咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第53話 9日目 sideサクヤ 召喚魔法

 ◇    ◇    ◇

 

 

 

 イザヨイサクヤが召喚魔法の詠唱を開始した頃、パチュリー・ノーレッジ、アリス・マーガトロイド、霧雨魔理沙は少し離れた場所から彼女を見守っていた。

 

「サクヤが詠唱を始めたみたいね。さて、どうなってしまうのかしらね」

「大丈夫かしら? ねえ、パチュリー。サクヤって魔法の実力はどのくらいあるの?」

「さっきの収納魔法や、彼女の魔法理論を聞く限りでは、自分の腕に相当の自信があるようね」

「なあアリス、さっきの弾幕ごっこ覚えているか? あの時は私が負けちゃったけど、分身を使ったスペルの原型はアイツに教えてもらったんだぜ」

「あら、そうなの。魔理沙らしくないスペルだとは思っていたけれど、そういう事だったのね」

 

 アリス・マーガトロイドは二人の言葉に納得したように、頷いている。

 

「それにしてもサクヤは何をしてるんだ? さっきから全然動きがないじゃないか」

 

 イザヨイサクヤは目を閉じ、杖を前に突き出した姿勢のまま立っている。

 

「口元を見なさいよ。私達にも聞き取れないほどに高速詠唱を行っているのよ」

「ふ~ん」

 

 と、その時、イザヨイサクヤの足元から眩い光が発せられ、彼女達の注目が集まる。イザヨイサクヤは地面から少し浮きながら詠唱を続けており、足元には六芒星と幾何学模様が混じりあった魔法陣が展開されている。

 

「うひゃ~なんだあれ! とてつもない大魔法じゃないか?」

「あれがサクヤの魔法なのかしら?」

 

 三人の少女達が注意深く見守っていると、何かが欠けるような得も言われぬ音が響く。その音の頻度は増していき、イザヨイサクヤの手前の空間に、罅が入っていく。

 

「ええ!? 空間に罅が入ってるぞ!?」

「これは――!」

「途轍もないわね……! 間もなく来るわよ!」

 

 やがてガラスが割れたような音と共に、空間に裂け目が開く。半径1m程の穴の周辺は暗く、最奥には青い海とそこにポツンと浮かぶ孤島が映る。白い砂浜と、深い森の先にある丘の上には、豪勢な屋敷が建っていた。

 

「あの場所は何処なんだ?」

「もしかしたら、サクヤの自宅かもしれないわね。以前彼女が話した場所と一致するわ」

「おお! ってことは、本当に召喚出来ちまうのか!?」

 

 霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドが話す一方、イザヨイサクヤの顔色が悪いことに気付いたパチュリー・ノーレッジは、「サクヤ! 大丈夫なの?」と呼びかけると、彼女は親指を突きたてた。

 

「サクヤの奴、かなり辛そうじゃないか。気付かなかったぜ……」

「あのサインは大丈夫って事なのかしらね」

「まあ魔力の揺らぎは見られないし、私の限界はまだまだ先だからな」

「それならもう少し様子見するべきね。彼女は今高い集中状態にあるわ。今強引に止めたら、何が起こるか分からないわ」

 

 三人の少女達が静観を決める中、イザヨイサクヤは空間の裂け目に向かって杖を向けながら、必死に詠唱を続けていく。彼女の顔には脂汗が滲み、苦悶の表情を浮かべている。

 

「かなり苦しそうね。見てるこっちも辛いわ……」

「な、なあ、助けなくてもいいのか?」

「本当にヤバかったら助けを求めてくるでしょ。サクヤを信じてあげなさい」

 

 それからイザヨイサクヤはその場に浮かんだまま、ゆっくりと回りだす。彼女の足元の魔法陣から魔力の粒子が舞い上がり、空間の裂け目に消えていく。

 

「綺麗ねえ……」

 

 アリス・マーガトロイドはうっとりとした様子で呟き、霧雨魔理沙とパチュリー・ノーレッジもその光景に目を奪われていると、やがてイザヨイサクヤの動きが止まり、床に降り立つ。同時に魔力の粒子も消えていき、正常な空間に戻って行った。

 最後に彼女が空間の裂け目に向かって杖を振ると、最初からなかったかのように一瞬で修復。足元の魔法陣も消えていた。イザヨイサクヤは、彼女達に近づき、言葉を発した。

 

「これで終わりました。魔理沙、体を貸してくれてありがとうね」

「おう」

「魔法は成功したの?」

「咲夜――つまり、元の私の肉体を感知し、場所も特定してアルカディア世界に繋げる事には成功したのですが……。私に出来たのはそこまででした」

「どういうこと?」

「理由は二つありまして、一つはアルカディア世界に張り巡らされた防御結界です。これは100年前の異世界からの魔王軍侵攻事件をきっかけに、異世界からの干渉や攻撃を防ぐものとして設置されたのですが、どうやら召喚魔法がこの条件に該当してしまったようです」

「でもお前は、アルカディアから来たんだろ? おかしくないか?」

「ええ。そこが不思議なのよね」

「もう1つは?」

「この幻想郷に張り巡らされた結界です。私が分析した所、これは主に人々の認知や概念を遮断する霊的な結界で、異世界からの召喚魔法の術式を不完全なものにするようですね」

「ちょっと待って。まさか、博麗大結界に何かしたの?」

「なるほど、博麗大結界と言うんですね。勿論何もしていませんよ。一目見ただけで、幻想郷の維持に重要な結界と分かりましたから」

「おいおい、とんでもないことやってるな」

「賢明ね。博麗大結界を弄ったら、八雲紫が黙っていないわ」

「最後は何をしてたの?」

「アルカディアの防御結界と博麗大結界の二つの結界に阻まれ、召喚魔法は困難だと判断した私は、自分自身の位置と、現状についての情報を魔力の粒子に変換し、テレパシーのラインを通じて飛ばしました」

「そんなこともできるのね……!」

「私のメッセージに向こう側が気付いて、何かしらの対策を立ててくれれば良いのですが……」

「テレパシーは使わないのか?」

「何度か試してるんだけど、何故か応答が無くなってしまったのよね。一応繋がっている感覚はあるんだけど……」

「マジかよ。そりゃ厄介だな」

「結局振り出しに戻ってしまったわね」

 

 パチュリー・ノーレッジの呟きに、イザヨイサクヤは「悲観する必要はありません。アルカディア世界の位置を特定し、そこに繋がる道を構築出来ただけでも大きな収穫ですよ。博麗大結界と、アルカディアの防御結界、この二つの結界を抜ける手段さえ解明できれば、元の世界に帰れるのですから」と答える。

 

「精神を交換する魔法は完成している訳だし、後は二人の咲夜の合流だけってことか」

「そういうことよ」

「問題は二つの結界を抜ける手段ね」

「博麗大結界については、霊夢に聞いてみるしかないのかしら?」

「そんなことをしなくても、一度幻想郷の外に出てしまえばいいのではないでしょうか?」

「難しいわね。幻想郷は閉鎖された空間だから、明確な出口は博麗神社にしかないし、それも霊夢の立ち合いが無ければ通過できないわ」

「一部の大妖怪は自由に出入りできるって聞いた事はあるけど、まあこれは例外ね」

「いずれにしても、霊夢に相談する必要があるな」

「アルカディアの結界はどうするのよ?」

「アルカディア側については、ユウ達からの連絡待ちになりそうだわ。アルカディア様にお伺いを立てなければ、最悪の場合、元の世界の私が滅される可能性まで有り得るわ」

「なんとも物騒な話だな」

「これについては、待つしか無さそうね」

 

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 

 一通り話が纏まった所で、私は皆の顔を見ながら言った。

 

「――さて、どうしましょうか? 私は用事が済んだことですし、もう戻ってもいいわ」

 

 また魔法が使えなくなってしまう事は惜しいけれど、あまり他人の身体を好き勝手に動かすのは良くないでしょう。そう思っての提案だったのだけれど、魔理沙は不満だったみたいで。

 

「え~? せっかく入れ替わったんだし、もっとこの状況を堪能しようぜ~! 戻るのはその後でも遅くないだろ」

「魔理沙がそう言うのなら構わないけど……」

「ふっふっふ、咲夜になったんだし、どうせならレミリアにでも悪戯してこようかな」

「ちょっと、やめてよね!? 後で怒られるのは私じゃないの!」

 

 魔理沙と言い合いになりかけたその時、突然図書館の扉がバンと大きな音を立てて開く。驚きながら振り向くと、レミリアが此方に近づいてきているのが見える。彼女は私と魔理沙を見比べた後、咲夜――精神は魔理沙だけど――の前に立ち、強い口調で言った。

 

「サクヤ! ちょっとこっち来なさい! 何回も呼んだのにどうしてすぐ来ないのよ!?」

 

 そう言ってレミリアは魔理沙の手を掴んで連れ出そうとしていた。

 

「ちょっ!? 私は魔理沙だ! サクヤは私の中に入ってるんだ!」

 

 魔理沙は叫びながら私のほうを指さしていたが、レミリアは「はあ? 何訳の分からない事を言ってんのよ? いいから来なさい! きっちり責任を取ってもらうからね!」と、聞く耳を持たない。あまりの剣幕に、私達は口を挟む暇も無かった。

 

「サクヤー! お前は一体何をしたんだー!! 助けてくれー!!」

 

 魔理沙は必死に逃げようとしていたが、吸血鬼の力に敵うはずもなく、ズルズルと引きずられていく。

 

「ごめんなさい、魔理沙。でも安心して? 骨は拾ってあげるから」

 

 私は魔理沙に向かって拝みながら頭を下げる。あんな状態のレミリアの相手はしたくないわ。

 

「この裏切り者~!! 後で覚えてろよぉぉ!」

 

 魔理沙は絶望的な表情で叫びながら、図書館の外へと消えていった。

 

「サクヤ。貴女一体何をしたのよ?」

 

 アリスが唖然とした表情で私に訊ねてきたので、理由を考えるのだけれど。

 

「う~ん……ちっとも思い浮かばないわ。今日は朝に一度だけ会っただけですし、その時は特に不機嫌でも無く、当たり障りのない話しかしてないわ。もしかしたら無意識的に、何らかのミスを犯してしまったのかもしれないわね」

「……まあ放っておきなさいよ。中身は魔理沙なんだし、レミィならすぐ気付くでしょ。その時に事情を話せばいいんじゃないかしら?」

「パチュリーさんがそう仰るなら……」

「ところで、サクヤはこれからどうするつもりなの?」

「正直な所、弾幕ごっこを体験してみたいところだけど、これは借り物の体だから傷つけるわけにはいかないしねえ。どうしようかしら?」

「ねえ、それなら私のお願いを聞いてもらえないかしら? 実はやって貰いたいことがあるのよ!」

「構わないけれど、何をさせるつもりなの?」

「うふふ、それは後のお楽しみ。一度自宅に帰って準備してくるわね!」

 

 アリスは生き生きとした様子で、図書館の外へと飛んで行った。準備って、本当に何をさせるつもりなのかしら?

 パチュリーはいつの間にか読書スペースに座って、本を読んでいるし、手持ち無沙汰になってしまったわね。ひとまず、片付けだけでもしてしまいましょうか。

 私は杖とエリクサーを収納空間に仕舞い込み、ついでに散らかった収納空間内の片づけを行っていく。

 

(これからも時々でもいいから片付けしておかないとね)

 

 整理整頓もひと段落した頃、大図書館の扉が開く音がする。アリスが帰って来たのかと思って見れば、現れたのは霊夢だった。

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