ひとりぼっちがふたり   作:テクニカル古則おじさん

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Lonely wolf

 生徒会にコウヤが戻ってきた後は、外部の生徒を生徒会室に入れる訳にはいかないと、かつて行われていた学園祭、砂祭りの準備のために使用されていた学園祭事務局の部屋に活動拠点を移していた。

 

「うへ~……この領収書の山は何かな?」

 

 コウヤの家出が終わって一段落、と思っていたホシノは目の前の領収書の山を見て思わず声が漏れ出る。

 

「生徒会室閉め出されてた時の食事代」

「これ全部ラーメン屋さんの領収書ですね……」

 

 夥しい量の領収書といくらなんでも放置してたら将来が不安になる食生活をしているコウヤにホシノとノノミの顔がひきつる。

 

「明日からしばらくラーメン禁止! あとこのツケはちゃんと自分でアルバイトして払うこと!」

「えぇ……」

 

 そもそも中学生以下のアルバイトは認められておらず、そこはちゃんとアビドスの生徒になってからやれということだろう。

 言外にアビドスに迎え入れてくれるとも取れるが、根本的に今のコウヤに根付いてしまった無力感を消すことにはならない。

 そうして、ホシノやノノミを細かい雑用で手伝うだけの、無力感を味わう日々が続いて、季節は巡り冬になった。

 コウヤは手先の器用さと、今まで培った機械修理の技術を使って、不法投棄された機械を自分で修理した物を業者に買い取って貰っていた。

 

「今回はストーブか。この時期にはありがてぇが……そっちで使わなくて良いのかい?」

「流石にお金の方が大事だし……それにストーブの方は何とかなりそうなんで」

「そうかい。ならこれが今回のお代だ。またよろしく頼むよ」

 

 雪の降るこの寒い季節にストーブの需要は高まり、暖房器具を修理すると、そこそこの金額は貰える。

 トラックにストーブを乗せた業者がその場から去って残されたコウヤは、手渡された今回の報酬を握り潰してポケットの中に入れた。

 金額で言えば、ホシノとノノミが賞金首を捕まえることによって得る金額の方が遥かに高く、チンピラやただの不良と戦うわけとは違い、今のコウヤが入り込める戦いではない。

 それに比べれば、こんな物はただちょっと手先が器用な子供がやる小遣い稼ぎにしかならなかった。

 戦闘に貢献できる訳でもなく、無理に直接戦闘に参加すれば怪我はするし、その分の治療費も掛かる。

 結局はおとなしく座っているだけの方が産むマイナスを少なくなる自分のことを好きになれる訳がなかった。

 

(寒い……)

 

 喧嘩が起きやすい不良の活動範囲内であれば、ホシノかノノミの同伴を義務付けられていたが、通学路や市街地の生活圏でそれを強いられることはなく、コウヤは一人雪が積もった道を歩いていた。

 家よりホシノやノノミの居る学校の方が孤独を感じなくて好きなのだが、そんな場所で役に立てない自分が嫌いだ。

 

(皆で鍋とか食べたいよな。寒い時期には良いって聞いたことあるし、三人だもんな……鍋ってどれくらいの大きさが良いんだろ……待ってる間に調べてみよう……)

 

 今の時間はホシノとノノミはパトロールに出掛けていて、いつも二人が戻ってくる時間には余裕がある。

 鍋があるかは分からないが、食堂か家庭科室に鍋があるかもしれないと思い校舎まで戻ると、校庭で何かを追い詰めている二人の姿があった。

 

「ホシノ先輩とノノミ……?」

「あ、おかえり。帰ってきて早々で悪いけど、学園祭事務局には入らないでね?」

「なんで……?」

「この子、砂狼シロコちゃんって言うんだけどさ。名前以外何も覚えてないんだってさ。記憶喪失って若い子の中で流行ってたりする?」

 

 ちょうどホシノが壁になって見えないが、コウヤが首を少し横にずらしてみると、そこにはシロコと呼ばれた少女がホシノのマフラーを首に巻いていた。

 着ている服はボロボロで栄養が足りていないのか肌の艶も悪く、銀色の髪も長いこと手入れされていないのか伸びっぱなしでボサボサだった。

 

「俺は、名前すら覚えてなかったけど……流行ってはない。と思う」

「懐かしいよね。コウヤは見たことないだろうけど、おじさんは見てた側だからさ」

「俺は見てない。見てないけど……」

 

 見たことは勿論ない。

 記憶を失くして、背景が何もない。自分を忘れてしまった真っ白な雪のようなシロコにシンパシーを覚えた。

 

(ユメ先輩はどんな気分だったんだろ……)

 

 自分を見つけてくれた人がどんな想いだったのか。その答えを知っている彼女はもう居ない。

 だから、その答えは簡単に見つかるとは思わないし、途方もない時間を掛けて、いつか見つければ良い。

 それを教えてくれる誰かに、コウヤはまだ出会えていない。

 

「……?」

「くしゅん……」

 

 自分の知らない何かに浸っている二人にノノミが困惑していると、マフラーをしているとはいえ流石に薄着なシロコがくしゃみをして鼻水を垂らしてしまう。

 

「昔話は後でもできるか……中入ろっか」

 

 女子三人は学園祭事務局へ、コウヤはその隣の空き教室に入っていく。

 シロコを着替えさせる必要があり、そこに男子が居るのは不味いため、別部屋待機をさせる必要があった。

 

(あったかい……)

 

 予備として用意してあったアビドスの旧制服に着替えたシロコは腹の虫を二人に聞かせながら、ホシノがくれたマフラーと制服の暖かさにご満悦だった。

 

「今おじさんはグミしか持ってないや……ノノミちゃんは?」

「私もカロリーバーくらいしか……コウヤくんに何か作ってもらいましょう。呼んできますね」

 

 二人とも持ち歩いている非常食はあるが、あくまでもそれは非常食。空腹のシロコを満たすには足りないと判断してノノミが隣の部屋に待機しているコウヤを呼びに学園祭事務局を出る。

 朝早くに起きて、三人分の昼の弁当とパトロール終わりのホシノとノノミを労うための間食を用意しているのはコウヤで、元々手先が器用ということもあり、男子の筈なのに女子力はやたらと高まっていた。

 

「コウヤくん、今大丈夫ですか?」

 

 ノノミが教室の扉をノックしても返事がなく、少し待っても物音がしなかったため入室すると、コウヤは教室に備えつけてあった机をいくつか並べて簡易ベッドを作り、コートを毛布代わりにしてそこに寝ていた。

 

(あ……お休み中でしたか)

 

 今朝も弁当を用意して、直した機械を持ち運んで、また学校に戻ってくるだけで、彼の身体は仮眠を必要とするくらいには体力が落ちていた。

 こんな状態になるまで、一時期は喧嘩に明け暮れていたと考えると、酷い荒れ様だったことが分かる。

 

「ぅ……うぅ……」

 

 仮眠を取ること自体は別に問題はない。

 そういう物だからとホシノもノノミもわざわざ起こすことはないが、夢見が悪く魘されていることを心配していた。

 

「ユメ……先輩……」

「コウヤくん、コウヤくん。起きてください」

 

 脂汗をかいて苦しんでいるコウヤの肩を揺らして起こす。

 休むために眠っているのに、メンタルを磨り減らしているのでは意味がない。

 眠りが浅かったのか、コウヤはすぐに呻き声をあげながら目蓋を開いた。

 

「ノノミ……? 何かあった?」

「シロコちゃんがお腹空かせていたので、何かご飯を作ってあげてほしいなって思ったのですが……ちょっとお話してからにしませんか?」

「待たせちゃうんじゃ……?」

 

 空腹のシロコを待たせることに疑問を持ちつつ、ベッドの上から降りて、寝ていた簡易ベッドの近くに置かれている椅子に座る。

 他人からは平常通りに見えるものの、嫌な汗をかくほどの夢を見ていたコウヤの内心穏やかじゃないことはノノミにも分かる。

 

「ホシノ先輩には私から説明しておくので大丈夫ですよ」

 

 モモトークを使ってホシノにコウヤの調子が悪そうなので、もう少し休ませてから向かうと旨の連絡をして、彼の対面に椅子を移動させて座る。

 何かを言いたそうな彼を見て、口を開くまで待つことにした。

 

「……あのさ……言おうと思っててずっと言えてなかったんだけどさ……初対面の時感じ悪かったよな。ごめん」

 

 しばらく沈黙が続いて、コウヤの口から謝罪の言葉が出てきた。

 

「ふふふっ、改まって何を言い出すかと思えば、気にしてませんよ」

 

 もう忘れかけていたことを、未だに気にしていたコウヤがおかしくて思わず笑ってしまう。

 そんなノノミに彼は拗ねてしまったのか口を尖らせる。

 

「……じゃあお話ってなんだったの。てっきり怒ってるのかと思った」

「それは……何となく、ですよ?」

 

 コウヤを休ませる目的で適当に会話をして時間を稼ごうとしていたのだが、その事を彼に悟られると本末転倒なことになるせいで誤魔化したが、我ながら下手な誤魔化し方だとノノミは心の中で自嘲する。

 

「何となくって……まぁ、いいや」

 

 その後、腹を空かせたシロコにおにぎりを作ったら、カロリーバーの方が良いと言われて、普通に落ち込んだ。

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