今より俺はゴッドフレイ、戦士よ!   作:飴玉鉛

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お待たせ。


黄金の一族

 

 

 

 

 

 断崖の城、ストームヴィル城。

 

 嵐の王が統べる断崖には、逆巻く狂風が防壁としてあった。

 

 数え切れぬ戦鷹が嵐を揺り籠とし、王の居城を侵犯する不届き者を暴く目であるなら。一騎当千の猛者揃いである嵐の騎士、王の双璧として名高いオレグとイングヴァルは防壁だ。

 嵐鷹の王は風に聞く。遠くに在りて軍靴の足音を拾い、戦鷹を斥候に出してストームヴィル城に進軍する『黄金』を察知した。新たな時代の潮騒、旧律を駆逐せんとする傲慢な理を。

 嵐鷹の王は嘗てのエルデの王に忠誠を誓った身だ。特別な力を持たぬ戦鷹であった頃に拾われ、嵐の力を賜った恩義がある。いつか旧神が帰還する事を夢見、待ち続けるエルデの王の為、狭間の地を再度平定する足掛かりとして、このストームヴィル城を渡す訳にはいかない。

 

 徹底抗戦だ。たとえ永遠に叶わぬ願いであれ、忠を誓ったなら永遠に護り続けよう。

 

 ――侵略した『黄金』の軍勢は堅牢なるストームヴィル城にとりついたが、予想以上の反攻を受け一度は退いた。精強な坩堝の騎士達と、ローデイルの騎士達が後退を余儀なくされたのだ。

 本陣より戦況を見守り、出陣していなかったゴッドフレイ王は、城を出て野戦を挑んできた勇ましき嵐の騎士、戦鷹の軍勢と対峙する中、傍らに控えさせている赤髪の私生児へ問いを投げた。

 

「メスメルよ、敵はなかなか手強いようだ。お前ならどうする?」

 

 問われたのは左目を固く閉じ、右目に黄金の祝福を宿した若き英雄だ。

 体から生えた赤い蛇が、耳元で何事かを囁く。頷きを返したメスメル――齢十二を数えたばかりの真紅の少年は、目を凝らして敵軍を見渡した。

 地上に整列しているのは強壮な騎士達。空中に羽ばたくのは戦鷹の群れ。千を優に超す軍勢は、黄金律とは異なる理の力で以て嵐を纏い、攻城兵器含む飛び道具を寄せ付けぬ。投石機による大岩の投射が跳ね返される様は圧巻で、近づく敵対者がまともに立っていられぬ風圧を従えている。

 あの嵐は味方を護る盾であり、切り裂く刃でもあるのだろう。如何にゴッドフレイ率いる坩堝の騎士団とローデイル軍であれ、士気軒昂なる敵軍へ安易に仕掛けたなら苦戦は免れまい。

 

 故にメスメルは父の問いに答える前に、考えを纏める。

 

「あの嵐……ただの風ではない。霊性を帯びたものだ」

 

 呪われた赤を想起させる衣装に腕を通し、有翼の蛇を模した黒兜を被ったメスメルは、手にする長槍の柄を強く握る。槍の穂先に滲む紅蓮は呪いの火であり、赤い髪の由来でもあった。

 メスメルは一時、この力を疎んでいた。己が本尊より分かたれた由縁で、母から憎まれ、嫌われた呪いの象徴だからだ。だが今は蟠りを持っていない、自身を引き取ってくれた父に厳しく鍛えられる中、この火はあくまで力であり道具に過ぎぬと教え込まれたからである。

 メスメルの火は自身だけの強大な武器だ。黄金樹すらも焼き払えるこの力を律し、手足の如く使いこなせばよいだけの話である、と。黄金樹の敵を黄金樹の天敵の力で討つ。痛快な話だ。

 

「我が火がよく映える。格好の獲物だ」

 

 武に偏重して鍛え込まれたメスメルは、幼い身でありながら『黄金』の英雄達にも引けを取らない実力を有している。戦場の風を読む天凜も父から受け継いでおり、ゆくゆくは総軍を統べる大将軍になれる器であった。本尊より分かたれてなお最優、名将にして名君足れる者は冷徹に要請する。

 

「父よ。私に命じてもらえないか」

「よかろう」

 

 黄金の獅子を背負うゴッドフレイは、自信ありげな子の様子に相好を崩す。坩堝の騎士デボニアを横目に一瞥すると、最古参の騎士は小さく頷いて、同胞たちに号令を発した。

 

 これよりメスメル卿が仕掛ける! 公の齎す御業を刮目して見届けるべし!

 

 おおやけに王の私生児とされる彼が、ゴッドウィンの分け身であると知る者はここにいない。戦場の王の愛し子として見られ、敬されるが、マリカとの血縁はないとされているからだ。彼が巨人の呪いを受けているのは、父たるゴッドフレイが巨人王を討ち果たしたからだろう、といったふうに見られている。

 総軍の注視を受けるメスメルは、長い腕を虚空に翳して、掌に巨大な火球を顕した。

 悪しき炎の顕現を目撃したストームヴィルの騎士達が身構え、鷹達がけたましく警告の鳴声を響かせるが――無為だ。まるで蛇の如くうねった火が迸り、無数に枝分かれして飛翔した。

 

 襲い掛かる火蛇が残影を残し、敵の騎士達を守護する『嵐』に喰らいつく。

 

「おぉ……」

 

 感嘆に似た吐息を漏らしたのはゴッドフレイだった。数条の火蛇を操るメスメルが訝り、横目に様子を伺ってくるのに気づく事無く、彼は懐かしそうに目を細め独語した。

 

「懐かしいな……私も昔、歯向かう者達の村をよく焼いたものだ」

「………」

 

 蛮地の戦士として各地を征服した折に、焼き払った村々を回想しているというのに、彼の物言いはまるで故郷の風物詩を思い出したかのように穏やかだ。

 滾り続ける戦意を抑え込まれても、やはり根っこは不変の蛮族なのだろう。初陣にして敵対者を焼き尽かせようとし、断末魔と怒号の入り交じる混乱の叫びに顔を顰めていたメスメルは、父の懐古に毒気を抜かれて呆れてしまった。父のしてきたことに比べれば、自分はまだまともな方なのだと理解したのだ。

 

 果たしてストームヴィルの騎士達は大混乱に陥っていた。自分達ではなく、象徴にして加護である『嵐』そのものを焼かれるとは思わなかったのだろう。猛き風が火に纏わりつかれ、火災旋風の如く敵陣をのたうつ様は、ゴッドフレイではないがとても眺めがよく景気がいい。

 嘆息したメスメルは更に火を操り、蛇が地を這うように虚空を奔らせ敵城へ向かわせた。このまま嵐の城ごと焼き尽くし、敵の士気を崩壊させ、此度の戦を終わらせようとしたのだ。

 

 だが、敵も然る者。一帯を劈く喊声が響き、一際強い颶風が吹くや、ストームヴィル城に迫る火蛇が打ち消された。なんだ、とメスメルが瞠目するのを横に、ゴッドフレイは王斧を握る。

 

「お出ましか」

 

 霊性の嵐を焼いたのが悪神の火である事を見抜き、防戦に徹していたなら一方的に屠られるだけだと判断したのだろう。巨大な嵐鷹が城より飛び立ったのを見た覇王が莞爾として笑む。

 嵐の騎士達の動揺が鎮まり、代わりに戦意を燃やした。嵐鷹の王が出陣したのを受け、指令が伝達されたのかもしれない。メスメルを睨み、これを討つ事だけに専心したのか、遮二無二に突撃を開始している。迎撃の陣形を組む『黄金』の軍勢に、ゴッドフレイは冷静なまま命じた。

 

「お前達はメスメルを守れ。私はアレを討つ」

 

 王斧で指すのは大鷹。応! と力強く唱和される声は剛健。

 覇王はメスメルに言う。

 

「前に出過ぎるなよ。敵の殺意と憎悪を味わい、勝者として見下ろす気構えを組んでおけ」

「見下ろすのはいいが、見下すな。そう言いたいのだろう」

「そうだ。よいか、メスメル。数多の怨嗟を省みる必要はないぞ。下した敵は踏みにじり、通り過ぎた轍の一部にするのだ。勝ち続けるには、そうした残酷さが不可欠となる」

「……過去に追いつかれた時が、我らの最後か」

「違うな。過去を振り払い、今を組み伏せ、未来に喰いつくのが戦士の在り方よ。過去に追いつかれるというのは所詮、歩む脚が遅い者の言い訳に過ぎん。勝ち続ける者は脚が早いものだ」

 

 侵略者が防戦の構えを取り、防衛側が捨て身の猛攻に打って出る。あべこべな構図の中、ゴッドフレイは賢しい嫡子に薫陶を与えていた。

 精神論だ。細かい理屈や筋道を重んじる者には空虚に聞こえるかもしれぬ。しかし心の気構えはどんな時代、どんな国に生きる者であっても大切だろう。

 病は気からともいう。心の強さが身体の強さにも繋がるのである。そうした意味で、精神論というものも存外馬鹿にならぬものだ。

 

 空から迫る嵐鷹の王と、それに付き従い滑空する戦鷹。嵐を纏う砲弾の雨に等しい物を見上げ、戦場の王は背負う宰相に告げた。煩わしい雑魚を一掃するがいい、セローシュ――と。

 黄金獅子が実体化する。覇王の肩から降り立った獣王セローシュが雄叫びを上げ……どうしてか嵐鷹の王は、セローシュを見るなり僅かに動揺した。

 セローシュの金切り声に似た咆哮は弾丸として放たれ、無数の戦鷹を巻き取り粉微塵とする。それを見届けるまでもなく、ゴッドフレイは王斧を振りかぶり、嵐鷹の王に目掛けて跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

「父上!」

 

 幼い双子の片割れが駆け寄ると、ゴッドフレイは厳つい面貌に似合わず優しく抱き上げた。

 丸太のように太く、巌のように固い腕に抱えられたのが嬉しいのか、忌み角を生やし呪血を宿す王子、モーグは末っ子らしく無邪気に喜んだ。

 

「此度の戦勝、誠に目出度い! 敵は強大な嵐の力を有していたと聞きます、父上は如何にしてこれを下したのかお聞かせくださいませぬか?」

「父の戦いが気になるか。だが本人が語っては誉れに欠けよう、誰かモーグに聞かせてやれ」

 

 では、私が。そう名乗り出たのは、王子の忌み角を慶事と捉える坩堝の騎士の中で、唯一の女騎士であるシルリアであった。

 今の『黄金』勢力圏では、坩堝の騎士は持て囃されている。狭間の地の平定を終えるまで、彼らの力は有用に扱えるとマリカに判断されているからだ。

 だが時が下れば、やがて排斥されていくだろう。マリカはそうするつもりでいて、彼女の一存を覆す事はゴッドフレイ以外にはできまい。そのゴッドフレイもマリカの差別を正統だと肯定し、止める気は毛頭ないのだから、実質的に女王の凶行を止められる者は存在しなかった。

 しかし現在は民衆の憧憬を集めてはいる。為に、モーグの忌み角も差別されてはおらず、おおやけには純粋に王子として遇されていた。特に坩堝の騎士達はモーグと、彼の双子の兄モーゴットの諸相を神聖視し、修行したなら勇人に選ばれ神獣獅子舞になれる器だと仲間内で讃え合っている。それ故かモーグは優しい坩堝の騎士達に懐いていて、シルリアがゴッドフレイの武勇を語ろうと名乗り出た事を歓迎した。

 

 シルリアが語る戦詳を、目を輝かせながら聞くモーグ。はじめはただ父や長兄メスメルの活躍に無垢に喜ぶばかりだったが、彼の関心は敗者の側……嵐の中に生きる鷹や騎士の方へ向いた。

 なにゆえ嵐鷹の王は最後まで抗った? 降ればよかったではないか。そうすれば死なずに済んだであろうに……そう思いやるモーグの気質は慈愛の深さからくるものだろう。およそ戦士の血を引く者とは思えぬ甘さである。だがなんとなしにモーグを見ていたゴッドフレイは、三男の哀しみを軽く見ない。

 モーグの性格・性質はマリカに似ている。しかし敗者を思いやる心は、匙加減と舵取りを誤らぬ限りは王者の気質と言って良いものだ。所詮は染まりやすい幼子である、これからの育て方次第で暗君にも名君にもなるだろう。そして少なくともゴッドフレイは、我が子を優柔不断な愚物に育てる気はなかった。

 

 彼に遅れて到着したらしい、弟とは忌み角の生え方は異なるがよく似た容姿の持ち主モーゴットがメスメルに連れられ王の居室にやって来た。

 

「……父上、失礼しまする。私共を御召と聞き、モーゴット、ここに参上しました」

 

 幼児であるのに、モーゴットは弟と打って変わり物静かで、理性を宿した瞳をしていた。敬愛する父に無礼な態度は取れぬとばかりに畏まり、モーグの振る舞いに苦い視線を送っている。

 彼は、英邁だった。極めて。その才幹は長子ゴッドウィンに劣るものではなく、呪いと言われるであろう血と角さえなければ、第二王子として母の傍らにいただろう。

 モーゴットは自身が母に疎まれているのに気づいており、その由縁が自らにある事も察している。まさに天才的な洞察力であり、賢しい為に彼は自らの将来を朧げに悟っていた。

 自身は決して王子として遇される事はあるまい、と。神たる母に疎まれ、遠ざけられるとはそういう事である。だがそこで腐らぬのがモーゴットが傑物たりえる器の持ち主である証左だ。ならばと自身に出来る事を考えて、父について回り戦場の生き方を学ぼうとしていた。

 流石に幼すぎる為に願い出ても戦場へ連れて行かれないが、母譲りの祈祷の才と、父譲りの武才の片鱗を併せた天才性を活かし、モーゴットは稚拙ながら鍛錬を始めている。早熟な子だ。

 

 揃いも揃ってゴッドフレイの子、黄金の一族は生き急いでいる。

 

 ゴッドウィン然り、メスメル然り、モーゴットとモーグ然りだ。誰も彼も秀でた才能の代償に宿痾を持ち、齢三つも数えぬ内に自らの生に諦念を懐いて、早くも歩む道を定めている。

 ゴッドフレイに角や血への隔意はない。むしろ類稀な戦才だと見做し歓迎してすらいた。メスメルが宿した火と同じ扱いだ。故に、彼はモーグよりもモーゴットに構う事が多い。単純に、モーゴットは強くなるだろう。親の欲目もあるかもしれないが、それが喜ばしい。父からの期待を受けている。それが誇りの芽となり、モーゴットの自尊心を高めている事だろう。恥ずかしい真似はできぬと見栄を張る弟に、メスメルも負けていられぬと一層鍛錬に励んでいる。

 無論モーグの相手も疎かにしているつもりはない。末の子であるモーグは兄達にはない懐の深さがある。教え諭し導くまでもなく、モーグは自らの宿痾を受け入れ愛す器があった。

 例えるならメスメルは将軍であり、モーゴットは宰相、そしてモーグは王の器だろう。モーグを惰弱な者にしては、父の面目にも関わる。ゴッドフレイは末の子を最も厳しく鍛えるつもりだ。

 

 尤も……鍛え上げるまでもなく、子供達は勝手に強く育つだろうが。

 勤勉さはマリカの血だな、とゴッドフレイは思った。

 

「よく来たな、モーゴット。私のいないローデイルは窮屈だっただろう」

 

 来室した次男に含みを持たせて言うと、モーゴットは気難しそうに眉根を寄せる。

 

「……そんな事は」

「誤魔化さずともよい。敏いお前の事だ、どうせ母に疎まれているのは自覚しているだろう」

「……なぜ母上は私を疎むのかと、お聞きしてもよいですか」

「駄目だな。だが……ここにマリカの耳はない。アレの尊厳に関わる故とだけ言っておこう」

「尊厳……?」

 

 来ない方がいいのは確かだが、いずれ知る時は来るやもしれぬ。しかしそれは今ではない。

 思い悩み煩悶とするモーゴットに、シルリアの語りを聞くモーグの方を顎で指し示す。アレが満足したなら共に休んでおれ、お前の気がほぐれた後に稽古をつけてやると言った。

 モーゴットは頷き、モーグの傍へ進んだ。その小さな背中に、父親の顔を出してしまう。あるいは母の愛を知らぬ我が子への憐憫が声を掛けさせたのか。

 

「モーゴット。お前は『祝福』のモーゴットだ。その名を与える、胸に刻んでおれ」

「……! ……は。その別名、有り難く頂戴致しまする」

 

 たとえ母に祝されておらずとも、父はお前の生を祝福する。黄金樹の流儀に沿った激励に、びくりと肩を揺らして振り向いたモーゴットは、感激したように返事をして頭を下げた。

 ひらひらと手を振って追い払う仕草をし、照れ臭さを誤魔化したゴッドフレイは、何やら物言いたげに佇むメスメルの顔に眉を顰める。

 

「……なんだ?」

「いや……らしくない真似をするものだ、などと思っていない。ただモーグが聞けば羨ましがり、自分にはないのかとグズりそうではある」

「む……えぇい、面倒だ。メスメル、お前が考えてやれ」

「断る。父からの贈り物でなければ意味がないだろう」

「生意気な口を利く孺子になりおって……さてはお前も欲しがりな口か? ならば仕方ない、父が知恵を絞って考えてやろう」

「不要だ」

「フン。此度の戦で挙げた武勲への褒美の一つだ、大々的に広めてやるわ」

「っ……」

 

 とんだ藪蛇もあったものだ。メスメルは嫌そうな顔を隠さなかったが、彼の体から生えている赤い蛇は機嫌良さげに蠢いている。

 ゴッドフレイはそれを見て、マリカから聞いたメスメルの宿痾――不要だとしてゴッドウィンから切り離された、巨人の火とは関係がない生まれながらの呪いを思い出す。

 深淵。闇。忘れられたもの、喪われたものが流れ着く忘却の末。蛇は貪欲者であり、闇の果てしなさを象徴している……だったか。その人の闇をマリカは祝福の網膜、肉眼としても機能する義眼で蓋をして封印したらしい。これは使えるなと思い、力こそ王の故と心得るゴッドフレイは口にした。

 

「お前の別名は『深淵の蛇』でよかろう」

「……父よ、それは」

「どうせマリカがお前達を見る事はない。ならば精々喧伝してやればよい。悪名は無名に勝る、嫌でもお前達を忘れられぬようにしてやるのだ。有象無象の囀りなど捨て置け。度を超えたら殺せ」

「……ハァ。貴方は本当に、徹底して我ら兄弟の呪いを力としか見ぬのだな」

「今更だぞ、倅よ。系統や性質が異なっていようと、手っ取り早くこの世に干渉する現象の総称は暴力だ。お前達のソレも、マリカのエルデンリングも、私の力も本質を見れば同じだろう」

「……モーゴットとモーグを連れ立つ役目は達した。私はこれで失礼する。暫し体を動かしたい」

「好きにせよ」

 

 メスメルは一礼し、逃げるように退室した。

 休息の時だ。ゴッドフレイは寝そべる獅子に背を預け、凭れて寛ぎつつ今後の展望を思い描く。

 

 ――呪火に晒され、嵐鷹の王は覇王に討たれ、断崖城は陥落した。

 

 嵐の気配は依然として残留し、心地よい風が城内に残ってはいるが、旧律の支配領域は狭間の地から駆逐されたと言っていいだろう。

 ゴッドフレイ率いる『黄金』の軍は王都へ凱旋する事はなかった。リムグレイブを平らげた今、残すはリムグレイブの南にある半島と、緑豊かなケイリッドの大地のみだ。ケイリッドの地を領するのは飛竜であり、内なる暴虐の生まれ落ちた大地であるやもしれぬと王は睨んでいる。

 この身に刻まれた追憶を辿るに――大老竜グレイオールはおそるべき山である。グレイオールは飛竜達の大母であり、調査に赴いていた者によると、既に大いに傷ついてまともに飛べず、老いによる衰えも手伝って地に伏して動かない日が多いそうだ。暴竜ベールはグレイオールの長子であったなら……大母を傷つけたのが古竜であるなら……いやこれ以上追憶を辿るのはやめておこう。世の中には秘されておくべきものもある。

 

 ともあれ全域を平定し、ゴッドフレイがエルデの王になる日は近づいた。

 

 後五年の時を掛けよう。メスメルが一廉の戦士、将に成長した頃にケイリッドに侵攻する。今はリムグレイブを完全に鎮圧し、支配するべき時だ。

 モーゴットとモーグをローデイルから連れて来させるのに利用した転送門。あれをもっと多く発注して作らせよう。レアルカリアを支配した、カーリアのレナラが完成させた魔法の門は便利だ。戦争の概念について回る、長距離の移動が楽になるのは非常に大きい。

 

(……そういえば、あのラダゴンめがカーリアの小娘と恋仲になったと聞く)

 

 自らを敬愛していると公言して憚らぬラダゴンから書状が来ており、第一子が生まれるかもしれないと歓喜の滲んだ文が記されていた。気が早いことに、男子ならラダーンと名付け、女子ならラニと名付けるつもりだという。どちらであれ……ラダゴンの人生は今が絶頂期だろうなと思う。

 セローシュが唸る。所詮は二本指からの監視者だとはじめは疎んでいたが、この獣はよく仕えてくれている。今は少しだけ信頼を置くようになっており、セローシュの意見を受け頷いた。

 

(カーリアの子にも気を配ってやれとくるか、セローシュよ。……そうさな、後々の事を見据えるなら縁は繋いでおくのも悪くない)

 

 宰相は知恵と見識で覇王を助けている。獣の言には聞くべき価値があった。

 故にゴッドフレイは決めた。事は早い方がよい、と。

 

(あの小娘の妹……確かレラーナだったな。メスメルと縁談を組まぬか打珍してやるとしよう)

 

 以てカーリア王家と黄金の一族の縁とする。中々悪くない手である気がした。

 

 

 

 

 

 




『断崖の城、ストームヴィル城』
 原作本編に於ける失地騎士達の城。本作では嵐の王の眷属、嵐鷹の古王が城主だったとする。失地騎士の一部は祝福王の誘いを受け黄金樹に還樹(帰化)したが、一部は節を曲げずにいた。
 本作では失地騎士、および嵐鷹の古王は、ファルム・アズラの時の狭間にいた竜王の臣下という事にしている。根拠は失地騎士がファルム・アズラにいた点と、プラキドサクスが嵐の力(と思われるもの)を持っていた点。つまり竜王=嵐の王。失地騎士はゴッドフレイにとっての坩堝の騎士で、嵐鷹の古王はセローシュの立ち位置、という解釈をしている。

 なお本作中の原作時間軸だと、ストームヴィル城の周辺には、メスメルの残り火が各所に素材アイテムとして残っている。メスメルの存在を示唆する痕跡だ。


『メスメル』
 父の下で研鑽を積む一方、母に愛される半身を遠目に眺め羨んでいる。が、その半身も父の傍にいられる己を羨んでいるのを、同一の存在である為に感じ取っており複雑な心境。
 父を想う心と母を想う心、別離したそれが逆であればよかったと思いゴッドフレイに無愛想な態度を取るが、実は父親っ子。可愛がっている弟達の手前、見栄を張っている。
 ゴッドウィン同様に長槍を得手とし、父の薫陶で『メスメルの火』を単なる力だと見做した。


『モーゴット』
 ゴッドウィン、メスメルの真実を知っている。生真面目な次兄である彼は、猛々しい戦士としての父を知らず、威厳のある父を純粋に尊敬している。
 一方で自身の忌み角と呪血を疎む母の目が苦手で、モーゴット本人も厭いそうになるが、やはり単なる力として見做す父の影響で前向きに捉え、父から聞いた角人の『神降ろし』の業を、母譲りの祈祷の才を活かして再現してみようかと考えている。父に別名として与えられた『祝福』は終生の誇りになった。


『モーグ』
 次兄のモーゴット同様、長兄が分け身であることを知っている。彼は三男だが末っ子らしからぬ寛容さを持ち、器の大きさは王者のそれである。性格、性質は両親から受け継ぎ、ゴッドフレイの王器とマリカの優しさを具えているようだ。呪われた血と忌み角も、見方を変えれば個性の一つに過ぎない。本作では姿なき母に邂逅するまでもなく自身を愛し、他者を愛する為、独力で血授の業を見い出すかも。聖者にして王者、稀代の名君たる器の持ち主。
 ゴッドフレイは彼に授ける別名が思いついていない。


『大老竜グレイオール、暴竜ベール』
 ケイリッドのファロス砦の目の前にいる、白い巨大竜。
 大母というテキスト。飛竜である事。『エルデンリング』には度々『母』というフレーズが出て来ており、ベールが怒り狂い、怒れる破壊者となって竜王に挑んだ原因がグレイオールだったとしても違和感はない気がする。寧ろ一つのテーマとして、大母を慕っていたマリカがメスメルを利用し角人に復讐したのも、DLC的に関連性・一貫性があるように見える。


『ゴッドフレイ』
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