ひとりぼっちがふたり   作:テクニカル古則おじさん

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Gloam

 射撃訓練のために校舎の屋上に置いた的を狙ってスナイパーライフルの引き金を引く。

 一時的に借りていた筈のスナイパーライフルも、もう自分用のカスタムを施して身体の一部のように馴染んでいた。

 

「……全弾命中」

 

 弾丸が的に命中したのを確認したら、的を片付けて風の入らない屋内でスナイパーライフルの整備を始めると、コウヤとは反対側の壁にホシノが座った。

 

「そろそろ狙撃の距離もここじゃ足りなくなって来たんじゃない?」

「借りれる場所もないし、今のままで……いや、今のままで居られるのが一番難しいんだよな……」

 

 膨大過ぎる量の借金が学生三人で返せる訳もなく、利息を払うだけの日々が続いている。

 このままでは廃校を防ぐ手段もなくなってアビドス自治区が無くなるのも時間の問題だった。

 

「色んなことが分かってきて、やれることも増やしてきたけど……ままならないですね」

「実質中学生がそんなこと考えるもんじゃない」

「ホシノ先輩だって一個上の高校一年生じゃないですか」

 

 もう、どうしようもないことなんて、二人もとっくに理解していた。

 それでもアビドス復興を心の底から信じているユメを見ていると、どうにかなるんじゃないかという現実味のない夢を見させられていた。

 

「……俺、アビドス高校に入学して、卒業できますかね?」

「ユメ先輩はさせるって言うだろうけど、三年生は来年卒業だし……私に頼み込んで来そうだけど」

「じゃあ、ホシノ先輩。お願いしますよ。今年も二人ですが、来年は俺と二人の生徒会になるんですから」

 

 その話を本人にしたら、自分が見届けられないと言うだろうが、同時にきっと絶対にOBとして見に来る。とも言うことも想像に難くなかった。

 それがユメとコウヤが行方不明になる四十日前のことだった。

 

 

 ●

 

 

「あれ、なんで、俺こんなとこに……」

 

 コウヤが目を覚ますと、視界に入った天井は恐らくアビドス校内で、鼻をアルコール臭が刺激する。

 身体を動かそうとも全く言うことを聞いてくれず、立ち上がることすらできない。

 

(何があったんだっけ……確か、ユメ先輩とホシノ先輩が喧嘩して……それで……途中まではユメ先輩と一緒だったんだけどな)

 

 直前に何があったかを思い出そうとするも、記憶が途切れていて、直前のことが何も思い出せない。

 枕元に置いてあったスマホを何とか操作して、電源を付ける。

 

(……日付が記憶してた日から一ヶ月以上経ってる。嫌な予感がする。とりあえず連絡して状況を聞かなきゃ)

 

 スマホが示す日付や凄まじい量の着信を見て、嫌な汗をかきながらもグループチャットに連絡を入れると、ホシノからすぐ行くとだけ返信が返ってきた。

 

「……起きたんだ」

 

 程なくしてホシノがやってきた。彼女は何日も寝てないのか酷く窶れていた。

 そんな姿にぎょっとしてしまったが、それよりも聞かなければいけないことがある。

 

「ホシノ先輩。何があったんですか? 俺、よく覚えてなくて……ユメ先輩と先輩が喧嘩しちゃってユメ先輩と砂漠に行ったことは覚えてるんだけど……それしか覚えてなくて……」

「……覚えてないんだ。ユメ先輩がどうなったのか」

「それって……どういう……」

 

 その先は聞かなくても、想像できなくはない。しかし、したくない。自分だけ目が覚めて、一緒に居た筈のユメが居ればいつものように過剰な程の心配を寄せてくれる気がしたのに、今そうなっていないことに、呼吸が荒くなっていく。

 

「落ち着いて。落ち着いたら……ちゃんと全部話すから」

 

 ホシノはユメがよく持ち歩いていた飴を過呼吸になり掛けたコウヤの口に入れて、抱き締めて頭を撫でる。

 その飴はよくコウヤもユメから貰っていて、慣れ親しんだ味で、昔、初めて舐めた時も戦闘で怪我をして同じようなことをされていたのを覚えていた。

 

「ホシノ、先輩。ユメ先輩は……どうなって……?」

「大丈夫。大丈夫だよ」

 

 頑なにユメがどうなったか言わないホシノの様子が真実を語っていた。

 それを認識すると同時に涙と震えが止まらなくなる。

 こんな筈じゃなかったのに、番犬と呼ばれて良い気になっていた? 希望さえ持っていれば、いつかは報われると信じていた?

 そんな思考がぐるぐると脳内を蹂躙して嗚咽が漏れる。

 

「な、んで……どうして……」

「言わなくて良い。それから先の言葉は絶対に言わないで」

 

 情けない。

 ホシノだって、いや、ユメと喧嘩別れになったホシノが一番辛い筈なのに、後輩とはいえ男の自分が慰められていることに、コウヤは無力感に溺れたまま気絶するように眠った。

 それからしばらくが経ち、何とか歩けるようにまで回復したコウヤは砂まみれになっていたスナイパーライフルの手入れをして、リハビリも兼ねた射撃訓練を行っていた。

 

(……身体が重い、狙いが定まらない……何があったか思い出せないくせに、身体だけはボロボロになって言うことを聞いてくれない……)

 

 コウヤの身体は銃の反動に耐えられる身体ではなくなっていた。

 体力も衰えて、少し走っただけでも息が上がって、動けなくなる。

 こんな身体では戦闘に参加などできるわけがない。

 

「そういうこと、もうしなくて良いよ。おじさんが全部やるから」

 

 リハビリに付き合っていたホシノがコウヤからスナイパーライフルを奪い取って、安全装置をロックする。

 

「……ホシノ先輩に全部任せるのは──」

 

 あの日を境にホシノは人が変わった。

 おじさんという一人称はさておくとして、ユメを真似て、彼女を失って欠けてしまった穴に合わせて自分を加工してその穴に自分を押し込んだ。

 コウヤの入学も卒業も、もう見ることはできなくなってしまったユメの代わりになろうなんて自分にはできない。と理解していても、ホシノはそれを選んだ。

 

「おじさんが何とかするって言ったんだし。だから安心して良いよ」

 

 誰かを守れることができなかったから、今度こそ誰も傷付けないという覚悟すら抱かせてはくれない。

 ホシノはスナイパーライフルを担いで生徒会室へ向かう。

 奪い返せるわけもないのに、コウヤはホシノの後を着いていって、生徒会室の前で止まった彼女は振り向きもせずに呟いた。

 

「今、アビドス高校の生徒はおじさんだけ、本当に高校生として入学するのを取り止めるなら早めに考えなよ。あと、これは貸し出し物だから回収するね」

 

 未来がない場所に可愛い後輩を置いておくくらいなら、いっそ別の未来を選んでほしいともホシノは考えて敢えて突き放す。

 心にもないが、彼の幸せを願う気持ちが心にもあるからこその発言だった。

 

「なんだよ。それ……」

 

 ホシノが生徒会室に入って鍵を閉めてしまったせいで、もう『ただいま』も『おかえり』も言う相手が居なくなってしまったコウヤは一人、足跡を追うことすら許されなかった。




次回辺りにようやくシロコとノノミ出せそう。
シロコがヒロインなのに出番の少なさよ。
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