咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
第57話からしばらく続く9日目のside咲夜と書かれた題名の話は、第56話の最後に繋がる話になります。
――9日目 side 咲夜――
ふと目が覚めると、真っ白な空が広がっていた。
「ここは……?」
起き上がって辺りを見回しても、ひたすら真っ新な空間が何処までも続いている。私は確かにサクヤの部屋のベッドで眠った筈よね……? それにいつの間にか紅魔館のメイド服に着替えているし、どうなっているのかしら?
「ここは貴女の夢の中。現実の貴女は、家でぐっすりと眠っていますよ」
「誰!?」
母性を感じさせるような穏やかな声が響き渡ると共に、私の目の前の空間に変化が現れる。何もない場所に周囲の白よりも眩しい光が生じ、目が眩んでしまう。やがてそれが収まると、絶世の美女が立っていた。
腰まで伸ばした長い銀髪に、銀色の瞳。純白の衣に身を包み、金色のピアスと腕輪を飾り付けている。何処か神々しさを感じさせる女性で、私はその姿に見覚えがあった。
私の身体をリィンに診てもらう為にアルカディア教会に赴いた時、信徒達が熱心に祈りを捧げていた女神像。彼女はそれと非常に良く似ているわ。つまり私の夢枕に立っているこの女性は……。
「もしかして、アルカディア様ですか?」
「はい、お初にお目にかかります、十六夜咲夜さん」
言葉で語りかけると言うよりは、頭の中に直接声が響く。
(彼女がアルカディアの創造神なのね……!)
確かに雰囲気が違うわね。守矢神社の神様のような、神様特有の威厳を感じるわ……! 失礼にならないようにしましょう。
「私の目的については既にリィンから聞いていますね?」
「ええ」
「本来であれば、下界で起きた事件に私が介入する予定はありませんでした。ですがリィン・ロンガディアの勧請を受けて調査した所、事情が変わりました」
「何が起きたのでしょうか?」
「結論から話しますと、貴女とイザヨイサクヤの精神が交換された事件は、魔界の闇魔法使いエレツィ・フィレッターによって引き起こされたものだったのです」
「詳しくお聞かせ願えるでしょうか?」
「100年前に異世界から侵略してきた魔王軍との戦争については聞いていますね?」
「ええ」
「彼らは魔界の女神と共に侵攻してきました。最初は種族としての能力の差も有り、人類は劣勢でしたが、私が魔界の女神を封印し、アレス・ロンガディアと志を共にする仲間達に力を分け与え、人類側の勝利に終わりました。戦争終結後、私は二度と同じ事が起きないように、アルカディア全体に結界を張り巡らせて、世界の保護を行いました」
つまり今のアルカディアは、幻想郷みたいに世界から隔絶されているのかしらね?
「ところが調査した所、世界と世界を隔てる世界の壁と、アルカディアの保護結界に裂け目が二つ開いていました。それらは人間が一人通れる程度の小さな裂け目でしたが、その内の一つに人間の精神が通行した形跡がありました」
「もしかして、それが私……?」
「はい。裂け目の一つが魔界――100年前に侵略してきた魔王軍のいる世界――、もう一つの裂け目が地球に繋がっていまして、魔界の裂け目から飛んできた精神交換魔法により、二人の貴女の魂が地球に繋がる裂け目を移動したようです」
「!」
「ここで問題が二つあります。まず一つ目は、結界の裂け目の一つが魔界に繋がっていた事です。彼らには前科がありますからね。私は魔界に繋がる裂け目の魔力の残滓を辿り、術者が魔界在住の闇魔導士エレツィ・フィレッターである事を特定しました」
魔法使いみたいな事が出来るのね。
「動機や理由については不明ですが、彼が危険な闇魔法使いである事には変わりません。もしもこの魔法が不特定多数に用いられれば、混乱が避けられません。幸いな事に彼は私の探知に気付いていないので、勇者に神託を下せば、討伐は容易でしょう」
勇者ねえ……。そういえば、彼とはまだ会ったことが無いわね。
「もう一つの問題は、貴女の精神が向かった世界の事です」
「地球の事ですか?」
「地球の存在はユウ・サクラギが世界の裂け目から迷い込んだ時に、認知していましたが、かの世界は特殊な立ち位置にあります。アルカディアにおける私のような、世界の管理者たる存在が私の力を持ってしても不透明です。それに加えてマナが存在せず、“科学”と呼ばれるアルカディアとは異なる自然法則と物理法則を利用して、高度な文明を築いているのです」
抽象的な言い回しだけど、よく調べているのね。
「私はサクヤ・イザヨイの精神の行き先を調査しましたが、難航しました。何故なら異なる世界法則の世界では私の力は十全に発揮できず、もし地球文明に世界を渡る術が知られてしまった場合、彼らより発展が遅れているこの世界が大いなる脅威に晒される可能性があるからです。私は少し考え、サクヤ・イザヨイが地球世界との裂け目と、アルカディアの保護結界の裂け目を通して利用していたテレパスのラインを辿り、彼女の居場所――幻想郷を突き止めることに成功しました」
なるほど、テレパシーが繋がっていたのはそういう仕組みだったのね。でも場所が分かっているのなら、すぐに解決できそうなものだけれど。
「しかし幻想郷という場所こそが、大きな問題でした」
「どういう事ですか?」
「あまり詳しい話は出来ないのですが、例えるならば物理的にも精神的にも閉ざされた箱のような場所です。幻想郷全体に張り巡らされた結界には、一つの綻びも無く、干渉が困難です。恐らく、幻想郷には結界の“専門家”がいるのではないでしょうか?」
(専門家、ねえ?)
スキマに腰かけながら胡散臭い笑みを浮かべる八雲紫の姿を思い浮かべると、彼女は「あら」と感嘆の声を上げる。
「なるほど、彼女が“専門家”ですか。見た目は20代前半の女性にしか見えませんが……、只の人間では無さそうですね」
「もしかして、私の考えが読めているのですか?」
「ここは夢の世界。肉体に囚われた人間が、私と対話するには精神体になる必要があります。人の強い想像力は、現実世界に比べて具象化しやすいのですよ」
「そう」
どうやらさとり妖怪のように、全ての思考が読める訳では無いようね。あまり心地よいものではないけれど、我慢するしかないわね。
「話を戻しますね。
前話で書き溜めが無くなったので、少し投稿ペースが落ちます。
申し訳ありません。