今より俺はゴッドフレイ、戦士よ!   作:飴玉鉛

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普通にザミェルの古英雄に関して間違って覚えていたので修正しました。ご指摘頂き感謝致す。


山嶺の頂に伝説を降ろす (※修正済)

 

 

 

 

 

 

 過酷な遠征だった。昇降機などという気の利いたものはなく、自らの脚で山嶺へ歩む道程は、少なくない消耗を騎士達に強いたのである。そして王の率いる軍勢に立ちはだかる者達もいた。

 

 ザミェルの英雄だ。

 

 遥か昔から古遺跡に住むザミェルは少数民族であり、厳しい凍土に生きる為か一人一人が余さず戦士として身を立て、全員が英雄と称するに足る力量の持ち主だった。

 彼らは古より巨人を宿敵とし、永きに亘り対峙し続けた古強者だ。そんな彼らがゴッドフレイ軍の行く手を阻んだのは、何も事を構え、戦う為ではない。むしろその逆だ。ザミェルの戦士達を代表して進み出た偉丈夫は、ゴッドフレイ軍の素性と目的を承知しており、共闘を申し込んだのである。

 

「なぜ俺が巨人に挑む事を知っている。俺はお前達を滅ぼそうとしているのかもしれんのだぞ」

 

 訝しんだゴッドフレイが訊ねると、氷結の英雄達の戦士長は答えた。黄金の髪の英雄が先んじて訪れてきたからだ、と。彼にゴッドフレイ軍が到来する時期と、目的を知らされたらしい。

 誰のことだ……? 黄金の髪の英雄とやらは、女でも子供でもなかったようだが、ゴッドフレイには思い当たる人物がいなかった。しかし、まあ良いか、と流してしまう事にした。深く考え込む時間が惜しく、面倒臭くて些末事だと決めつけたのである。覚えていたらローデイルで誰ぞに聞けばよい、と。

 

 ザミェルは宿敵が此の世に大いなる災いを齎そうとしている事を察知していた。

 彼らは黄金樹を神聖視しているわけでも、敵視しているわけでもない。しかしあの黄金樹が混迷の只中にある世に、秩序を布いて争乱を鎮め得るものだと見做してはいる。ならば巨人を敵とする彼らに、敢えて黄金樹が燃やされるのを座して見過ごす理由はなく、却って好機に等しい状況だと判断した。

 幾ら強大な巨人といえども、黄金樹を焼くには相応の時間を要するはずだ。この間に警戒網は薄弱になると凍土の戦士達は睨み、攻撃を仕掛ける絶好の機会だと考えていた。こうして巨人に挑もうとする軍勢が訪れたのなら、轡を並べて共に闘うべきだろう。ザミェルの英雄達はクレバーな決断を下していた。

 

 ザミェルの者達の中でも一際体躯が大きく、何もせずとも吹雪を纏っている戦士は、部族を統括する長らしい。ゴッドフレイは彼らの申し出を是として受け入れ、山頂への案内を頼んだ。

 予期せぬ増援を受けたゴッドフレイ軍だったが、やはりというべきだろう、そう簡単に巨人達の許へ辿り着けはしなかった。今度こそ敵として立ち塞がる者達が姿を見せたのだ。

 

 山嶺全土から掻き集めたのだろう。数百にも達するトロルの軍勢である。

 

 星見の少女たちと盟約を結んだ騎士ではない。今も巨人の傘下に収まり、従属する者達だ。火の巨人が黄金樹を焼くべく、壮大な儀式の最中にあると知っていたのだろう。あるいは巨人が黄金樹を焼いた後、その麓に侵攻するなら同道して、ローデイルと戦う覚悟を元々固めていたのかもしれない。

 敵軍を察知したトロル達の初動は早かった。すぐさま武器を手にしたトロル達は、白い雪で覆われた古遺跡の雪谷を抜けた黄金樹勢力を迎撃するべく、広漠とした氷結湖に集結したのだ。

 トロルの軍勢の戦略目標は明白である。

 黄金樹に向かう前、滅びの火を活性化する儀式に耽る巨人達の為に時間稼ぎを行なうのだろう。そして手隙の巨人が戦支度をして、援軍に来るまで持ちこたえる腹でいる。

 

 対峙した両軍は様子見などしなかった。敵軍を目視すると一斉に駆け出して総攻撃に出たのだ。

 トロルの軍勢を相手にしている暇はない。坩堝の騎士とザミェルの英雄は肩を並べ、その体躯だけで圧倒的暴力を執行するトロルへ挑み掛かった。

 ザミェルの英雄達は氷嵐を操り、肉厚の刀身を持つ湾刀を手に舞うように戦う。対して坩堝の騎士達は剣技というには粗く、野蛮な闘法を用いていた。

 坩堝特有の戦技と祈祷を駆使する騎士達に、ザミェル達は一歩も遅れず勇躍し、トロルの戦士達と互角に渡り合う――そのさまを、後衛より眺めるゴッドフレイの瞳は炎のように燃えていた。

 

 いつもの彼なら行儀よく指揮など執らなかった。最前線に躍り出て、敵の返り血を全身に浴びながら戦っていただろう。では何がゴッドフレイに静観を選ばせているというのか。

 

 彼はひしひしと肌で感じ取っていたのである。

 間近に迫った山嶺の頂、大地をも鳴動させる大いなる生命の群れを。

 間もなく巨人達が動き出す……彼は巨人との闘争を前に、体力の温存を選択していたのだ。

 

 坩堝の騎士デボニアが馬のような肢体を顕し、跳躍して大槌を振り下ろす。デボニアの怪力が齎す大槌の破壊痕は、さながら榴弾の如く、戦場となった氷結湖の一角を打ち砕いた。続いて騎士シルリアが羽根を生やして飛翔し、乱回転させた大槍を構え敵軍中央へ突貫する。騎士オルドビスが尾を生やして敵を薙ぎ払いつつ大剣を回転させ地に叩きつけた。

 奮闘する坩堝の騎士とザミェルの英雄は流石に強い。順調にトロルの戦士を追い詰め、彼らを打ち破ろうとしていたが、犠牲はどうしても出てしまっている。敵もまた超常的な力の持ち主達だからだ。トロルの戦士達は数を減らしていきながらも決死の覚悟で反撃し、騎士の大盾と甲冑を蹴り砕いて、英雄の肉体を踏み潰し轍としてのけている。

 

 巨人戦争、その序幕は熾烈を極めた。

 

 戦いの余波で吹き飛んだ巨岩の破片が、ゴッドフレイの胸板に当たった。戦場の王は降り注ぐ積雪や岩の破片、砂塵を大きな手ではたき落とす。

 背を飾る青く豪奢なマントは、マリカが手ずから編んだもの。鎧や王冠にもマリカの祝福が施されている。破損は戦装束の定めだが、破損が目に見えている戦に持ち込むのも馬鹿らしい。

 ゴッドフレイはマントを留める金具を弾き、取り外すと背後に放る。ひらりと流れたそれは風に乗るも、いずこかへと飛んでいくことはなく、地面を照らす祝福から現れた女が受け取った。

 

「遅いぞ」

「すまない」

 

 マリカである。全能の彼女は『祝福』から『祝福』に転移する事ができるようになっていた。神としての力で黄金の灯火の役割を拡張し、たとえどれほど距離が離れていても一瞬で移動できる。

 それだけではない。あらゆる物品を灯火の中に格納し保管できるようにしていた。格納できる容量は文字通り無限、兵站の概念も彼女一人で覆してしまっている。残念ながらマリカですら『祝福』を介さねば転送は行えず、ゴッドフレイ達のような人間に使用できないが、それでも破格の権能だろう。

 ゴッドフレイが外したマントと鎧、王冠を黄金の灯火に格納したマリカは、上裸となり野生的な姿を晒す伴侶の筋肉を見て、目を奪われながらも訊ねた。

 

「行くのか」

「ああ。思ったよりトロル共が手強い、俺の騎士達もよくやっているが……片付けるのを待っていては時間切れになってしまいそうだ」

 

 遠方を見遣った英雄の目は、巨大極まる大きな釜が破滅的な炎を発し始めるのを映していた。

 マリカは頷く。彼女も黄金樹に急かされて転送してきた身だ、危機的状況なのは把握している。

 黄金樹の破滅は我が身の滅び。緊張はある、恐ろしさもある、だが怯懦はない。寧ろ胸が踊る。これが血沸き肉踊るという奴なのだろう、我が王と肩を並べられる事実が嬉しくて堪らぬ。

 

「共にいこう。……これからは、私も貴方と一緒に戦う。文句はないな」

「あるに決まっておろう」

 

 鼻を鳴らし、即答したゴッドフレイが女の心の機微を汲むことはない。しかし、ムッとしたマリカの方を見ようともしない彼も、優先順位を間違える戦士ではなかった。

 

「だが我欲を満たすのは、戦略目標などという些末事を潰してからだ。悪神の火……これを消すまでは共に戦ってやるぞ。足手まといにはなるなよ?」

「見縊るな。我が王ゴッドフレイよ、共にいくとの宣言を違える気はない」

 

 ならば、よし。一つ頷き、巨馬から降り立って、地に突き刺していた王斧の柄を握ったゴッドフレイは、スゥゥゥと大きく息を吸った。隣に並んでいたマリカは、そっと両手で耳を塞ぐ。

 

「――騎士共、此処は任せたぞ! 立ち塞がる敵を粉砕し、我が背を追うがいい!」

 

 大音声は山嶺に木霊した。すぐさま応、応、応! と即答が返る。王が出陣する、先駆けする、ならば目の前の敵を一刻も早く打倒し追わねば騎士の名が廃るというものだ! と。

 ゴッドフレイは屈み両脚に力を溜めた。そして、一気に大跳躍する。山嶺の山々を繋ぐ、気の利いた橋などない。己の力で山嶺の隙間を飛び越えねばならなかったが戦士に不都合はなかった。

 滅びの火を燃やしはじめた大釜目掛け、疾走を始める大戦士。お行儀のいい戦装束を外した彼は、枷から解き放たれた獣の如く走り抜けていく。その後背の上方にマリカが追従した。

 

 黄金の光を纏い飛翔するマリカの姿はまさしく女神。神々しい様はさながら天使だ。

 

 疾走するゴッドフレイと、飛翔するマリカ。二人きりだと侮れるものではない、彼らこそ黄金樹を代表する、神と王なのだ。行く手を阻める者など想像もできない。

 だが……歩みを止められる者などいないように思える彼らは静止する。

 巨大な釜へ辿り着かんとする神と王の前に、恐るべき光景が広がっていたからだ。

 

「これは、堪らんな」

「――ゴッドフレイ。悪いが楽しんでいる場合ではなさそうだ。力を出し惜しんでくれるなよ」

 

 嬉しそうに犬歯を剥き、獰猛な貌を象るゴッドフレイとは対象的に、マリカから余裕が消えた。

 元から油断はなかった。しかしマリカ達の眼前に――遠目には山にしか見えなかったモノが、地鳴りとともに動き出したのである。

 

 巨人達だ。

 

 トロル五人分の身の丈――なんてものではない。

 

 其の巨きさは、一つ一つが都を覆う。腕を伸ばせば星にも届くと謳えよう。雄大な背丈は雲の上の山嶺に在ってすら仰ぎ見るほどで、燃え盛る炎のような赤毛が雄々しさを倍増させていた。

 トロルを十人縦に積み上げたような巨躯の持ち主が当たり前のように雁首を揃え、横並びに立ちはだかる様は驚異の一言だ。数こそたったの五十にも届かないが、彼らが地表を歩くだけで世界が滅びるのではないかと思わされる。なるほど確かにこれには敵わんなと、あのゴッドフレイが戦う前から膂力で劣る事を認めさせられた。

  

 彼らは儀式を完遂するまで動く気はなさそうだ。トロル達への援軍に向かう気配もない。彼らは重大な使命の為に、山嶺で共に生きる者達を見殺しにする事を決めたのだ。

 だからこそ、覚悟が固い。彼らは小さき人間達を見つけると、一斉に雄叫びを上げた。桁外れの風圧が巻き起こるほどの大音声は、ゴッドフレイの大喝すら子犬の遠吠えに聞こえさせる。

 一斉に両手を掲げた火の巨人達が、真紅の炎を虚空に出現させた。

 あれぞ悪神の火。連なる火球は数百にも及び、さながら宇宙の彼方に浮かぶ流星群のようで――黄金の女神マリカは、出し惜しみせず全力を出す決意を口にした。

 

「黄金樹よ、我が裡に宿る偉大なるエルデンリングよ! 我が王、ゴッドフレイに全霊の加護を!」

「チッ……受け入れるのは此度だけだ。来い、マリカ!」

 

 火球の流星群が飛来する前に、金色の太陽が具現化した。

 あらゆるマリカの加護が、エルデンリングに極限まで増幅され、たった一人の戦士を包み込む。傷だらけの肉体が一つの世界を内包したかの如く、大きさをそのままに重みを増した。

 体毛が黄金に染まる。黒い髭も、髪も、眉も。祝福の宿る黄金瞳が一層輝いて――更に、ゴッドフレイが呼応して闘気を発すると、彼の肉体に炎雷が帯電する。肩甲骨が割れ、皮膚と肉が破れて炎雷が噴出した。吐き出す呼気は暴虐の焔、爪牙は分厚い破壊の権能。暴竜の翼すらも背から噴出した炎雷が象る。

 ゴッドフレイが呼ばうと、マリカは王の首に腕を回し、背に張り付いた。すぐ傍に燃え盛る炎雷の翼は女神を焼かぬ。破壊し、焼き尽くすモノは自らが選んだモノのみだというように。

 

 ――斯くして有史以来比肩する者のない、史上最強の神王が降臨した。

 

 大釜を護る火の巨人たちが、掲げた腕を振り下ろす。飛来する破滅の流星群を迎え撃つのは、この巨人戦争にだけ語られる伝説の王だ。

 

 結末を知りたければ、黄金樹開闢の史書を紐解くのがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




祈祷『マリカの祝福』
 黄金樹に刻まれた、永遠の女王マリカの追憶より。

 喪われた伝説の祈祷。自らに施すあらゆる黄金律の祈祷を宿す。

 全ての大ルーンを所持し、ルーンの弧を使用した状態でのみ発動できる。
 だが完全なエルデンリングなくして、十分な効力は期待できない。



戦灰『ゴッドフレイの竜体』
 大斧、特大武器、格闘武器に戦技と属性を付与できる戦灰。
 付与属性は『炎』『雷』『重厚』

 マリカの王、ゴッドフレイの戦技。雄叫びを上げ、炎雷を身に纏う。溜め使用で強化され、炎雷の威力と効果継続時間が伸びる。

 最初のエルデの王ゴッドフレイは、真に全力で敵と対する時、暴竜の力を具象化する。しかし彼の王が炎雷を用いたのは、巨人戦争と嵐の王との一騎討ちのみだったとされる。
 我が全霊、振り絞るのは最後の戦い、語られぬ長征の末に。

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