咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
前回次の話が最終回と言いましたが、一つ投稿しなければいけない話がありましたので最終回は次の話になります。
この話は『第64話 9日目 sideサクヤ 召喚魔法』『第65話 9日目 sideサクヤ エピローグ 帰還』の咲夜側の話となります。
――side 咲夜――
『それは本当ですか!?』
空間の歪みに映るメイドの“私”は、甚く驚いているわね。なんだか、自分自身が驚いている姿を客観的に見るのは不思議な気分だわ。
『ええ。貴女のお仲間達の協力があり、全貌が掴めました』
『!! アルカディア様。その話を、是非私の協力者の方々にもお聞かせ願えますでしょうか?』
『協力者とは、今貴女の周りにいる少女達ですか?』
アルカディア神がカメラのズームアウトのように、空間の歪みに映る範囲を縮小すると、なんとパチュリー様やアリスに魔理沙、そして霊夢の姿が映っているわ。魔法使い組はともかく、霊夢まで大図書館に来るなんて珍しいわね。一体何を話しているのかしら?
『はい。彼女達は信用できる人間ですし、此方の世界に飛ばされてから私は多く助けられてきました』
『分かりました』
アルカディア神が頷くと、空間の歪みに映る霊夢達に一人ずつ指を触れた後に語り掛ける。すると彼女達に変化が生じたわ。
『こんばんは、私の声が聞こえますか?』
『な、なんだ?』
『え、誰?』
『私じゃないわよ?』
『この声……テレパシーね」
大図書館の入口に向かっていた魔理沙は立ち止まって辺りを見回して、霊夢とアリスは不思議そうに顔を見合わせていて、パチュリー様は空間の歪みが見えているのではないかと思えてしまうように、此方を見上げている。
『驚かせてしまったようですね。私はサクヤが住まう世界の神、アルカディアです』
『神様ですって!?』
『急にビッグな存在がやってきたな』
『今日は二人のイザヨイサクヤの異常と原因、そして解決策をお伝えしに来ました――』
ざわつく霊夢達に、アルカディア神は今日の出来事を話していく。その間に魔法図書館におつかいに出かけてきたスロイとレノンが帰ってきて、アレスに召喚魔法の魔導書を渡していた。彼らは顕現したアルカディア神を大いに畏れながらも、深々と頭を下げて大聖堂を退出していった。
そしてアレスから召喚魔法の魔導書を無言で差し出されたので受け取り、パラパラとページをめくっていく。話に集中しないのは失礼にあたるけれど、既に聞いた話なので許して貰いたい所ね。
書物の中身は難解な用語が書かれていたけれど、不思議と理解できてしまう。前後矛盾しているように思えるけれど、恐らく“身体で覚えている”のでしょうね。サクヤは根っからの魔法使いだわ。
かくして私が召喚魔法の魔導書を読み進めている間にも、アルカディア神の話は進んでいき、やがて語り終える。
『そんなことがあったのですね……!』
『二人のイザヨイサクヤを正常に戻すには、幻想郷側の協力が不可欠です』
『博麗大結界の一部に通り道を作るってことか?』
『そんなことできるの?』
魔理沙とアリスが疑問を呈すと、霊夢は首を振った。
『残念だけど、それは無理な話ね。個人的な事情の為に、幻想郷全体が危機に晒される事になるのは八雲紫が許さないし、私も博麗の巫女としての立場上、賛成できないわ』
『そうですか……。では別の方法を考える必要が――』
『だけどね、幻想郷の外にサクヤを案内することは出来るわ。その召喚魔法とやらは、幻想郷の中でなければ駄目なのかしら?』
『不可能ではありません。しかし幻想郷の外の世界はマナが薄いので、幻想郷側の魔法使いの皆さんにも、協力してもらう必要があります。よろしいですか?』
『私はやるぜ! なんだか面白そうだしな!』
アルカディア神の要請に、魔理沙は親指を立てて。
『私も賛成よ』
アリスは頷いてて。
『私も協力するのはやぶさかではないわ。異世界の魔法を見るいい機会になりそうね』
更にパチュリー様までもやる気を見せている。すんなりと話が進んで有難いわ。三人とも魔法には目が無いですからね。
『分かりました。では召喚魔法の実行日時についでですが――』
『今すぐやろうぜ!』
そんな魔理沙の提案にすかさず霊夢がツッコミを入れる。
『今すぐって、あんたねぇ。あっちの都合も考えなさいよ?』
『その事なら問題ありません。たった今、こちら側の準備は終わりました。後は、サクヤが幻想郷の外に出れば完了します』
「!?」
思わずアルカディア神の顔を見ると、彼女は『もう既に召喚魔法を理解できているのでしょう?』と言わんばかりの視線を送ってきた。確かに概要は大体把握したけれど、どうして分かったのかしら?
そんな疑問を抱く間にも、話は進んでいく。
『それなら、すぐにでも行きましょう。皆さん、どうか私に少しだけ時間をいただけませんか?』
メイドの私が霊夢達に頭を下げる。
『しょうがないわね。いいわよ、付き合ってあげる』
『これも咲夜を取り戻す為よ』
『ははっ、腕が鳴るぜ」
『少しばかり楽しみだわ』
皆の同意を得られたようで、メイドの私はほっとしているわね。どうやらサクヤは私に代わって上手くやっていたみたいね。
『幻想郷の外ってどうやって出るの?』
『博麗神社の森に出入り口があるのよ。だからまずは博麗神社に来て頂戴』
『分かったわ』
霊夢の言葉で、サクヤ達は移動を始める。どうやらこの映像はサクヤが起点になっているみたいで、サクヤに合わせて映像もまた動いているわ。そうして大図書館を出て、階段を上がり廊下に出ると、なんとお嬢様がいらっしゃったわ!
(お嬢様……!)
随分と久しぶりにお姿を拝見した気がするわ。あぁ、早くお嬢様の元にはせ参じたいわね。
『あら、レミィじゃない? どうしたの?』
パチュリー様が話しかけると、お嬢様はクスリと微笑まれた。
『顔を見に来ただけだよパチェ。――サクヤ、もう行くんだろ?』
『はい。レミリア様。短い間ですが、お世話になりました』
メイドの私が深々と頭を下げると、お嬢様は満足そうに頷いて『ふふっ、次は真っ当な方法で紅魔館に来なさい。歓迎してあげるわ』と廊下の奥に立ち去られました。
(お嬢様は、サクヤも気に入られたのかしら?)
まるでお嬢様を盗られたような複雑な気分だけど、彼女は異世界の私のようなので、結局私への評価ということになるのかしら? ……考えてて頭が痛くなってくるわね。
それからサクヤ達一行は何事も無く博麗神社へ到着するのだけれど、なんと境内には紫が待ち構えていたわ。
「誰だ?」
「綺麗な人ね」
「彼女は八雲紫。幻想郷の管理者ですよ」
「そうなの!?」
そんな話をしている間にも、空間の歪み内の話が進んでいく。
『紫!? どうしてここに?』
『サクヤが帰るのでしょう? 私も見届けさせてもらうわ』
『何処で話を聞いていたのかしら? とんだ地獄耳ね』
パチュリー様が睨みつけるも、紫は全然気にしていないわね。一方アルカディア神は、空間の歪みに映る紫の頭に触れてから彼女に語りかけた。
『貴女が幻想郷の管理者ですね? 私はアルカディア。アルカディア世界の創造神です』
『八雲紫よ。勝手に人の精神に入り込んでくるなんて、失礼では無くて?』
『私の支配下に無い世界においては、テレパシーを送るのが精いっぱいなのです』
アルカディア神の申し訳なさそうな声を聴いた紫は、少し考えるそぶりを見せてから答えた。
『……ふぅん、そう。咲夜が帰ったらもう二度と干渉しないでもらえるかしら?』
『勿論です。貴女方の世界は、私達にとっても刺激が大きすぎますから』
交渉が決裂しないか心配だったけれど、どうにかまとまったみたいね。それからサクヤ達一行は、博麗神社傍の森の中に入っていき、やがて開けた場所に出る。どうやら外の世界の博麗神社みたいだけれど、なんだかボロボロね。見てて悲しくなってくるわ。
物珍しそうに辺りを見渡す彼女達。ひび割れた鳥居の奥には、煌々と明かりが灯る高層ビルが建ち並んでいて、それを見たユウが声を上げた。
「! やっぱり間違いないわ! 私が生まれた世界に似ている!」
「本当なの、ユウ?」
「流石に場所までは特定できないけど、きっとそうよ! 私の勘が告げているわ! リィン、サクヤの召喚が上手く行ったら、私も咲夜と一緒に帰るわ」
「分かりました。ユウはずっと元の世界に帰る手段を探していましたからね。私達は止めませんよ。咲夜、召喚魔法の準備はできていますか?」
「ええ。この呪文を唱えればいいのよね?」
魔導書のページを開いて見せたところ、リィンから「それで合ってますよ」とお墨付きを貰ったので、後は最適なタイミングを待つだけね。
『到着しました。アルカディア様、これからどうすればいいのでしょうか?』
『魔力が殆ど存在しない場所に、魔法を使用するのは困難です。そこで魔法使いの皆さんには、自身の魔力を外に放出して、此方の召喚魔法を受け入れる土地を作ってもらいたいのです。一度でも成功すれば、此方から魔力を供給し続ける事で、少しの間維持することができますから』
『要は私達に魔力タンクになれってことかしら?』
『乱暴な言い方になりますが、そういう事になります。無理しない程度で構いませんので、お願いできますか?』
『まあ構わないわよ。それで咲夜が帰れるのならね』
『よおっし、やるぜぇ!』
腕まくりをしながら威勢よく返事した魔理沙が魔力を漏らし、続いてパチュリー様とアリスも静かに魔力の放出を始める。きっと元の身体の私では分からなかったでしょうね。
『くっ、やっぱり外の世界だと厳しいわね……!』
『まだまだ、私の魔力はこんなもんじゃないぜ!』
『ちょっとだけ、本気を出してあげるわ!』
パチュリー様と魔理沙は苦し気な表情を浮かべていて、アリスは気丈に振舞っているように見えて脂汗を流しているわ。彼女達がここまで追い詰められるなんて見たことが無いわ。外の世界って魔法使い達にとっては住みにくいのね。
だけど彼女達の努力の甲斐もあって、外の世界の博麗神社の境内に、薄っすらと霧が生まれているわ。原理はよく分からないけれど、なんだか魔法の森の環境に近づいている気がするわ。
『充分です。さあ、召喚魔法を使いなさい!』
『はい!』
アルカディア神の合図と共に、私は魔導書片手に呪文を唱えていく。自分でも意外なほどにすらすらと紡がれた言葉は、一つの魔法として形になり、私の手前に六芒星と三日月模様の魔法陣が現れたわ。
『成功ですね』
『そう、良かったわ』
サクヤとパチュリー様の反応からして、どうやら成功したみたいね。後はサクヤが召喚されるかどうか……!
私は固唾を飲んで魔法陣と空間の歪みを見守っていく。サクヤは召喚魔法陣の前に立って、霊夢達に向かって頭を下げる。
『皆さん、今までご協力ありがとうございました。貴女達の事は生涯忘れません』
『もうこっちの世界に来るんじゃないわよ?』
『じゃあなサクヤ。お前の魔法は面白かったぜ』
『向こうでも頑張りなさい』
『さようなら、また会えたら嬉しいけれど、もう会うことはないでしょうね』
そしてサクヤが召喚魔法陣に足を踏み入れた瞬間、空間の歪みに映る外の世界の博麗神社境内と、目の前の召喚魔法陣が光に包まれる。この場にいる皆も視線を注いでるし、まさに緊張の一瞬ね……!
やがて光が収まると、そこには姿勢を正した“私”が立っていたわ!
「おおっ、成功したぞ!」
思わず叫ぶアレス。
「おかえりサクヤ!」
「良かったぁ……! また失敗するかと思っちゃったよ」
サクヤに向かって飛び込むユウとミーシャ。
「サクヤ。おかえりなさい!」
普段の敬語が抜けてしまうほど、興奮しているリィン。
「みんな、ただいま!」
サクヤもまた弾けるような笑顔を浮かべているわね。ああ、上手く行って良かったわ。
「サクヤ、怪我はない? 紅魔館での生活は大丈夫だった?」
「紅魔館の方達が優しくしてくれたから何も問題は無かったわ」
「ユウも心配かけてごめんね」
「もう会えないかと思ってたよ~。本当に良かった……!」
「サクヤ。お元気そうで何よりです。良く無事に帰ってきましたね」
「リィンこそ、忙しい中咲夜の為に協力してくれてありがとう」
「ふふ、私達の間に遠慮する必要はないでしょう?」
「ようサクヤ。異世界の旅はどうだったんだ?」
「アレス。貴方にも迷惑を掛けてしまったわね」
「なあに、気にするな。俺としても私情で動いたわけじゃない。お前程の魔法使いを失うのは、ロンガディア王国にとって大きな損失だからな」
サクヤとその仲間達の再会を見守っていると、彼女はユウとミーシャから離れて私の前に歩いてきたわ。
「こんばんは。貴女が紅魔館のメイド長、十六夜咲夜ね?」
「ええ。そう言う貴女は、魔法使いのイザヨイサクヤね?」
「そうよ」
目の前に立つ私は、写真の中から飛び出してきたかのように私そっくりで、なんだか不思議な感覚だわ。あら? でもよくよく考えたら目の前の私が本来の私の身体なのだから、何もおかしなことは無いわね?
「こうして並んでみると本当に鏡写しだわ」
「今は辛うじて見分けがついているけど、全く同じ服装だったら全然分からないねぇ」
ユウとミーシャの言う通りだわ。双子よりもそっくりですものね。
「今回は私の因縁に貴女を巻き込んでしまったみたいね。まさかあの男が生きていたとは思わなかったのよ。改めて謝罪するわ」
「謝罪は要らないわ。貴女も被害者なんでしょ?」
「それでも貴女には迷惑を掛けてしまったわ。本当にごめんなさい」
そう言われてもねぇ。確かに入れ替わってしまったのには驚いたけれど、ユウ達が良くしてくれたから、あまり不便さは感じなかったわ。それに解決に向けて頑張ったのは貴女やユウ達じゃない? 私はただ待っているだけだったわ。
「紅魔館では、レミリアお嬢様やパチュリーさんにお世話になったわ。皆、貴女を大切に思っていました。貴女、良い人間関係を築いているわね」
「ありがとう。貴女もいい友人に恵まれているのね。皆、貴女を心配していたわ」
「ええ。皆かけがえのない仲間だわ」
サクヤは清々しい表情で頷いていて、彼女の居場所はここなんだなと心から理解したわ。お嬢様に仕えるメイドの私、魔法使いとして自由に生きる私、世界が違えば生き方も全然違ってくるのね。私は今の生き方を変えるつもりは無いけれど、面白いわね。
「女神様も、私の為にご協力ありがとうございました」
「この世界を守る為ですから」
アルカディア神に深々と頭を下げるサクヤと一緒に、私も頭を下げたわ。彼女が居なければ、まず間違いなく解決しなかったでしょうね。
「さあ、パチュリーさん達の魔力が切れてしまう前に早く戻っちゃいましょう。リィン。魔法の準備は出来ている?」
「そう言うと思ってました。準備万端ですよ」
私達の会話の間に、リィンは準備を済ませていたのね。アルカディア神の像の前に二つの魔法陣が現れていたわ。私とサクヤは互いに顔を見合わせて頷き、魔法陣の上に乗って向かい合う。上手く行くといいのだけれど。
「それでは、いきますよ!」
リィンの宣言の後、ふっと身体が浮き上がるような感覚が生まれて、意識が飛んでしまったわ。次に気付いた時には、魔法使いの“私”が立っていた。すぐに自分の服装を確認するべく視線を落とすと、着慣れたメイド服が飛び込んでくる。
「戻ったわ!」
「本当に、戻ってきたのね……!」
両手を開けたり閉じたりしながら、感覚を確かめていると、不意に地震のような揺れと共に重苦しい圧力がかかる。大聖堂全体がギシギシと軋み、まるで水の中に居るような息苦しさまで感じるわ。
「!?」
慌てて顔を上げると、狂気的な笑みを浮かべたサクヤが甚大な魔力を放出していたわ。ただの魔力でこんなことになってしまうの!?
「サクヤ! 魔力を出し過ぎ! 抑えて、抑えて!」
ミーシャが必死に叫ぶと、サクヤは我に返ったのか瞬時に魔力の放出を止めて、元通りになったわ。これがサクヤの魔法使いとしての実力なのかしら? 末恐ろしいわね。
「咲夜。私が通って来た魔法陣に乗れば、幻想郷の境目にある博麗神社に帰れるわ。早く顔を見せてあげなさい。パチュリーさん達が待っているわ」
「分かったわ」
私は召喚魔法陣の前に歩いていき、手前で立ち止まってから振り返って、深々とお辞儀をする。
「皆さま、お世話になりました。この日までの事は忘れません」
運が悪ければ、見ず知らずの世界に放り出されていたかもしれない事を考えると、世界を跨いで入れ替わったなんて突拍子もない出来事を信じてくれた彼女達には、本当に感謝しかないわ。
「元気でね~咲夜」
「もうこっちの世界に迷い込むんじゃないぜ」
「貴女の延命息災を祈っています」
「頑張ってね!」
皆さんから別れの言葉を貰い、そしてサクヤと目が合った。
「サヨナラ咲夜。元の世界でも頑張りなさい」
「貴女もね」
さようならアルカディア。ここで過ごした時間は悪くは無かったけれどもう来ることは無いでしょう。私にとっては、お嬢様が第一ですから。
私は魔法陣に足を踏み入れて――次の瞬間には、豪華な大聖堂ではなく月明かりの夜空の下に移動する。そこには笑顔の霊夢達が待っていた。