咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
―― side ユウ ――
アレスを先頭に、私達は魔界に到着する。
夜のように暗い空の頂点には、闇のように暗い太陽が地上を照らしている。勿論今は真昼間だ。私達の世界と違い、魔界は基本的に一日中暗く、陰影の強さで、目視できる明るい場所と、目視できない暗い場所が区別されている。
魔界の空気も独特だ。梅雨時のような湿り気と、高山の頂上付近のような大気の薄さが混じりあったような感じで、普通に立っているだけでも息苦しさを感じる。場所によっては人間にとっては有毒な瘴気が充満していることもあるので、慣れていない人が魔界に行くと環境の変化についていけずに、体調を崩してしまう。100年前のレクラム大陸諸国が結成した連合軍による魔王城への遠征は、この点が引っ掛かり、失敗に終わってしまった。
ちなみに私は、アレスの依頼で定期的に魔界に潜入調査に入っているから平気だし、アレス、リィン、ミーシャ、サクヤも魔界の環境に適応するコツを掴んでいるので、異常は無いわ。
さて、現在私達はエレツィ・フィレッターの屋敷の門の入口に立っている。高い石壁に囲まれ、苔とツタが絡みついた錆びた鉄格子の門の奥には、西洋風の屋敷が堂々と建っている。周囲は森に囲まれていて、背後に続く一本の道は平野に繋がっている。この森に生えている木は、森に入った者の生命力を奪う力を持っているのだが、リィンの保護魔法によって私達には影響は無い。敵もまさか直接転移してくるとは思わなかったことでしょうね。
「……ここはいつ来ても変わらないですね」
空を見上げて、何処か懐かしそうに呟くリィン。
「久々の魔界だ。リィン、ユウ。体調に問題はないか?」
「私は大丈夫です」
「慣れてるからね」
「ならよし。さっさと終わらせて、こんな辛気臭い場所から退散するぞ」
「ええ」
アレスが歩いていき、門に手を掛けて力を込めると、重たい音を立てながら開いていく。先導する彼の後ろに私とリィンが並んで歩き、周囲を警戒しながら進んでいく。
雑草が伸び放題の荒れた庭を抜けて玄関に辿り着くと、彼は慎重に扉を開けて中の様子を伺う。
「……罠は無さそうだな」
アレスは完全に扉を開放して、私達も後に続いていく。
ゴシック調の内装のエントランスは魔法灯によって明るく照らされている。壁には黒い幕が掛けられていて、正面にはエレツィ・フィレッターを模した趣味の悪い銅像が堂々と建っている。その両隣には二つの扉があって、ここから先に進めそうだ。
「どうする?」
「まずは左から行くか」
私達は左側の扉の前まで歩いていき、アレスは扉を開く。その先は廊下に繋がっていて、壁沿いに四枚の扉が等間隔に置かれていた。反対側の窓の外には荒れ放題の庭が映っている。
一体の人型ゴーレム─人形の骨子を剥き出しにしたような無骨な外観─が箒を持って、掃き掃除を行っている。私達は警戒するものの、人型ゴーレムは此方に目もくれずに、自分の仕事に集中している。なるほど、確かに脅威にはならなさそうね。
「アレス。魔法罠に気をつけて」
「分かっている」
ここは敵の本拠地。扉に触れた瞬間に爆発するような仕掛けがあるかもしれない。物理的な罠なら、ミーシャが探知と解除が得意で、サクヤは魔法罠の探知と解除スキルを持っている。私達は得意分野が異なるけど、それを補うような形でパーティーを組んでいたのだ。
アレスは慎重な手つきで一番近い扉を開ける。幸いなことに何も仕掛けられていないようね。そこは応接間だったようで、高級なソファとテーブルが目立つ。しばらく使われていなさそうな雰囲気があるけど、さっきの人型ゴーレムが維持管理しているのか、目立った汚れは無かった。残念ながらここは外れね。
それから一度廊下に戻り、この廊下にある全ての扉の中を確認していくけど、全て空振りに終わってしまう。この廊下の突き当たりは壁なので、エントランスに戻っていく。
それから私達は屋敷の部屋という部屋を全て探索していき、遂に最後の部屋。3階の一番右奥にある、黒色の扉の前までやってきた。
「とうとうここまで来たね」
「ここが最後の部屋か。奴はここにいる筈だ」
「なんだかここまでトントン拍子で進んでいるのは気味が悪いわね」
魔法使いの屋敷とは思えない程に、目立った仕掛けも無く、屋敷内で活動する人型ゴーレム達が私達に牙を剥くことも無かった。最初から家事雑用をさせるために作ったかのようね。
「開けるぞ」
武器を構えた私とリィンは頷き、アレスが扉を開く。生活感がある部屋の中央にはうつ伏せで倒れている男がいた。アレスが剣の柄を片手に掴みながら、慎重に近づいていき、その男をひっくり返して顔を確認する。その人物は、エレツィ・フィレッター本人で、安らかな顔で口から一筋の血を流していた。
すかさず脈を確認したアレスは、ポツリと呟いた。
「……こいつはもう死んでいるな」
短くてすみません