咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第5話 3日目 サクヤの憑依

 ―― side 咲夜 ――

 

 

 

 翌朝、目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた私は、今日の夢について考えていた。

 何処かのお屋敷で、私と同じ姿のサクヤという名前の少女が、夢の中で見るメイドの咲夜について調べているみたいね。なんだか考えててややこしくなってくるわ。

 

「これは異変なのかしらねぇ」

 

 似たような夢を続けて見る事もそうだけれど、夢の中のサクヤも私と同じ現象が起きている。恐らく一昨日と昨日の私の行動を夢で見ている様子。ここまでシンクロしていると、単なる夢では済まないわ。

 

(今日の仕事が一段落したら、パチュリー様に相談しましょう)

 

 私は朝支度を進めていく。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

(これは……!)

 

 私、イザヨイ・サクヤは目の前の現実に驚愕していた。

 何せ私の意識が夢の中の――今、水浴びを済ませてメイド服に着替えている【さくや】と同調して、まるで私が夢の中の“さくや”に成ってしまったから。

 非常事態に陥りながらも、私は支度を済ませた【さくや】が吸血鬼お嬢様を起こしたり、食事の仕度をしている様子を観察しつつ、現在の状況について検証を行っていく。

 その結果、幾つかの事実が判明した。

 まず【さくや】と呼ばれた少女のフルネームは、十六夜咲夜。名だけではなく姓まで完全一致するなんて、驚くばかりね。

 私から咲夜の行動への干渉、意識の乗っ取り、思考の解読は不可能で、別の場所に移動しようとしても、咲夜の体から離れることはできないみたいね。そして咲夜は私の存在に気づいていないみたい。

 次に簡単な魔法を幾つか詠唱してみたけれど、全部不発に終わったことから、今の憑依した状態では、私の持つ魔法や技は使えないみたい。

 極めつけは彼女の周りの音や、会話がしっかり聞き取れて、感覚がかなり現実に近くなっている。例えば、彼女が右手で扉のドアノブに触って回すと、私もそれに近い感覚が右手に走っていたわ。これも意識が同調した影響なのかしらね。

 

(興味深いわね)

 

 様々な仮説を立てていると、朝食が終わったようなので、咲夜が仕えている吸血鬼お嬢様をじっくり観察する事にした。

 彼女の髪色と髪型は青みがかった銀髪で、ウェーブのかかったセミロングヘア。瞳の色は血のような真紅。身長は私よりも低く、子供のように見えるけれど、背中から生えた立派な翼が威圧感を出している。

 頭には薄ピンク色のナイトキャップを被り、周囲を赤いリボンで締めている。

 衣服は、帽子と同じ薄ピンク色で、太く赤い線とレースがついた襟のブラウスに、赤色のレースがついた薄ピンク色のフリルスカート。その美麗な容姿と相まって、背中に羽が生えていなかったら、貴族のご令嬢にしか見えない風貌ね。せめて名前が分かればいいのだけれど。

 そんな風に彼女の容姿を心の中で論評していると、その吸血鬼お嬢様は私に――咲夜に向かって話しかける。

 

「咲夜、咲夜」

「え? ……あ、はい。なんでしょうか?」

 

 咲夜は一拍遅れて返事をすると、吸血鬼お嬢様は少し不機嫌そうな様子で。

 

「咲夜、ぼーっとしてどうしたの?」

「いえ、少し考え事をしておりましたものですから……申し訳ございませんでした」

 

 頭を下げる咲夜に、吸血鬼お嬢様は「考え事ってもしかして昨日の弾幕ごっこに負けた事? そういえばあの後パチェがいくつか本を持ってかれたって嘆いてたわね。あの泥棒、少し懲らしめたほうがいいかしら」

 

「ほどほどにしてあげてください。お嬢様と違って彼女は人間です。あまり本気を出すと、簡単に亡くなってしまいますよ?」

「そんなことしないわよ! ただ弾幕ごっこで懲らしめてあげるだけよ」

 

(この会話を聞く限りでは、この時間は昨日の夢の続きみたいね。泥棒というのは、恐らく昨日弾幕ごっことやらで咲夜が負けた“まりさ”ね。吸血鬼の館に平然と出入りするなんて、咲夜やお嬢様とはどういう関係なのかしら?)

 

 そんな事を考えている内に会話は進み、咲夜は「それでは、私はこれにて失礼いたします」と吸血鬼お嬢様に向かって頭を下げていた。片付けは妖精メイドに任せる様子。

 

(どうやら咲夜が動きだすようね。しっかり観察させてもらいましょうか)

 

 私は咲夜の行動を静観する事にした。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 お嬢様と別れた私は、すぐさま時間を止めて大図書館の入り口に移動する。時間停止を解除してから私は扉を開けた。

 

「失礼します」

 

 私は中へ入り、奥の読書スペースで読書中のパチュリー様の元へ一直線に歩いていく。私が近づくと、パチュリー様は椅子に座ったまま本から顔を上げる。

 

「あら、咲夜。こんな時間に来るなんて珍しいわね」

「パチュリー様、実は少し相談したいことがございますが、よろしいでしょうか」

「先に言っておくけど、レミィのワガママについての相談ならお断りよ」

「そのようなことはございませんよ。むしろ最近はやや控えめな感じで、驚くほどおとなしくなっているのが現状です」

「ふーん、じゃあ相談したい事ってなんなの?」

「実は――」

 

 私は昨日と今日見た夢について、パチュリー様にお伝えする。私自身荒唐無稽な事だと思っているのだけれど、パチュリー様は真摯に耳を傾けてくださったわ。

 

「――以上です」

「興味深いわね。もしその話が事実なら、紛れもない異変ね」

「えっ! 本当に異変なんですか?」

 

 軽く驚く私に、パチュリー様は頷いて「間違いないわ。夢と夢が繋がるなんて、普通は有り得ないわ。――この現象に対して少し心当たりがあるわ、私が調べておくから、貴女は自分の仕事に戻りなさい。ここに来てから、結構な時間が経っているでしょう?」

 

 自分の腰にぶらさげている懐中時計を見ると、大図書館に入った時から既に1時間が経過していた。確かに、あまりおしゃべりを楽しむ余裕は無さそうだわ。

 

「申し訳ございません。それではお任せいたします」

 

 私は軽くお辞儀をして、時間を止めて大図書館を後にした。

 

 

 ___________

 

 

 

(……凄い場所だったわね)

 

 私は先程の出来事を思い返す。

 咲夜が向かった場所は、見渡す限りの本で囲まれた大図書館だった。恐らく、王都の魔法学院よりも蔵書数が多いでしょうね。つくづく自由がきかないのが惜しいわ。

 そして咲夜が頼ったパチュリーと呼ばれる少女は、一目見ただけで同業者だと分かった。魔法使いは魔力の多さで腕前が分かると言われているけれど、パチュリーの魔力は私よりも多く、恐らくアルカディア全体を見渡しても、彼女以上の魔法使いは存在しないでしょう。

 同時に私は、ここが異世界だと確信した。だってパチュリー程の大魔法使いを、私が知らない訳が無いもの。

 咲夜の相談も、この二日間に見た夢についての内容で、昨日と今日の私の活動と一致していた。やっぱり咲夜にも影響が出ているのね。日を追うごとに、夢が鮮明になってきているようですし、もしかしたら咲夜も私の世界に来るかもしれないわね。

 ……というよりも、私は元の世界に帰れるのかしら? もしこのまま咲夜の中から出れなかったらどうしましょう。

 言い知れない不安を抱えつつ、私は目の前の現実に注目する。

 

(それにしても、彼女は良く働くわねえ……。感心しちゃうわ)

 

 あの大図書館から出た後、咲夜は炊事、洗濯、掃除と、メイドとしての仕事をテキパキとこなしている。実家で雇われているどのメイドよりも、仕事が上手いわ。 

 

(彼女、本職のメイドだけあって家事が上手ね………これは私も見習わないといけないわね)

 

 最早芸術とも言える咲夜の仕事ぶりを称賛しながら見守っていると、外は暗くなっていた。

 咲夜はメイドの仕事を全て終えたようで、パチュリーと呼ばれた少女が居る大図書館へゆっくりと歩いていく。それを傍目で見つつ、私は先ほどの仕事を思い起こしていた。

 

(そういえば、夢で見た時も視点が飛んでいつのまにか別の場所にいたけれど、こうやって彼女と同調しても視点が何度も飛んでいたわね……。一体どんな仕組みなのかしら?)

 

 そんな疑問を抱いている内に、咲夜は大図書館に到着する。

 

(考えるのは後にしましょう。今はパチュリーの言葉が気になるわ)

 

 私は一旦考えをとりやめ、目の前で起こる出来事の観察に集中する事にした。

 

 

 ___________

 

 

 

 今日の仕事を全て終わらせた私は、今朝相談したことが気になって、自然と大図書館へと足が向いていた。

 

「失礼します」

 

 私は大図書館の奥に向かって歩いていく。パチュリー様は私と視線が合うと、「待っていたわ」と立ち上がる。

 

「何か分かりましたでしょうか?」

「そのことだけど……。昨日魔理沙がここに来たのは知っているわよね?」と問いかけてきた。

「はい、偶然廊下で出くわしたので迎え撃ったのですが、負けてしまって……」

 

 申し訳なさそうに答えると、パチュリー様は「あら、そうだったの。どうりで弾幕ごっこの時に呼んでも来なかったのね」と少し冷たい声で答えていたので私は「誠に申し訳ございませんでした……」と頭を下げる。

 

「ああ、別に責めているわけじゃないのよ? ごめんなさいね」

 

 頭を上げると、パチュリー様は真剣な表情で口を開いた。

 

「――単刀直入に言うわ。実はあなたの身に起こってる現象に近しい事が記された本がここに有ったのだけれど、どうやら昨日魔理沙に盗まれてしまったみたいでね、何冊か足りないのよ」

「はあ、そうなんですか」

「だから悪いけど、明日魔理沙の家に行って昨日盗られた本を取り返してきてくれる? 本当は他に盗まれた本とかも取り返してきてほしいけど、今回は急ぎの要件だから別にいいわ」

 

 パチュリー様が指定した本をメモしていく。

 

「かしこまりました、明日行って参ります」

「本が私の元に戻ってきたら、あなたの身に起こってる現象について改めて精査するわ。今はまだ仮説の段階だから何とも言えないの、ごめんなさいね」

「いえいえ、解決の見込みがあると分かっただけでも、私としては大きな収穫でございます」

 

 そう答えると、パチュリー様は思い出したといったような様子で。

 

「――そうそう、さっきは何とも言えないと言ったけど、実は1つだけ、貴女にこの現象を解明するためにして欲しいことがあるわ」

「はい。なんでしょうか?」

 

 パチュリー様は机の上に置かれた手帳と万年筆に視線を送る。

 

「ここに昨日見た夢、そして今日見た夢の内容を詳しく書いてほしいのよ。勿論、覚えている範囲で構わないわ」

「畏まりました」

 

 私はパチュリー様の前に座り、万年筆を手に取る。あまり待たせては申し訳ないですし、時間を止めて書いちゃいましょう。

 かくして私の体感時間ではおよそ1時間――現実の時間では1秒にも満たない時間で書き終えて、時間停止を解除する。

 

「出来上がりましたよ」

 

 パチュリー様は「もう? 早いわね」と一瞬驚いていましたが、すぐ納得したように「なるほど。そういうことね」と頷いていました。

 

「咲夜の能力って本当便利ね。それでは読ませてもらうわね」

 

 手帳を読みだしたパチュリー様は、真剣な眼差しで目を通した後、私の顔を見てこういった。

 

「咲夜、恐らく今夜もこの【サクヤ】と呼ばれている少女の夢を見ると思うわ。今夜はサクヤの夢を見たいと強く願いなさい。そうすれば、この現象に対して何か分かるかもしれないわ」

 

 パチュリー様は私に手帳を差し出して、「明日起きたら、その手帳に見た夢の内容を詳しく書いてちょうだい」

 

「はい、承知いたしました」私は手帳を受け取って席を立つ。

 

「おやすみなさいませ、パチュリー様」

「おやすみなさい、咲夜」

 

 互いに寝る前の挨拶を交わして、私は大図書館を後にした。

 

 

 

 自室に戻った私は、手帳を机の上に置いた後、寝支度を整えてベッドの上で仰向けなり、布団を被る。

 

(パチュリー様の話では、夢の続きを強く願うんだったわね。どうかサクヤの夢が見れますように)

 

 明日への期待感を僅かに抱きながら、私は眠りに就いた。

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