咲夜とサクヤの入れ替わり物語 作:RtYB9S
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(すごく目まぐるしいわね……)
現在、私は乗り物酔いに似たような気持ち悪さを感じていた。
咲夜がこの館の仕事をしている様子を、咲夜と同じ視点で観察しているのだけれど、目の前の光景が飛び飛びになって、まるでコマがバラバラなパラパラマンガを読んでいるような違和感を覚える。
(あら?)
そんな折、視界の片隅に一瞬だけ壁掛け時計が映る。ちなみにこの世界の時計は、私の世界とは使用されている文字が異なるものの、時間の法則については似ているとこれまでの観察で判断しているわ。
何故壁掛け時計が気になったのか? それは何度か咲夜の視界の映し出される時刻が、北北西の方角を刺したまま動いていなかった事。
(え? まだそんな時間なの?)
数十と存在する部屋の掃除に、屋敷全員分の炊事と洗濯を行いつつも、時計の針が2メモリしか動いていない事実に私は驚いた。
一人でこなすにはあまりにも多く、丸一日費やしても終わるか怪しい量の家事を、たった2時間で終わるとは思えないし、そもそもこの館は相当広い。私の実家や別荘はおろか、王城よりも広大な感じがするのよね。
(……もしかしてこれは【咲夜】の能力かしら?)
咲夜の能力――そう考えると全ての疑問に辻褄があう。
今まで何度も見てきた視点の飛んだ光景、更に常人ならざる速度の仕事ぶり。恐らく彼女の能力は……。
(信じられない事だけれど、時間停止能力なのかしらねえ)
時間加速なども思いついたけれど、それなら私の見えてる風景がもっと早く動いてないとおかしいので、すぐにこの発想はすぐ取り消された。
(時間停止とは、これはまたすごい能力を持ってるわね――。私ですら時間系統の魔法は完全習得できていないのに)
私が使える魔法は、精々肉体の瞬発力を高める程度で、時間魔法というのはそれほど難しい系統なのよね。
《咲夜は私とは違って純粋な人間なのよね……。そんな彼女は一体どれだけ時間停止を行使してきたのかしら? 絶対に現実の経過時間と肉体時間にずれが生じているわよね》
アルカディア神の祝福を受けて後天的に長寿になった私と違い、人間の寿命は精々七、八十年。私には咲夜が時間停止能力を気兼ねなく行使する事に喜べなかった。
(きっと彼女は早逝するのでしょうね。今が一番若くて綺麗な時期なのにもったいないわ)
そんな感想を抱いているうちに、どんどんとネガティブな考えになりそうだったので、私は思考を打ち切る。
(――やめましょう。これもまた彼女の人生。彼女自身の選択を尊重するべきね。事情はまた後で訊くことにしましょう)
(それにしても、この時間停止能力は一体どんな仕組みなのかしらね? 時間停止の魔法なのか、それとも彼女の固有能力なのかしら、あるいは――)
色々考察しているうちに、咲夜は大図書館に足を運び、パチュリーに夢の内容を語っていく。
やがてパチュリーが咲夜の胸に手を当てたとき、私の中に温かい物が流れ込んでくるような感覚があった。
(これは……)
ある程度警戒しながら様子を見ていると、パチュリーは私が咲夜の中に居る事を察知したみたい。でも私の心の声までは届いていないようね。
それからパチュリーは、このままではとんでもないことになると警告を発し、咲夜に急いで盗られた本の奪還をするように命じ、彼女はこの館を飛び立った。
パチュリー言う『とんでもないこと』に見当はついてたけれど、自分から能動的に動けない以上私にはどうすることもできない。咲夜の観察を続けましょう。
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紅魔館を出発した私は、魔法の森に向かって地面より遥か高い空を飛んでいく。やがて魔理沙の家の上空まで来た私は、ゆっくりと玄関の前に降り立った。
「相変わらずこの森は空気が悪いわねえ」
常に瘴気が出ているこの森は、人間が住むのには向かない環境なので、こんなところに住むのは魔法使いか、よっぽどの変人くらいでしょうね。
私が玄関の扉を軽くノックすると、家の中からドタドタとした物音が聞こえ、扉が開く。
「なんだ、咲夜じゃないか。私に何か用か?」
飄々としている魔理沙に私は勧告する、
「一昨日貴女が盗んでいった本を取り返しに来たのよ。パチュリー様が非常に困っていらっしゃるわ」
「盗んだとは失敬だな。死ぬまで借りるだけだぜ」
「それを世間では盗むというのよ」更に私は「今日はいつもと違って切迫した事態となっているのよ。もし魔理沙が拒むというのなら、実力行使に出てもいいのよ?」とポケットからスペルカードを取り出す。
魔理沙はニヤリと笑ってから「おいおい、ずいぶん好戦的だな。そういうのは嫌いじゃないぜ!」と言ってから家を飛び出し、私から一定の距離を放った場所に降り立つと、魔理沙はスペルカードを取り出して「さあ、弾幕ごっこの始まりだぜ!」と宣言。
さあ、一昨日のリベンジマッチと行きましょうか!
「私の勝ちだぜ!」
「……はあ」
また私は負けてしまった。前回の反省を生かして積極的に攻めたのだけれど、その行動を読まれ逆にカウンター攻撃を受けて被弾してしまった。私、弾幕ごっこの才能無いのかしら……?
「今日は攻めたようだが、それだけじゃまだまだ甘いぜ。ほかにも――」
弾幕ごっこに疲れて地べたに座り込んでいる私に、魔理沙が色々言ってきたけれど、私の耳にはほとんど入ってこなかった。今の私には、本を取り返す方が重要なのだから。
(弾幕ごっこに勝てれば良かったのだけれど、仕方が無いわ。ルール違反になるけど、時間を止めて持ち帰りましょう)
「――って事なんだが。おい! 私の話を聞いてるか?」
「聞いてるわよ~、キノコの話でしょ?」
「全然話を聞いてないじゃないか! 弾幕ごっこの話だ!」と叫んだ後、「……お前最近動きがおかしいぞ? 一体何があったんだ? 前はもっとキレがあったんだが」と私の身を案じてきた。
私はそれを邪険にするように「別に魔理沙には関係ないでしょ。――それよりも、奥の手を使うことにしますわ」と言い放ちながら時間停止。停止した世界で完全に動きが止めった魔理沙を横目に、魔理沙の家に入っていった。
さっさと指定された本を持ち帰ろうと思っていたのだけれど、そこには思わぬ光景が広がっていた。
「何よこれ!?」
魔理沙の自宅は足の踏み場がないくらいに散らかっていた。
「この散らかりようでは、目的の本を探すのに結構時間が掛かりそうだわ……」
私は深いため息を吐きながら、ゴミの山から本を探す作業に取り掛かる。
「見つからないわね……」
時間が止まった世界の中で、体感時間的に約2時間、家の中を探し回っていたのだけれど、ありとあらゆる物が雑多にありすぎて目的の物が全然見つからない。
「はぁ……」
私は目の前に積みあがっているガラクタの山を見て、今日何度目かも分からない溜息を吐く。
本棚を探せばすぐに見つかるでしょうと思っていたけれど、その考えは甘かったわ。なんで本棚なのに本以外の物が詰まっているのよ!?
(少し休憩しましょう……)
作業効率が著しく悪化している事を自覚した私は、一旦探し物を取りやめ、1階のリビングに置かれているソファーに座って休むことにした。
普段から使っているのか、綺麗な状態に保たれていて、身体が沈み込むように柔らかいわ。背もたれにゆっくりと体を預けた途端、急に瞼が重くなっていた。
どうやら先ほどの弾幕ごっこに加えて、家中を探し回っていた事もあり、私の思った以上に疲労が溜まっていたみたいね。
(いけない、このままでは……)
私はなんとか抵抗しようとしたけれど、睡魔に抗えずに、そのまま意識を手放してしまった。
「……!?」
私は飛び起きた。どうやらソファーに倒れこむように眠っていたらしい。
「お~やっと起きたか、勝手に人の家で眠りこけるなんて中々肝が据わってるな」
振り返ると、ソファーの背もたれに肘を預けるように魔理沙が立っていた。
「いつからそこに? 私は時間を止めていたはずなのだけれど」
「お前がいつからそこにいるのかは知らないが、私の体感時間では3時間ほど前からこの家にいたぜ。最初はお前が勝手に家に入ってることに怒ろうと思ったが、お前の寝顔が中々可愛かったからな。そんな気も失せたよ」
「なっ!?」
よりにもよって寝てる姿をバッチリ魔理沙に見られるなんて! 大きな失態だわ!
「そんなに照れることないだろ。レアなものを見させてもらったぜ」とニヤニヤする魔理沙に反論しようとしたけれど、これ以上は水掛け論になると判断する。
「……はあ、もういいわ。それよりもちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
だけど魔理沙は私に向かって手を突き出した後「その前に私の質問に答えてくれ。どうして私の家に勝手に入った? 何をするつもりだったんだ?」と訝しげな表情で私に問いかけて来たので、私は「言ったでしょう? 本を取り返すのが目的だってね。本当は時を止めて持って行こうと思ったのだけれど、あまりに散らかし過ぎてて結局見つからなかったわ。もう少し片付けたらどうなの?」
「私はどこに何があるか、しっかり配置を覚えているから大丈夫なのだぜ」と何処かずれた回答の後、私が不法侵入した事を怒ろうともせず、「――お前が取り返そうとした本は一体なんだ? 今までこんな強硬姿勢に出たことはなかっただろう? 切迫した事態とはなんだ?」と此方を探るように問いかけてきた。
「私も詳細は知らないわ。私はパチュリー様から急いで取り返してほしい、と命令を受けただけよ」
「ふ~ん……」
魔理沙は両腕を組んで何かを考えるようにウロウロしていたけれど、やがて私の前で立ち止まる。
「いいぜ」
「へ?」
「だから本を返してもいいって言ってるじゃないか」
「どうして?」
彼女の意外な言葉に私は思わず聞き返してしまった。
「お前に泥棒まがいのことまでさせるほどパチュリーが真剣なんだとしたら、返さないと悪いしな。持ってきてやるから本のタイトルを教えてくれ」
その言葉に、最初に泥棒したのは魔理沙じゃないのか、と言いたかったが、これでヘソを曲げられても困るので私は出かかった言葉を飲み込み、本のタイトルを伝える。
「なんだ、一昨日借りた本なんだな。それならすぐに見つかるからそこで待っててくれ」と言い、魔理沙は家の奥に消えて行く。彼女は言葉通り、5分もしないで私が伝えた本を持ってきた。
「これで全部だよな?」
私は本のタイトルを確認した後「ええ。用も済んだし私はもう帰るわ」と言って立ちあがり、本を抱えながら玄関に向かっていく。
「おう、またな」
私は魔理沙の自宅を後にした。
紅魔館へ帰った私は、パチュリー様に魔理沙の家から取り返してきた本を渡した後、急いで食事の仕度をする。
うっかり魔理沙の家で寝てしまった為、いつもより遅れての昼食となってしまいましたが、お嬢様から咎められる事無く、食後すぐに自室へ戻られました。
この後、門番をしてる美鈴に昼食を届けに行ったのだけれど、彼女は相変わらず門に寄りかかったまますやすやと眠っていたわ。彼女にナイフを投げつけて叩き起こしてから昼食を渡した後、私は午後の仕事をする為に館の中に戻っていった。
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(これが館の外の世界なのね)
私は今、咲夜の視界を通じて眼下に広がる光景を見つめていた。
広大な森に霧がかった湖、遠くには田園風景と街らしき建物群。
(なんというか、田舎の風景という言葉が一番しっくりとくるわね)
漠然と景色を眺めていると視点が地面に近づいていくのに気付き、どうやら目的地に着いたのだという事が分かった。瘴気が満ちるどんよりとした森の中、
霧雨魔法店の看板が掲げられた、木造木造2階建ての一軒家が建っていた。
咲夜が扉をノックすると、一人の少女が現れる。
彼女の容姿を詳細に説明すると、片側だけおさげにして前に垂らした金髪が特徴的な髪型で、髪の長さはロングヘアー、瞳の色は髪色と同じ金色。 頭にリボンのついた黒い三角帽に、黒いワンピースに白いエプロンを身に着けている。靴は黒いシューズを履いていた。咲夜の知り合いは美少女ばかりね。
彼女の名前は魔理沙。一昨日パチュリーの図書館から本を盗んでいった魔法使いね。それから話の流れで、本を取り返すために弾幕ごっこが始まった。
咲夜は積極的に魔理沙に攻め込んでいくけれど、魔理沙はそれをひらりひらりとかわし、隙をついては弾幕を撃って咲夜を追い込んでいく。
(相手のほうが一枚上手ね……、ていうかこれ当たったら痛くないのかしら? そもそも弾幕ごっこってどんなルールなのかしらね?)
戦闘が長引くについれて弾幕も激しくなっていき、咲夜は何とか躱してたいたけれど、徐々に動きが鈍っていき、ついに相手の弾幕に被弾してしまう。視界いっぱいに地面が広がっていた。
(あらあら、とうとう当たってしまったわねえ、ま、これも当然の結果ね。今日の咲夜は動きにキレがないもの)
咲夜はどうやら焦っているようで、動きが直線的になっていた。これでは簡単に動きが読まれてしまうわ。
現に魔理沙にもそれを指摘されているようだけど、咲夜は聞いていなかったみたいで、的外れな返事をして、魔理沙に怒られていた。
そして一言二言会話をした後突然視点が飛び、目の前が暗転する。背中と足に当たる感覚から、ベッドかソファーのような柔らかい場所で眠っているのかしら。
「ん? 咲夜いるのか?」
背後から魔理沙の声が聞こえる。足音が徐々に近づき、私の耳元で「あ~ここにいた。全く、何勝手に私の家に入ってるんだよ」と軽く怒りながら咲夜に問い詰めている。だけど咲夜は熟睡しているようで、返事は無い。
「おい、何とか言ったらどうなんだ」
不満を露にする魔理沙だけど、「――ってあれ? もしかして寝てるのか?」と、彼女の息が顔に掛かる。
「咲夜が寝てるなんてこりゃ珍しいな。いいもん見れたぜ。それにしても、こいつもこんな顔をするんだな」
(どんな顔をしているのかしら。気になるわ)
それからしばらくの間、魔理沙がすぐ傍にいる気配を感じていたけれど。
「――ふう、イタズラしてやろうと思ったがやめだやめ。ぐっすり寝てろよ」と言い残し、そのまま家の奥へと引っ込んでいく。
「うわっ、なんだこれ! 微妙に物の配置が変わってるじゃないか!」と魔理沙の声が遠くから聞こえ、ガサガサと音がした。
それから私がぼーっと咲夜が目覚めるのを待っていると、急に視線が変化する。
どうやら咲夜が起きたらしく、魔理沙と交渉を行い、目的の本を返してもらった咲夜は館に帰っていく。
咲夜は遅れた分を取り返すかのように働いていたけれど、仕事は丁寧だった。ただ、門番にナイフを投げて叩き起こしたシーンを見たときには少し引いてしまったけれど。
(ていうか、ナイフが刺さったままでも、普段通りの会話をするあの女性は何者なのよ!?)
そんな風に心の中でツッコミを入れつつ私は咲夜の日常の観察を続ける。
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「ふう」
現在、私は自室で寝る仕度をしていた。
美鈴と別れた後、溜まっていた仕事を片付けたり、その他いろいろ雑用をやっていたらいつのまにか深夜になってしまっていた。結局パチュリー様に会いに行く時間を作れなかったわね。
やはり魔理沙の家で寝てしまったのが痛かったな。
そんな風に一日を振り返っている内に、寝る仕度を終えた私は、ベッドの上に横になる。
(明日の朝、パチュリー様に聞きに行こう……)
心のなかで決意して、私は瞼を閉じた。