ちょっと遅くなりました、申し訳ありません。
「「「……………。」」」
アリーナの喧騒が聞こえてくるほどに静まり返ったピットの中で、僕と鈴とセシリアはずっと黙っていた。
僕達の頭の中に浮かんでいるのは先程までの襲撃者によるハプニング、そして今はここに居ない一夏のことであった。
と、その時プシュッという音とともにドアが開き、弾かれたようにそちらを見る。
「3人共ご苦労だった。」
労いの言葉とともに織斑先生が入ってくる。
「後のことは教師陣に任せろ。
お前達のおかげで、大きな被害も回避された。」
「千冬さ…織斑先生、あの…。」
「一夏さんは…。」
2人が一夏の容態を尋ねる。
「織斑なら先程目を覚ました。
致命的な怪我は無いが、全身に軽い打撲。
衝撃砲の最大出力を受けていながら、よく死ななかったものだと言いたいくらいだ。
…我が弟ながら、あの無鉄砲さには呆れさせられる。」
織斑先生が少し微笑みながらそう言って、僕達は一先ず安堵する。
「今回の事件は他言無用としてもらう。
…幸いにもすぐ連休に入る。
それぞれ、体を休めておいてくれ。」
「「はいっ!」」
そう言うと、鈴とセシリアは一夏の見舞いに行ってしまった。
ピットに僕と織斑先生だけが残される。
「まだ聞きたい事がありそうだな、神名?」
そう言いながら、織斑先生はベンチに腰掛けた。
僕も織斑先生と向かい合う形でベンチに腰掛ける。
「…織斑先生、箒はどうなりましたか?」
「篠ノ之はしばらく謹慎室に入ってもらう。
これでも軽いほうだろう。
放送室にいた者たちを危険に晒したのだからな。」
織斑先生から箒の処遇を聞き、妥当なものだと考える。
彼女の行動には目に余るものがあった。
特に今回の件は、結果的に他の生徒を命の危険に晒すことになってしまった。
箒に必要なのは、自分自身を律することだろう。
「…あのISは学園側が用意したサプライズとかでは無いですよね?」
「当然だ。」
顔を顰めしながら、織斑先生は言った。
「あんな生徒の命に関わるもの、私達がするはずもない。」
「…ですよね。」
となると、外部からの襲撃か。
「そういえば、あのISは執拗にお前のことを狙っていたな。
…何か心当たりがあるか?」
「ある訳ないでしょう。」
そんなのはない…はず。
そもそもこの世界に来てまだ1ヶ月ほどしか経っていないのだから。
心の中だけで呟く。
「ふむ…、それにしてもお前の指揮には驚かされたぞ。
教師が来るまでの時間稼ぎをと考えていたが、まさか倒してしまうとはな。」
「倒す為の案を出したのは一夏ですよ。
最初聞いたときは、上手くいく可能性も低いと思ってました。」
「そんな作戦をお前は成功に導いた。
指示を出すだけでなく、自ら前に立ち上手く立ち回っていたじゃないか。
前々から感じていたが、お前は明らかに戦闘慣れしている。
一体どんな人生を送っていたのやら。」
織斑先生は不敵に笑いながら、僕を見る。
「…織斑先生、あの___
「今は先生などとつけなくていい。
これでも私は事後処理で結構参っている。
今は個人的にお前と話していると考えてくれ。」
ふっ、と軽く息を吐いて、織斑先生は言う。
「私はお前の事を評価している。
1年の中でお前ほど相手を分析し、どんなに
「…千冬さん、オルフェウスの弱点に気づいているんですね。」
「お前の機体のあの竪琴のような武器は第2世代の武装と同等レベルのものだ。
そうでありながら、一夏はともかく代表候補生であるオルコットにも勝利しているのだからな。
お前の戦い方は他の者達にも見習ってもらいたいものだ。
…まあ、今回の戦闘でその弱点も克服したようだが。」
千冬さんはジロリと僕の顔を見てきた。
「一体、あの武装はなんだ?
今まで隠していたのならば、手加減していたとしてお前に対する評価を取り消させてもらうが。」
「土壇場で使えるようになったんですよ。
正直、僕自身アレの事はまだよく分かっていません。」
「…そうか、ならいい。
コロコロと姿が変わっていたが、幾つぐらいあるんだ?」
「わかりません。
ただ、これからも増えていくかと…。」
「そうか、周りからすればお前はさらに厄介な相手になったということだな。」
千冬さんは皮肉めいた言い方をする。
これから先模擬戦をした時に皆に文句言われるだろうなぁ、などと考えるとげんなりしてくる。
「さて、そろそろ私も仕事に戻ろうと思う。
何か他に聞いておく事はないか?」
「…じゃあ、最後に一つだけ。」
と、僕は千冬さんの顔を見る。
「今回の襲撃、逆に千冬さんに心当たりはないですか?」
しばらく沈黙が続いたが、やがて口を開いた。
「…あるにはある、だが私には分からない。」
千冬さんは少し悲しげな顔をしながら立ち上がる。
「
そう言い残し、千冬さんはピットから出て行った。
1人残された僕は彼女が出て行ったドアをしばらく見つめていたが、一夏の様子を見に行こうと思いベンチから立ち上がった。
………
……
…
「あっ、かみなん〜。」
「神名君!怪我とかしてない?」
廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこにはいつもの四人組が近づいて来ていた。
「本音に癒子、さゆかにナギじゃないか。
僕は平気だけど、皆は大丈夫だった?」
「えへへ〜、ちょっと怖かったけど大丈夫だったよ〜。」
「観客席すごいパニックになってたけど、神名君達が戦ってくれてたからだんだん落ち着いて行動できるようになったんだよ。」
「ほんと、神名君達のおかげだよ!」
3人が口々に話しかけてくるなか、ナギは顔をうつむかせて黙っていた。
「…ナギ?」
僕が声をかけると、ナギはゆっくりと顔をあげる。
ナギの顔を見て、僕は驚く。
彼女の目には涙が溜まっており、口元も震えていたからだ。
「……神名君っ!」
!?
ナギに抱きつかれてしまった!?
「怖かったよぉ…。」
僕の胸の中で彼女は泣き始める。
…落ち着け、落ち着こう僕。
こんな時こそ冷静に、クールにだ。
「…だ、大丈夫だよ。
もうアレは動かないし、同じようなのがきてもまた僕達で___
「グスッ…、…そうじゃなくてぇ…。」
ナギはしゃくりあげながら、僕を見上げる。
「神名君が、大怪我しちゃったらって考えたら、グスッ、私怖くて怖くて…。」
そう言うとナギは再び僕の胸に顔をうずめ、大声をあげて泣き始めた。
僕はそんな彼女の姿を呆気に取られて見ていたが、片腕で彼女を抱き返し、もう片方の手で頭を撫でる。
「…大丈夫だよ。
心配してくれてありがとう。」
いつの間にか本音達はいなくなっていた。
気を利かせたのか、はたまた情報を拡散させに行ったのか、…おそらく前者であろう。
心の中で本音達に感謝しつつ、ナギが泣き止むやで彼女の頭を撫でてあげた。
彼女からの想いを確かに感じながら。
泣き止んだ彼女は、ふと我に返り顔を真っ赤にして立ち去ろうとした。
ナギが逃げちゃう前に手を掴んで引き留め、改めて感謝の言葉を言うと、頭から湯気が見えた気がするほど顔を更に赤くして走り去ってしまった。
なんだかすごく心が洗われた気がした。
そんな事もありつつ、一夏のいる医務室へ向かった。
中に入ると、鈴とセシリアが何やら揉めていたようだが、僕の登場で落ち着いたようだった。
「おう、理!」
「一夏、体は大丈夫なの?」
「ああ、平気だ。」
一夏は笑みを浮かべながらそう言った。
「…理さん、何か良い事でもありましたか?」
「そうよね、心なしか顔が明るく見える。」
鈴とセシリアは目ざとく聞いてくる。
僕は微笑みながら答えを返す。
「別に。
…ただ、僕も幸せ者だって話。」
これにて1巻分は終了です。
次からは2巻の内容に入っていきます。
最初の方はちょっとした日常編みたいなのをお送りしてからストーリーに入りたいと思います。
ちょっと時間があくと、文章がおかしく感じてしまう…。