ひとりぼっちがふたり 作:テクニカル古則おじさん
コウヤがアビドスに馴染み始めた頃。
実年齢を中学三年生の十五歳と仮定して、来年度に正式に入学の予定になり、今はアビドス生徒会を手伝っている。という風に対外的な立ち位置が定まった。
数ヵ月間ちゃんとした栄養と訓練を積んだお陰か、コウヤの背丈もすっかり伸びて、ホシノの身長を抜き去っていた。
(帰りに卵とパンと……米もどっかで買わないと)
アビドス生徒会が今抱えている借金の事情を知ってもなお、ここに居ることを選んだ。
少しでも借金を減らすためにも、できることはしておきたかった。
今日も今日とて、恩返しの為に生徒会室に顔を出す。
「おはようございま──」
「おはようー」
そして、生徒会室の中に居たユメが学校指定の水着姿だったことを認識した瞬間に扉を勢いよく閉めて見なかったことにした。
「コウヤくんどうしたの? 熱でもあるの?」
「生徒会室で何やってんです!?」
「エアコン壊れちゃって暑くて干からびそうだったんだよぉ……」
「はよ着替えてください!」
心配したユメが扉を開けて顔だけ出して、コウヤの顔を見ると顔が真っ赤になっていた。
元々が女所帯で最初は気にしていなかったのだが、段々とホシノに情操教育を仕込まれたお陰で、ユメのスキンシップや緩さが自分には毒だという認識が出来ていた。
「コウヤくん。昔は頭撫でたりとかぎゅってするの嫌がらなかったよね。これって反抗期かな? 反抗期だよね。よよよ……」
「お母さんの情緒。そういうのじゃなくて、男の俺が居るんだから気軽にその手の格好するの良くないでしょう」
泣き真似をするユメに呆れながら、彼女の方を向こうとするも、顔から下を想像しそうになり頭を左右に振って振り払った。
「良くないこと、するの?」
「それは絶対ないです」
「なら大丈夫だね!」
「そういうとこです。ユメ先輩」
弱いくせに簡単に人を信じて騙されて、酷い目に遭って、そんなユメをホシノとコウヤが助けに行って、骨折り損のくたびれ儲けをする。
恩もあるが、それ以上に前生徒会に生徒会長を押し付けられて、既に何人もの生徒が廃校前に転校してしまっている泥舟を諦めずにどうにかしようとする彼女を放ってはおけない。
そんな理由で四六時中ユメと共に居て彼女を守っているコウヤについた渾名はアビドスの番犬だった。
「ごめんごめん。着替えるからちょっと待っててね」
からかい過ぎたと反省したユメが生徒会室に着替えに戻る。
今日はホシノから用事があって来れないと連絡を受けたため、一人で守らなければいけないと思うとより一層決意を固める。
(全く、俺だって男なんだぞ……)
着替え終わったユメに中から呼び出されて、エアコンのカバーを開けて中身を調べる。
この夏にエアコン無しで過ごすのは、厳しいものがある。既に二人とも制服が汗ばむくらいにはアビドスの猛暑は凄まじい。
「新しいのを買うか修理するかしないと駄目ですね……新しいのを買うお金も業者に直してもらうお金もないんで、俺が直します」
「やっぱりコウヤくんは器用だよね。ホシノちゃんが水浸しになりながら直そうとしてた水道もささっと直してくれたし」
「二人がそういうの苦手だから、俺がやってるだけですよ」
エアコンのカバーを閉じて、必要な部品をリストアップして、二人で買い出しに出る。
ただの買い出しではなく、パトロールも兼ねていて、自治区に居る生徒は生徒会の三人だけだが、生徒だけでアビドスが構成されている訳ではない。
矯正局から脱獄してきた不良やブラックマーケット代わりに闇取引をしている生徒を捕まえることも、アビドス生徒会がやらなければならないことだった。
「ホシノちゃん居ないけど大丈夫かなぁ。私は弱いから二人に迷惑掛けっぱなしだし……」
「そりゃ、先輩が強くなれば良いだけなのでは?」
市街地を二人で歩いていると、ラーメン屋の暖簾が見えてきた。
コウヤがアビドスに来てすぐの頃、ユメに連れてこられてから、そこのラーメンが彼の好物になり、かなりの頻度で食べに行っている。
過疎が進んでバイトが辞めていくせいで、大将が誰か都合の良い存在が居ないかと、コウヤも相談を受けていた。
「紫関ラーメン、食べたい?」
「エアコン直したらにしましょう。まだ買い出しすら終わってないんですから」
正直言えば食べに行きたいが、労働の後のご褒美にすれば、ただでさえ美味しいものが更に美味しく食べれる。
それに、これから一仕事あるのに、先に腹を満たすと動きたくなくなる。
「じゃあ早く終わらせないとねー」
「……なんで先輩が嬉しそうなんですか?」
エアコンの修理は急務ではあるが、ユメが自分以上に懐かしそうな、嬉しそうな表情をしているのを見て疑問をぶつける。
「だって、紫関ラーメン食べてる時のコウヤくんは前のまんまだから可愛いんだもん」
「前って……まだ一年も経ってないのに」
「でも、それくらい君は成長できたってことで、それはとても良いことなんだよ」
肉体的にも精神的にも急成長したコウヤにユメは驚きを隠せないが、別にそれ自体は悪いことじゃない。
あの時、捨て犬みたいに荒野で捨てられていた少年が自分の得意なことや、やりたいことを見つけて、更に後輩になってくれるという状況は、ユメにとってホシノが生徒会に入ってくれたことと、同じくらいに奇跡だと感じている。
「……あー、もう。そういうの恥ずかしいからやめてくださいよ」
「あ、待ってよー! コウヤくん、こういう時結構恥ずかしがり屋さんだよねー!」
慈しみに溢れた表情のユメからそんなことを言われて、恥ずかしさが勝り、足取りが早くなる。
さっさと買い出しも修理も終わらせてラーメンを食べたい。というのは嘘ではない。