咲夜とサクヤの入れ替わり物語   作:RtYB9S

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第60話 9日目 side咲夜 突入作戦

 アレスに案内された部屋は、城の2階右奥に位置する会議室だった。

 天井にはシャンデリアがぶら下がり、シミ一つ無い白い壁には、玉座に座るアレスとその隣に立つリィンの肖像画が飾られていた。白いカーテンと解放された窓からは、レンガ造りの建物が立ち並ぶ城下町が見渡せる。

 部屋の隅には緑の葉と桃色の花を付けた観葉植物が置かれ、ほのかに甘い香りが此方に漂ってきた。床には深紅のカーペットが敷かれ、部屋の中央には、純白のテーブルクロスが掛けられた円卓と燭台に、白銀の椅子が五席置かれている。部屋の入口から一番遠い席にアレスが座り、右から順にリィン、ミーシャ、私、ユウの席順になっている。

 程なくして三人のメイド達が会議室に入り、私達に紅茶を給仕していく。見た目はコーヒーのように黒いけど、ハーブの香りがするわね。私は退室していくメイド達にお礼を伝え、早速味わってみる。あら、これはアールグレイに似た味なのね。

 

「さあ、咲夜。アルカディア様のお言葉を聞かせてくれ」

「ええ――」

 

 私はアルカディア神から受け取った資料を交えつつ、ユウとミーシャにした時と同じ話をする。アレスは真摯な態度で話を聞いていて、他の皆は紅茶を味わっている。二回目ともあって、先程よりは要領よく伝えられた気がするわね。

 

「――以上よ」

「ふむ、なるほどな……」

 

 既に紅茶を飲み干していたアレスは、資料を睨みながら眉間に皴を寄せている。しばらく思案していた彼は、やがて顔を上げた。

 

「事情は理解した。俺もサクヤを取り戻すために協力しよう」

「助かるわ」

 

 この国の権力者の協力が得られるのは非常に心強いわ。此方の世界の私も人間関係に恵まれているのね。

 

「それでは作戦会議と行こうか」

 

 私は紅茶を味わいつつ、会議を清聴する。

 

「敵の勢力は一人。無数のゴーレム達が屋敷内を徘徊しているそうだが、こいつらは雑魚だし放っておいても構わん。屋敷の周囲は森に囲まれていて、近辺には街も無いため増援の可能性も無い。スロイとレノン――俺の配下の魔法使いに、屋敷の正面に魔界への出入り口を繋げさせるから、補給の心配も無いだろう」

「問題はこの男の精神交換魔法ね。サクヤ程の魔法使いが、あっさり術に掛かってしまうなんて……」

 

 弾幕ごっこではない魔法使い同士の戦いは、基本的に魔力が高い方が勝利するとパチュリー様から聞いた事がある。サクヤはこの世界最高峰の魔法使いみたいだから、それだけ相手が強大なのね。

 

「しかも彼は、魔界から世界の壁を越えて精神交換魔法を使用したんでしょ? 魔法の射程が無限なら対抗策が無いじゃん。もしこうしている間にも、私達や国民の誰かが入れ替わってたりしたら……」

 

 懸念を示すミーシャに、アレスは「いや、俺はそう簡単に乱発できないと考えている」と主張し、皆の注目が集まる。

 

「根拠は俺が健在な事だ。俺はサクヤ程の魔法抵抗力は無いし、この国の王だ。俺の精神が入れ替われば、この国は混乱に陥り、最悪の場合崩壊する可能性だってある。魔族からしたら絶好の標的であるにも関わらず、敵はサクヤだけを狙った。おかしいとは思わないか?」

「言われてみればそうだね?」

 

 魔王を倒した勇者なら、魔族から多くの恨みを買ってそうね。

 

「世界を越えての精神交換魔法の発動には、厳しい制約と条件がある筈だ。五日経っても第二の被害者が現れてない事を考えるに、乱発は出来ないだろう」

「なるほど……!」

 

 ユウは感心したように頷いている。

 

「かと言って、あまり時間を与えるわけにもいかない。今の所は何も起きて無いが、いつまた誰かが入れ替わるとは変わらないからな。会議が終了次第、奴の拠点に乗り込むぞ」

「異論は無いわ」

「作戦と人選はどうするつもりなの?」

「私は行くわよ!」

「私も皆さんのお手伝いをします」

 

 ユウとリィンはやる気を見せている。

 

「今回の作戦は、場所が魔界であり敵が精神魔法の使い手である事を鑑みて、軍は出さずに俺達の中から選ぶ。魔界は慣れてない人間にとってはきつい環境だし、奴の精神魔法による同士討ちの可能性があるからな。メンバーは魔法抵抗力が高い俺、リィン、ユウの三人だ」

 

 続けて彼は私を見ながら「ちなみに魔法抵抗力というのは、文字通り敵の魔法に対し、どれだけ抵抗できる力があるのかを表す言葉だ。この能力が高ければ高い程、魔法による肉体・精神的ダメージが軽減されるんだ」と説明してくれた。

 

 アレスの戦闘スタイルについては分からないけど、リィンは聖女と呼ばれる聖魔法の使い手、ユウは魔法も扱える剣士ね。そうなると……。

 

「私は行かなくていいのかしら?」

 

 今の私は魔法使いな訳ですし、戦力にはなると思うのだけれど。こんな事態を起こした張本人を倒したい気持ちもあるし。

 

「咲夜は魔法を扱う能力こそ高いが、魔法使いとして行う戦闘においては素人だからな。同じ理屈で魔法を扱えないミーシャも待機だ」

「分かったわ」

「ん、妥当だね。それについては異議無いけど……」

 

 何故だか歯切れの悪いミーシャ。どうしたのかしら?

 

「待って、アレスもここに残るべきよ。貴方は背負っているものが多すぎる。もし万が一の事があったら、この国は滅んでしまうわ!」

「私もユウに賛成。この大陸はアレスのカリスマで統一されたようなものだし、また90年前みたいに戦乱の世になったら困るよ」

 

 アレスの決定に異論を挟むユウ。ミーシャまでもが反対意見を述べるものの、アレスは首を振った。

 

「いいや、俺も出るぞ。サクヤは今も異郷の地で困っているんだ。放っておけるかよ」

 

 そう断言する彼の言葉には、強い意志が籠っていた。とても仲間想いなのね。

 

「やれやれ、こうなってしまったアレスは、意地でも意見を変えないからなぁ」

「アレス。指揮をお願いね」

「ああ。リィン、俺達のサポートを頼むぜ」

「お任せください」

 

 リィン、ユウ、ミーシャは笑顔を見せていて、彼女達の信頼関係が伺える。

 

「それではこれで一旦解散とする。各自準備を整えて、30分後に城門の前に再集合だ」

「了解」

 

 その言葉を皮切りに、皆が席を立つ。

 

「咲夜、私は一旦家に帰って装備を見直してくるね」

「分かったわ」

「私も武器を取ってこないといけませんね」

 

 ユウとリィンが退室していった。

 

「俺も装備を整えてくるか。咲夜。お前はこの城で自由に行動して構わないぞ」

 

 アレスはそれだけ言ってさっさと部屋を後にしていく。残ったのは私とミーシャのみとなった。

 

「彼のお言葉に甘えて、城内を見て回ろうかしら」

「私も付き合うよ」

 

 かくして私達も会議室から離れていった。

 

 

 

 1時間後、城内の観光を切り上げて城門の前に向かうと、既に全員が揃っていた。

 彼らの変化と言えば、まずユウは銀色に光る指輪を身に着けていることね。多分魔法の抵抗力を高めるようなマジックアイテムなのでしょうね。装飾品としても綺麗だわ。

 リィンは先端が星の形をした鈍い銀色の杖を持っているわ。心なしか神々しさを感じるわね。

 アレスは王冠とマントを脱ぎ、背中にベルトで固定された金色の鞘と剣を背負っている。言葉にするのが難しいけれど、背中の剣は強い存在感があるわね。そして彼の隣にはローブを被った二人の魔法使いが控えている。先程話していた魔界に繋がる入口を開く人達ね。

 

「準備は出来たか?」

「問題ないわ」

「大丈夫です」

「よし。スロイ、レノン。リューテス荒野に転移魔法陣を繋げろ。ここからだと、万一逆探知された時が大変だからな」

「「はっ!」」

 

 命令を受けたローブを被った魔法使い達が呪文を唱え始めると、私達の前にサクヤの屋敷の地下にあるものに似た魔法陣が出現する。アレスを先頭に私達がその魔法陣に乗ると、次の瞬間には景色は一変する。

 多くの人々と、所狭しと建つ民家が広がる街は一瞬で消えて、360度何処を見ても地平線の果てまで続く荒野が広がっていた。乾燥した空気と、照り付ける太陽は、生き物の痕跡がない不毛の土地を証明しているわね。

 

「スロイ、レノン。魔界への道を開け」

「「かしこまりました」」

 

 アレスの命令を受けて、ローブを被った魔法使い達は魔導書片手に詠唱を開始する。それを見守っている間、ユウが一枚の紙を持って私に話しかけてきた。

 

「咲夜。この紙にはマジックシールドという、対象とした人物の魔法抵抗力を一時的に高める魔法が記されているのよ。私達に使ってくれないかな?」

「分かったわ」

 

 私がユウに手を向けながら紙に書かれた呪文を唱えると、彼女の全身が透明な膜に包まれ、体内に吸収されていく。その現象に感心しつつ同じ魔法をリィンとアレスにも掛けていった。

 

「ありがとう、咲夜」

「助かりました」

「中身が変わっても、やはりサクヤだな」

「此方も作業が終了しました」

 

 ローブを被った魔法使いの言葉で注意を向けると、私達の手前の開けた空間に、人が通れるくらいの穴が空いていて、その先は暗闇に包まれていた。

 

「ご苦労だった。いざ、魔界へ突入するぞ!」

「皆、気を付けてね」

「任せなさい!」

「行ってきますね」

 

 そうして彼らは、空間の穴を抜けて行った。

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