ひとりぼっちがふたり 作:テクニカル古則おじさん
「ただいま~って……寝ちゃってるねぇ」
女子三人が学園祭準備室に戻ってるとコウヤから返事がなく、離席しているのかと思いきや、彼専用のベッドと化しているソファーの上で眠っているのを確認した。
「今日はぐっすりですね」
ノノミがソファーの後ろからコウヤの顔を覗くと、普段の悪夢に魘されている苦しそうな物とは違い、その寝顔は穏やかだった。
最近の出来事で何か変化があったとするならば──
「……シロコ……」
コウヤが溢した寝言が答えだった。
その瞬間、ホシノとノノミに電流が走り、アイコンタクトでの声の無い会話が始まる。
(やっぱりそれか~! おじさんまだそういうのはコウヤには早いと思うんだけどなー!?)
(で、でも、春になったら高校生ですよ!? そもそも今までの女の子ばかりの状況でそういうことになってなかったのがおかしいのでは!?)
二人は恋愛経験皆無なのだが、そこはやはり年頃の女子なのか、すぐ近くから発せられる恋愛の波動のせいで浮足立ってしまう。
そもそもコウヤ本人から事実確認を取っていないのだが、その是非は関係なく、コイバナという可能性その物に二人は食いついていた。
「ん、呼んだ?」
名前を呟かれたシロコが反応する。
ホシノとノノミの二人は即座にコウヤ達から距離を取って、ホワイトボードの後ろに隠れてホワイトボード本体と粉受けの間から二人を見守る。
「ホシノ先輩。なんで私の名前呼ばれたの?」
寝言で名前を呼ばれた意味が分からず首を傾げながら、珍妙なことをしているホシノに疑問を投げ掛ける。
「さ、さぁ……? 夢の中でシロコちゃんでも出てきてるんじゃないかなぁ?」
「……なんで? ノノミは分かる?」
目を泳がせて雑な誤魔化すホシノに半目を向ける。
結局コウヤの夢の中に出てくる理由が分からず次はノノミに振る。
「な、なんでしょうねぇ? 私はそういう経験無いので詳しくなくて」
「どういう経験?」
誤魔化そうとして墓穴を掘ったノノミに今度はホシノが半目を向ける。
ここでコウヤはシロコのこと好きなんだぜ的なことを言ってしまえば彼の初恋が粉微塵になって、二度と立ち直れない可能性すらある。
「ん、本人に聞く。起きて」
「シロコちゃーん。それは絶対にダメ」
二人に聞いても意味がない。コウヤの肩を揺すろうとするシロコをホワイトボードの裏から飛び出した二人が止める。
そうこうしているとコウヤが目を覚ました。
「帰ってきてたのか……ごめん、寝ちゃってた。おはよう」
寝起き特有のぽやっとした雰囲気からすぐに周囲の様子が変だと感じて、いつもの雰囲気に戻って頬を掻く。
「ええと……なんかあった?」
「コウヤ──むぐ」
シロコが何かを言いかけたが、彼女の口をノノミが手で塞いだせいで、その日は有耶無耶になった。
●
季節は流れ、寒い冬も終わり、アビドスにも暖かく桜の咲く春が訪れた。
「うんうん。三人とも似合ってるよ」
体育館で脚立で固定されたカメラに花束を持った三人の新入生の姿が写る。
ようやく正式にアビドスの生徒になれたコウヤ。
家が用意してくれたポストを蹴ってでもこの場所を好きになってしまったノノミ。
拾われた時よりは人らしく、少女らしくなってきたシロコ。
かつてキヴォトス最大のマンモス校と謳われたアビドスの新入生としては少ないものの、二人から四人になったのだから、生徒数だけは倍になった。
物は言いようである。
(本当はユメ先輩に見てもらいたかったけど……写真で我慢してもらおう。多分、見たかったーとか言うんだろうな……)
折角の入学式だというのに、それを一番楽しみにしていたであろう人物はもう居ない。
もう会えない人間の思考の答え合わせなど、できる筈がない。
嬉しいイベントの筈なのに、アンニュイな感情の方が勝る。
「コウヤもこんなに大きくなっちゃって……」
「親みたいなこと言う……そういうのじゃないだろ」
名前を付けて、今はそんなことをさせる訳にはいかないが戦闘技術も授けて、ユメが遺したものの一つとも言えるコウヤがアビドスに入学してくれることに、ホシノが感慨に耽ると
「あの頃はやんちゃもしないし、優しい良い子だったのに。よよよ……」
「あらあら、泣かせちゃいましたね……ダメですよ」
「ん、泣かせた」
泣き真似をするホシノに乗っかったノノミとシロコに白眼視される。
反抗期の男子扱いされると、特にノノミには荒れてた頃の一部を知られているため反論できずに白旗をあげる羽目になる。
「嘘だろ。これ俺が悪い流れなの?」
「ほーい、じゃあ撮るよー」
程よくコウヤの緊張が解れたのを見計らったホシノがカメラのシャッターを切る。
(桜の下には……って昔ユメ先輩が教えてくれたっけ)
入学式が終わって、ある程度カリキュラムをこなしてから解散となった。
「コウヤ」
一人で桜を見ながら思い出に浸っていると、背後からシロコに声を掛けられた。
振り向いてみると彼女はサイクリング用のヘルメットとウェアを身に付けている。
そこそこ良い値段の自転車を使っているらしく、本格的に力を入れている趣味がある彼女を羨ましく思う。
「一緒にサイクリング行こう」
「急に? 自転車二台持ってたっけ?」
「今のやつの前に使ってたやつを貸してあげる」
どうやら予備機があるらしく、校門近くの生徒用の駐輪場に停められていた自転車に乗って二人並んでサイクリングを始めた。
コウヤは自転車に乗るのは初めてだったが、意外と乗れてしまって自身でも少しだけ驚いていた。
「風、気持ち良いな」
「ん……」
その日はまだ体力に余裕があり、数十分と漕いでいても疲れを感じない。
しかし、途中からシロコの先導が妙に狭い道だったり、街外れの方に進んでいって、流石に何か違和感を持ち始めた。
「なぁ、さっきから、変なとこ行ってないか?」
「ん、今通ってる道は銀行強盗する時の逃走ルートだから覚えて」
「ぎ、銀行強盗……?」
アビドスの近くにあるクリーンな銀行が見える位置でブレーキをかけて、恐らくターゲットであろう建物をシロコが指差す。
「毎日このくらいの時間に輸送車が戻ってくるから、そこを襲う」
「襲うな! そういうのダメってホシノ先輩から言われてるだろ!」
「銀行強盗はまだ禁止されてない」
古鉄屋から金属を奪ってそれを売って、また奪っての闇の錬金術を実践しようとして、ホシノに怒られたことはあったが、銀行強盗は試してすらいない。
だから、禁止されてない。そういう理屈らしい。
「そういうことじゃないから! 普通にサイクリングするんじゃないのか」
「……わかった。じゃあ200km走ろう」
それはそれで、そちらに興味を持ってもらえるならライディング仲間が増えて万々歳なシロコは自分の基準の距離をコウヤに求めてしまった。
そもそも体力的にも100kmだろうと無理なのだが、銀行強盗に傾倒されるくらいなら、体力を要求される方がマシだと判断した。
が、結局1kmも走れず、へとへとになって学校に戻った。
多分次で結構時間飛びます。
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