咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第49話 9日目 sideサクヤ アリスの来訪

 side ――サクヤ―― 9日目

 

 

 

 朝日が昇る前に目覚めて、いつものように身支度を整えていく。流石に入れ替わって3日も経つと慣れてくるわね。

 

「これでよし」

  

 全身鏡で確認を終えた私は、レミリアの部屋に直行する。

 

(昨日はあれからどうなったのかしら? 私に教えてくれるのいいだけれど……)

 

 そんなことを考えつつ、私はレミリアの部屋に辿り着き、扉をノックした。

 

「おはようございます、サクヤです」

 

 ところが少し待っても返事がなく、私はもう1度ノックをする。

 

「サクヤです。お嬢様いらっしゃいますか?」

 

 再び少し待っても、やはり返事は無い。

 

「お嬢様はいらっしゃらないようですね……」

「私がどうかしたの?」

「キャッ!」

 

 背後から聞こえてきたレミリアの声に、一瞬ビクッとしながら振り返る。

 

「いつからそこにいらっしゃったんですか!?」

「たった今来たところよ。ついさっきまでフランと遊んでたから、とっても疲れたわ……。寝るからそこどいて頂戴」

「はい」

 

 私はレミリアの命令に従って、扉の前から1歩横に下がる。レミリアはドアに手を掛けて扉を半分程開けた時、何かを思い出したかのようにこう言った。

 

「少し仮眠をとるわ。昼頃には起きるから、朝食は要らないわ」

「かしこまりました。……あの、それで、フラン様は生きていらっしゃいますか?」

 

 昨晩から気になっていることを怒られるのを覚悟で恐る恐る聞くと、レミリアは軽くあくびをしてから答えた。

 

「ああ、昨日の事? たった1人の肉親を私が殺すわけないじゃないの。あれは単なるガス抜きよ、ガ、ス、抜、き」

 

 そう言って扉を閉めて、部屋の中に入って行った。私はそれを聞いて安堵の息を吐いた。

 

(よかったわ、殺し合いはなかったのね。でも……)

 

 昨晩の出来事は、ガス抜きとは思えないほど殺意丸出しだったのが気にかかるわ。再生能力の高い吸血鬼の感覚だと、あれも殺し合いには入らないのかしらね。

 

(まあ、あまり深く考えていても仕方がないわね)

 

 私は気持ちを切り替え、メイドの仕事に携わることにした。

 

 

 

「~♪」

 

 私は今、鼻歌を口ずさみながら、大図書館に向かうために廊下を歩いている。

 

「こんにちは、咲夜」

「?」

 

 おしとやかな声のしたほうへ振り向くと、そこにはまるで人形のような美人が立っていた。

 彼女の容姿は、金髪金目のショートヘアに、青色のワンピースのようなノースリーブと、ロングスカートを着用。 肩にはケープを羽織り、頭には赤いリボンを巻き、小さなお人形が1つ座っている。その人形も彼女と似た洋装で、ブロンドのロングヘアーと頭のリボンが特徴的な可愛らしい物だった。

 彼女の手には魔道書があり、リボンで縛って鍵がかけてある。魔力も感じるし、彼女は魔法使いなのでしょうね。

 

(親しげな様子で私に声を掛けてきたし、彼女は咲夜の友人かしらね? 少し様子を見てみましょう)

 

「こんにちは。今日は何の用で来たの?」

 

 私は笑みを浮かべ、当たり障りのない言葉で彼女に訊ねる。

「図書館に本を借りに来たのよ。最近ちょっと研究に行き詰っていてね」

「そうだったの。なら一緒に行かない? 私もちょっと用事があったのよ」

「いいわよ」

 

 そうして私は彼女と一緒に歩き出した。

「そういえば、さっき研究に行き詰っているって話していたけど、どんな研究をしているの?」

 

 無言のまま歩くのは良くないと思い、隣の彼女に話しかけると、快く答えた。

 

「魔道書の解読が中々上手く行ってなくてね~、暗号が複雑で全然進まないのよ~」

 

(魔道書!)

 

 その言葉に私は少し色めきたった。

 

「どの辺りが複雑なの? 私にも見せてもらえないかしら?」

 自らの逸る気持ちを押し殺すようにお願いすると、彼女は驚いた様子で「え!? ダメよダメダメ。魔道書っていうのは危険なものなのよ? むやみやたらと見せることはできないわよ」と手を振る。

 

「……分かったわ」

(う~ん、残念ね。正直かなり気になるのだけれど……なんとか見せてもらう方法はないかしら?)

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 十六夜咲夜(イザヨイサクヤ)の隣を歩くアリス・マーガトロイドは、彼女の横顔を見ながらぼそりと呟いた。

 

「……どうやら天狗の新聞は本当のようね」

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

「あ、いらっしゃいませー! サクヤさん! アリスさん!」

 

 私達が大図書館の扉を開けると、小悪魔が笑顔で出迎える。昨晩を思い出して警戒するも、小悪魔は意に介さず、アリスと呼ばれた少女は自然体で訊ねた。

 

「パチュリーはいる?」

「パチュリー様は、ただいま自室で魔法の最終調整中を行っておりまして、残念ながら午後になるまでお会いになれません」

「そう。ならここで待たせてもらうわ」

「アリスさんなら大歓迎ですよ! 誰かと違って本を盗んだりしませんし! ささ、どうぞ」

 

 そう言って高いテンションでアリスと呼ばれた少女を座席に案内していく。

 

(パチュリーさんが居ないのなら、仕事に戻ろうかしら)

 

 私がずっと入口で立っているのに気付いたのか、案内が終わった小悪魔は私のほうへ近づいてこう言った。

 

「サクヤさんいつまでそこに突っ立ってるんですか? 貴女もパチュリー様に何か用事があったのでは?」

「……変なことしないでよ?」

 

 小悪魔を睨みつけながら強い口調で言い放つも、彼女は張り付けた笑みを崩さない。

 

「まだ根に持ってたんですか? あれは只のイタズラですよ?」

「貴女ねえ……!」

 

 呆れている私に、小悪魔は更に1歩近づいた。

 

「……人通りの多い場所でやるわけないじゃないですか。本当に何もしませんから、安心してください」

「……」

 

 私は小悪魔の言葉に返事をせず、横を通り抜けてアリスと呼ばれた少女へ向かった。

 

「小悪魔と何かあったの?」

「なんでもないわ。今お茶菓子を用意してくるから、待っててね」

 

 そう言って私は厨房へと向かっていった。

 

「ふーん……」

 

 立ち去って行く私を、彼女は興味深そうな目で見つめていた。

 

 

 

「お待たせ~」

 

 10分後、私はお盆を持って大図書館に戻り、座って読書をしている彼女にお茶菓子を提供する。

 

「どうも、ありがとう」

「それじゃ私は行くわね。何かあったら呼んでね?」

 

 そう言い残して立ち去ろうとした私を、彼女は呼び止めた。

 

「待って。1つ聞きたいことがあるわ。この新聞記事に書かれていることは本当なの?」

 

 彼女が出したのは、昨日発刊された、タイトルが文々。新聞と銘打っている新聞だった。見出しには『緊急スクープ! 紅魔館のメイド長が別人に成り代わっていた!?』とデカデカと書かれ、本文には理由と経緯が載っている。私は彼女から新聞を受け取り、隣に座って素早く読んでいく。五分で記事を読み終えた私が抱いた感想は。

 

(この記事って、昨日私が文に話した内容と同じよね? 世界征服を狙って異世界から漂流してきた、とか私が話した時よりもスケールが大きすぎるわ。ありのままに私の話を書けばよかったのに、この文章だと壮大すぎて逆に胡散臭くなってるわね)

 

「記事を読み終えたみたいだけど、結局のところどうなの?」

「ええ、確かに本当よ。私は十六夜咲夜ではないわ。でも記事の内容は全然でたらめだからね? 信じ込まないでほしいわ」

 

 私の言葉に彼女は驚いた様子で。

 

「へえ~そうなの! レミリアが行っていた通り、本当に入れ替わってたのねえ……」

 

 彼女は物珍しそうに私を眺めながら、「見た目は瓜二つなのにねえ。不思議だわ」と感心している。

 

「この体は、元々紅魔館に居た十六夜咲夜のものよ。入れ替わりというのは、精神的なものだから」

「あーそういう意味ね。もしかして私の事も全然分からないの?」

 

 私は頷いた。

 

「それなら改めて自己紹介ね。私の名前はアリス・マーガトロイド。長いからアリスでいいわ。種族は魔法使いで、主に人形を使った魔法を得意とするわ。よろしくね」

 

 そう言って彼女は手を動かすと、頭に乗っていた人形が宙に浮かび、ペコリとお辞儀をする。よくよく見ると、彼女の指先から透明な糸が人形に伸びているのね。器用だわ。

 

「わあ、すごいわね! 私の身近にこういう魔法を使う人はいなかったから、とても新鮮だわ!」

 

 率直な感想を口にすると、アリスは得意げに言った。

 

「さらにこんなこともできるのよ」

 

 アリスがそう言うと、彼女の背後から似たような造形の人形が6体飛び出す。踊ったり、剣舞をしたり、一芸を披露する人形達に私は見入っていた。やがて芸が終わった後、私は惜しみない拍手を送る。

 

「とても素晴らしいものを見せてもらったわ。私も何かお返しをしたいけど、あいにく出来そうなことがないのよねえ」

「それなら、脚色の無いありのままの貴女の事を聞かせてもらえる?」

「ええ、分かったわ」

 

 私はアリスに自己紹介と、こうなったいきさつ等を話していった。

 

「へえ~そんなことがあったの。それで今はここのメイドをしながら元に戻る手段を捜している……と」

 

 私は頷いた。

 

「なんというか、大変ね。見知らぬ土地に1人飛ばされて、そこで生きていくっていうのに同情するわ」

「ここ二、三日は自分の境遇を分かってもらうのに苦労したわ。最近になってやっと落ち着くことができたのよ」

「大変だったのねぇ。ここって妖怪ばっかりだから、人間の貴女にとっては落ち着かなかったんじゃない?」

「ええ。今の私は無力だから、以前のように自分の力で突破できる状況じゃなかったから、不安でたまらなかったわ」

「貴女は元の世界では魔法使いだったのよね? 何が専門だったの?」

「主に攻撃系の魔法ね。自分で言うのもなんだけど、私の魔法は凄かったわよ。数ある魔法使い達の中でも上位の方だったと自負しているわ」

「それ本当なの? 興味があるわ」

「見せたいのは山々なんだけど、あいにくこの体に乗り移ってから全然使えなくなっちゃったのよねぇ」

「魔法使いが魔法を使えないっていうのは辛いでしょ? 大丈夫?」

「もう割り切れていますわ。それより私と話してていいの? 本を借りに来たんでしょ?」

「本を借りに来たのはおまけで、本当は貴女と会ってお話したかったの。昨日は結局話せなかったからね」

「昨日?」

「貴女が寝てる時間帯に、ちょうど私も博麗神社を訪れていたのよ。ふふ、寝顔が可愛かったわよ」

「み、見られてたのね……。恥ずかしいからできれば忘れてほしいわ」

 

 私はがっくりと肩を落とした。

 

「言いふらしたりしないから大丈夫よ。ねね、それよりもっとお話ししましょうよ」

 

 私は頷き、アリスとお喋りすることにした。

 

「その人形ってアリスの手作りなの?」

「ええ、そうよ」

「ちょっと触ってみてもいい?」

「どうぞ」

「ではお言葉に甘えて……。――凄い、非常によく出来てるわね。これはもう立派な芸術品だわ」

 

 アリスの人形は手触りもよく、髪もサラサラしていて今にも動き出しそうで、とても人形とは思えないほど出来が良かった。 

 

「それは上海って名前がついてるわ。私の一番お気に入りなのよ」

「そうなのね。こんにちは上海、私はサクヤよ。よろしくね」

 

 私が上海人形に笑顔で話しかけると、心なしか嬉しそうにしているように見えた気がした。

 さらに言葉を続けようと口を開くが、ふとアリスのほうを見てみると、興味深そうな目線を送っているのに気付いた。

 

「……私何かおかしいことしてたかしら?」

「いえ、そうじゃないのよ。ただ、普段の咲夜ならしなさそうな事をしてたから驚いてただけよ。本当に別人なのね」

「なんかその言葉、色んな人に会うたびに言われるのよね。そんなに性格が違うのかしら?」

 

 私は頭に疑問符を浮かべながら人形に話しかける。代わりにアリスから返事が返ってきた。

 

「私が良く知らないだけかもしれないけど、笑顔の咲夜はあんまり見たことないわね。なんだかいつも引き締まった顔つきで取っ付き難いイメージがあるわ」

「咲夜とアリスはどんな関係だったの?」

「時々話をする程度で、それほど親しい仲ってわけじゃなかったわね。私が話しかけても一言二言話すだけですぐ別の場所に行っちゃってたから、話す時間もほとんどなかったし」

「お嬢様のメイドと図書館のお客ならそんなもんなのかな?」

「さあね。咲夜がどう思っていたのかは、私には分からないわ」

「今の私はアリスとは仲良くやっていきたいと思ってるわよ? ダメかな?」

 

 私がそう尋ねると、アリスは一瞬驚くも、すぐ笑顔になってこういった。

 

「別にダメじゃないわ。私も大歓迎よ。改めてよろしくね」

 

 そう言って差し出されたアリスの手を握り、「此方こそ、よろしくね」と返す。

 

「おやおや、なんだか楽しそうな事やってますねえ」

 

 手を放してアリスの隣を見ると、ニヤニヤした小悪魔が立っていた。

 

「……なんか用?」

「冷たいですねえ、サクヤさん。たまたまここを通りかかっただけですよ。それでは私はここで」

 

 言いたいことだけ言って小悪魔はすぐさま退散してしまった。

 

「なんだったのあれ」

「大方冷やかしにでも来たんでしょ。放っておきましょう。それより――」

 

 私達は再び雑談で盛り上がった。

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