※誤字脱字報告は随時コメントにて受け付けております。感想も大歓迎です!
〇錬金アカデミー・廊下
廊下に響く楽しそうに騒ぐ声。
〇同
テーブルを囲み、ボードゲームに興じている宝太郎、りんね、蓮華、錆丸。
盤上は、りんねの完全な敗北を示している。
蓮華「はい、ウチの勝ちや!りんねちゃん、これで5連敗やで? (りんねの顔色を見て)てか優等生ちゃん、連敗してるやん」
りんね「(頬を膨らませて不満げに)……もう一回。次は絶対に負けないから」
宝太郎「あはは、九堂、顔がマジすぎるって! もっと気楽に遊ぼうよ」
りんね「(食い気味に)気楽に遊んでるから!……でも、次は勝つの」
負けず嫌いを発揮するりんね。その時、背後で眩い光が発生し、蓮華と錆丸が眩しそうに目を瞑る。
二人の反応を見た宝太郎とりんねは後ろを見て、目を瞑りながら光の正体を見つめる。
現れたのはクロスウィザード。
クロスウィザード「おやおや、皆さん、久しぶりですね」
宝太郎「クロスウィザード! なんでここに?」
クロスウィザード「そこのお嬢さん……久堂りんねがお困りのようだから、出てきたのさ」
りんね「……?」
クロスウィザード、テーブルの上のボードゲームの惨状をチラリと見て、
クロスウィザード「りんね、君はどうしても勝ちたいのかい?」
りんね「(曖昧に)ま、まあ……そうだけど」
クロスウィザード「そうとなれば、僕の力を借りると良いよ! 僕の力……魔法であれば、君は勝つことができるよ」
錆丸「魔法? それは一体……」
クロスウィザード「(得意げに)それは僕がりんねに取り憑くことさ。そうすればりんねは勝つことが……」
りんね「(食い気味に)それは嫌だ。自分の力で勝ちたい」
クロスウィザード「……まあそうだよね。自分の力で勝ちたいよね。じゃあこうしよう。僕は君に憑依するけど、君の意識を保ったままにしよう。その時、不思議なことにも、僕の力のみが使えるようになる。その力を自分が思うままに使いこなすことができれば、きっと勝つことができるはずさ」
りんね「……思うままに勝つ」
蓮華「けどそれって、本当にできるのかいな?」
クロスウィザード「ああできるさ。僕を誰だと思ってるのさ?」
宝太郎、視線をりんねに向け、
宝太郎「久堂、クロスウィザードの力、借りるのか?」
りんね、頷く。
りんね「私、負けず嫌いだけど……このままじゃどうやったら勝ったら良いのか、分からないし。誰かの力を借りて勝つしかないのかな、って思って」
クロスウィザード「じゃあ決まり!」
と、クロスウィザードが指を鳴らすと、姿が紫の帽子だけに変化。帽子がりんねの周囲を浮遊していくうちに、彼女の頭上へゆっくりと落ちていく。紫色の粒子がりんねの頭上から足元へ下りていくと、彼女の頭がゆっくりと俯いていく。
時計の針が空間を響かせた後、りんねの頭が上がる。長髪がなびく。彼女の瞼が開けば、紫水晶の瞳に変化している。
宝太郎「……久堂?」
りんね、自分の手元を見ながら、ゆっくりと首を動かす。
りんね「……あれ、私、今、普通に動かしてる?」
宝太郎「あ、ああ。いつもの久堂だよ」
錆丸「だけど瞳の色が違う。何というか……紫?」
りんね「えっ?」
近くの手鏡を持って、自分の目が紫水晶に煌めいていることを確認する。
りんね「(鏡を見て)本当だ……。なんだか、不思議な気分」
蓮華「不思議な気分って、優等生ちゃん、それって今どんな気分なん?」
りんね「なんだろ……いつもより不思議と力が湧いてくるって言う感じ。前のズキュンパイアに憑依されたときと同じかも」
蓮華「って言うことは……何かしらの魔法が使えるってことかしら?」
宝太郎「なあ久堂、なんか使ってみてよ」
りんね、戸惑いながらも指先を丁寧に動かし、馴れるような感じで魔法を出す。
その魔法でボードゲームが始めた頃に戻っている。
宝太郎「うおーっ! すげーっ!」
蓮華「何がすげー、や! また最初からになってもろたやないの!」
と落ち込む蓮華。心沸き立つ宝太郎はボードゲームの前に座ると、蓮華と錆丸も同じくボードゲームの前に。
りんねも座る。
りんね「さーて、どんと来いっ!」
〇同(時間経過)
時計の針が五時を回っている。
ボードゲームを片付け始める蓮華と錆丸。クロスウィザードに憑依されたりんねは宝太郎と魔法で遊んでいる。
蓮華「結局、優等生ちゃんの圧勝やったわね」
(スラッシュ)
りんねの魔法により、カードが紫の粒子と共に舞っている様子。
(スラッシュ)
錆丸「魔法と言うよりイカサマみたいな感じだったけどね……」
りんね、錆丸と蓮華に視線を向け、
りんね「んっ? 私、なんかしました?」
錆丸「あっ、ううん。全然。それにしても、クロスウィザードの魔法って強いね……。さすがレベルナンバー10の上位ケミーだけあって凄い」
りんね「それだけじゃないよ、ってクロスウィザードが言ってる」
宝太郎「それだけじゃないよ、って?」
りんね「……さあ?」
〇りんねの精神世界
クロスウィザード「僕の力は君に見せた力だけではない。きっと、りんねにふさわしい力を見せることができると思うよ」
〇戻って、錬金アカデミー
蓮華「とにかくさ、優等生ちゃんから憑依を解いてあげないと」
宝太郎「そうだね。(りんねに)その憑依ってどうやって解くの?」
りんね「多分だけど、帽子を取ればいけるんじゃないかな」
と自分で帽子を取れば、りんねの手から離れて浮遊、クロスウィザードの姿が出現する。
クロスウィザード「満足したかい? りんね」
りんね「うん。ありがとう、クロスウィザード」
〇富良洲学園・校門前(夕)
宝太郎・りんね、蓮華・錆丸と分かれて帰宅する一同。
〇住宅街(夕)
二人並んで歩く宝太郎とりんね。
宝太郎「あ、そう言えば久堂」
りんね「ん?」
宝太郎「クロスウィザードの時もそうだけど、……ケミーに憑依される感覚って、どんな感じなの?」
りんね「それは一ノ瀬も分かってることじゃないの?」
(スラッシュ)
宝太郎(ズキュンパイア憑依)「ズッキュン」
(スラッシュ)
宝太郎「え、そうだっけ?」
りんね「(気まずい表情をしながら小声で)宝太郎は意識がないときに憑依されたんだった……」
宝太郎「俺、確かにズキュンパイアに憑依されてたことは覚えてるんだけど、あの時の感覚がまるでなくてさ……。だから、意識があるときの憑依って、どんな感じなのかな、って」
りんね「……んー、意識がない時に憑依されるととてつもない快感に襲われて、眠るような感覚になるんだけど、意識があるときに憑依されると、いきなり力が湧いてくるって感じ。クロスウィザードの時は指先に魔法の粒子がたまっていって、魔法が使えそう、ってなったんだけどね」
宝太郎「へえ~、なんか良さそう」
りんね、曇る表情をして、
りんね「でもなんか、さっきクロスウィザードが私に憑依してるとき、意味深なことを呟いてたの」
宝太郎「意味深?」
りんね「私にふさわしい力を見せることができるよ、って」
宝太郎「それはボードゲームの時の力じゃなくて?」
りんね「(首を横に振って)ううん。クロスウィザードが頭の中で話しかけたの、ボードゲームが終わったときなの」
宝太郎「……ふうん。まっ、気にすることはないか」
りんね「(表情が軽くなって)そうだね、一ノ瀬の言うとおり、気にすることはないよね」
二人並んで歩く。
その様子を一枚のカード……クロスウィザードが見ていた。
〇アパート・全景(夜)
りんねが一人で入っていく様子。
〇同・部屋(夜)
鞄を置いて、ベッドに横たわるりんね。手先を操りながら空間の線を描いていく様子。
りんね「……残ってるのかな、私の中に」
窓から音。りんね、カーテンを開けるとクロスウィザードのケミーカード。
りんねが窓を開けるとクロスウィザードのケミーカードが中に入っていく。
りんね「クロスウィザード、なんで私のところに?」
カードからクロスウィザードが出現する。
クロスウィザード「単刀直入に話せば、どうやら君と僕の思いが共鳴したようなんだ」
りんね「共鳴……?」
クロスウィザード「そう。今日のことは覚えているよね?」
りんね「あ、うん。突然出てきて、私に憑依したんだよね」
クロスウィザード「その時に何も思わなかったのかい?」
りんね「……どういうこと?」
クロスウィザード「僕の思いは夢を叶えたいと言う思いがある。その思いと、君の思いが共鳴したんだ」
りんね「それって、まさか……」
クロスウィザード「そうさ、君の勝ちたい夢が僕を出してくれた。そして、君の意識を保てたまま、僕は憑依することができた」
りんね「……そうなんだ。けど、あの言葉はどういう意味なの? 私にふさわしい力って。あの時とまた違うの?」
クロスウィザード「そうだよ? だから僕はここに居るじゃないか」
りんね「……あっそっか、父に会いたいって言う夢があるんだ」
クロスウィザード「……お父さんに会いたい?」
りんね「会いたいけど……今はいい。今あったら、きっと甘えちゃう」
クロスウィザード「……君らしい選択だ。その代わり、別の選択肢を与えよう。憑依、して良いかい?」
りんね「……え?」
クロスウィザードは紫の帽子に変化し、そのままりんねの頭上へ。紫色の粒子が頭から足元へ覆い被さると同時に、りんねの頭が静かに俯く。カーテンが風に揺らされる中、りんねは静かに顔を上げて、紫水晶の瞳を開ける。
りんね「……あれ、私」
クロスウィザードの姿がいないことを確認し、姿見で自分の姿を見る。瞳が紫水晶に変化していることや、頭の上に紫の帽子があることに気づく。
りんね「(鏡に向かって)クロスウィザード、どうして私にまた憑依したの?」
鏡の中のりんねが仰々しい態度を取りながら、
鏡りんね(クロスウィザード)「それは君の本心に気づいたからだよ。君って、表では感情を露わにしないけど、結構欲深いところがあるんだね」
りんね「どういうこと?」
鏡りんね(クロスウィザード)「君って、誰かを支配したいって言う気持ちが大きいんだね」
りんね「えっ」
鏡りんね(クロスウィザード)「思い当たる節はない? 例えば誰かを好きになってる時、支配したいって」
りんね「……ない。けど……」
鏡りんね(クロスウィザード)「けど?」
りんね「多分、一ノ瀬が他の人と話していたり、他のケミーと絡んでいたりしてるところを見ると、自然と良いなって思うの。それは支配じゃない何かの欲望、なんだと思う」
鏡りんね(クロスウィザード)「……そうだね。確かに、僕が見てきた君の欲望と重なる」
りんねの頭上から紫の帽子が離れていき、クロスウィザードがりんねの隣に出現。
クロスウィザード「どうやら僕が思い違いをしていたようだ。邪魔させて悪かったよ」
クロスウィザード、カードの中に入っていく。
りんね、そのカードを拾って、和やかに笑う。
りんね「ありがとう、クロスウィザード」
クロスウィザードがカード内で頷いた。