咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第54話 9日目 sideサクヤ 

「やっほー」

「あら、霊夢がここに来るなんて珍しいわね?」

 

 此方に近付きながら手を上げる霊夢に、パチュリーが顔を上げる。

 

「サクヤの様子を見に来たんだけど、ここには居ないのね?」

「少し前にレミィに連れていかれたわよ」

「何処へ行ったか分かる?」

「そこまでは知らないわ」

「そうなの。う~ん、虱潰しに探すしかないのかしら?」

 

(……やっぱり脇に目が言ってしまうわね。霊夢の着ている巫女服には不思議な魔力がある気がするわ)

 

 2人の会話を聞きながら私はそんな事を思っていた。

 

「ところで魔理沙、なんでさっきから黙っているのよ? あんたらしくないわね?」

「……」

 

 霊夢に話しかけられた私は、どのように返事をするべきか答えに困っていた。

 

(正直に言ったほうがいいのかしら? それとも、魔理沙の振りをしたほうがいいかしら?)

 

 無言で霊夢の顔をじっと見つめていると、「な、何よ? 私の顔に何かついてる?」と困惑している。

 霊夢から視線を外してパチュリーを見ると、彼女にしては珍しくニコニコとした表情で私達を見ている。それはまるで、どちらに転んでも面白そうなことが起きそうだ、と思っているような。

 

(パチュリーさんは明らかに面白がっているわね。期待しているみたいだけど、やっぱり正直に話した方がいいわね)

 

 魔理沙にとって恐らく霊夢は大切な友達でしょうし、精神が入れ替わって、紅魔館の妖怪達とトラブルを起こした事を考えると、騙す事は出来そうにない。

 

「霊夢、実はね……」

 

 ここまでの経緯を説明すると、彼女は関心した様子で頷いた。

 

「ふ~ん、そんなことがあったのねえ。今の魔理沙はサクヤになっている、と。道理でいつもとは雰囲気が違うのね」

「どう違うの?」

「魔理沙ってさ、賑やかな性格だから一緒にいると私まで気持ちが高まってくるのよ。でも今の魔理沙は物静かで落ち着いているから、私もそれに釣られて冷静になるのよね」

 

 霊夢はフフッと笑っている。

 

「ということは、今の魔理沙はワガママお嬢様に振り回されているのね。無茶ぶりに困らされてそうだわ。サクヤもそう思うでしょ?」

「……ノーコメントでお願いしますわ」

 

 私は肩を竦めると、「……まあそういう事にしておいてあげるわ」と霊夢は苦笑していた。

 

「ところで霊夢、博麗大結界についてだけど……」

「幻想郷の外に出たいのなら、協力してあげてもいいわ。だけどあまり長時間は滞在できないわよ?」

「構わないわ。その時が来たらよろしくね」

 

 意外とすんなり要望が通って良かったわ。後はアルカディア側の結界を通過する手段ね。

 

「お待たせー! ってあら? こんなところに霊夢がいるなんて、珍しいわね」

 

 扉をバタンと開けて大図書館に飛び込んできて来たのは、先程一旦家に戻ると話していたアリスだった。彼女は大きな風呂敷包みを人形に持たせている。

 

「こんにちは、アリス。その荷物はどうしたの?」

「説明するよりも実際に見てもらったほうが早いわね」

 

 アリスは私達の傍のテーブルに風呂敷を置き、手際よく開く。中には綺麗に折りたたまれた洋服が四着程入っていた。

 

「これは……?」

「私は趣味の一環としてお洋服を作っているんだけどね、ここにある洋服たちはいつか魔理沙に着てもらいたいなと思って作ったのよ」

「そうなの?」

「だって魔理沙ってば、いくら頼み込んでも全然着てくれないのよ。『こんなヒラヒラした服はイヤだ』って言ってね」

 

 確かにアリスが持ってきた洋服は、可愛い系ばかりで、魔理沙の性格なら嫌がりそうなラインナップばかりだった。

 

「でも今の魔理沙は魔理沙じゃなくてサクヤになっているから行けるはず! ねね、着てくれるわよね!?」

「私は別に構わないわよ?」

 

 個人的に抵抗感はありませんし。

 

「やった! それじゃさっそく着て頂戴! ……と言いたいところだけど、まだこの辺りの調整が終わってないから悪いけど待っててくれる? すぐ終わらせるから」

「分かったわ」

 

 そう言ってアリスは机に向き直り、何処から取り出したのか裁縫セットを使い鼻歌を歌いながら作業を始めた。

 

「アリス、なんだか変にテンション高いわね」

「まあ気持ちは分からないでもないけどね。魔理沙ってもっとお洒落な恰好すれば可愛くなれるポテンシャルはあるのよ。だけどいつも同じ格好してるからアリスみたいなお洒落さんにとってはもどかしかったんじゃないかしらね」

「確かに分かるわ。霊夢は色んな衣装を着たりするの?」

「私は職業柄この服を着ていることが圧倒的に多いわね」

 

 霊夢は巫女服の胸元あたりを掴む。

 

「その服って夏は涼しくて良さそうだけど、冬はどうしてるの?」

「普通にこの服の上からコートを着て、マフラーも巻いてるわよ。幻想郷は雪が降るからもっと厚着できたらいいんだけど、一目で巫女って分かるようにしないといけないのよねえ……」

 

 霊夢はハアとため息をついていた。

 

「大変ねえ……」

「……ところでサクヤ、どうしてずーっと胸元を見ているのかしら?」

 

 霊夢の突然の言葉に私は言葉に詰まってしまった。

 実は霊夢が登場した時からずっと彼女に目がいってしまっていたのが、とうとう気づかれてしまったみたいね。

 

(何故か知らないけど、霊夢の巫女服がとても気になるのよねえ、故郷で見たことない服だからかしら? でもこんな事を言ったら怒りそうだし……)

 

 悩んでいると、霊夢は「……もしかして私の服が気になっているの? 初めて出会った時もやけに私の事をじろじろ見て来たし」と、私の心情を察したような言葉を掛けてきたので、私は賭けることにした。

 

「――ええ、ええそうなのよ。私の故郷には無かったし、デザインも割と好みだから、とても興味があるのよ」

「あら、そうなの? 今までそんな事言われたことなかったから、少し驚いたわ。――それならこの服着てみる?」

「いいの?」

 

 霊夢の思いもよらぬ発言に私は思わず聞き返してしまった。

 

「いいわよ、別に。減るもんでもないし。ねえ、パチュリー、この近くに更衣室はある?」

「私の部屋を使ってもいいわよ。左から4番目の本棚の間を真っすぐ行った突き当りにあるわ」

「ありがと」

「一応言っておくけど、部屋の中にあるものは触らないでね」

「分かったわ」

 

 言われた通りに歩いていくと、本棚と本棚の間に壁に溶け込むような色合いの扉があり、開いて中に入っていく。広々とした部屋の中は、ベッドや本棚の他、魔法薬が入ったビーカーが棚に並べられている。

 

「魔理沙の部屋もそうだったけど、魔法使いの部屋って色々怪しい物が置いてあるのね」

 

 まあ否定はしないわ。

 扉を閉じた後、部屋の中央の空いたスペースに移動し、霊夢は目の前で服を脱いで、巫女服一式を私に渡してきた。

 

「はい、どーぞ」

「あ、ありがとう……まさか目の前で脱ぐとは思わなかったわ」

 

 堂々と下着姿で立っている霊夢に思わず心の声がポロリと漏れてしまった。

 

「別に魔理沙相手に意識しないわよ。それにね、私も魔理沙の巫女服姿には少し興味あるからね。昔は着てくれたのに最近は全然着てくれなくなっちゃたからね。と、まあそういう理由よ」

「成程ねぇ。でも、年頃の女の子がそんな恰好でいちゃダメでしょ。急いで着替えるから私の服を着てちょうだい。……この服が嫌ならアリスの持ってきた服でも着てちょうだい」

「ん、そうね」

 

 巫女服を受け取った私は、手早くエプロンドレスを脱いで霊夢に渡し、私(外観は魔理沙)は霊夢の巫女服、霊夢は魔理沙の魔法使い衣装という恰好になった。

 二人揃ってパチュリー達の元に戻ると、彼女は「あら、衣装を交換したのね。似合っているわよ」と微笑んだ。更にパチュリーがいつのまにか用意してくれた全身鏡の前に立った時、こんな感想を覚えた。

 

(可愛くて動きやすいし、見た目以上に涼しいのね。脇がスースーするわ。夏は涼しいけど、冬は寒そうね。あと脇が開いてるから、下手すると下着が見えちゃうから、気を付けないといけないわね。魔理沙の巫女服姿もいいけど、咲夜に戻ってからも、改めて着させてもらえるようにお願いしてみましょう)

 

「感想はどう?」

 

 霊夢の言葉に私は心の中で思った事を伝えると、彼女は「アハハ、サクヤがこの服を気にいってもらえたようで嬉しいわ」と楽しそうに笑った。

 

「本当、魔理沙が巫女服を着ているなんて中々レアね。面白い物を見れたわ」

 

 パチュリーまでもそんな感想を言っていた。

 

「準備できたわよー? ……ってえ!? サクヤいつのまに着替えたの? しかもそれ霊夢の巫女服じゃない!?」

 

 今まで洋服の調整をしていたアリスが今頃気付いたようで、とても驚いていた。

 アリスは私をじろじろと見た後、こう言った。

 

「うん! 巫女服の魔理沙もありね。写真撮らなきゃ」

 

 アリスはポケットからカメラを取り出すと、私にレンズを向けて、色んな角度から写真をパシャパシャを撮りだした。アリスの要望に答え、私は笑顔を浮かべながら、色んなポーズと取っていく。

 その様子を見て霊夢は「アリスってこんなキャラだったっけ……。もっとクールなイメージだったはずなんだけど……」と呟いていたのが聞こえた。

 

 やがて撮影に満足したのか、彼女は一度カメラをテーブルに置いてこう言った。

 

「私が厳選した三着をぜひ着て頂戴! さあさあ!」

「わ、分かったから落ち着いて」

「まず最初に着てもらうのはこれよ!」

 

 そう言ってアリスが最初に手に取ったのは、紅魔館のメイド服だった。かなり再現性高いわね……!

 

「なんでメイド服?」

「私が見てみたいからよ。ささ、早くお願い」

「着替えて来るから、ちょっと待ってて頂戴」

 

 そう言い残し、私は再びパチュリーの部屋に向かい、手早く着替えていく。着替えを終えて戻った後、霊夢に丁寧に畳んだ巫女服を返してから皆に訊ねる。

 

「どうかしら?」

「うん、悪くないわね」 

 

 アリスは写真を連写しながら「すっごく良いわ! ここで働いていると言われても、全く違和感がないわよ!」

 

「……それ褒めてるの?」

 

 アリスの言葉に霊夢が冷静にツッコミをいれ、パチュリーも「悪くはないけど、魔理沙にメイドをやらせたら色々な物が無くなりそうだからダメね」と首を振った。

 

「確かにあの泥棒娘ならありえそうですね」

 

 私はパチュリーの言葉に同意した。

 

「でもまあ似合うのは確かね。アリス、後でその写真1枚もらえる?」

「いいわよ!」

「本当にテンション高いわね」

 

 霊夢はのんきに呟いた。

 

 

 

 2着目の服はアリスと全く同じ――いわゆるペアルックというものだった。再度パチュリーの部屋に向かい、着替えてから戻ってきた。

 

「どうかな?」

「割といいけどなんだかアリスに似てるわね。ちょっとアリス、サクヤの隣に立ってみてよ」

 

 アリスが隣に立つと、霊夢は感心した様子でこう言った。

 

「やっぱり似てるわねえ。なんだか姉妹みたい」

「姉妹ねえ、魔理沙みたいな妹ができたら騒がしい日常になりそうね」

 

 アリスはヤレヤレといった感じで呟いた。

 

「魔理沙は妹確定なんだ?」

「だって私のほうが冷静だし、年上ですもの。魔理沙の性格からして妹のイメージにぴったりよ」

「それ魔理沙が聞いたら怒りそうね」

 

 霊夢の指摘にアリスは少し慌てた様子で「あっ、今のは魔理沙に内緒にしてね」と自分の口に指を添えてお願いしていた。

 

 それからアリスとツーショットを撮った後、最後の服に着替えた。

 

 

 

「うん、やっぱり似合うわ~! ねね、霊夢もそう思わない?」

「確かにそうね。まるで別人みたいよ」

 

 今の私は童話に出てくる女の子が着るような、とてもファンシーな恰好をしている。

 頭には白いカチューシャを身に着け、星が散りばめられた淡い桃色のワンピースに、白いタイツと赤色のドール靴を履いている。

 

「この服、とってもファンシーで可愛いわね。良い見立てだわ」

「サクヤもそう思うでしょ? 私の目に狂いは無かったわね!」

 

 アリスはとても興奮しているようで、あらゆる角度から私の写真を撮っている。

 

「着ている服でこうも印象が変わるのねえ、今の魔理沙の姿は、おてんばお嬢様って感じよ」

「お嬢様かあ」

 

 霊夢の言葉に、私はふとレミリアの姿を思い浮かべる。

 

「今の私の恰好が可愛い系だとしたら、レミリアお嬢様はちょっとクール系ね」

「あ~それ分かる! 似合いそうなのに、なんでレミリアって可愛い系の服着たりしないの?」

「……昔咲夜がレミィに同じような事を言ったんだけどね、『そういう系の服着たらお子様に見られるからイヤよ』と言ってたそうよ」

「確かにあの背格好だとそう見られそうねぇ。レミリアも案外そういう事を気にするのねえ」

「一時期は毎日牛乳飲んでいたこともあったわね。効果がないことに気付いて、すぐ止めちゃったみたいだけど」

「アハハなにそれ。面白すぎるわー」

 

 パチュリーの話に霊夢は笑っていた。

 

「他にもこんなことがあったわね――」

 

 パチュリーが思い出話を語ろうとしたその時、突然図書館のドアが大きく開け放たれ、魔理沙が飛び込んできた。

 

「助けてくれパチュリー! お前だけが頼りなんだ!」

 

 魔理沙は鬼気迫った様子で、パチュリーの元に一直線に走って行く。

 

「待ちなさいサクヤ! まだ仕事は終わってないわよ!」

 

 魔理沙に遅れてレミリアも飛び出してきたので、私は咄嗟に本段の陰に隠れて、様子を伺うことにした。

 

「うわっ、もう来たのか! パチュリー頼む、ちゃんとレミリアに説明をしてくれ!」

 

 魔理沙はパチュリーの椅子の後ろに隠れながら懇願する。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。一体何があったのよ?」

 

 突然の状況の変化に、パチュリーは戸惑いながら立ち上がると、レミリアが答えた。

 

「それについては私から説明するわ。サクヤに今日の夕食の炊事と、溜まった洗濯に、2階の部屋全部の清掃を言いつけておいたのに、全然やる気ださないし失敗ばっかりなのよ。だからお仕置きをしてあげようと思ったら逃げ出しちゃってね」

「私はサクヤじゃないって言ってるだろ! 私はパチュリーの魔法で入れ替わっただけで、中身は魔理沙なんだって何度言えばわかるんだ!」

「さっきからこんなことばっか言ってるのよねえ。パチェからもなんとか言ってやってよ」

 

 その言葉とは裏腹にレミリアはニヤニヤしている。

 

(あの顔……もしかしてわざと? いや、まさかねえ……?)

 

「なあ頼むよパチュリー! そこのワガママお嬢様にきっちりと説明してやってくれ!」 

 

 魔理沙は必死の形相でパチュリーに懇願している。彼女は二人を見比べた後、少し間を開けてから魔理沙に向かってこんなことを言いだした。

 

「サクヤ、そうやって魔理沙のフリをしてサボろうとするのは良くないわ。一時的に入れ替わっているとはいえ、きっちり紅魔館のメイドとして仕事しないとダメよ。ほら、私の後ろにいないでしっかりやってきなさい」

 

 パチュリーは魔理沙に気付かれないようにレミリアにウインクをした。

 

(パチュリーさんも結構恐ろしいわね……あまり怒らせないようにしましょう)

 

 パチュリーの言葉を聞いて見放されたと察した魔理沙は、絶望を浮かべていた。

 

「ほら、パチェもそう言ってるんだしきっちり仕事しなさいな。逃げた罰として仕事量は倍ね。それじゃ行くわよ。霊夢、アリス騒がしくしてごめんなさいね」

「大したことじゃないし別に構わないわよ」

「どうして私の話を聞いてくれないんだ……! お願いだから話を聞いてくれよ~……。霊夢、助けてくれ~」

「頑張ってきなさい」

 

 魔理沙はしょんぼりとした様子で、レミリアに引きずられながら図書館の外へと出ていった。それを見計らって、私は物陰から出てアリス達の元に近寄って行った。

 

「魔理沙も災難ねえ。サクヤはいっつもあんなことやっているの? 仕事とはいえ大変ね」

「私はあそこまで仕事を押し付けられることは無かったわ。能力が使えない事も理解してくださっているから、自分のペースで仕事を片付けていたし」

「え、そうなの?」

「さっきの会話で確信したわ。レミィは咲夜の中身が魔理沙だと気付いたうえで振り回してるわね。いつも魔理沙にはしてやられているから、そのお返しといったところかしらね」

「あらら、自業自得ねえ」

 

 霊夢はヤレヤレといった感じで呟いた。

 

「魔理沙、大丈夫だといいわね」

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