ひとりぼっちがふたり 作:テクニカル古則おじさん
「うーん。この辺りに昔の生徒会の隠し財産が埋まってるって聞いたんだけどなぁ……」
アビドス高等学校生徒会、生徒会長の梔子ユメは埋蔵金の噂を聞いてアビドス自治区の境界線ギリギリの生徒会にある出張所跡地に来ていた。
瓦礫も撤去されて何もない荒野同然の場所に何かある筈もなく、同伴した小鳥遊ホシノは期待した自分も馬鹿だったとため息を吐く。
「だから、詐欺だって言ったじゃないですか!」
「えぇ……ホシノちゃんもちょっと期待してたと思うんだけど……」
「と、とにかく帰りますよ!」
「待ってよホシノちゃん! ……ってアレ?」
ずかずかと足音を立てて自治区の方に戻っていくホシノを追いかけようとしたユメが視界の端に違和感を捉える。
そんな彼女の様子にまた変なモノに釣られて、時間を浪費しようとしているのを止めさせるために振り向く。
「だから早く帰るって──」
「ホシノちゃん。人が居るよ! ほら、あそこ!」
ユメが指をさした先には頭にヘッドセットを着けた少年が眠っていた。
着ている服はボロボロで栄養が足りていないのか肌の艶も悪く、黒鉄色の髪も長いこと手入れされていないのか伸びっぱなしでボサボサで、一目見ただけで行き倒れの浮浪者だと分かる。
「……あの、もしかして」
普通であれば関わりたくはないのだが、ホシノはどういう展開になるのか読めていた。
「保護しなきゃだよね! こんなとこであんな格好してて困ってない訳ないよね!」
「あぁ……やっぱりこうなるんですね……」
身長はホシノより若干高いくらいの少年をユメが背負って三人でアビドスの生徒会室に戻る。
道中で起きたら移動しながら事情を聴こうと思ったのだが、生徒会室のソファーの上に彼を置き、ヘッドセットを外して起きるのを待っていると、夕方頃に彼は目を覚ました。
「起きた? 大丈夫? 何処か痛くない?」
「……誰?」
「あ、ごめんね。私は梔子ユメ。こっちの可愛い子が小鳥遊ホシノちゃん」
「今、可愛いって情報要りました?」
「うん!」
ユメにとってホシノは可愛い後輩なのだから、そこだけは譲れない。
「それで、君の名前は?」
「わかんない……」
少年が首を横に振る。
「そっか……どうしてあんなとこで寝てたのかも分からない?」
「……わかんない」
少年が首を横に振る。
「お家も?」
「……わかんない」
少年が首を横に振る。
「去年のアビドスの生徒会長は?」
「誰?」
「すぅー……そっかー……そこのカラスさん何か知ってるー?」
自分の名前すら知らず、困っているユメを見てキョトンとしている少年から情報を得られそうにないと判断した彼女はたまたま窓の外を飛んでいたカラスに訊ねてみても何も返っては来なかった。
「ホシノちゃん。この子記憶喪失だよぉ!?」
「最後ちょっと遊んでましたよね?」
確実にわざとやっていたことを察したホシノが半目でユメにツッコミを入れる。
こほん。とユメが咳払いをして誤魔化しながら改めて少年に向き直り膝を折って視線の高さをを合わせる。
「名前すら分からないなら、呼ぶための名前が必要だよね」
結果として、少年は記憶がない。カラスに聞いても分からないのであればどうしようもない。
彼が記憶喪失であろうと、ユメのやることは決まっていた。
「……捨て犬を拾うのとは訳が違うんですよ?」
「だからだよ。無責任に拾わずに、最後まで責任を持ってこの子がちゃんと思い出せるように手伝ってあげるの」
記憶がないのなら、なおのこと放ってはおけない。
いつもの柔らかい雰囲気とは違い、真剣な瞳でホシノに訴える。
そう言って面倒を見るのは自分なんだろうなとホシノは心の中でうへぇとため息を吐く。
「……あー、もう。分かりましたよ。ただその子が思い出したら終わりですからね」
「うん! 話は戻るけど、名前付けてあげようよ」
どうせユメに任せていたらワンコくんとかクロスケとかそういう名前になりかねない。
変なことを言う前にホシノがなんとか頭を捻らなければならない。
「コウヤ。とかどうです?」
「虹の矢ってこと? 良い名前だねぇ」
荒野みたいな場所で見つけたから。というのは安直だと思うが、ユメに別の意味として解釈された。
「あ、いや……まぁ、それでいいです」
彼女の解釈の方が名前としては綺麗だとも思うため、ホシノは特に何も言わず。彼の名前が決まった。
その日はシャワーで身体を洗ってもらって、その間にコウヤの寝床や翌朝までの食事を生徒会室に用意して、一時的にそこで寝泊まりをしてもらうことになった。
「おはようございま──って何やってるんですかユメ先輩」
そして、翌朝。コウヤを生徒会室に寝かせたままであったため、気になって様子を見に来たホシノの目には這いつくばったユメが下着が見えるギリギリの角度まで腰を上げて備え付けのソファーの下を必死に探している姿だった。
「コウヤくんが居ないんだよー! 鍵も閉めたままだったのに!」
部屋の中を観察すると、特に生徒会室は荒らされてる様子もなく、開け放たれた窓以外は特に変わった様子はなく。答えは示されていたような物だった。
「ユメ先輩。多分窓からどっかに行ったんじゃないかと」
「えぇ!? 置いていったお菓子とかも手付かずだったし、きっとお腹空かしてるよぉ!」
「そこですか。まぁ、何かあってからでは面倒ですし、探しましょうか」
ソファーの下から出てきたユメの気にする点がそこなのかとツッコミつつも、実際に事情も知れない生徒が騒ぎを起こしてからでは遅い。
しかし、元マンモス校のアビドスの校舎を探すとなると、今は学校の抱える借金のせいで敷地は減ってはいるがかなりの手間だ。
「何してるか知りませんが。さっさと捕まえて説教です」
「ホシノちゃん……! なんだかんだこういう時優しいよね。そういうとこ良いと思う」
「優しいのは私ではないですけどね」
本当に優しいのであれば、遠回りな前置きもせずユメのように心配が先に来るべき筈である。
それに保護することも、ただでさえ人も時間も金もない今そんなことをしている余裕はないとさえホシノは考えている自分が優しいだなんてちっとも思わなかった。
しかし、ユメがアレだけ心配している以上は、コウヤのことを探さなければ他の事にも手が付かないことは想像出来る。だから捜索をするだけで、その後のことは考えてなかった。
(生徒会室の高さを考えると、視界の悪い夜に窓から降りるとは考え難い。だから、活動時間は三時間前後か──)
ホシノがコウヤの居場所を絞り込もうと思考を巡らせていると、生徒会室の扉が開かれる。
入ってきたのは何処から捕まえてきたのか、抵抗出来ないように脚と胴体を縛った状態で生け捕りにした鶏を抱えていた。
「ユメ、ホシノ、居たんだ」
「居たんだ。じゃないでしょー!」
コウヤが何食わぬ顔で生徒会室の机の上に置くとびくびくと身体を震わせた鶏が暴れ始める。
それをよそにユメがぷんすかと擬音が出ていそうな膨れ顔で、コウヤの肩を揺する
「心配したんだよ! あと、朝会ったらおはようの挨拶でしょ!」
「おはよう」
「ユメ先輩、そこじゃないです。鶏、鶏を持ってることに疑問を持ってください」
ホシノに指摘されて机の上に置かれてのたうち回っている鶏を視界に入れて、突拍子もない鶏に困惑する。
「えっ、鶏……なんで鶏……?」
「落ちてたから食べる」
どこの鶏なのか分からなかったため、アビドスで飼うことになった。