咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
リィンの言葉に、ユウとミーシャは驚愕した様子で問いかける。
「もうアルカディア様から答えが帰って来たの!?」
「ど、どうだったの?」
「結論から申し上げますと、アルカディア様は今回の件について関知しておられませんでした。それ故に深刻に捉えていらっしゃるようで、この世界全体の結界の確認を行った後、明日咲夜に直接話を聞きにくるそうです」
帰ってきた答えは、彼女達にとっては予想だにしていないものだったようで、先程よりも更に驚きが深まっている。
「えっ、嘘、本当に?」
「ちょ、ちょっと待ってリィン。まさかアルカディア様が100年ぶりに降臨なさるの!?」
「いいえ。夢という形で、咲夜に託宣されるようです」リィンは私に目線を合わせて、「咲夜。アルカディア様は慈悲深い方ではありますが、くれぐれも失礼の無いようにしてくださいね」
「……精一杯努力するわ」
この世界の神は、どうやらアルカディアという絶対神しかいないようですし、巫女でも宗教家でも無い私は、作法に自信があるとは言い切れない。へりくだった態度で接することにしましょう。
「伝えるべき事も伝えましたので、私はそろそろ失礼しますね」
すっくと立ちあがるリィンに、ユウはベッドから立ち上がり、名残惜しそうに引き留めた。
「もう帰っちゃうの? せっかく来たんだし、お茶くらい出すよ?」
「その気持ちは有難いのですが、色々と溜まっている仕事がありますから、ゆっくりできません。ごめんなさいね、ユウ」
「こっちこそ、忙しいのに私の為にわざわざ時間を取ってくれてありがとうね」
「ユウのピンチだもの、当然ですよ。それでは皆さん、また会いましょう」
「バイバイ!」
「ありがとうございました」
手を振るミーシャと深々とお辞儀する私。リィンは魔法陣の上に歩いていき、穏やかな笑みで手を振りながら光と共に私達の前から姿を消していく。収まった頃には魔法陣は崩れ、跡形も無くなっていた。
「魔法陣が消えたわ」
「緊急用の使い捨て転移魔法陣だからね~。耐久性が無いから何度か使うと消えちゃうんだ」
「なるほど」
一口に転移魔法にも色々な種類があるのね。
「リィンも帰っちゃったし、私も帰ろうかなー。もう外真っ暗になってるし」
「女の子が1人で帰るのは危険でしょ。泊まって行ってもいいのよ?」
「それならお言葉に甘えさせてもらおうかな。今夜はよろしくね! ユウ、咲夜」
明るい笑顔のミーシャに私は頷いた。
「言っておくけど、お酒は禁止だからね?」
「うん、分かってるよ。もう二度と無理に勧めないって誓ったから」
ミーシャは真剣な表情で決意を口にする。
「よろしい。ところで2人はもう夕ご飯食べたの? 私お腹ペコペコなんだよね~」
「いえ、まだね」
「あ、それなら私が今日のお詫びも兼ねて作ってくるよ! 台所借りるね~」
ミーシャはあっという間にユウの部屋を出ると、流れるような足取りで階段を降りて行った。その後姿を見ながら、私はふと思う。
「彼女って、料理できるの?」
「この言い方は失礼かもしれないけど、とても上手だよ。私が料理を教わったのもミーシャだし、味は保証するよ」
「へえ~なんか意外ね」
「私もそう言ったら怒られちゃったよ」
ユウは苦笑していた。
「ところで今日ミーシャと出かけてたんでしょ? その服、とっても似合ってるわ」
「ありがとう。ミーシャが選んでくれたのよ」
「彼女と1日過ごしてみてどうだった?」
「右も左も分からない私を彼女が引っ張って行ってくれたから、迷うことはなかったわね。少々強引なところもあったけど、ちゃんと私の事も気遣ってくれたし楽しい1日だったわ」
率直な感想を述べると、ユウは微笑みながら言った。
「そっかそっか、良かったね。ミーシャは元気な子だから大変じゃなかった?」
「私の身近にミーシャよりもっと元気な人がいますから、全然へっちゃらですわ」
「くすっ、ミーシャより元気な人って、なんだか付き合うのが大変そうね」
私はその言葉に敢えて返事をしなかった。
「ねえ~! 調味料ってどこに置いてあるのー!?」
階下から微かに聞こえる声に、ユウは部屋の外に向かって声を張り上げながら「今行くわー!」と答え、私に「……というわけだからちょっと行ってくるね」と、歩き出す。
「私も手伝うわよ」
「じゃあ一緒に行こう!」
それから私達はダイニングルームに向かっていった。
夕食を終えた私達は、リビングルームのソファーに座りくつろいでいた。
「いや~食べた食べた」
「ちょっとユウ? はしたないわよ」
お腹をさするユウにやんわり注意すると、彼女は「ごめんごめん」とその仕草をやめる。
「まあユウの気持ちも分かるわ。ミーシャの料理、とても美味しかったんだもの」
「ありがと!」
「今日の魚とナッツが入ったパイは、どうやって作ったの?」
「あれはね~――」
純粋な好奇心から訊ねると、ミーシャは得意げにレシピを教えてくれたので、しっかりと覚えていく。幻想郷に帰った時、お嬢様に提供するために。
続いてミーシャからは、私の世界の料理について聞かれたので、洋食について教えていき、自然と料理の話で盛り上がっていた。
「――って感じなんだよ」
「へえ~そんな方法があったのね~!」
「調味料の配合さえ間違えなければ代用品が効くから、咲夜の世界でも再現できると思うよ。他にもね――ってどうしたのユウ? さっきから黙り込んじゃってさ」
先程から会話の輪に入らず、ぼんやりと虚空を見つめているユウに気付いたミーシャが訊ねると、彼女は少し遅れて返事をする。
「…………え? あ、ごめん。何?」
「ちょっと、どうしたのユウ? ボーっとしちゃってさ」
少し不満げに問いただすと、ユウは「さっきから幻想郷のサクヤと連絡を取ろうとしてるんだけど、何度試してもダメなんだよねえ。あっちのサクヤから来るのを待つしかないのかも」と答える。
「私にはよく分かんないんだけどさ、どうしてサクヤとテレパシーがつながるの? サクヤの心は、十六夜咲夜さんの体に入ってるんでしょ? しかも異世界に行ってるらしいじゃん?」
ミーシャの素朴な疑問に、ユウは答えた。
「魔法って精神力の強さが関係してるらしいし、極端な話その辺の石ころでも強い精神力があれば魔法が使えるって昔サクヤが言ってたから、十六夜咲夜の体で魔法が使えるのも不思議じゃないと思うよ」
「へ~、そんなこと言ってたんだ」
「ただ、異世界に行ってまで魔法がつながる理由はよく分からないのよね。世界が異なると文化や物理法則が違うはずなのに」
「まだ分かってないことが多いんだね」
「もしくは咲夜がいた幻想郷という土地に何か秘密があるとか? 咲夜は何か知らない?」
「分からないわね。私が知るのは、幻想郷は世界とは隔たれた結界で覆われていて、存在を知る人間が殆どいないくらいね」
「確かに、私が日本に住んでた頃に幻想郷なんて聞かなかったなあ。じゃあそれが秘密だったりしてね」
真相を知っているのは八雲紫くらいでしょう。
「次にサクヤから連絡が来たらそのあたりの事も聞いてみることにしましょう」
「そうだね。サクヤは今頃何してるのかな~、案外面白いイベントに巻き込まれたりして」
「えー、でも今は夜だよ? 流石に無いと思うけどなぁ」
夜になると、妹様が館内を散歩していることがあるのよね。お嬢様と姉妹喧嘩になっていなければいいのだけれど……。
「そういえばミーシャ、明日はどうするの?」
「明日はユウ達と行動しようかな。女神様の託宣も気になるし。ユウは?」
「今はフリーだし、咲夜に合わせるよ。明日何かしたい事ある?」
「私? そうねぇ。連日遊び歩くのもどうかと思いますし、家でメイドの仕事をする事にするわ」
「おっ! 明日がちょっと楽しみになってきたわ」
「本職のメイドさんの仕事っぷりが視れるんだね!」
「そんな期待されるほど凄いことをするわけじゃないわよ? 本当にただのメイドとしての仕事でしかないんだから」
俄然興味を示す二人には悪いけど、家政婦の仕事に派手さは無いわ。自分で言うのもなんだけど、縁の下の力持ちですからね。
「えーそうなの? ユウの話だと家事と戦闘を同時にこなせるロマンあるメイドだって話だったけど?」
「何よその説明!?」
私はユウをジロリと睨むも、彼女はあっけからんと言い放った。
「でもあながち間違いじゃないでしょ? 貴女は幾つもの死線を搔い潜っている。見る人が見れば分かるわよ。普通のメイドとは雰囲気が違うわ」
「雰囲気って……」
「そうだよ! 咲夜って中々自分の隙を見せないじゃん? それだけでもう只者じゃないって分かるよ」
ミーシャの言葉にうんうんと頷くユウを見て、私には一つの疑念が浮かぶ。
(……もしかして私も紅魔館にいた時そう思われていたのかしら。だから――)
可能性はないわけじゃない。私は自分の育った環境が環境だったので、人を心から信じる、という事がどうしても難しい。
(思えば私には人間の友達がいないわね。霊夢や魔理沙や早苗と時々話すことはあるけれど、友達かって聞かれると微妙なラインだし。彼女達よりも短い期間でこんなに心を開いたのは、この二人くらいかしらね)
「……咲夜、もしかして怒っちゃった? だとしたらごめんね。言いすぎちゃった」
私が自分の考えに没頭しているのを勘違いしたのか、不安げなミーシャが私に謝ってきたので、「怒ってるわけではないのよ」と前置きして、言葉を続ける。
「ミーシャの言う通りよ。私はお嬢様のメイドとして完璧であるべきだと信じて生きてきたわ。きっとそれで、私が只者じゃないように見えるだけじゃないかしらね?」
「『お嬢様のメイドとして完璧であるべき』か。その心構えはまさにプロフェッショナルで、素晴らしい主従関係だと思うけど、しっかり息抜き出来てる? ずっとその調子だと疲れちゃうよ?」
「そんなのもう慣れたわ。心配しなくても私は大丈夫よ」
「……何かあったら言ってね? いつでも相談に乗るからね」
ユウもミーシャも心の底から私の事を心配してくれているのね。此方の世界に来てからずっとお世話になりっぱなしだ。あまり無下にするわけにもいかないわ。
「二人共ありがとう。その時が来たら相談させてもらうわ」
「うん」
二人は私の言葉に頷いた。
「……なんかごめんさいね、暗い雰囲気になっちゃって。話題を変えるわ。ミーシャ、今日は随分と多くの洋服を買っていたみたいだけど、何を買ったの?」
やや強引な話題転換に、ミーシャは乗ってきた。
「じゃじゃ~ん! これです!」
ミーシャが収納魔法からクローゼットごと取り出したのは、私が試着する時に着ていた奇抜な服の数々。一言で言ってしまえばコスプレ服ね。
それを見たユウは困惑しながら言った。
「――ミーシャってこんなセンスだったっけ? もうちょっとまともな感性だったような……」
「実はユウに着てもらいたくて買ったのよ。あ、もちろん自分用の服もあるよ」
ミーシャの言葉にユウは仰天していた。
「えええええ!? そんなの恥ずかしいよ……。てかサイズ合ってるの?」
「サイズの心配は大丈夫よ! 私、ユウのスリーサイズ知ってるし」
「私のスリーサイズなんてどこで知ったのよ!? ……まあいいわ。せっかく買ってくれたんだし着ることにするわ」
「やった! それじゃまずこれ着てみて!」
「はいはい、ちょっと待ってね」
ミーシャはメイド服を渡し、ユウは着替えるために隣の部屋へ入って行ったようだ。
(あのメイド服、私が買ったのとサイズ違いね)
「おまたせ~、この服、丈が短くない?」
扉を開けて出てきたユウは、きっちりと着こなしていたけれど、下着がギリギリ見えそうで見えないくらいにスカートの丈が短かった。
「しかもすっごく恥ずかしいし……どう?」
ユウはその場でくるりと一回転して見せた。
「様になっているけど、かなりあざといわね」
「でも、このくらいあざといほうがいいじゃん? 男共は喜びそうだし。ユウ、似合ってるよー」
「あんまり嬉しくない……」
私とミーシャの評価にユウは肩をがっくりと落としていた。
「じゃあ次はこれ! ゴスロリ服! 実はこれ一番高かったんだよねー。なんと10万G!」
「ゴスロリってよっぽど自分のスタイルに自信がないと着れないわよねえ」
「そうやってプレッシャーかけるのやめてもらえる!? しかも10万Gって期待が重すぎるわよ。……それじゃ着替えてくるわね」
ユウはクローゼットからハンガーを手に取り、再び隣の部屋へと向かっていく。
「お待たせ~どう、似合う?」
奥の部屋からゴスロリの衣装を身に纏って登場したユウは、照れ臭そうに私達に感想を求めた。
「…………」
私はユウの姿に、思わず無言になってしまった。
頭には黒い薔薇飾り、フリルの付いた黒いドレスを身に着け、黒いレースの靴下と、黒いドール靴を履いている。まるで絵本の中から出てきた人形みたい。
(ユウのゴスロリ姿、似合いすぎてて恐ろしいわね。さっきのメイド服といい、ユウって一般的な服よりもこういうコスプレ衣装のほうが似合うんじゃ……)
ミーシャも私と似たことを考えているのか、無言のままユウの姿をじっくりと見つめていた。
「あの~、何か感想を言ってほしいんだけど……」
黙っている私達に、恐る恐る訊ねるユウ。その言葉に先に答えたのはミーシャだった。
「なんというか……、似合いすぎてて驚きを越して感心しちゃったわ。ユウ、いつもその恰好でいなさいよ。似合うだろうな~と思って買ってきたけど、まさかここまでだとは思わなかったよ」
「私もミーシャと同意見ね。さっきのメイド服やそのゴスロリ服といい、普段着の白い袴よりかなりいけてるわよ?」
「あまり嬉しくない評価ねそれ……。こんな衣装で外出したら、絶対に注目の的になっちゃうよ!?」
(ユウって美人だし、普通に街を歩いているだけでもかなり色んな人から目線が集まってるんだけど……これは言わないほうがいいのかしらね?)
しかし私が思った事をミーシャが言ってしまった。
「ユウって美人だから、それだけでいろんな人に見られてるよ? 一緒に歩けばわかるもん。ギルド内でも美人の女冒険者がいるって話題になってるし、それだけでも注目の的になってるわよ? 気づいてなかったの?」
「ええええ! そうだったの!? 知らなかった……」
ミーシャの言葉にユウはあからさまに驚いていた。
「ユウって本当そういうのに疎いよね~、もうちょっと自覚持った方がいいんじゃないの?」
「自覚を持てって言われても、ねぇ……」
ユウは困った顔で呟いた。
「まあ、今のありのままのユウが一番いいと思うから、下手に自覚なんかするよりはその方がいいかもね」
ミーシャはやれやれと言った感じで話した。
それからユウは、ミーシャが用意した修道服や、水色のビキニ、家の小悪魔が着ていた衣装を着ていた。どれも似合っていて、ミーシャの強い推しもあって、ユウは半ば強引にそれらの衣装を貰っていた。
先程まで試着していた中で気に入ったのか、ユウは丈が短いメイド服を着用していた。
「ユウ、それ気に入ったの?」
「うん、デザインがいいし私自身メイド服が好きだからね。家事する時はこの服を着ようかな」
「へえ~ユウにそんな趣味があったんだ。意外な一面を知ったわ」
「そのメイド服、紅魔館と同じデザインよ」
「そうなの? ふーんこれが……」
ユウは立ちあがって自分の着ている衣装をしげしげと見つめていた。
「そんな恰好でメイドの仕事しているなんて、なんかエロいね~」
ミーシャは私の言葉にニヤニヤしながら返す。私は必死に反論した。
「私が着ていたのはこんなに丈は短くないわよ!?」
「分かってるよ。冗談冗談」
「もう……」
夜が更けていき、時計を見たミーシャはクローゼットを収納魔法空間内に片付けて、思い立ったように席を立った。
「あっもうこんな時間じゃん! 私はそろそろ寝ることにするわ。ミーシャはいつもの部屋でいいよね?」
「待って、私も寝るよ。一緒に行こう?」
「私も」
ミーシャとは2階で別れ、それからユウともお休みの挨拶を交わし、私は自室に戻る。さて今夜か明日、この世界の創造神様が夢枕に立つのね。相手が相手ですし、流石に状況は進展することでしょう。楽しみだわ。
寝る前の準備を済ませた私は、寝巻に着替えてベッドに入り、そのまま眠りに就いた。
次の話から9日目のside サクヤ に視点が変わります。