今より俺はゴッドフレイ、戦士よ!   作:飴玉鉛

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巫子の村の末路

 

 

 

 

 

 

 マリカ達の故郷、巫子の村は辺鄙な僻地にあった。

 

 巫子とは神を祀り、神に仕え、神意を世に広く伝える役割の持ち主だ。巫子の村は二本指や三本指に仕える指巫女や指読み発祥の地であり、巫子達は今も各地で指の言葉を広めている。

 指巫女達の故郷でもある村で、祈りに実像を結び、傷病を癒やす事のできる者は、様々な種が蔓延り混迷の只中にある狭間の地で、傷ついた者が癒やしを求め来訪した際に歓待する事がある。しかし基本的には巫子の村は隠し里であり、その所在を知る者は限られていた。

 その証左として奥ゆきには断崖があり、一際盛り上がった悪路に村は隠されている。地形は攻めるに難く守るに易い、まさしく天然の要害であろう。根城にするには最高の立地だと英雄は思う。

 

(だがせっかくの好立地も、住まう者が雑魚だったら宝の持ち腐れだな)

 

 現に彼女達の村は、最も邪悪な文化を持つ人種、角人に見つかってしまったばかりに、度々侵入を受けて住人が攫われてしまっているらしい。

 角人は普遍的な人種にとって文化が最悪なだけで、他は善良でまともな感性をしている事が多い。しかし悪人の犯した罪を浄化する為には善人にその肉片を擦り付け、馴染ませ、融合させねばならぬと考えていた。その過程で壺に詰めるのが神事となってしまっており、巫子にとっての災厄と化している。

 なぜ角人は隠し里に等しい巫子の村の所在を知り得たのか。ザッと浮かんだ推測だと――嘗て傷ついた角人が巫子の村に偶然流れ着き、歓待されて癒やしてもらった事がある――辺りだろうか。そうして彼女達の善良さに触れて感銘を受け、更に巫子達が大いなる意志の遣いたる指の言葉を読めると知り、坩堝という全ての生命が溶け合う原初を知っていたが故に、巫子を核に罪人を壺に詰める、などという発想に至ったのかもしれなかった。

 

 故郷の蛮地だと最高位の存在であり、為にインテリ層でもあったゴッドフレイは、そのように益体もない想像をする。というのも故郷に帰れた巫子達が歓喜し、暗い雰囲気だった村人達が貌を明るくし歓迎して、まさに感動の再会といった様子で騒いでいたのだ。そうしたものに心動かされず、手持ち無沙汰で暇になったから無駄な想像力を働かせてしまった。

 

 マリカは一人の老婆に跪き、両手を捧げるような格好をする。

 すると老婆は優しくマリカを抱擁した。

 

 大母よ……と、マリカが呟く。大母、つまり祖母。もしかすると村長か。

 

 やがて巫子達は救い主であるゴッドフレイに視線を集めた。感謝を伝え、歓待の宴でも開いて、礼をしようという雰囲気である。ゴッドフレイの蛮人そのものの格好は気にもせず、戦が終えて暫くしているから落ち着いている彼の雰囲気に怯む事もない。村に入ろうとせず外で周囲を警戒するマリケスも呼びに行こうとする巫子の一人を視界の隅に捉えつつ、ゴッドフレイは涙ながらに感動と安心を分かち合う者達へ言った。

 

「茶番は終わったな? ではマリカよ、さっさとこの者らに出立の準備をさせるがいい」

 

 ゴッドフレイの胴間声は戦場の覇者のもの。よく響き、よく通る。故に彼の言葉は巫子達によく聞こえて、為に大きな戸惑いを生んでしまった。

 巫子マリカは困惑して英雄ゴッドフレイを見る。彼女の様子を見て、大母はどうやら事前に話を通されていたわけではないと察し、巫子達を代表して彼の真意を訊ねることにした。抱擁を解いて起立した大母に、一瞬名残惜しそうな貌をしたマリカも続く。

 

「もし、旅の猛き戦士様。我らに出立の準備をせよとは、どういうおつもりなのでしょうか?」

「ん……?」

 

 大母の問い掛けで、ゴッドフレイはすぐに認識の違いを悟る。

 彼にとっては当たり前過ぎる発想だったが為に、言うまでもないと無意識に決めつけていたから、わざわざマリカに話を通していなかったのだ。だが相手は戦う術も知らぬ弱者の群れ、一から十まで懇切丁寧に話してやらねば理解できぬかもしれん。そう思い至ったゴッドフレイは、大きく嘆息した。

 面倒くさい。億劫だ。だが仮にも以前はルー族の長であった身。若手を鍛えた経験もある。ゴッドフレイは心底面倒臭そうな貌を隠しもせず、溜め息を溢して大母とやらへ言った。

 

「……お前達はこれからどうするつもりだ」

「どう……とは?」

「我らが旅立った後も、角人の脅威に怯え、背を丸めて生きていくつもりかと聞いている。戦う術や覚悟も持たず、されるがまま狩られる羊の生き方を続けるのか」

 

 端的な問い掛けに巫子達は息を呑む。そう、たとえ一部とはいえ家族が戻ったが、角人は未だ健在なのである。災厄が絶えたわけではない。

 幾ら家族の帰還に、一時身内の不幸を忘れるほど歓喜していようとも、そんな当たり前の現実を忘れてしまうから弱者なのだ。虐げられるばかりの奴隷根性だとゴッドフレイは呆れてしまう。

 

「抗うのも、逃げるのも、潜むのも勝手にするがいい。俺はお前たちの末路に興味はない。だが仮にも共に往くマリカの一族であるなら、同行者として提案の一つぐらいはしてやろう」

「待ってください戦士様。共に往くとはどういうことです? マリカが貴方と旅に出るのですか」

「……おい」

「あっ」

 

 豪傑にじろりと睨まれて、マリカはやっと自分が神人だったこと、これから神になるべく過酷な長征に出ることを報告していなかったと思い出した。

 訝しむ大母と、村にいた巫子達へ、マリカは大きく息を吸って覚悟を決め、話した。自身が律を見い出していて、二本指に選ばれ神人として黄金樹を目指すことを。するとざわめきが起き、大母も目を見開いて孫娘の顔を見詰めた。彼女達が事情を把握するまで黙って聞いていたゴッドフレイが口を開く。

 

「理解したな、巫子の村長(むらおさ)よ」

「はい……大いなる意志の裁定と差配、指様のお言葉、(しか)と受け止めました。マリカ、励むのですよ。貴女は指様に大きな期待を受けたのですから」

「ぬるい」

 

 大母の呼び掛けに、凛とした表情で頷こうとしたマリカを無視し、ゴッドフレイは吐き捨てた。

 無表情で淡々としている英雄の態度に、大母は改めて向き直る。

 

「ぬるい、とは?」

「励むのはお前達もだ。巫子共よ、お前達はよもやマリカにだけ重荷を背負わせ、自身はのうのうと過ごすつもりか? 狼に狩られるだけの羊として? つくづく愚かだ、笑う気も起きん」

 

 ゴッドフレイの目に侮蔑が宿る。その視線で巫子達を見渡し、彼にとっての道理を説いた。それは各地を征服し、暴君の圧政とはいえ領地を統治した経験があってこその視点でもある。

 

「マリカは神にならんとしているのだぞ。神とはすなわち国を統治する王と同意であろう。まさかお前達は、神たらんとする者を天涯孤独の身にするつもりなのか?」

「………」

「ゴッドフレイ……」

「そんな様では支配の為の傀儡、お飾りに成り下がるのが目に見えておろう。神とやらの得体の知れん力で奸臣を除いたとして、そんな真似をすれば今度は人手が不足するぞ。絶対者として君臨するまで、しなくともよい苦労をマリカにさせたいならば好きにすればよい。俺は政はやらんが、お前達には一族の仲間として、マリカの郎党として統治を助ける気はないのか」

 

 さらりと(まつりごと)に関与する気がないと表明しつつ、英雄ゴッドフレイは大母を見据える。何やら目を潤ませ、感動したように自身を見遣るマリカの目が気になってはいたが。

 大母は沈思黙考する。そして、ゆるゆると首を左右に振った。ゴッドフレイの言葉を拒絶した、というわけではない。柔和で温和、心優しき老婆は自嘲するように溢す。

 

「……巫子たる我らには、大いなる意志の神意を指様より賜り、広く伝える使命があります。それをする為にもこの地を離れるわけにはいかない――そんな頑迷なことを考えてしまった自分を、私は情けなく思いました。マリカが首尾よく神になれたなら、この地に留まる意味もないというのに」

「で、どうするのだ。生憎俺は気の長い性分ではないぞ。答えは今すぐに、ここで出せ。お前達がこの地に留まった場合、マリカが神として凱旋した時、もぬけの殻になっていてもおかしくないと弁えた上でな」

「……行きましょう。私達も、マリカと共に。いいですね、みんな」

 

 熟考の末に答えを出した大母に、ゴッドフレイは首肯する。それでよいと思いながら。

 

 これより先に待ち受けるのは大戦(おおいくさ)だ。戦争はゴッドフレイやマリカ、マリケスがいる所でだけ起こるわけではない。相手にする気にもならない雑魚を間引く兵は必要だし、兵を支える為の人民と住処もいる。支えを守る兵も、傷ついた兵を癒やす者もだ。ゴッドフレイは戦闘狂だが、嘗ての立場が長である故にそうした観点も持っていた。

 謂わば打算だ。面倒臭い諸々の雑事を押し付けられる人員が必要で、巫子達は最適の人選である。

 マリカの親族であり、癒者であり、知識層としての働きも期待できる。最高だろう。特に癒者が多いというのが今後の展望を練る上で申し分ない人材だ。兵を募り、戦いに駆り立てる上で、死を少しでも遠ざけ得る存在は兵の心の拠り所に成りやすく、拠り所を得た兵は裏切り難くなるのだ。

 

 マリカの支配を固める為の地盤は、えてして縁の下の力持ちに掛かっているもの。マリカの支配が盤石になれば面倒も減り、ゴッドフレイも外敵にだけ集中できる。マリカによし、巫子によし、自身によし、誰も損をしない。全幅の信頼を置ける腹心も、巫子の中から揃えて、鍛えていけばよかろう。

 

「ゴッドフレイ」

「なんだ」

「……ありがとう。私の為を、考えてくれて」

 

 一人満足していたゴッドフレイは、マリカの感謝を受けて胡乱な顔をした。

 大母が指揮して巫子達が旅支度を始めるのを一瞥し、心底嬉しそうに微笑む女に視線を戻す。

 

「……義理を通したに過ぎん。それに、俺にも打算はあった」

「分かっている。それでも、嬉しかった。もし私とマリケスだけだったなら、皆を私の戦いに巻き込みたくないと思い、皆をおいて旅に出ていたかもしれない。共に行っても心配無いと思えるのは貴方がいるからだ。貴方が私の王で、本当によかったよ。感謝させてほしい」

「……フン。お前もさっさと旅立ちの支度をするがよい。俺は気が短い、待つのは苦手だぞ」

「ふふっ……それも、分かっている。分かりやすい男だよ、ゴッドフレイは」

「やかましい」

 

 気丈な女傑でありながら美しく、綺麗な笑みを置いて村の中に戻るマリカの背から目線を切った。

 英雄は地べたに胡座を掻いて座り、自身の膝に肘をおいて頬杖をついて小さく吐息を漏らした。

 一つ、失点があったな、と思ったのだ。

 

 女が多すぎる。男が自分とマリケスしかいない。

 

 有り体に言って、ムラムラしてきた。

 

 背中を向けたマリカの丸い尻から、視線を切るのに苦労したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蛮地のインテリ層ゴッドフレイ
 どこを襲いどう戦うか考える人の担当。ゴッドフレイは蛮地の王たる者として、各地を侵略し制覇した征服王でもある。知識ではなく実体験で培った直感に優れる指導者で、だからこそ明らかに最初はズブのド素人であるマリカや、そういう適性や経験、関心がないマリケスにはできない発想が湧く。

巫子の村のマリカ
 廃村確定した故郷の末路に複雑な貌をする。が、納得できたからよし。全員連れて行こう。守るべき者がいる戦いでも百戦錬磨のゴッドフレイがいたらどうにかなりそうではある。そして意外と頭が良いゴッドフレイにますますトキメイている豪傑好きのマリカであった。

蚊帳の外のマリケス
 村の外で歩哨をしていたからなんにも知らなかった。巫子全員が旅に同道すると聞いても、マリカが決めたなら別に……とイエスマン化している。

巫女の村のみなさま
 黒き刃要員を大勢確保。マリカの精神安定剤でもある。行儀のよいふりは、もうやめだ。

角人
 神事の為の新鮮な素材が手に入らなくなった彼らはどうするんだろうね。素材を求めて三千里。角人の大冒険が今、始まる(マップに角の戦士、呪剣士がランダムでポップ)
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