咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第51話 9日目 sideサクヤ 精神交換

「《精神交換》?」

「その名の通り、この魔法を発動した時、対象となる二人の人物の精神が入れ替わる――つまり心が入れ替わるのよ」

「それって――」

「そう。今まさにサクヤの身に降りかかっている現象ね。私はそれを人為的に再現できる魔法を開発したの」

「すげーな! どうやって使うんだ? 原理は?」

「方法は簡単よ。私が描いた2つの魔法陣に、それぞれ入れ替わりたい人物が乗って、私が魔法を発動させれば完成よ。原理は――」

 

 パチュリーは《精神交換》の魔法の原理を15分ほどかけて長々と解説する。

 

「――と、言うわけよ。分かったかしら?」

「う~ん、聞いてもよく分からんな。つーか話が長すぎるから、眠気を抑えるのが大変だったぜ」

「魔理沙に同じく」

 

 アリスと魔理沙はぐったりとした様子で返事していたけど、私は一つの可能性を思いついていた。

 

(パチュリーさんの語った原理って、100年前に私とリィンで共同開発した精神魔法と同じじゃない!)

 

 私達が1年近く掛かった魔法をまさかたった5日で開発してしまうとは、やはりパチュリーさんはこの世界で最高峰の魔法使いね。

 

(それならあの時に断念した方法が使えるかもしれないわね……! その為にも、彼女の考えを知る必要があるわ!)

 

 私は相手の意図を探るように質問をした。

 

「――それで、パチュリーさんはこの魔法をどうするおつもりなのですか?」

「開発した私が言うのもなんだけど、この魔法を使うことに迷っているのよ」

「あら、貴女がそんな事を言うなんて珍しいわね?」

「使い方次第では悪用し放題の魔法だし、成功する保証がないのよ。理論上では完璧だけど、まだ実験を行っていないからね。失敗する可能性も充分あるわ」

「なあ、もし失敗したらどうなるんだ?」

「最悪の場合お互いの精神がロストしてしまって、自意識が消える事もありうるわね」

「それって実質的に死亡ってことよね」

 

 アリスから冷静なツッコミが入り、魔理沙も「うっへえ、リスクありすぎるな。私的にはちょっと入れ替わって見たいなと思ってたんだが、失敗が怖すぎるぜ」と苦い顔をする。

 そんな中私が「大丈夫ですよ、パチュリーさん。貴女の魔法は必ず成功します」と言うと、皆の注目が集まった。

 

「どうしてそう断言できるの?」

 

 パチュリーに聞かれた私は、理由を語った。

 

「パチュリーさん、一昨日のテレパシーの内容を覚えていますか? その中で、リィンは『しかるべき手続きを踏んでもう一度サクヤ達の精神を入れ替わらせれば元通りになる』と話していました」

「そうね」

「実はこの“しかるべき手続き”とは、100年前に私とリィンが共同開発した『魂交換』魔法のことなのですが、パチュリーさんの『精神交換』は、魂交換魔法と原理が全く同じなので、失敗する可能性はないですよ。この魔法の呪文にも見当がついています。パチュリーさん、少し耳を貸してもらえますか?」

「いいわよ」

 

 私はパチュリーの耳元に口を近づけて、「恐らく呪文はこうでないでしょうか?」と、呪文を唱える。最後まで聞いた後、私から離れたパチュリーは目を見開き、「全く同じじゃない……!」と驚愕している。

 

「仮に失敗したとしても精神がロストする事は起こりえません。ただ入れ替わりが不発に終わるだけです。ちゃんと臨床実験を行ったので、間違いありませんよ」

「――なるほど、この魔法は既に貴女の世界ではもう確立されたものだったのね」

「黙っていて申し訳ありません。なにせ非常に危険な魔法なので、幻想郷に火種を持ち込みたくなかったのです」

 

 パチュリーは喜ぶとも悔しいとも言えない複雑な表情を浮かべていた。

 

「でもサクヤの話が事実なら成功は保証されてるわけだろ? なら別に良かったじゃないか、検証する手間が省けてさ」

 

 魔理沙はパチュリーが悲しんでいると思い、慰めの言葉を掛けた。

 

「別に落ち込んているわけじゃないのよ。ただちょっと複雑な気持ちになっているだけ」

 

 パチュリーは淡々と答えているけど、まだ思うところがあるみたいね。この空気を変えるために私は話題を変えることにした。 

 

「ところで、パチュリーさんがこの魔法を開発しようと思った動機はなんですか?」

「私なりに咲夜を治すために考えた方法がこれなのよ。何故かここにいるサクヤと、異世界のサクヤの友人とテレパシーが繋がっているじゃない? それはつまり、アルカディアのイザヨイサクヤの体の中に居る咲夜とも、テレパシーで繋がる余地があるということになるでしょ?」

「そうですね。ユウなら、咲夜にもテレパシー魔法を教えていると思います」

「彼女に事情を話して、貴女と咲夜だけをテレパシーで繋げて、そのラインを利用として『精神交換』を使えば、元通りになるのではないかと考えたのよ」

「テレパシーはあくまで思念を飛ばすための手段だから、そう上手くはいくと思えないんだけど」

 

 アリスからの冷静なツッコミに、パチュリーは「私もそれは熟知しているわ。ただ、こんな突拍子な出来事に対処する方法として真っ先に思い浮かんだのがこれだったのよ」と少し自信なさげに答える。

 

「パチュリーさん。私の事を思って開発してくれたのは嬉しいのですが、テレパシーを介して《精神交換》を使うのは無理です」

「何故そう言い切れるの?」

「私達が使っているテレパシーは特殊なものでして、妨害魔法やテレパシーの傍受がされないように、マジックジャミング効果を組み込んであるからです。なので《精神交換》を発動しようとしても、何も起きません」

「それはまた……かなり高性能のテレパシーね」

 

 パチュリーは感心しているようだった。

 

「私にはよく分からないんだが何が凄いんだ?」

「テレパシーは、言うなれば心と心を繋ぐ魔法だからね、非常に精神に働きかける魔法に弱いのよ。代表的なのが、眠らせる魔法や気持ちを落ち込ませる魔法ね。魔法使いの私達にはこれらの魔法に強い耐性があるのだけれど、テレパシー中は、魔法耐性という名の鎧が脱げて心が無防備な状態になってしまうの。だけどサクヤのテレパシーは、鎧が脱げる事が無く繋がるらしいわね」

「ほ~、そりゃあ凄いな!」

「うーん、この方法ではダメなのね。せっかく開発したけど、お蔵入りにするしかないわね」

 

 アリスの説明に魔理沙は納得した様子で頷く一方、パチュリーは少し残念そうにしていた。

 

「待ってくださいパチュリーさん。私に良い考えがあります。もしこれが成功したら、今の状況が改善されるかもしれません」

 

 私の発言に、三人はとても驚いた様子だった。

 

「詳しく話して頂戴」

「紅魔館の十六夜咲夜と、私は同一人物だという話がありましたよね? これを利用します。私と咲夜は入れ替わる前に夢を介してお互いの生活をぼんやりと覗き見ていました。それが日を追うごとにだんだん鮮明になっていき、最終的にはお互いの体に精神が入りこんでしまった結果、今の状態に陥っています」

「ええ、そうね」

「これを受けて私は考えました。『私と咲夜は精神面でとても似ているのではないか』と、だから入れ替わりの理由が起きたと私は思っています」

「ちょっと待って、いくら似ていると言っても、簡単に入れ替わりが起こるなんてありえないでしょ?」

「そのことについては私も分からないので、ひとまず議論は後にさせてください」

 

 私は一回咳払いをした後、さらに話を続ける。

 

「話を戻します。つまりですね、世界の壁を越えて入れ替わりが起こってしまうほど、私と咲夜には強い結びつきがあると予想します。なので私の魔法で咲夜――つまり、アルカディア世界の体を探ることができれば、魔理沙が言ったように召喚魔法を利用してどちらかの世界に呼び寄せる事が可能かもしれません。その為に、パチュリーさんの魔法を利用としたいと思います」

「――そういう事ね。所々突っ込みたい所はあるけれど、一応筋は通ってるわね」

「私の案を使うのか!」

 

 私の説明にパチュリーは感心し、魔理沙は驚いている。

 

「?? つまりどういう事なの?」

「つまりね、私の状態を解決するかもしれない手段を思いついたけれど、今の私は魔法が使えない状態でそれができない。だからパチュリーさんの魔法を使って、貴女達の誰かと入れ替わって、魔法を使用したい。という話よ」

「なるほどねえ」

 

 私のざっくりした説明で、アリスは理解できたようだ。

 

「今の説明だいぶはしょってるわね……まあ、いいけど」

「それでパチュリーさん、私の案を採用してくれるでしょうか?」

 

 パチュリーは少し考えてから口を開く。

 

「……そうね、今のところ他の手立てはないしその案を採用するわ。それで誰が入れ替わるのかしら? 先に言っておくけど、術者の私は無理よ?」

 

 私はアリスと魔理沙の方に向いて、頭を下げる。

 

「どうか私に協力してください。お願いします」

 

 私の言葉に一番最初に反応したのは魔理沙だった。

 

「そういう事なら私が立候補するぜ。なんだか面白そうだからな。アリスもそれでいいか?」

「魔理沙が望むのなら私は構わないわよ」

「よし、決まりだな。パチュリー! さっそく《精神交換》を頼むぜ!」

「今準備するから少し待ってなさい」

 

 パチュリーは席を立ち、少し開けた場所に向かうと、魔法陣を描いていく。

 

「……ありがとう魔理沙。感謝してるわ」

 

 私は改めて魔理沙にお礼を伝えると、彼女は笑顔で「気にするなって。私も一回入れ替わりってのをやってみたかったんだ」と答える。好奇心がとても強い子なのね。

 それからおよそ5分後、準備が出来たようで、パチュリーの指示の元、私と魔理沙は魔法陣の上に移動する。 

 

「2人共目を閉じてもらえるかしら?」

 

 言われた通りに、私は目を閉じた。

 

「魔理沙、サクヤ。準備はいい? ――それでは行くわよ!」

 

 パチュリーが詠唱を開始して間もなく、私の――十六夜咲夜の体から何かが抜け落ちていくような感覚を覚え、意識も遠くなっていった。

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