咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
彼女の説明はまだ続く。
「まず紅魔館を利用した相転移について。貴女はユウ・サクラギに収納魔法を教わり、そこで精巧な紅魔館を再現したそうですね」
「はい。ですが、あくまで外観だけで、中身は空っぽな箱にすぎません」
「いいえ。幻想郷の紅魔館と、貴女が創造した虚像の紅魔館。この二棟を地球世界の裂け目を通して紐付けする事で、本物の紅魔館に転移できるかもしれません」
「そんな事が可能なのですか?」
理屈はあっているような気がしないでもないけれど……。
「正直に答えますと、成功率は限りなく低いです。なのでこの方法が成功したら幸運でしょうね」
「……」
本当にこの神様大丈夫なのかしら……?
「本命は二つ目の方法。召喚魔法による召喚です。聞けば幻想郷はマナに満ちた場所で、パチュリーと魔理沙と言う、魔法使いの協力者がいるそうですね?」
「はい」
「アルカディアと幻想郷を繋ぎ、幻想郷にいる貴女を此方の世界に呼び寄せた後、リィン・ロンガディアの精神交換魔法で元の肉体に戻し、幻想郷に帰還します。この時、パチュリーと魔理沙の協力が得られれば、成功率は上がるでしょう」
「テレパシーで聞いた限りでは、パチュリー様も魔理沙も協力してくれると思いますわ」
パチュリー様とは良好な関係を築いていますし、魔理沙もまあ友人と言ってもいいでしょう。ちなみに彼女が知らない魔法使いに、アリス、妹様、聖白蓮、矢田寺成美がいるのだけれど、アリスは知人以上、妹様はお嬢様同様に仕える相手で、後の二人は宴会や異変の時に顔を会わせたくらいの関係性ね。
「それは素晴らしいですね。ですが、この方法にも問題点があります」
「……もしかして、幻想郷の結界ですか?」
「その通りです。私の力でアルカディアの保護結界と、地球世界に繋がる世界の壁に出入口を開く事は出来るのですが、召喚魔法を成功させるには、幻想郷側の協力が必要です」
「八雲紫に連絡を取る必要があるのね」
彼女が私の為に協力してくれるのか、怪しい所ね。
「いずれにしても、まずは今回の事件の元凶を叩き、二度と同じ事件が起こらないようにする必要があります。貴女の枕元に、闇魔導士エレツィ・フィレッターの容貌と、現在地について記した資料を置いておきます。その資料をアレス・ロンガディアに持っていきなさい。必ずや助けになるでしょう」
「はい。ありがとうございます」
私がお礼を伝えて頭を下げると、彼女は空間に溶けるように消えていく。それに伴い、私の意識が空に引っ張られていった。
次に意識を取り戻すと、見知った天井と燭台が私の視界に入る。ふかふかなマットレスと柔らかい掛け布団に包まれ、私は今の今までベッドに寝ていたのだと再認識させられる。なんだか、とても現実味がある夢だったわね。
ベッドから起き上がると、枕元には寝る前には無かった一枚の紙が置かれていて、手に取ってみる。ローブを羽織り、青紫色の肌と角が生えたやせ型の男と、記号のような数字に、おどろおどろしい雰囲気の屋敷が映っていた。きっとこれがアルカディア神が言っていた資料ね。まずはユウとミーシャに見せましょうか。
収納空間に仕舞い、身支度を終えた私は、サクヤの部屋を出てロビーに出る。しんと静まり返っていて、人の気配は無かった。
(まだユウとミーシャは寝ているのね。先に朝ご飯を作っちゃいましょう)
私はダイニングルームへと向かっていった。
朝食を作り、テーブルに並べていると、ダイニングルームの扉が開いてユウとミーシャが入ってきた。
「おはよう」
「おはよう咲夜! 朝食作ってくれたんだね、ありがとう!」
「ミーシャが中々起きなくて焦ったよ。寝つきはいいのにどうして朝は弱いんだか」
「うるさいな~。別に寝坊はしてないからいいじゃん?」
軽口を叩きながら二人は席に着き、それに続いて私も椅子に座って朝食を摂っていく。
「美味しい!」
「咲夜の料理は最高だわ。貴女の主人は幸せものね」
「ふふ、ありがとう」
今朝はバタートーストと目玉焼き、ウインナーと生野菜のサラダと、簡素な献立にしたのだけれど、思ったよりも好評みたいね。喜んでくれて嬉しいわ。
「ユウ、ミーシャ。今朝アルカディア神様からの神託があったわ」
「えっ!?」
「何を仰っていたの?」
驚く二人に、私はアルカディア神から聞いた話を伝えていき、枕元に置かれていた資料をテーブルの上に広げる。
「――と言う訳なのよ」
「そうだったんだ……!」
「闇魔導士エレツィ・フィレッター。まさかあの男が生きていたなんて……」
資料にある魔族の男を凝視するユウ。
「知っているのユウ?」
「100年前、魔王と共に侵略してきた魔王軍の魔導士部隊を率いていた上級将校よ。人間の精神に介在する闇魔法を得意としていて、大勢の人々が廃人になったわ。あの時は、サクヤが倒した筈なんだけど……」
「なんかさ、かなりサクヤに執着してたよね。サクヤとの一騎討ちの為に、自分の部隊全員を私達に仕向けて分断してきたもん。四方八方から魔法弾が飛び交ってさ、あの時は死を覚悟したよ」
「サクヤは私達にマジックシールドを展開しつつ、エレツィ・フィレッターの精神魔法を反撃魔法で反射していたわね。結果として最後は自爆して、終わった筈だったんだけどねぇ」
「かなり危険な男なのね。サクヤが狙われたのは、復讐なのかしら?」
「分からないわ。とにかく、この件はアレスに伝えるべきね。ちょっと席を外すわ」
ユウは席を立ち、ダイニングルームを後にする。
「アレスって確か100年前に魔王軍と戦った勇者で、この国の国王様よね?」
「そうだよ! 王都に大きなお城あったでしょ? あそこに住んでいるんだ」
「王様って簡単に会えるのかしら?」
「私達は携帯性の魔導電話で今でも定期的に連絡を取ってるし、ユウは時々アレスからの依頼を受けて仕事をしてるからね。問題無いよ」
するとユウが帰って来た。
「アレスに連絡したら、サクヤを奪還する作戦を練るからすぐに来て欲しいってさ。朝食が終わったら王城に行きましょう」
「分かったわ」
いよいよ事態が大きく動きそうな気配を感じつつ、私は朝食を摂っていった。