咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第41話 8日目 sideサクヤ 博麗神社

 

「…………やっと、頂上に着いたわね……」

 

 階段の麓にいた時は大変だと思ったけれど、頂上まで登りきってもあまり疲労を感じなかった。

 

(思った通り、咲夜は私よりも体力があるわね。私も帰ったら鍛えなおさないと……!)

 

 ひそかな目標を胸に秘めて、私は神社の境内へと入って行った。

 境内に入ると正面には賽銭箱があり、その右奥には私の世界の東方地方で見られるような和様建築の神社が建っている。縁側にはレミリアと一人の見知らぬ少女が座っていた。

 私はそこへ近づいていく。

 

「来た来た。遅いわよ?」

「申し訳ありません。私なりに急いで来たのですが……」

 

 私が謝っていると、レミリアの隣に座っている黒髪の少女が声を掛けてきた。

 

「ふ~ん、これがレミリアの言ってた咲夜? ……とても別人には見えないけどねえ?」

 

 その可憐な少女は頭に大きな赤いリボンを身に着け、赤と白の腋が大きく開いた特徴的な巫女服を着ていた。

 

(なんでこの子脇が開いた服を着てるのかしら……。気になるわね)

 

 そんな視線に気付いたのか、彼女は慌てて両手で脇を隠す。

 

「な、何見てるのよ!?」

「いえ、かなり珍しい恰好だなと思いまして。もしかしてコスプレ?」

「コスプレじゃないわよ!? この服はこの神社の正装なの!」

「へえ~、世界は広いのねぇ……」

「そこ感心する所!? ――全くもう、なんかいつもの咲夜とは違うわね」

「ふふっ面白いでしょ? 実際彼女はいなくなった咲夜の代わりをよく務めてくれてるわ。ところどころ粗いところはあるけれど」

「どういうこと?」

「話せば長くなるわ。サクヤ、彼女に自分の事を話しなさい」

「構いませんが……彼女は信用できるのですか?」

「彼女は博麗霊夢、異変解決の専門家よ」

「はぁ」

 

 よく分かりませんけれど、ここはレミリアを信じましょう。彼女からは清廉な雰囲気を感じるし、悪い人では無さそうだわ。

 

「隣いいですか?」

「構わないわよ」

 

 博麗霊夢の許可をもらい、彼女の隣に座る。

 

 

「実はですね――」

 

 私は自分の身に起きた出来事について、博麗霊夢に語っていく。彼女は真摯な態度で私の話を聞いていた。

 

「なるほどねぇ? 嘘みたいな話だけど、きっと本当なのでしょうね。それじゃ改めて自己紹介しましょうかね。私は博麗霊夢。この博麗神社の巫女を務めてるわ」

「よろしくお願いします」

 

 私が一礼すると、彼女は私をじっと見つめて。

 

「――ねえ、あんた無理してない? もっと楽にしててもいいわよ?」

「……!」

 

 私の心を見透かしたかのような発言に、息を呑む。

 

「私には分かるわ。今のあんたは心から頼れる相手がいなくて、自分の本音を出すことができない。今はまだ大丈夫かもしれないけど、そのうちストレスが爆発することになるわよ?」

 

 私は彼女に言葉を選びながらこう言った。

 

「確かにそうね。霊夢さん、貴女の言うとおりよ。でもね、人間時には何が何でも成し遂げなければならない事があるわ。だから心配ご無用よ」

「――まあ、そういう事にしておいてあげるわ。いきなりごめんなさいね、失礼な事を言って」

「いえいえ、霊夢さんが心配してくれているのは分かりましたから」

「……その霊夢さんって言うのやめてよ、気持ち悪いから。タメ口でいいわよ、タメ口で。多分あんたのほうが年上なんだから」

「――分かったわ。霊夢、これでいい?」

「うむ、よろしい」

「――どうやら話がひと段落したようね? それで霊夢、彼女の異変についての解決を依頼するわ」

「解決と言われてもねぇ、あんたの話通りなら、外の世界でも無く、幻想郷でも無い別の異世界が関連しているんでしょ?」

「報酬は弾むわよ?」

「任せなさい!」

 

 乗り気になった霊夢は、一度神社に戻り、先端に白く細長い紙が付いた棒と、黒と白に分かれた二つの球を持って戻って来た。

 

「それじゃあ咲夜。貴女の事を見るから、こっちに来て座って頂戴」

 

 霊夢は私の前に立ち、見下ろしながらじっと観察している。なんだかここ最近、誰かに見られてばっかりね。

 

「どうかしら霊夢? 何か分かる?」

 

 レミリアの問いに、霊夢は難しい表情で答えた。

 

「う~んそうねぇ……。私の勘だけど、原因は異世界にある気がするわね。恐らく、数日以内に解明のきっかけが現れる筈よ」

「本当に!?」

「あくまで勘だけどね。明確には断言できないけど、時が来るまで待つしかないと思うわ。私もしばらくこの件に付き合うわ」

「ふふ、心強いわ」

「それはどうも。定期的にサクヤの様子を見に行くから」

「歓迎するわよ」

 

 二人の間でとんとん拍子に話が進んでいき、レミリアは安心したのか、話題は雑談に変わっていった。

 手持ち無沙汰になった私は、境内をうろつくことにした。私は先ほど上がってきた階段の手前に向かい、遠くを見渡す。

 

(この神社は景色がいいわね~、遠くに家がたくさん見えるけどあれは町かしら? あっちには深い森と竹林が広がっているのねえ)

 

 幻想郷の地理をざっくりと確認していると、街がある方角の空で飛んでいる影を見つけた。

 

(あれは何かしら……?)

 

 そのうごめく物を注視していると、段々とその影が物凄い早さでこっちに近づいてくるのに気付く。

 

(もしかして私に向かって来てる? 危ない――!)

 

 私は一歩後ろに下がり、接近する飛翔体に向けてメイド服の下に隠し持っていたナイフを投擲する。しかしその飛翔体に当たる直前で避けられ、勢いそののままに、私に向かって思いっきり飛び蹴りを行ってきた。

 

(速い――!)

 

 私が眼で追えたのは迫る足だけ。反射的に横に飛びのいて紙一重で躱し、神社の壁際まで移動して、壁を背に向けながらナイフを両手に持ち、戦闘態勢を取る。

 相手は恐らく人型。突っ込んできた相手がどこから来てもいいように意識を集中させた。

 

(どこから来る――!)

 

 気配を感じ、前に飛びのいた直後、私が居た場所に大きな風の塊が着弾。私はすぐさま空を見上げる。

 神社の屋根より高い空に、黒い翼を羽ばたかせがら滞空する黒髪の美少女が私を見下ろしている。民族衣装のような独特の服を着ていて、右手には大きな扇を持っている。あれが先程の風の塊を生み出したのでしょう。

 その少女は私と目が合うと、獲物を定めたような笑みを浮かべ、シルエットがぶれる。長年の経験が知らせる悪寒に従い、胸の手前で両手を交錯すると、ナイフに重たい一撃が入る。この時、目にも止まらぬ速さで接近し、蹴りを入れてきたのだと認識する。

 

(くっ……! なんて馬鹿力なの……?)

 

 蹴りの衝撃を踏ん張りきれずにずるずると後ろに下がっていく。このままでは斜面から転落しかねないわ。

 

「このっ!」

 

 私は両腕に渾身の力を込めて彼女の足を弾き飛ばし、体勢を崩した彼女に向けてナイフを投擲する。

 

「……!」

 

 私が蹴りを受け止めて、さらに反撃してくるとは思ってなかったのか、彼女は驚いた表情になりながらも、仰け反るような形で避け、上空に向かって思い切り羽ばたき、私の方を向いて止まった。

 一定の高さを飛ぶ彼女は、考え込むような仕草で私の事を観察している。完全に私は格下に見られているわね……!

 私はメイド服に仕込んでいた最後のナイフを両手に持って構え、境内の中心に移動しつつ彼女の出方を伺う。

 互いににらみ合いが続いていた時、再び彼女の姿が掻き消えた。

 

「――そこね!」

 

 私は即座に右側を向きながら、両手のナイフを交錯するように彼女の蹴りを受け止める。しかし彼女は、ナイフで受け止められた右足を軸に、左足で回し蹴りを放つ。私は咄嗟に屈みこんだが、体勢を崩し、右足の蹴りの勢いに押し負けて、地面に叩きつけられた。

 

「……っ」

 

 自らの刃が自分の身体に当たらないぎりぎりの位置で止めることは出来たけれど、彼女の足の力は強く、私は体を動かすことができなかった。

 彼女は右足をナイフに乗っけたまま、左足を私の顔の横にゆっくり落としこう言い放った。

 

「さて、次はどう出るおつもりで?」

「……私の負けよ。煮るなり焼くなり好きにしなさい」

「あややや、咲夜さんがそんな事を言うなんて珍しいですね。う~ん、どうしましょうかね?」

 

 彼女はニヒルな笑みを浮かべ、私を見下ろしながら考えていた。

 

「そこまでにしなさい、文屋。それ以上やるつもりなら私が相手になるわよ!」

 

 声をした方を見ると、日傘と紅い槍を装備したレミリアが、私の上に乗っている彼女を睨みつけていた。

 

「放してもいいですが、条件があります」

「条件? 何よ」

「紅魔館のメイドに異変が起こったと風の噂で聞いたんですが、その事について話を聞かせてもらえますか?」

 

 その言葉に私はレミリアより速く答えた。

 

「答えてもいいから早く足を放してくれないかしら……! そろそろ、腕が限界っ……!」

 

 腕を振るわせながら彼女に懇願すると、目を丸くしながら足をどける。同時にレミリアは紅い槍を消して、臨戦態勢を解いていた。

 私は埃を払いながら立ち上がり、ナイフを仕舞いながら大きくため息をついた。

 

(まだ腕がしびれているわね。見た目に反してどんだけ怪力なのよ……)

 

 私が手を握ったり開いたりして体の調子を確かめていると、彼女は感心した様子で話しかけて来た。

 

「いつもならあの状況でもすぐ私の後ろを取っていたのに、それがないとは……! 異変が起こったというのは本当のようですね! ぜひ詳しく話を聞かせてもらえませんか!?」

「……別にいいけど、ちょっと疲れたから座らせて頂戴。霊夢、隣に座っていい?」

「いいわよー。サクヤって本当に別人になってしまったのね。さっきの勝負を見て確信に変わったわ」

「普段の咲夜も武闘派なのね」

 

 私は霊夢の言葉に苦笑いしながら、神社の縁側に座り一呼吸置いた。

 

「はい、お茶どうぞ」

「ありがとう」

 

 霊夢に淹れてもらったお茶はとても薄く、飲んでみると殆どお湯の味しかしないわ。

 

(もしかして、嫌われているのかしら……)

 

 さりげなく霊夢の湯飲みを見ると、私のお茶よりももっと色が薄いお茶を飲んでいた。

 

(…………)

 

 それを見て察した私は、何も言わずにお茶を味わうことにした。

 

「それでは、そろそろ話を聞かせてもらえませんか?」

 

 半分程お茶を飲んだ後に、羽が生えた黒髪の少女は私の前に立つ。手帳とペンを持ってるし、もしかして新聞記者なのかしら?。

 

「話をする前にちょっといい? まずあなたの名前を教えてくれないかしら?」

 

 彼女は目を丸くしながらも、私の質問に答えた。

「私を忘れてしまったんですか? 私の名前は射命丸文です! 新聞屋をやっていまして、こういう物を作っているんですよ」

 

 彼女がショルダーバッグから取り出したのは、見出しに文文。新聞と書かれた紙束だった。

 ざっと流し読みをするかぎりでは、正確な情報を伝えるよりも、ゴシップ紙のような読者の想像にお任せするような内容の記事が多いわね。

 私が思った事を伝えると、彼女はちょっと怒りながら、「ゴシップ紙呼ばわりとは失礼な! 私の書くことは正確ですよ!」と反論するも、霊夢は「でもあんたの記事って、殆どデタラメじゃない。いっつもあんたが勝手に私の家に置いていくけど、記事が正しかったことはあんまりないわよ? 私以外の読者って存在するの?」と口を挟む。

 

「慧音さんとかアリスさんとか、読者は沢山いますよ! そんな誰も読んでないみたいに言わないでください!」

「あの2人が? 慧音は読みそうだけどアリスもとはねぇ、なんだか意外だわ」

「……もう、いいです。それで咲夜さん、話を聞かせてもらえますか?」

「いいけど、正直記事にしても面白みがないと思うわよ?」

 

 そう前置きを置いて、私は自分に起きたことを簡単に語るつもりだったけど、文は聞き上手なようで、ついつい細かい所まで話してしまったわ

 

「なるほど~、今のサクヤさんは咲夜さんではなく、アルカディアという世界のサクヤさんになってしまっていて、それで帰る方法を捜している……と。なんだかややこしいですねぇ」

「まあ、そんな感じね。こっちに来てから驚きの連続よ。吸血鬼のお嬢様に、翼が生えた空飛ぶ少女。私の居た世界では考えられない事ばかりだったわ」

「幻想郷はかなり特殊ですからねえ、そう思っても仕方ありません」

「それに私、少し気になっていることがあるのよね」

 

 私は文の顔を真っ直ぐ見た。

 

「なんでしょう?」

「貴女って背中から羽が生えているでしょう? 人間と同じ体なのにどうなってるのか不思議で堪らないわ」

「そんなに気になるのでしたら見ます? こんな感じになっているんですよ」

 

 彼女は此方に背を向けてYシャツを脱いだ。傷1つ無い綺麗な肌の、肩甲骨の辺りから黒い翼が生えていた。

 

「へえ~こうなっているのねぇ。翼の付け根部分を触ってもいいかしら?」

「ええ! ……優しくするならいいですよ」

「ではお言葉に甘えて……」

 

 私は彼女の翼にそっと触れた後、壊れ物を触るようにつまみ、小動物を相手にする時のように撫でる。

 彼女の翼はとても暖かく、脈動する力強さも感じるわ。本当に生きているのね。

 ひとしきり触って満足した私は、文に頭を下げてお礼を言った。

 

「ふわふわしてて温かいのね。どうもありがとう。貴重な体験ができたわ」

「いえいえ、このぐらい構いませんよ」

 

 文はどうってことないといった感じで服を着ながら答えた。

  

「ふ~ん? 私には触らせないくせに、サクヤには触らせるんだ?」

 

 ジト目の霊夢が横から口を挟むと、文は言った。

 

「だって、霊夢さんは油断したら食べられちゃいそうな怖さがありますし……」

「何よそれ! 別に食べないわよ!?」

「でも時々、私を獲物を狙う目で見てるじゃないですか」

「そんなわけないでしょ!?」

「まあまあ、2人共落ち着いてください、ね?」

 

 口論に発展しそうな二人を宥めると、霊夢は大きく溜息を吐き、「――お茶入れてくるわ」と奥に引っ込んでいった。

 

「あちゃ~、霊夢さんをちょっと怒らせ過ぎちゃいましたね。これは反省です」

 

 反省する様子を見せるしているようだった。

 

「射命丸さんは霊夢と仲悪いの?」

「文でいいですよ~。……霊夢さんとは別に仲が悪いわけじゃないですよ。ただ、こうしてアピールしないと彼女は全然私に興味を持ってくれないんですよねぇ。博麗の巫女を記事にすると、新聞の発行部数が伸びるのですが、中々上手くいかないものでして」

「あら、そうなの」

「私は結構霊夢さんの事気に入ってるんですよ。だからついつい喧嘩してしまうのかな? あー……なんか結構恥ずかしいこと言っちゃってますね。今のは忘れてください」

 

 照れくさそうに笑う文に、私は頷いた。

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