咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
4日目 ――side 咲夜――
朝起きた私はゆっくりとベッドから起き上がり、枕元に置いてあった手鏡を顔の前まで持ってくる。そこには十数年間毎日見ている自分の顔があった。
「どうやら戻ってこれたみたいね」
そう呟き私は周囲を見渡す。
今私が起きた部屋は、紅魔館にある私、十六夜咲夜の自室。
部屋の中には必要最低限の家具が置いてあり、クローゼットには同じメイド服が何着もあり、別の戸棚には普段使ってるナイフも綺麗に飾ってある。
私はベッドから起き上がった後机に向かい、今日見た夢の内容を時間を止めて手帳に書き始めた。
やがて手帳に夢の内容を書き終えた私は、時間停止を解除してから虚空に向かって呟く。
「イザヨイ・サクヤ。貴女の言葉はちゃんと届いていました。私、十六夜咲夜は貴女の世界に確かに存在して、一緒に貴女と行動してましたよ」
きっと今も私の事を【サクヤ】は見ているのだろう。彼女の事を更に知った影響か、不思議と嫌な感覚は無い。
「……さて! 時間も押していますし、仕事の準備を始めましょうか!」と言って席を立ち、着替え始める事にした。
【サクヤ】に私の仕事を改めて見てもらって感想を聞いてみたい。そんな気持ちを抱きつつ、支度を済ませた私は部屋から飛び出した。
意気揚々とお嬢様の部屋に着き、いつものようにノックをしてから「失礼します」と中に入る。
あら、珍しくお嬢様が起きていらっしゃるわね。お嬢様は天蓋付きのベッドに座って私をじっと見つめている。寝間着ではなく普段着に着替えていて、今回は私の手助けは必要無さそうですわね。
「お嬢様、本日はご起床が早いですね。それでしたら、直ちに朝食の用意をさせていただきます」
「ねえ、咲夜」
お嬢様に呼び止められた私はすぐに振り返って「はい、なんでしょうか?」と笑顔で訊ねる。
「……咲夜はずっと咲夜のままよね? 急にどこかいなくなったりしないわよね?」
「…………」
私は一瞬質問の意味が分からず、押し黙ってしまいましたが、すぐに我に返り、お嬢様の前へと向き直ってから跪きます。
「私は命のある限りお嬢様に尽くします。あの日の誓いを、私は1日たりとも忘れたことはございません。私のこの身は全てお嬢様の物なのですから」
その答えを聞いたお嬢様は満足そうに頷かれた。
「うん、そうよね。変な事聞いて悪かったわね」
私は部屋を後にするお嬢様を跪いたまま見送ります。
(お嬢様。急にこんな質問をするなんて、何かあったのでしょうか?)
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(私の中に入ってたのは確定、と。これで一歩前進ね)
咲夜の部屋の中で彼女が発した「イザヨイ・サクヤ。貴女の言葉はちゃんと届いていました。私、十六夜咲夜は貴女の世界に確かに存在して、一緒に貴女と行動してましたよ」という言葉を聞いた私は、予測通りの展開となっていた事で大いに喜んでいた。
《十六夜咲夜。私と同姓同名の少女。もしかしたら、私と同じ東方の地出身なのかしら)
東方の地は、王都から遠く離れた僻地とあって、独自の文化が形成されている。王都が洋風文化だとするならば、東方の地は和風文化だ。
(せめてこの世界の街を見れればいいのだけれど)
そんな詮無き事を考えていた私だったが、優先して考えるべきことではないだろうと思い、思考を切り替える。
(――それにしても、十六夜咲夜の部屋はなんというか、女の子らしくないわね? あの戸棚全部にナイフが飾ってあるなんて、ちょっともったいないわね。クローゼットにもメイド服しか入ってないようだったし、もう少しお洒落を覚えたほうがいいのではないかしら》
自画自賛になってしまうけれど、私自身容姿に恵まれている自覚はある。私自身何度も交際を申し込まれては全て断ってきたので、こっちの世界の美的価値観が同じなら、きっと多くの男性から想いを寄せられているのでしょうね。
まあでも、この館は女性しか住んでいないみたいですし、出会う暇も無いくらいに毎日馬車馬のように働いている様子から見て、独身なのでしょうけど。
(――まあ、いいわ。彼女には彼女の人生があるだろうし。さて、テレパスを使ってみましょうか)
前回はうっかり忘れていたけれど、実は私とユウの間には何があってもすぐに連絡が取れるように、テレパスを繋げてある。
私は早速それを試して、ユウと連絡を取ろうとしたけど……。
(うーん、繋がる気配がないわね……この憑依した状態じゃダメなのかしら?)
テレパスは失敗に終わってしまい、うんともすんとも言わなかった。
失敗という事で私は少し落ち込んでしまっていたが、彼女が勢いよく部屋から出たことで私は気持ちを切り替えることにした。
(よーし、謎の解明のためにも今日もしっかり観察しましょう!)
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お嬢様に再度誓いを立てた私は、午前中の間にやる必要がある仕事を時を止めて手早く終わらせて、急ぎ足でパチュリー様がいる大図書館へ向かっていく。
パチュリー様はいつもの場所で読書に勤しんでおられたので、今朝書いた手帳を見せて、夢の出来事を詳しく話す。パチュリー様は強い関心を抱かれたようで。
「……なるほど、咲夜の夢の中に出てきた【サクヤ】も同じ状況になっていて、昨日もこっちに来て私達を観察していたのね」
「そのようですね。サクヤは私達よりも状況を詳しく知っているようでした」
「今も貴女の中にいるかもしれないのね?」
「ええ、恐らくは」
するとパチュリー様は急に立ちあがり、「ちょっと失礼するわね」と一言断りを入れてから右手を伸ばし、私の左胸を包み込むように当てました。
「ぱ、パチュリー様!? 急に何を?」
普段とは違う行動に、ドキドキしながら訊ねましたが、パチュリー様はそんな私の言葉に気付いていないようで、しばらく手を当てながら考え続けています。なんだか、くすぐったいですわね。
「ふむふむ……、確かに咲夜以外にも中に何かいるわね」
「えっ! お分かりになるのですか?」
「ぼんやりと、咲夜以外の生命反応を感じるわ」
私の胸から手を放したパチュリー様は、深刻な顔で「これは少しまずいことになりそうね……」と言った。
「まずいこと……ですか?」
私がおずおずと言った様子でそう尋ねると、パチュリー様は真剣な顔でこう言った。
「ええ、一刻も早く本を取り返しに行かないと、私の考えが正しければとんでもないことになるわ」
冗談を言っているような雰囲気ではないパチュリー様を見た私は、ゴクリと唾を飲み込んでいた。
「――とにかく急いで本を取り返してきてちょうだい! 私は引き続き研究に戻るわ」
パチュリー様は再び着席して、机の上に置いてあった本をパラパラとめくり始めた。
「かしこまりました! 急いで取り返して参ります!」
時を止めた私は駆け足で大図書館を出ると、廊下の窓を開けて外へと飛び立っていく。