この素晴らしいRTAに祝福を! 作:あるえぇ?
話の展開の都合でオリキャラが出てきます。ご注意下さい。
時々、神々は人間や動物などに扮して下界に降りる時があります。時には危険な神器の回収の為に、時には危険因子の監視の為に、時には天罰を下す為に、時には暇つぶしの為に…と降りる目的はその時その神々によって様々です。
私も、神器回収の為に人間として下界で活動することがよくあります。…親友に会いにいくだけの時も結構ありますが。
もちろん、普段は私も業務があるので降りる時は休みの日にしています。
その日も休日を利用して下界に降りました。……その後すぐに私の神生の大きな分岐点を迎えることになるとは、この時の私は知りませんでした。
…私は、名前も知らない1人の人間に、生まれて初めての、『恋』をしてしまったのです。
◇
初恋をしてからすでに早数週間。彼…『佐藤和真』さんと関わっていくうちに、私はますます彼の事が好きになっていってしまいました。それこそ、仕事に全く手がつかなくなる程に。
「…エリス様。確かに彼は勘違いとはいえ、トラック(トラクター)に轢かれそうになった方を迷わず助けられる程にはお人好しで優しい方です。エリス様が惚れるのもよくわかります。ですが、それはそれ。これはこれです。いい加減仕事を進めてください。」
部下の天使が私のデスクに書類を置きながら、呆れた声でそう言ってくる。
「わかってます。このままではダメだとわかってはいるんです。」
「そのセリフをもう20回目は聞いたのですが…。はぁ…本当、これ以上仕事をしないのであれば我々天使一同でストライキを起こしますよ?それをされたら困るのは、誰でもなくエリス様ご自身なのですよ?わかってます?」
「うっ…。」
「何より…下界の人間に恋をしたという理由で来週に行われる今年度*1の活動報告会に使う資料が間に合わなかった場合、下手しなくても下界に降りることを禁止されますよ?」
「……はい。」
正論なので何も言い返せません…。
「……私達が報告資料の下書きをある程度完成させておいたので、これを元にちゃんと報告資料を完成させてくださいね?」
「……ありがとうございます。」
「本当、ちゃんとやってくださいね?…では、私はこれで失礼します。」
そう言って彼女は私の仕事部屋から出ていった。
「…とりあえず、この報告資料を完成させましょうか。」
流石にこれほど部下達に迷惑と心配をかけさせておいてやらないのは私の良心が許さなかったので、今度こそ私は仕事に取り掛かった。
◇
「という感じなのですが…。」
エリス様に資料の下書きを届けた後、私は昼休憩を利用してある女神様の元に相談に向かった。
「…思ったより重症ね。」
「やっぱりラーヴェ様もそう思いますよね。」
恋の女神ラーヴェ様。彼女は恋の女神を名乗る通り、恋愛や縁結びを司る女神様である。
「…やっぱりエリス様には恋愛を諦めてもらった方がいいですかね。」
「いや、それは逆に悪手になる可能性が高いわ。」
「どうしてですか?」
「恋は盲目って言葉があるように、恋の力っていうのは本当に凄いの。だから無理矢理断ち切ってしまうと、たちまち消化不良になって更にパーフォーマンスが落ちる例がかなり多いのよ。」
「それじゃあどうすれば…。」
「エリスちゃんの場合は…そうねぇ。…いっそ天界での仕事をしばらくやらせないで、下界で彼と一緒に居させた方が事態は好転するんじゃないかしら?あとは自分の正体を早々に彼に打ち明けちゃうとかね。」
えっと…。
「正気ですか? 」
「もちろんよ。」
「…理由をお聞きしても?」
「えぇ。おそらくエリスちゃんは自分が女神であるが故に普通に恋愛が出来ないこと、自身の正体を隠していることに心苦しさを感じているんじゃないかしら?もしそうだとすれば、この状態が続いた場合、彼女の精神状態に悪影響が出てもおかしくないわ。ならいっそのこと、そのモヤモヤが解消するまでは仕事はさせない方がいいって思ったの。」
「…そういえば最近のエリス様は下界から戻ってくる時は非常に満足げな表情をしているように見えて、何処か寂しげな表情が混ざっている気がしますね。」
「…ならほぼこの仮説は当たってるとみて良さそうね。」
「ですが原因がわかったところでどうするんですか?エリス様は世界を一つ管轄しているので先程の解決案は使えないと思いますが…。」
「うーん…まあそこはちょっと私が上に掛け合ってみるわ。もしそれがダメなら代替案を考えておくわ。」
「ありがとうございます。」
「気にしなくていいわ。他人の恋を応援するのが私の役割だし。それよりも昼休憩もあと少しで終わるし、そろそろ戻った方がいいわよ。」
時計を見ると、時計の針は昼休憩が終わる時間まで後数分というところを指していた。
「…みたいですね。では、失礼します。」
ラーヴェ様に頭を下げて、私は急いで自分の部署まで駆け出した。
◇
「…ようやくエリスちゃんにも好きな人が出来たのね。」
天使が去ってから少ししてから私はそう呟く。
エリスちゃんは昔から純粋でちょっとお茶目な部分があったりするけど真面目で優秀な子だったからどんどん出世していった。でもそれが災いして同期の子達が結婚相手を見つけていく中で1人だけ婚期を逃しそうになってたから恋の女神としては心配だったのよね。…まさか相手が下界の一般人だとは思わなかったけど。
まあそれもまた恋愛の面白いところだし、何よりようやくあの子が好きな人を見つけたんですもの。恋の女神として、彼女の恋が実るように一肌脱ぐとしましょうか!
私はそう心に誓い、早速上に提出するための書類の作成を始めるのであった。