咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第44話 8日目 sideサクヤ 夜

 side_________サクヤ

 

 

「――はっ!」

 

 意識を取り戻して飛び起きた時には既に外は真っ暗。どうやらいつの間にか眠ってしまったようで、私の上には掛け布団が掛けられていた。ここが咲夜の部屋ということは、誰かに運んでもらったのね。

 

「あら、やっと起きたのね?」

 

 隣を見ると、薄笑いするレミリアが立っていた。私は慌てて彼女に向き直り、頭を下げる。

 

「申し訳ございません。どうやら疲れていたようで眠ってしまいました」

「別に怒ってないから謝らなくてもいいわよ。よく眠れたかしら?」

「はい、それはもうバッチリです! ……あ」

 

 つい元気よく返事してしまったことに固まってしまうと、レミリアは笑みを深めて、「ふふっ、美鈴みたいな事言うのね」

 

「あはは……」

 

 何となく気まずくなってしまい、愛想笑いをしながら話題を変える。

 

「あの、ここは私の部屋ですよね? 確か博麗神社で眠ってしまった筈ですが……」

「夜になっても貴女が全然起きなかったから、私が神社からここまで抱き抱えてきたわ。感謝しなさいよね」

「お手数をおかけしてしまいまして、大変申し訳ございません」

「次から気を付けてくれればいいわ。そろそろ夕飯ができるそうだから行くわよ」

「はい、分かりました」

 

 私はお嬢様の後に続いてダイニングルームへと向かった。

 

 

 

「ふう、おいしかった」

 

 食事を済ませた私は、レミリアと別れて一人咲夜の部屋のベッドに座り、夕飯に満足感を得ていた。

 

(美鈴の中華料理は甘みと塩味が効いてて美味しかったわね)

 

 メニューは炒飯と牛肉のオイスターソース炒めだったのだけれど、甘みと旨味が絶妙にマッチした料理で、普段食べない味だったので私はとても新鮮に感じたわ。

 私が感想を伝えると美鈴は嬉しそうにしていたし、少しは彼女と仲良くなれたのかしらね?

 

「さて、この後はどうしようかな。レミリアには、今日の仕事は終わりでいいって言われたけど……」

 

 今の時間には寝るにはまだ早く、かと言って何かを始めるには遅い微妙な時間だった。少し考えてから私は判断を下す。

 

「パチュリーさんの元へ行こう」

 

 今日の出来事をユウに報告したいし、向こうの状況も知りたいところ。テレパスを使わせてもらうべく、私は大図書館へ向かった。

 

 

 

「何これ?」

 

 大図書館の入口の扉の前に辿り着いた私に、『入室禁止』と書かれた一枚の張り紙が眼に入る。

 

「入室禁止ねぇ。何があったのかしら?」

 

 中の様子が気になる所だけど、入室禁止な以上それを確かめる術はない。来た道を引き返そうとしようと思ったその時、背後から声を掛けられた。

 

「あれ? サクヤさん、ですよね?」

 

 私が振り向くと、赤い長髪の女性が立っていた。

 白いシャツに赤いネクタイを結び、黒褐色のベストとロングスカートを身に着け、黒いハイヒールを履いている。そして何より目立つのは、頭と背中に悪魔然とした羽が生えている所ね。

 

(……悪魔かしら? 雰囲気から見ると、せいぜい小~中級クラスといったところかしらね)

 

 冷静に分析しながら、どのように返事をするか考えあぐねていると、彼女は更に言葉を続けた。

 

「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はパチュリー様の助手兼使い魔の『小悪魔』と申します。サクヤさんの事情はパチュリー様からしっかり伺っていますよ」

「そうなのね。よろしく、小悪魔」

「はい、よろしくお願いします! サクヤさんは何故ここに?」

「少し時間が空いたからパチュリーさんに会いに来たんだけど、この張り紙を見て帰ろうと思っていた所だったのよ」

「それはそれは、タイミングが悪かったですね」

「小悪魔は中で何をしているか知っているの?」

「そうですねぇ――」

 

 ここで一旦彼女は言葉を切り、私の目と鼻の先まで近づいてくる。彼女は私より少し背が小さく、甘い香りがする。

 

「残念ですが、答えられません。パチュリー様は時々図書館に籠って研究を行う事がありますので、今日はその日だったんでしょうね」

「そうなの? うーん、それなら私は部屋に戻ることにするわ。教えてくれてありがとうね」

 

 私の目を見ながら断言する小悪魔にお礼を述べて、自分の部屋に戻ろうと足を踏み出そうとしたけれど、自分の意に反して足が動かない。まるで石のように固まってしまっている。

 

(足が……! どうして……!?)

 

 私の焦りが顔に出ていたのか、小悪魔が心配そうに声を掛けてきた。

 

「どうしましたかサクヤさん? なんだか慌てているようですが?」

「実は――」

 

 私は自分の身に今起こっている事を説明しようと口を開きかけたが、この時、私の中に一つの疑念が湧いた。

 

(――まさか!)

 

 階級に関わらず、悪魔が持つ固有の能力に魅了がある。急いでこの状況から逃れようと策を考えたけれど、魔力の無い今の私には、どれも実行出来そうにない。

 ふと小悪魔に注意を向けると、ニヤニヤした表情を浮かべていて、私は嵌められた事を悟った。

 

「――やってくれたわね?」

「油断しちゃだめですよー? フフフ、いつもの咲夜さんは隙がありませんでしたが、今回はあっさりと成功しちゃいましたね」

 

(やられたわね……)

 

 ここは人外の巣窟。かつての美鈴のように、異物である私に危害を加えてくる可能性を考えていなかったわ……!

 

「……私をどうするつもり?」

「そうですねぇ、こういうのもありかもしれませんね?」

 

 彼女は妖艶な笑みを浮かべながら私のメイド服に手を掛ける。

 

「!」

 

 私はすぐに彼女の手を振り払うも、状況は最悪に近い。周囲に彼女以外の人の気配は無いし、パチュリーさんに助けを呼んでも、反応は返ってこなかった。

 

「まだここまで抵抗できますか。世界が変わっても流石はサクヤさんと言うべきか、精神が入れ替わってもお強いですねぇ。ですがこれならどうでしょう? ほら、私の目を視て……」

 

 私は咄嗟に顔を逸らすものの、彼女は私の頬に優しく手を掛けて顔を前に向け、お互いに見つめ合うような形になってしまった。

 

「……くっ、うぅ……」

 

 何とか脱出を試みるも、既に体の自由は利かなくなり、抵抗虚しく小悪魔の目を見つめ続ける。

 

(ん……! この感覚……なんかおかしいわ……!)

 

 鼓動と動機が徐々に激しくなり、頭が真っ白になっていくような感覚。あぁ、考えが纏まらないわ……。

 

(あれ……、小悪魔って、かなり素敵な人ね……)

 

「サクヤさん、もう限界なんじゃないですか? ほら、身も心も私に委ねちゃいましょうよ。その方が楽ですよ?」

 

(誘惑に負けてしまってはダメ! ああ、でも……)

 

 私の意志が、思考がバラバラになっていく。私は……私は……。

 

「あぁ、可愛いですねもう! ほら、抵抗しなくていいんですかぁ?」

 

 小悪魔はメイドの服の上から手を伸ばし、遠慮なく私の肢体を好き勝手に触っているけれど、全く声が出せず、為すがままにされてしまっている。あぁ、彼女の手が温かくて気持ちが良いわ……。

 

「フフフ、その蕩けた表情はかなりそそりますねぇ。全然抵抗しなくなっちゃいましたし、もういいですよね?」

 

 小悪魔は甘い声で囁きながら、どんどんと顔を近づけてくる。

 

(……もう、ダメ……! やられる……!)

 

 目を瞑って覚悟を決めるも、いつまで待っても感触は訪れず、彼女の温もりが冷めていく。恐る恐る目を開けると、半歩離れた先に悪戯な笑みを張り付ける小悪魔が立っている。

 彼女が小声で何かを呟くと、途端に力が抜けて、地面にへたり込む。同時に魅了から解放されたことを理解し、ゆっくりと立ち上がる。

 

「ふふふっ、どうでしょう。驚きましたか? 今のはちょっとした冗談ですよ?」

「ちょっとした冗談じゃ済まないわよ!? 本気でやられるかと思ったんだけど!?」

 

 乱れたメイド服を直しながら怒りをぶつけると、彼女は「あはは、ごめんなさい。サクヤさんの反応が面白かったので、ついついイタズラしちゃいました」とご機嫌な様子で謝った。全然反省していないわね。

 

「イタズラの限度を完全に超えている気がするけどね。はぁ、もういいわ。小悪魔って紹介された時点で警戒するべきだったわ」

 

 アルカディアでは、精神攻撃の耐性スキルを備えていたこともあって、慢心や油断が無かったとは言い切れない。咲夜も警戒していたわけだし、しっかりしないといけないわね。

 

「でもでも、サクヤさんが可愛かったのは本当ですよ? 私もつい本気を出しちゃいましたからね」

「……ところで、小悪魔はどうしてここにいるの?」

 

 私はその言葉を敢えてスルーし、質問をぶつける。今度は微妙に目線を逸らし、強い意志を持って立ち向かうような感覚で相対するわ。

 

「えっとですね、パチュリー様の命令で外に出ていたのですが、ちょうど帰って来たところにサクヤさんがいたので声を掛けたんですよ」

「そうだったのね。それなら今度こそ私は帰るわ。……もう変な真似はしないでよ?」

「アハハ、もうしませんよ」

 

 私は動けるかどうか確認する為に1歩踏み出す。

 

(どうやら普通に歩けるようね)

 

 今度は何もされてないことを確信した私は、部屋に向かって歩き出した。

 

 

 

 side ――小悪魔――

 

「サクヤさん、柔らかかったなぁ。……あーあ、やっぱりもっとイタズラすればよかったかな」

 

 サクヤさんが部屋へ戻っていったのを見て、私は少し後悔していた。

 

「でもあれ以上やっちゃうと流石にまずいですよねぇ。お嬢様やパチュリー様に何を言われるか分かりませんし」

 

 そう結論付けた私は、扉の中に入って行く。パチュリー様がサクヤさんの為に開発中の魔法も大詰めです。きっと明日にはお披露目になるでしょう。今夜は徹夜で頑張ります!

 

 

 

 side  ――サクヤ――

 

 

 

「全く、とんでもない目に遭ったわ!」

 

 私は自分の部屋に戻る途中の一階廊下で、先ほどの出来事を思い出しげんなりしていた。女性と妖精しか住んでいないこの館で、まさか襲われるとは思ってもみなかったわ。

 

「私にそっちの趣味はないのに……………あら?」

 

 ブツブツ呟きながら足を動かしていると、前方にレミリアが歩いているのが見えた。彼女はどうやら私に気付いていないようで、そのまま十字路を左に曲がって行ってしまった。

 私は少し悩んだ挙句、レミリアの後を追って同じく左に曲がっていくものの、姿はなかった。 

 

「あれ? おかしいわね。確かこっちに行ったと思ったんだけどな」

 

 私は周囲を見渡してみたが、やはり誰もいないようで、見通しの良い廊下はしんとしていた。

 

(見間違いだったのかしら?)

 

「ふふふ、今日はよく会うわね?」

 

 私は首を傾げていたその時、聞きなれたレミリアの声。同時に、私より3m程前に突然黒い影が現れ、そこからレミリアが出現した。

 

「折角この私が気を効かせて休みを出したというのに、このタイミングで顔を合わせるなんてついていないわね。残念だわ」

 

 そう言いながらレミリアは右手に槍を出現させ、私に向かって投擲した。突然の攻撃に驚きながらも、咄嗟の判断で地面に転がりながら回避する。

 

「い、いきなり何するんですか!」

「どきなさい。死ぬわよ」

 

 私の抗議は冷たい声でシャットアウトされて。

 

「ウフフ、突然攻撃してくるなんてひど~い」

 

 背後を振り返ると、赤い槍にお腹を貫かれたレミリアそっくりの少女――フランドール・スカーレットの姿があった。

 凄惨な光景を目の当たりにして絶句していると、フランは狂気に満ちた笑みを浮かべながらこう言った。

 

「そんなお姉さまには反撃だよ!」

 

 フランはお腹に刺さった槍を引き抜くと、レミリアに向けて振りかぶって投げつける。風を切って飛来する槍を悠々と掴んだお嬢様は、懐からスペルカードを出し、フランに向けてそれを発動した。

 弾幕がフランに向かって飛ぶ最中、お嬢様は私にこう告げた。

 

「これから始まるのは弾幕ごっこと言う名の殺し合いよ。サクヤ、今すぐここから逃げなさい。死ぬわよ?」

 

 冷徹に言い放ったその言葉に、私は反論せずにはいられなかった。

 

「どうして姉妹なのに殺し合いをするんですか!! おかしいですよ!!」

「いいから行きなさい! 本当に死ぬわよ! 今のお前ははっきり言って足手まといだ! 力も無いくせに私に意見しないで頂戴!! 邪魔よ!!」

「……っ」

 

 もっと色々言いたかったが、弾幕を放ちながら放たれた言葉の迫力に私は圧され、レミリアの指示通りその場から駆け足で急いで離れていった。

 駆け足で逃げる最中、後ろから何かが崩れるような爆発音が聞こえていた――

 

 

 

「はあっ、はあっ」

 

 急いで自室に帰還した私は、膝に手を付いて肩で呼吸をしていた。力配分を考えず全速力で逃げてきたから、もうクタクタだわ。

 

(レミリアとフラン、この二人に一体何があったのかしら……? 殺し合いって言ってたけど、まさか本当に殺したりしないわよね……?)

 

 不安な気持ちで一杯になる私。ようやく呼吸が整ってきたころ、次の行動を考える。

 

(様子を見に行くのは絶対ダメね。レミリアにきつい言葉を浴びせられたけど、あれは良く考えたら私のためでもあるんでしょうし。そうなると……もう寝ることにしましょう)

 

 しばらく悩んだ末に出した結論は結局これだった。大図書館にも入れないし、今日のテレパスは諦めるしかないわね。

 私は寝間着に着替えてベッドに入り目を瞑る。ぐっすり昼寝をした筈なのに、疲労が溜まっていたのかすぐに熟睡していった。




次の話からは8日目のside咲夜になります
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