今より俺はゴッドフレイ、戦士よ!   作:飴玉鉛

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暴竜戦争

 

 

 

 

 

 

 恐らく最も完成に迫り、完璧に近づいた御世だったのだろう。

 

 魔術師には前身があり、それは巨人の山麗にて火の巨人を隣人とした星見の者達だ。

 宇宙に運命を見い出さんとした彼らの内から、星の世紀を布くべく夜の王、すなわち神が出現した事で狭間の地は隆盛を極めたのである。

 彼らは人工的に夜空を生み出した。冷たい夜の空は星々を映えさせ、やがて大いなる意志に到達してしまう。指などの啓示がなくとも、自身らで世界の真理に触れられる領域に達したのだ。

 それが、大いなる意志の怒りに触れた。

 大いなる意志は流星を落とし、一夜にして星の世紀を終焉させたのである。栄華を窮めた幾つかの都も地下深くに滅ぼし、大いなる意志は夜の王たる狭間の神に自制と悔いを求めた。

 

 しかし、自らの律と治世を否定された神は世界を見限り、いずこかへと去ってしまう。夜の王に仕えていたエルデの王は、はじめは自らの神の帰還を待ち続けるつもりだった。

 だが神を失い独り残された王は、道理も解さぬ野蛮な暴虐と相討ち、時の狭間へと去ってしまう。こうして神と王を失った星の世紀は完全な終止符を打たれ、新たな世界の形態、黄金樹を根付かせるべく大いなる意志は一匹の獣を狭間の地に落としたのだ。謂わば壊れかけの世界、延命されるはずだった星の世紀にトドメを刺したのは、王を襲った反逆者なのである。

 

(………)

 

 古竜は星の世紀にて世界を統べた、謂わば霊長の存在。そんな古竜にとって――飛竜とは、自身らに到底及ばぬ劣等種。人間にとっての猿だった。

 はじまりは義憤だったのかもしれない。知性体が社会を構築する関係上、どうしても差別などの問題は付きまとう。古竜と飛竜にも同様の問題があり、それを是正せんと志したのかも。あるいは突然変異とも言える素質を持って生まれ、種族間の力の差を超えられる存在だったから、純然たる反発心と反骨心、上を目指す挑戦者として挑んだだけかもしれない。

 

 原初の想いは、もはや廃れた。

 

 義憤であったか、反発であったか、単なる粗暴さだったか、もはや本人にも思い出せぬ。今の彼にあるのは、己の内を渦巻く苛烈な復讐心だ。

 殺し切れなかった。

 死に切れなかった。

 強さに誇りがあったのか、拘りがあったのか、誓いがあったのか。それすら摩耗して、最後に戦った古竜の王プラキドサクスと決着をつけることのみに執着している。

 故にかつて飛竜を率いて古竜に挑んだ、飛竜の王たる暴竜ベールは――痛む傷、癒えぬ痛みに鎮まる事なき憤怒に駆り立てられ、訪れたモノを噛み殺さんとしたのだが。巨人の山麗に並ぶ標高のギザ山の頂上に訪れたモノ……白い皮を身に着けた存在は、プラキドサクスの居場所を教えると言った。

 

(………)

 

 黒炎を呼び、幾何学的な紋様が虚空に浮かぶと、そこから女の声がした。

 死を感じさせる不吉な気配の女は、言ったのだ。自身はプラキドサクスの居場所を知っていると。そして自身の要請を受けてくれるなら、プラキドサクスの居場所を教えてやろう、と。

 暴竜は、躊躇なく遣いの使者を噛み殺した。黒炎が消える間際、ギザ山より北西に位置する城砦を根城とする神人を殺し給え、という死の声が聞こえた。

 暴竜ベールは唸る。人間如き、と見下す傲慢さえも燃え尽きた。あるのはただ、古竜の王への復讐心と。煮えたぎる闘争本能、暴虐への誘いだ。

 

 ベールは、叫んだ。ギザ山が震撼する咆哮は、まだ生きていた飛竜達にまで届き。そして、古竜を裏切り飛竜についた裏切り者、古竜セネサクスもまた身を起こした。

 

 飛び立つ暴竜を見た竜達も一斉に飛び立つ。王が出陣したのだ、かつての雪辱を晴らさんと。

 ならば、ただただこの地で腐りゆくのではなく、共に戦い、そして誉れある死を選びたい。

 飛竜の群れが、一体の古竜が、空を飛翔する暴竜へ追随した。

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

「――で、伝令! 物見より伝令っ!」

 

 げに恐ろしきは闘争への嗅覚というべきか。ゴッドフレイの命を受け、斥候として走らされた兵の一人が、乗騎とした馬を潰してまで急ぎ帰還すると、覇王の勘を裏付ける報せを齎した。

 

「空を埋め尽くさんばかりのドラゴンが! この黄金郷へ、まっすぐに襲来しております!」

 

 悲鳴だった。

 目にした光景の余りの恐ろしさに、顔面を蒼白にして兵は叫んでいる。

 彼は精強な角の戦士ではない。黄金の加護を求めて旅してきた、憐れで貧弱な人間である。

 しかし彼を臆病だとせせら笑う者はなく、報告を聞いた途端に戦士が発した覇気を感じて、黄金郷を守る騎士達を身震いさせた。

 

「ドラゴン……飛竜か。所詮は空を飛び、火を吐くだけの蜥蜴であろう」

 

 竜という存在自体、狭間の外では見ることはできなかった。神の加護なき外なる世界ではドラゴンは神話の生物であり、幻想に過ぎない存在だったのだ。

 

 外なる神というものがある。狭間の地の外にも神はいるらしい。だが各地を暴れ回ったゴッドフレイですら、神を祀る者の存在を見た事はあっても、神そのものを見た試しはない。

 異形の神性。律を持つ神人ではなく、大いなる意志に連なるモノでもない、得体の知れない神秘。神の実在を知った今は、姿を晒さぬ外なる神は随分と奥ゆかしいのだなとしか思わないでいたのだが……こうして超常の世界を訪れ、マリカと出会うまで旅をした時、数体の竜と出会って殺した事があった。

 神秘はある。実在する。ならばドラゴンがいてもおかしな話ではなく、実際に(まみ)えた時は興奮して戦いを挑んだはいいものの……あの時はドラゴンもこの程度かと失望したものだ。

 だが、だからこそ知っている。ゴッドフレイが殺した飛竜が成仏せず、死に触れて霊炎竜と化した事は知らないが。ドラゴンとは基本、群れる事はないのだという事を。

 

 単独で並の人間など、軍勢ごと焼き払える生まれながらの強者だからだ。なのに空を埋め尽くすほどの群れを成しているというのは、明確な異常事態だ。

 

「――長がいるな。竜を従える王が」

「御身の下で戦うのは初となります。腕が鳴りますな」

 

 期待を膨らませるゴッドフレイは、黄金郷に建造された荘厳な宮殿にいた。二つ並んだ玉座の片方に腰掛けており、彼の階下に侍っているのは塔の街より与えられた神獣の戦士である。

 今はローデイル軍の騎士としての身分に甘んじ、以前の鎧兜を身に着けていない彼女――赤みを帯びた全身甲冑と、大きな角が目立つ兜を被った『坩堝の騎士』シルリアは猛々しく笑った。

 彼女の横には同じくオルドビス、デボニアがいる。三人とも神獣の戦士だっただけのことはあり、大槍や大剣、大槌を得物とする彼らは、坩堝の騎士達の中でも三大筆頭の座にあった。

 

 ゴッドフレイは拵えたばかりの玉座から立ち上がる。手にするのはマリカより贈られたゆえ、一応は形式的に携行するのを是とした王斧。流紋が刻まれた前史の遺物三本を溶かし、名工が鍛え直した上でマリカの祝福を施された覇王の得物だ。長柄の柄を掴み、肩に担いだゴッドフレイは言った。

 

「群れの頭は俺が殺る。俺の獲物だ」

「いいだろう。せっかく築いた街を、竜などに焼かれる訳にはいかない。飛竜の軍勢は坩堝の騎士(おまえたち)に任せる。それから――」

 

 もう一方の玉座に腰掛けていたマリカが、どこか苛立ち紛れにゴッドフレイの我欲に塗れた闘争心を肯定し、自身の階下に侍る黒獣の戦士に視線をやる。

 黒い大剣を携えた大柄な獣人、マリケスだ。マリカの黄金の視線を受けたマリケスは指令を待つ。

 

「――マリケス。私達も出るぞ。実のところ、ゴッドフレイやマリケスの力をこの目で見るのは初の戦いになる。ゴッドフレイ、マリケス、お前達の実力を私に見せてくれ。そしてこの黄金郷に救いを求めてきた全ての者へ、黄金律を代表する武威の象徴が誰か知らしめるのだ」

「御意」

 

 勅命を拝命したマリケスは頷き、主の傍らへ視線を滑らせる。

 睨むように、試すように、彼はゴッドフレイへ言った。

 

「この戦をいつぞやの続き、その代わりとしよう。お主が真にエルデの王であるならば、マリカの前で無様を晒す事は赦さぬぞ」

「眠たいことを言う。お上品な戦士を気取るなら、精々今の内から雑魚の間引きに慣れておけ。マリカの剣に徹しておるようだと、これより先も大物は俺が喰らう故な」

 

 冗談の通じなさそうな堅物に、敢えて挑発的な軽口を返したゴッドフレイは騎士達を見渡した。

 それから、マリカを見遣る。無骨で大きく、太くて硬い手を差し伸べられたマリカは、不機嫌そうな貌を途端に綻ばせて自身の手を重ねた。

 優雅に立ち上がったマリカがすぐ隣に立ったのを確かめたゴッドフレイが、王斧を掲げる。

 

「――出陣!」

 

 エンシスの城砦を陥落させた戦いは史の片隅に、ぽつんと一文が残るのみ。

 それ以前のゴッドフレイの旅路も伝聞として知られるだけ。

 

 故に、この戦こそが、黄金律の歴史に記された最初の戦いだった。

 

 

 

 前史に終止符を打った暴竜ベールと、最初のエルデの王ゴッドフレイの一騎打ち。

 

 暴竜戦争。

 

 永遠の女王マリカが、自らの王が最強だと信仰するに至った戦である。

 

 

 

 

 

 




悲報。DLCのギザ山マップ、完全に虚無化。褪せ人が行ってもなんにもない。

というのは勿体ない話ですな(意味深)
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