咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第52話 9日目 sideサクヤ 魔理沙になったサクヤ

 ――誰かが私の体を揺さぶっている。

 

「ねえ、大丈夫?」

 

 ふと目を開けると、そこには心配そうな表情のアリスが私の目に映っていた。

 

「良かった、目が覚めたのね。ずっと返事が無かったから心配したわ」

「うーん、私はどうなったの?」

 

 私は視線を下にやって自分の体を見てみる。視界の隅に映る金色のおさげ髪に、白と黒のエプロンドレス。更に視線の高さも少し低くなっている。

 

「――!」

 

 魔法は無事成功して、どうやら私は霧雨魔理沙になっているらしい。自分の胸を触ってみるも、柔らかい感触がして、感覚に問題はないようだ。

 

(それにこの感覚……! 懐かしいわ……!)

 

 私の――正確には魔理沙のだけど――体の中に、魔力が流れていることを感じ取り、昂揚感を覚えつつ体内の魔力を測ってみる。

 

(しかもこの年でこの魔力量なんて……! 少し荒削りだけど、光るものを持っているわね。魔理沙は、よっぽど努力したのでしょうね)

 

「魔理沙? 聞いてる?」

 

 ――って、いつまでもアリスを無視する訳にはいかないわね。彼女に失礼だわ。

 

「私、魔理沙になってるわ……」

 

 驚きと共に呟くと、アリスは「その喋り方はサクヤ? 本当に入れ替わったのね」と物珍しそうに私を見ていた。

 

「私はどうなったの?」

 

 私は自分が立っていた方角を見ると、そこには毎日鏡で見る姿――十六夜咲夜が、笑みを浮かべながら此方を見つめていた。

 

「おお、やっと気づいたようだな。私は魔理沙だ。今お前の体に入ってるぜ」

 

 私の顔と声で男勝りの口調で喋っているのは、なんだか違和感を覚えるわね。

 

「お前のメイド服って凄いな。裏側の見えない所にポケットがあって、色々入ってるじゃないか。驚いたぜ」

 

 彼女はポケットの中に入った懐中時計や、スケジュール帳等を取り出している。

 

「こらこら、あまりいじらないでちょうだいよ」と窘めつつ「魔理沙はどうなの? 体が入れ替わった事の感想を聞かせて欲しいわ」と訊ねる。

「自分の姿を客観的に見るのは、何だか不思議な気分だな。変な気分だぜ」

「まあ、確かに変ねえ。咲夜の姿で魔理沙の口調で喋られると違和感しかないわ」

「私からすれば、私の姿でその喋り方をされる方が不自然なんだけどな」

「二人共どう? 体に対して何か違和感とかない?」

 

 パチュリーの問いかけに、私は「問題ありません」と短く答える。一方魔理沙は手を握ったり開いたり、足踏みをしたりして確かめた後に口を開く。

 

「自分の思い通りに身体を動かせるぜ。だけど、何かが物足りない気がするんだよなぁ。いつも感じている何かがさ」

「ひょっとしてこれじゃないかしら?」

 

 私は魔理沙に指を向けて、指先から小さい炎を出すと、納得した表情で頷いた。

 

「あ~きっとそれだ。そうか、これが魔法が使えないという事なのか。幼い頃を思い出すな」

「どうやら無事に魔法を使えるようね。それで、貴女の作戦は実行できそうなの?」

「ちょっと待ってください」私は使用する魔法と体内の魔力量を計算して、「……そうですね。このままだと少し不安が残るので、色々準備をすることにします」

「準備って何をするつもりなんだ?」

「こうするのよ」

 

 魔理沙の疑問に私は自信満々に答えたつつ、収納魔法を発動するべく呪文を唱え始めた。

 

「何の詠唱かしら?」

 

 首を傾げるパチュリーを尻目に私は詠唱を止めない。本当は無詠唱でも可能だけど、今は魔理沙の身体をお借りしているわけですし、万が一失敗した時の事を考えると、慎重にやった方がいいでしょうね。

 時間にして1分、私は詠唱を終えると、手を真っ直ぐ伸ばす。すると目論み通り、手がズブリと異空間に沈み込んでいった。

 

「おいおい! 手首から先が消えたぞ! どうなってるんだ?」

 

 私は両手を突っ込んで探し物をしながら魔理沙に答えた。

 

「これが以前話した収納魔法よ。自身の魂に刻まれているから、この身体でも開くはず。え~っと、アレはどこへ置いたっけ」

 

 私は更に前に進み、上半身丸ごと収納空間に突っ込んでいく。真っ白な部屋の中には、所狭しと魔道具が置かれている。

 

「持ち物をしまっておけるなんて便利な魔法ねえ。にしても、上半身が消えているんだけど大丈夫なのかしら?」

「………あったわ! これよこれ、見つかって良かったわ」

 

 目的の物を見つけた私は、それらを収納空間の出入り口近くに並べてから上半身を異空間から戻す。それから机の傍に移動してから、片手を突っ込み、机の上に並べていく。

 私が取り出したのは、三冊の本と、これらの本について私が考察した論文。更にオリハルコンが嵌め込まれた杖、金色に輝くネックレス、魔力増量の呪文が刻まれた銀色の指輪、そして透明な瓶に入った紫色の液体――通称エリクサーだ。

 

「やれやれ、後で片付けておかないといけないわね」

「なんか色々と出てきたな」

「あら、綺麗なネックレスね」

「何を取り出したのかしら?」

 

 机の傍に集まって来た皆に、私は説明を行う。

 

「まずこの本ですが、過去に起きた異世界転移や入れ替わり事件についての書物で、此方のレポートはそれを読んで私なりに考察したものです。後で読んでみてください」

「分かったわ」

「次にこの杖と指輪と、アリスが身に着けているネックレスは、使用者の魔力を増幅するマジックアイテムです」

「言われてみれば、なんだか体が熱くなってる気がするわね」

「マジックアイテムだと!? しかも魔力増幅だなんて!」

 

 目を輝かせる魔理沙に、私は彼女の盗み癖を思い出し。

 

「……私の魔法が上手く行ったら差し上げるわよ。だから今持って行ったりしないでね」

「本当か! ラッキー♪」

 

 私の言葉に魔理沙は上機嫌となっていた。

 

「この液体は何?」

「これはエリクサーです。一口飲むだけで、あらゆる病気や怪我、精神的な衰弱さえも一発で治る万能薬です」

「エリクサーですって? 実在していたのね……!」

「ですが、飲みすぎると反動が凄いですよ」

「反動ってどんな?」

「下手すると3日間寝たきりになっちゃいますね」

「……かなり強力な薬なのね」

 

 パチュリーは少し唖然とした様子だった。

 そして私は、アリスからネックレスを受け取り、右手に杖、左手の中指に指輪を身に着ける。途端に魔力が増幅し、皆が驚きの眼差しで私を見つめている。

 

「凄いわね……!」

「おおっ! まさか私の身体からこんなに魔力が出るとは!」

「魔理沙も成長すればこれくらい余裕よ」

 

 私は開けた場所に歩いていく。

 

(そうだわ。ユウには知らせておきましょう。結局昨日はテレパシーできなかったものね)

 

 私は早速テレパシーを行うも、返事が無い。いえ、それどころか、繋がっている感触が無いわね。

 

(これはどういうことなのかしら? 一昨日は確かに繋がったのに……)

 

 明らかな異変に戸惑うばかりね。もしかしたら、ユウ達に何かあったのかもしれないわ。

 

「……それでは、今から始めます」

 

 一抹の不安を覚えながらも、私は呪文の詠唱を開始する。

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