今より俺はゴッドフレイ、戦士よ!   作:飴玉鉛

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最近色々考えたんですが、戦闘シーンはカロリーを食いすぎるので、ちょいちょい巻展開を挟んでいくことにしました。じゃないと全然話が進まなくなるんで……お許しくだされ。




次なる戦に向けて

 

 

 

 

 

 

 怒れる破壊者、暴竜ベールの沈黙。

 

 それは英雄ゴッドフレイの勝利により、ローデイル軍の士気が爆発的に上がるよりも、飛竜の群れと古竜セネサクスの猛威を更に強めた。

 あたかも此処が自らの死地だと定めたかのように、我が身を省みぬどころか隣り合う同胞を巻き込む事も厭わず暴れ出したのだ。口腔から火を吐く同胞に体を焼かれるのにも臆さず、目の前の敵を殺さんと突進する飛竜の捨て身に、経験の浅い騎士達は気圧されてしまっていた。

 

(………)

 

 黒獣の大剣によって片翼の根本を切り裂かれ、千切れる寸前にされた古竜セネサクスは、保っていられる残り僅かな飛行時間を――暴竜ベールの亡骸に視線を注ぎ込むのに終始する。

 

 ――怒れる反逆者、恐るべき暴威。お前を飾る数多の名にまで反し、満ち足りて逝ったか。

 

 古竜の中でも特に強大な存在だったセネサクスは、プラキドサクスを裏切り飛竜に味方した者だ。しかし彼女が同胞を裏切り、仇であるはずの暴竜に与した由縁を知る術はない。

 彼女を上回る古竜はプラキドサクス、彼の後継と目されていた大古竜グランサクスのみ。並ぶ者もほとんどいないだろう。それほどまでに高位の古竜だったセネサクスは、ギザ山にて伏していた時は暴竜が傷を癒やそうと休んでいた山頂手前で、まるで門番か監視者のように侍っていた。

 己の真相をセネサクスが他者に語る時は来ないだろう。だが彼女だけは暴竜が激甚なる怒りを燃やした所以を知っているのは確かだ。セネサクスはベールに同情したのか、同調したのか……あるいは同胞を嫌悪したのかもしれない。束の間、自らの傷と痛みを忘れ、凪いだ瞳でベールの亡骸を見据えていたセネサクスだったが、すぐに現実へ引き戻される。自身を貫く殺気の鋭さが、彼女に回想を赦さなかったのだ。

 

 さらば、我が積年の感傷。

 

 セネサクスは獣人の戦士を見下ろして、獰猛な闘志を燃え上がらせた。ここを死に場所にしよう。永きに渡る忍従を終え、飛竜の一族に掛けられた竜餐の呪いとは無縁の死に方をする。

 痛快な終わり方だと言えるだろう。ただただ戦い、そして死ぬのは誉れですらあった。所詮古竜など古い時代の遺物である、潔く散るのも一興だ。

 セネサクスが最期に想ったのは竜餐の巫女フローサクスの事だった。悪いが先に逝く、と心の中で短く詫びて……飛行を保てなくなる。皮一枚で繋がっていただけのような片翼が、音を立てて根本から千切れたのだ。しかし慌てず、逆に己の最期を心地よいものにしようと急降下した。

 

 向かうは己の死である。

 

 命を惜しまず飛来する古竜を見て、大剣を両手で構えたマリケスは、渾身の一撃で迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 ぱちりと目を開くと、戦争は終わっていなかった。

 

 しかし終戦に近づいてはいるらしい。何度倒されても不死身の如く立ち上がる、マリカの加護ありきの黄金鍍金の軍勢は、ようやく最後の飛竜を討ち果たしていたのだ。強大な古竜セネサクスも崩折れて、マリケスが勝利の雄叫びを上げている。敵は残すところ、神肌の使徒の軍勢だけだ。

 

「ゴッドフレイ、無事か! 今癒やしてやる!」

 

 英雄が力を使い果たし、気絶してからどれほどの時が経ったのだろう。女王として軍勢に加護を与えるのを優先してこそいたが、自らの王の安否が気掛かりで堪らなかったらしい。血相を変えて駆け寄る黄金の女に気づいたゴッドフレイは、なぜだか尽きていたはずの力が漲ってくるのを感じた。

 両脚を振り上げ、反動を利して一気に跳ね起きた豪傑は、自らが隻腕になっているのを思い出す。傍らに来たマリカが聖印を光らせ、眩い光を発するのを見ながら己の裡に埋没した。

 

 喰らった心臓が伝えている。

 

 竜王、プラキドサクスとの再戦の誓い、いや、執着を。

 

 そして真っ向から戦い勝利してみせた、己の同類であるゴッドフレイへの闘争心を。

 

 敗れてなお、死してなお、隙あらば内から焼き尽くそうとする炎を、往生際が悪いと蔑む気には到底なれない。寧ろその逆でひたすら心地よかった。好敵手の激情の残影は得難い感傷を伴う。

 いいだろうと思う。お前と共に竜王とやらに挑んでやろう、と。するとパチリと火花が散る。暴竜の炎雷がゴッドフレイに受け継がれているのだ。だがそれは、ともするとゴッドフレイをも焼き殺す諸刃の剣。これはベールなりの、自らに勝利した者への祝辞であるのかもしれない。

 

 右掌に生じた炎雷を眺め、握り潰した。奇しくも同時に光が収まる。

 

「む……」

 

 マリカの光が収まると、失ったはずの腕が再生していた。ばかりか全身の火傷も消えている。

 五体満足、十全の状態。

 驚嘆の念を秘めてマリカを見遣ると、彼女は物言いたげに自らの王を睨んでいるではないか。

 

「やるな、大したものだ」

「ゴッドフレイ。貴方の力は、よく分かった。だが……心配したのだぞ。貴方が倒れた時……あの竜と貴方が相討ってしまったのではないかと……」

 

 女々しい泣き言だ。普段なら鬱陶しいと切って捨てたかもしれない。

 だがベールとの一騎討ちで、溢れる闘争心が満たされたからだろう。嘗て朋友との死闘で満たされた時のように、一時穏やかになったゴッドフレイの目には、マリカがやたら可愛く見えた。

 無骨で分厚い手でマリカの腰を抱き寄せた。えっ……なんて気の強い女らしくない声を上げ、戸惑うマリカにゴッドフレイは詫びる。

 

「すまんな。今少し丁寧にやれば、さほど手傷を負う事なく斃せたとは思うが……手負いのベールに合わせ短期決戦にしてしまった。許せ」

「……貴方の戦いへの拘りは、分かっているつもりだ。だから貴方がどれほど傷つこうと、生きている限り治してやる。それでも見ている私が心配しているのは……できれば、忘れてくれるな」

「ああ。それからもう一つ重ねて詫びておく。お前がくれたマントと鎧……王冠もか。ベールめに跡形もなく燃やし尽くされてしまったわ。手間を掛けて悪いがもう一度拵えてくれ」

「……本当に手間なんだからな、次はもうないぞ?」

「ああ」

 

 再度相槌を打ったゴッドフレイは、終戦が近づく戦場を見遣る。マリカも釣られて視線を移して、王と女王は並び合ったまま観戦をはじめた。

 王斧を再精製して握り、古竜を倒すや神肌の使徒の軍勢に立ち向かうマリケスを見ていると、マリカがふと思いついたようにゴッドフレイへ言う。

 

「……加勢しなくていいのか? あれは私の敵、宵眼の女王の手の者だが」

「不要だ。確かにあれらは厄介だが、数の利がありマリケスが加わってなお遅れを取るほど、坩堝の騎士共も弱くはあるまい」

「……そうか。どうせならあの竜の力を試してもいいのにな」

「試す必要はないぞ。真髄はこの身で思い知っておる」

 

 傑出した巫子にして神人であるマリカの目を通して見ても、暴竜ベールの力が己の王へ受け継がれている原理は不明だ。暴竜が黄金樹に由来しない生命だからだろうか。

 しかし明白な事実として、戦の王に新たな力が加わってより強大化した。ただでさえ最強の戦士である事は疑いの余地がないというのに、暴竜の炎雷まで操れるようになっては、それこそ自分がエルデンリングに見え神になっても、彼の力を上回れるとは到底思えない。

 強さへの渇望を抱くマリカなのに、それが無性に嬉しかった。以前忌まわしい村で救われた時、彼こそがマリカにとって力の象徴となっていたからだろうか。無意識に、最強は彼でなくてはならぬと思い込んでしまっていた。マリカは自身の心理をなんとなく悟るも、敢えて改めようとは思わない。

 

 ――やがて、戦いはローデイル軍の勝利で終わった。

 

 恐るべき事に、強さでは飛竜の群れに劣っていたローデイル軍の兵と騎士に戦死者はいない。マリカが本気で死なせまいとしていたからだろう。ならば、釘を差す必要がある。

 ゴッドフレイは戦列を組み直す軍勢と、坩堝の騎士を見渡した。マリケスや坩堝の騎士は見ず、ただローデイル軍だけを見据えて険しい貌で告げる。

 

「此度の戦、我らの勝利だ」

 

 盾を叩いて鬨の声を上げる軍勢に、ゴッドフレイは厳しい表情を崩さない。

 

「だが自惚れるなよ、お前達は自らの力で勝利を掴んだ訳ではない。お前達が飛竜の群れを駆逐できたのは、ひとえにマリカの存在ありきである事を忘れるな。お前達は黄金ではない、分厚い鍍金に覆われただけの弱卒なのだ。極論、お前達でなくともマリカさえいれば勝てた戦いだった」

 

 沈黙が落ちる。そ、そこまで言わなくとも……なんて庇おうとするマリカを制し、犠牲者が一人もいない勝ち戦で増長しかけていた兵たちへ言った。

 

「我らの敵は宵眼の女王、死の力を操る者だ。此度は精強なる坩堝の騎士と、猛き戦士マリケスが相手取ったが……今後もそうなるとは限らんのだぞ。神肌の使徒とやらに、お前達が立ち向かう時は必ず来る。だがマリカの加護に甘えているだけの今のお前達では到底奴らに勝利する事は能わんだろう」

 

 タイミングが良すぎる故に自明であるが、飛竜と暴竜の襲来は宵眼の女王の働きかけによるものだろう。彼女が此度の戦詳を知れば策を練るのは明白。暴竜らに合わせて手勢を送り込んでなお、戦果を挙げられなかったどころか、ローデイル側に戦死者が一人も出ないほどの大敗を喫しているのだから。

 マリカの律も理解されたと考えておくべきだ。運命の死と対極に位置する永遠の生は、互いが互いを天敵とする、まさに宿敵に等しいものだと。マリケスやゴッドフレイの力も把握したなら、早急に本腰を入れる判断を下すはずだ。戦力の逐次投入ではなく、最初から乾坤一擲の力を振り絞るはずである。

 次が、早くも決戦になる。願望ではなく、直感でもなく、歴戦を積み重ねた征服者の確信だ。次の戦では宵眼の女王が自ら出陣し、マリカとその味方を滅ぼそうとするに相違ない。戦に疎い愚物でないなら絶対にそうするという確信がゴッドフレイにはあった。

 

 故に、配下を持つ身として弱卒を鍛え上げねばなるまい。

 いつまでもマリカの加護でおんぶに抱っこされているようでは、加護を破り得る存在を敵とした時に脆くなる。英雄には自らの配下に弱者がいる事を許容する、惰弱な寛容さがなかった。

 

「引き上げるぞ。今まで俺の騎士共に任せていたが、エンシスで俺が手ずから鍛え直す。腑抜けは我が軍には不要、一度でも弱音を吐いた者は放逐する」

 

 どよめきが起きる。あまりに厳しい通達だからだ。しかし、ゴッドフレイは弱卒共に一喝する。

 

「黙れェいッ! 誰が口を開いてよいと言った!」

 

 ――幻影が、ゴッドフレイの総身を覆った。炎雷を伴う威風は暴竜の似姿を投影し、神人の加護により不死に近くなったローデイル軍をも萎縮させる。

 暴虐の竜と戦乱の覇者の威が相乗効果を生んでいるのだ。自身の身から溢れ出た怒気と炎雷に、暴発したと気づいたゴッドフレイは覇気を収めながらも群衆を見渡した。

 

「三度は言わぬ。引き上げだ!」

 

 歯向かうなら殺す。蛮人らしい暴力的な威圧を発しながら命じると、ローデイル軍は行動した。

 マリカに目配せすると、彼女は数瞬の間を空けて深々と嘆息する。そして呆れたように呟いた。

 

「せっかく勝ったのにこれでは、ローデイルの兵も報われん。少しは手心を加えてはどうだ?」

「お前は甘やかし過ぎるきらいがあるようだ。お前が男子を生んだなら俺が預かろう、甘ったれに育たれては目もあてられん」

「……き、気が早いぞ」

 

 緊張した様子の騎士達に率いられ、黄金郷へ隊列を組んだまま帰還を始める軍勢を尻目に、ゴッドフレイはのしのしと暴竜の亡骸へ近づきながら言った。

 どこか稚気の秘められた瞳は、マリカの腹を見ているようだ。

 

「経験則だが、俺は必中の射手らしくてな。俺の種を受けて孕まなかった女は今までおらん」

「――反応に困る。そういう話は、するな」

「ハッ……ハァーッハハハハ!」

 

 ゴッドフレイが自分以外の女を知っており、それと比較されたと感じ取ったマリカが機嫌を害する。しかしゴッドフレイの子を自身が宿しているかもしれないと考えると高揚もして、複雑だ。

 マリカの心境を察した巨雄は堪えようとし、堪え切れず声を上げて笑う。笑いながらも、自身より五倍近い巨躯の暴竜に王斧を突き立てると、そこを起点に両手で担ぎ上げた。

 暴竜の骸を持ち帰り、余すことなく活用する為だ。好敵手の遺産を残飯漁りにくれてやるつもりは彼にはなく、ついでに竜王の首二つも坩堝の騎士達に回収を指示した。

 

「マリケス、お前の斃した古竜も持ち帰ってはどうだ」

「……我にお主ほどの膂力はない。この古竜を担げはせん」

「坩堝共に手助けを命じればよかろう。お前の剣は良い物だが、些か無骨に過ぎる。この機会にお前の剣も鍛え直せばよい」

「……そうだな。力は、あって困るものでもない」

 

 意外とすんなり賛同したマリケスは、短くとも濃密だった力の決闘を思い返していた。

 彼は自らがゴッドフレイに劣るとは思わない、だがいざ戦った時、勝てる気がまるでしない己に不甲斐なさを感じてもいた。マリカの影従であるマリケスは、主の伴侶と敵対する事はない。だが優れた戦士への対抗心は、戦士であるからには拭えぬ宿痾として芽吹いてしまうものである。

 

 ゴッドフレイの提案に賛同したマリケスは、自らの剣に古竜の武器たる赤雷を宿す事になる。

 

 それは運命の死と対峙する時、彼を大いに助ける力になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 




「王の威徳」
 暴竜の炎雷、暴虐。それは竜餐の大祭壇にてベールの心臓を喰らうと得られる、竜餐に於ける至高の祈祷になるはずだった。
 しかしベールの遺志は、竜王プラキドサクスにより飛竜の一族に掛けられた竜餐の呪いを拒み、自らを打ち破った勇者に己が力を継承させる事になる。

 格闘武器にのみ付与可能の戦技。武器に炎属性、雷属性を付与し、強攻撃で二回まで派生する。一度の派生で雄叫びを上げて怯ませ、二度で強力な攻撃を加え、王の威徳を再現するだろう。

 覇王の徳とは力にこそあり。暴竜の心臓を喰らったゴッドフレイは、ただ声を張り上げるだけで万人を萎縮させ、畏怖による服従を誓わせたという。
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