しつつ、気になったところはメモを取っていたのだけれど、寝食を忘れるほどに没頭しちゃったみたいね。私の悪い癖だわ。
「今日読んだ本にはあまりヒントになりそうなものはなかったわね」
そう呟きながら私は栞を挟み、読み終えた本と共に本棚に戻す。
(今日はもう寝ましょう)
私は図書室を出た後、そのまま真っ直ぐと自室へと向かい、手早く寝支度を済ませてベッドに横になる。
(今夜見る夢は、細かい所まで観察するべきね……!)
心の中で強く念じながら、私は夢の世界へと誘われていった。