ひとりぼっちがふたり 作:テクニカル古則おじさん
「ん、こっちの方が良い」
今日もコウヤの手料理がカロリーバーに負けた。
シロコが保護されてから、彼女がホシノに勝負を挑み、上下関係を分からされたりと色々あったが、それとは別の戦いが始まっていた。
「ちくしょうめ!!」
自分の手料理を美味しいと言わせるために、手を変え品を変えて和洋中様々な料理を振る舞うも、味に頓着しないシロコはカロリーバーを選んだ。
因みに今日で記念すべき十連敗目である。
「カロリーバー如きに負けたくない……! カロリーバー如きに……!」
「またやってる。いい加減諦めたら? シロコちゃんも……そういうのばっかりじゃ大きくなれないよ?」
「ん、これからおっきくなる。今でも一番大きいコウヤより強い」
思ってたより料理にプライドを持っていたコウヤに呆れたホシノはシロコを窘めるものの、彼女の放つ事実陳列が彼のプライドを無自覚に傷つける。
アビドスに来たばかりのシロコにコウヤのコンプレックスなど知る余地など無い。
「コウヤより強いのは本当だけどさぁ。おじさんが勝負に勝ったんだから言うことは聞いてね」
言ったことはちゃんと守ってくれるのだが、目を離すとすぐにやんちゃし始めるシロコに対してホシノは頭を抱える。
コウヤがようやく落ち着いてきたと思ったら、シロコという問題児が現れて戦力的には楽になったのに心配事は増えていた。
「一旦、今日は帰る……」
「気を付けて帰るんだよ~」
十連敗のショックのせいか、足取りがふらつきながらもコウヤが生徒会室を出ていく。
そんな彼を見送りながら、シロコが渋々サンドイッチを食べ始める。
「美味しい?」
「……美味しいけど、何か違う」
シロコも別にコウヤの作った料理が不味いと思っている訳ではない。むしろ、どれも美味しいとは思っている。だけど、何かが足りない。
そんな様子を観察してコウヤに何か対策を伝えられれば、とホシノはシロコを観察していたのだが、彼女のあまり動かない表情からは読み取れることも少なかった。
(こりゃしばらく掛かりそうだなぁ……まぁ、喧嘩に明け暮れるより、よっぽど良いけど)
諸事情により睡眠不足になっているホシノは欠伸をしながら、最近学園祭準備室に持ち込んでいる枕に顔を突っ伏した。
翌朝、ノノミから前に相談していたものが届いたと聞いて、先に学園祭準備室に来ていたコウヤはそわそわしながら待っていた。
「おはようございます。コウヤくんが楽しみにしてたアレ。持ってきましたよ」
「良かった。今日はそう聞いてお弁当作ってこなかったから……買い出し行ってくる!」
登校したノノミが持って来た箱の中に例の物が入っているらしく、それを見たコウヤは高まったテンションのまま、飛び出して行ってしまった。
年相応にあそこまではしゃいだコウヤを見るのは初めてで誰もコウヤを止めることができなかった。
「はしゃいじゃってまぁ……若いって良いねぇ。シロコちゃん、どうせあのテンションのままだと途中でへばるだろうからついてってあげて」
「どうせすぐに追いつくと思う。任せて」
ホシノとノノミは箱の中身を知っているため、用意しておくべきものは分かっている。
既に勢いのままコウヤが校門を出ていくのが窓から見えたホシノは最近趣味らしい趣味として自転車にハマり始めているシロコに彼を追わせた。荷物も多くなるだろうことを考えて最近拾ってきた荷台付きの自転車に乗って行かせれば、帰りも少しは楽になるだろう。
そうして、後から学校を出て余裕でコウヤに追いついたシロコは初めて来たスーパーの広さと人の多さに驚く。
「……広い」
「シロコはスーパー来るの初めてだっけ?」
「ん……人、多い」
アビドスに住んでいる人が少なくなっているとはいえ、完全に居なくなったということもなく、学生以外の住民は少なからず存在して、そこで生活する上でスーパーを利用する人はそこそこ居る。
それに加えてシロコの現在の活動圏では人が十人を越える人が同時に存在することがない故の目新しさもあった。
コウヤとしても初めてここに来た時に今のシロコのようなことを感じた覚えがあって懐かしい気持ちにさせられる。
「とりあえず突っ立ってると邪魔だし、歩こうか」
通行の妨げにならないように、ショッピングカートを一つ取りながら、立ち止まってしまったシロコの手を引いて野菜売り場へ向かう。
「四人前って……どれくらいあれば良いんだろ」
「今日はお弁当じゃないの?」
「今日は鍋だから……その場で作る? のか? 初めてだから良く分かんない」
概念としては知っている。だけど、目にしたことはないせいで実物としての想像が上手くできない。
ホシノとノノミは知っているらしいので、失敗することもないとしても、鍋を知らない二人が鍋の材料の買い出しに来てしまったのは、今更ながら失敗だったのではないかとコウヤは考えながら白菜一株をカートに入れる。
「春菊と人参と……」
シロコを連れて事前にメモしていた必要な材料を、何となくの想像で必要そうな量をカートに入れていった結果、シロコが乗ってきた自転車の荷台に収まり切らず、コウヤが両手に買い物袋を持つ程買う量が増えてしまった。
「……これ、シロコが来てくれなかったら大変だったな」
「考え無し」
「仰る通りで……」
何事もなく学園祭準備室に戻った二人は、先にコンロや皿を用意してくれていたホシノとノノミに指示を受けて準備を進める。
とはいえ、やることも買ってきた材料を食べやすい大きさに切り、鍋に入れて火にかけるだけで、難しいこともない。
「鍋ってこれで良いの……?」
「こういうもんだよ。良い具合になってきたし」
いただきます。
四人の声が重なり、おっかなびっくりな挙動で鍋に箸を入れて具材を自分の取り皿に入れていく。
猫舌ではないがそのまま口に入れれば舌を火傷しそうだと直感したコウヤは軽く冷ましてから鶏肉を口の中に入れて咀嚼する。
「あち、あち……」
舌が熱いが味そのものは良い。
それに加えて一つの鍋に四人で箸を伸ばして食事をするという行為に良いとも感じた。
「……ん、美味しい」
ユメが居た頃にもこういう空気が好きだったなと懐かしさに一人で浸っていると、たまたま視線の先に居たシロコが今まで見せたことの無い柔らかな笑みを浮かべていて、今まで感じたことの無いコウヤは未知の感情に心を塗り替えられてしまった。
それから後は鍋の味が良く分からなくなったままいつの間にか用意した食材が切れていて、気がつけばホシノとノノミが難しそうな表情で話し合っていた。
「鍋のシメどうしましょうか……?」
「シメかぁ……おじさんは何でも良いけど……ノノミちゃんは何派?」
「シメって何?」
シロコがクエスチョンマークを頭に浮かべてホシノに問う。
「シメはね……場合によっては死人が出るお鍋にとっては大事なことなんだよ。シロコちゃん」
まるで悲しい歴史を語る生き承認みたいな影のある表情でシロコに忠告するホシノに対して、コウヤはそんなことで争うなとか、自分の好みとしては美味しく食べられれば何でも良いやと考えていたが、一年とちょっと後に鍋のシメで争いが起きることはまた別の話。
普段あんまりこういうこと書かないようにしてるんですけど、ちょっとくらい感想あると嬉しいなと思ったりします。
いや、まぁ、楽園の方書けよ。と言われたら黙るしかないのですが。