ひとりぼっちがふたり   作:テクニカル古則おじさん

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もうそばにはいられないけれど

 明朝。設定しているアラームよりも早く、インターホンによって叩き起こされてコウヤは目を覚ます。

 

「……誰だよ。こんな時間に」

 

 やたらと嫌な汗を流していた身体をタオルで拭いてから、インターホンを操作して来客の顔を確認する。

 通販を使うこともなければ、手紙を寄越してくるような知り合いが居るわけもなく、突然の来客に腹を立てる。

 

『ん、ご飯食べに来た』

「……なんて?」

 

 インターホンのモニターに映ったのはシロコだった。

 先日までカロリーバーで良いと発言していた彼女の心変わりが理解できず首を捻る。

 時計に示された時刻は朝の五時半。朝食の時間には早すぎる。

 

『寒いからとりあえず中入れて』

「あ、はい」

 

 寒がりなのにまだ寒い冬の早朝に制服とマフラーだけで来たシロコが寒さに震えていたため、暖房をつけて鍵を開けて彼女を家の中に入れる。

 

「……お腹空いた」

「え、ホントに飯食いに来た?」

「だから、そう言ってる」

 

 リビングのテーブル一枚挟んで向かい合ったシロコが何食わぬ顔で食事を要求する。

 

「カロリーバー、食えば良いじゃん」

「……温かいのが良い」

「あー、もう……分かったよ。ちょっと待って」

 

 立ち上がって冷蔵庫の中身を確認する。

 先日の残り物を電子レンジで温めれば簡単だが、それを人に出すのは気が引けたため、余裕のある食材を使って料理を作ることにした。

 

(……どうせ、今日の昼分はいつも通り作る訳だし、一食分増えても変わらないか)

 

 自分の分も含めれば四人分の弁当を用意しているのだから、今さらシロコの朝食が一回分増えたところで、大した負担ではない。

 トースターの電源を入れて、先にパンを焼いておく。

 その間にベーコンと卵を油を敷いて熱したフライパンに投入して、塩コショウで味を整える。

 

(汁物は……インスタントで我慢してもらうか)

 

 フライパンに蓋をして卵に火が通るのを待ちながら、マグカップにコーンスープの粉末と牛乳を混ぜたものを注いで、電子レンジで加熱する。

 そうしている間にトースターからパンが出てきたのを見計らって、皿にパンと黄身が半熟になったベーコンエッグを盛り付けて、暇そうに中を眺めているシロコの目の前に配膳していく。

 

「お待たせ。食べ終わったらそのままで良い」

「ん、いただきます」

 

 黙々と食事を始めたシロコを放置してコウヤはそのまま昼の弁当の仕込みを始める。

 別にやらなくても良いとはホシノやノノミにも言われているが、これだけは譲れなかった。

 

(というか、ナチュラルに女子を家に上げてしまった……)

 

 慣れた手付きで四人分の弁当の仕込みも終わり、朝の支度も終わらせていつも家を出る時間になった頃には、いつの間にかシロコは居なくなっていた。

 モモトークには『ご馳走さま』とだけメッセージが入っていて、律儀なのか雑なのか今一微妙なところだった。

 

 いつもより早い時間に起きたせいで、眠気に負けそうになりながら何とか登校したコウヤは、木の枝を持ったシロコに無言でつつかれていた。

 

「あの、シロコさん。なんすか?」

「ん、何か食べ物落とすかなって」

「コウヤくん、シロコちゃんに懐かれちゃいましたね」

 

 二人の様子がきょうだいの様に見えて微笑ましく見えたノノミがコウヤをからかう。

 

「これ、絶対そういうのじゃないだろ……」

 

 裏方や雑用周りを進んでやっているコウヤだが、都合の良い飯係的な扱いをされたい訳ではない。

 コウヤが鬱陶しそうにしながら木の枝を折らないように掴んで抵抗するも、木の枝を離したシロコが頭突きに切り替えて彼の身体にぶつかる。

 

「ん、ん、ん……」

「あー、もう分かったから。これで美味しくないとか、カロリーバーの方がいいとか言うなよ……」

「ん、ありがとう」

 

 想像以上にしつこいシロコに折れたコウヤが鞄から今朝作ってきたドーナツを取り出してシロコに渡す。

 それから数分後にホシノが遅れてやってきて、コウヤ以外の三人が賞金首狩りに出ていく。

 

「じゃ、行ってくるからお留守番頼んだよ」

 

 三人の戦闘をオペレーターとして支援するために、タブレットとヘッドセットを用意して彼女らを見送る。

 戦闘に参加できない今のコウヤにとって、自分の無力を嫌でも突き付けられて好きではなくなってしまった言葉を口にする。

 

「いってらっしゃい」

 

 

 ●

 

 

 賞金首狩りのオペレートが終わった直後、シロコのせいでいつもより早くにきた眠気に負けて眠っていたコウヤは夢を見ていた。

 

「……あれ、なんだここ」

 

 今まで、夢を見ることはあってもアビドスに来てからの記憶を見せられるか、後悔か自己否定を積み重ねるような夢だけだったが、今回の夢は何かが違う。

 星が瞬いていて、目を奪われるほどの夜空の下なのに、命を感じない。

 周囲に人が居ないから、という理由ではなく、かつてここに居た命だったモノが全て星になってしまったような不気味さを感じる。

 

「……他人の神秘だから、上手くいかないと思ってた」

 

 この地に死が満ちた大地の何もないところから突如として一人の女が現れた。

 コウヤよりは身長が高く、何処かで見たような白い髪は腰に届く程長く、何処かの学校の制服でもない黒いドレスを見に纏った彼女の名前を知っているような気がした。

 

「シロコ……?」

「……違う。もうこれで最後だと思うから知らなくて良い」

 

 少しの間を置いて、彼女は顔を横に振った。

 実際に自分のシロコとは言われれば似ている程度で全く似ていない。

 

「あ、その……ごめんなさい」

「大丈夫……座ったら?」

 

 純粋に人違いをしてしまった申し訳なさに頭を掻いていると砂の上に座った彼女に座るように促される。

 どうせ夢の中で、いつ目が覚めるのかも分からない。彼女が話したいというなら、それに付き合うのも悪くない気がした。

 

「……元気してる?」

「怪我とか病気はしてないけど……」

「……そう」

 

 見知らぬ彼女からどういう血筋かよく知らない関係の親戚みたいな心配をされて、やりにくさを感じる。

 心配その物は本物なのに、何処か距離があって、でも他人と言うには近い。

 そういう類いの心配をされている。

 

「……好きな子にはちゃんと好きって言った方が良い」

「な、何の話!? というか好きな子って何!?」

 

 一瞬、シロコの顔が過ったが、特に関係のないこととして思考の隅に追いやって、お節介な彼女のアドバイスに全力で狼狽えた。

 

「……今居ないなら、これからそういう子ができた時に思い出してくれたら良い」

 

 何の話かは全く理解できないが、この夢が自分の忘れてしまった過去のことに繋がるのであれば、無下にもできなくて悶々としながら、頷くしかなかった。

 

「じゃあね。二度と会わないと思うけど……さようなら」

 

 彼女が名残惜しそうにそう言い残すと同時に夢から覚めて、久しぶりにスッキリした目覚めと共に、何があったかコウヤには分からないが、ホシノとノノミに生暖かい目を向けられていて、シロコは不思議そうな表情を浮かべていた。




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