この素晴らしいRTAに祝福を! 作:あるえぇ?
こんな趣味で書いている様な作品を応援していただき本当にありがとうございます!
これからも出来る範囲で精一杯頑張りますので、皆様応援よろしくお願いします!
では最後に…この小説と読者の皆様に祝福を!
あたしは今、1人でキールダンジョンに来ている。キールダンジョンの未踏区画の探索を依頼されたのだ。カズマくんとダクネスはというと、カズマくんは他の冒険者とレイドクエストに行っていて、ダクネスは家の事情で今日は来れないとのことらしい。…カズマくんと一緒に来たかったなぁ。
…ってダメよダメ。そんな雑念を持ったまま行けばいくら初心者向けのキールダンジョンとはいえ命取りになりかねない。あたしは頬を何回か叩いて気合いを入れ直す。これでよし…。でもやっぱりカズマくんと…(以下10回同じことを繰り返したので省略)
◇
このままではいつまで経っても終わらないので最終的には惚れさせたカズマくんが全部悪いから後で絶対責任を取ってもらうということにしてどうにかケリをつけることが出来た。…あぁ、時間がかかった。
兎にも角にもこれで雑念を消すことが出来たので、あたしは今度こそダンジョンに足を踏み入れた。
未踏とは言ってもキールダンジョンは初心者冒険者でも攻略出来る程には簡単なダンジョン。普段からよくダンジョンに潜っているあたしであれば、普段通りにやれば特に問題はないだろう。殆どのダンジョンに潜んでいるダンジョンもどきは『サイクロンポーション』をクリーンヒットさせれば一撃で倒せるし、ゾンビやスケルトンとかのアンデッド系は聖なる神力を込めた愛用のナイフで浄化してあげればいい。…ただ、この神力を感じ取っていつも沢山のアンデッドが目覚めちゃうからかなり大変なんだけど。エリスに戻れば一気に浄化出来るけど、あたしはこの国の国教の御神体。下手に人々の前に姿を見せてしまえば騒ぎになってしまう。だからあたしは盗賊スキルを駆使しながらナイフ一本で地道にアンデッドを浄化している。
…のだけれど、今日はやけにアンデッドが多い。未踏のエリアに来てから数がどんどん増えて勢いが減らない。このまま増え続ければ返り討ちにされてしまうかもしれない。…背に腹は代えられないか。
あたしは一度アンデッドの群れから離れてエリスの姿に戻った。そしてアンデッドの群れに向かって浄化魔法を唱えた。
「迷える魂達よ。どうか安らかにお眠りなさい。『セイクリッド・ターンアンデッド』!」
『ホェェェェ…』
アンデッド達が聖なる光に飲み込まれていく。やがて浄化され、彼等の魂は天に還っていった。
「ふぅ…やっぱりアクア先輩と違って、これ程の範囲を一度に浄化するのは大変ですね。」
日本を管轄しているお頭が足りない水を司る先輩女神の彼女は水を司るだけあって、ただの『ターンアンデッド』でも今回以上の範囲を一度に浄化出来る。
「アクア先輩と同じレベルとまではいかなくとも、女神としてはせめて『ターンアンデッド』でこれくらいの範囲を一度に浄化出来た方がいいですよね…。」
そんなことを考えていると、一際強力な力を持っているであろうアンデッドの気配を感じ取った。
「この気配…リッチーでしょうか? しかもこちらに近づいて来ますね。」
私は何があっても大丈夫な様に臨戦体制を整える。やがて通路の奥から強大な力を持った骸骨が現れた。
「そこにプリーストがいるのか?」
やはりリッチーでしたか。リッチーはアンデッドを生み出す上に強く危険な存在。被害が出る前に早く浄化しなければ。そう思った私はすぐさま浄化魔法を発動しようとした。だがここでふと彼に違和感を感じた。
「え…恨みも辛みどころか未練も悪意ない…?」
そう。このリッチーからはアンデッド特有の恨みや辛みなどで構成される負のオーラや死者にはほぼ必ず生じるはずの未練を感じないのだ。
「貴方は…一体何者なのですか?」
「私か?私は… キール。このダンジョンを造り、貴族の令嬢をさらった、悪い魔法使いさ。」
そう言って彼はカラカラと骨を鳴らして笑った。
「キール…。」
彼の名を聞いた瞬間、私はベルゼルグ王国では有名な物語を思い出した。
◇
アクセルの街が領内にある国…ベルゼルグ王国にはキールダンジョンに関すると考えられているが、それが本当の歴史なのか、はたまた作り話なのかが歴史研究家達の間で今でも議論されている物語が書き記された古文書がある。
…その昔、キールという名の稀代の天才と呼ばれた魔法使いが、一人の貴族令嬢に恋をした。
たまたま街を散歩していた貴族令嬢に、今まで魔法にしか興味を示さなかった彼は、一目で恋に落ちたらしい。
だが、当時は現在よりも身分の差による格差が大きかった時代。
身分の低い彼の恋は実るはずが無かった。
なんならその後その女性は国王と政略結婚する事になったため、彼は恋を諦めて魔法の研究に没頭した。
やがて彼は“大魔術師キール”と謡われるまでになり、その力で国の危機を救った。
国を救ってからしばらくした頃。彼は王城に呼び出され、その彼の為の宴が催された。
すると、宴会が盛り上がり始めた時に王がこんなことを彼に言った。
『その功績に報いたい。どんなものでも望みを一つ、叶えてやろう』
と。
それを聞いた彼はこう言った。
『この世にたった一つ。どうしても叶わなかった望みがあります』
これ以降の部分は後年の魔王軍との戦いが原因と見られる火事で焼失してしまっているため、その時彼が何を望んだのかはわからない。
だが宴会後に彼は貴族の令嬢を攫った後にダンジョンを作り、立て篭もったという説が他の資料から推測されている。
仮にその説を正とする場合、彼はその後すぐに捕まって処刑されたという内容が学者間でも有力である。
これは普通に考えればいくら大魔術師と呼ばれた彼とて1人では国の戦力相手に勝ち目なんてないという見解が根拠になっているためである。
◇
立ち話もなんだからと彼に小部屋に案内された。部屋は小さなベッドとタンス、そしてテーブルと椅子があるだけの質素なものだった。ベッドの隣に置かれた椅子に彼は腰掛けた。
「座り心地は良くないだろうが、まあそこの椅子にでも座ってくれ。」
「…では失礼して。」
私は彼に促されたので椅子に腰掛ける。
「さて。では改めて、私はキール。このダンジョンを造り、貴族の令嬢をさらった、悪い魔法使いさ。」
「…一応確認しますが、この国で有名な話のキールさんと同一人物なのですか?」
「ああそうだ。ところで…その話はどこまで伝わってるんだい?」
「かつての王が貴方に願いを一つ叶えると言ったところまでです。それ以降の部分は焼失しているので伝わっていません。ただ、断片的な資料から貴方が貴族の女性を攫ったという説が推測されています。」
「…そうか。そこは私と妻の生涯の中でもとても肝心な部分なのだが…よし。せっかくだ。君にその後の真相でも話すとしよう。」
彼は一呼吸おくと、静かに、それでいてとても懐かしそうに話し始めた。
「私はあの時、現在の人々の推測通り貴族の女性を掻っ攫った。だが願いを叶えてもらえるのにそんなことをしたのには当然理由がある。」
「理由…ですか?」
「ああ。実はその貴族の女性は王へのご機嫌取りの為に嫁がされたんだが、王には可愛がられず、城内でも他の妻達から虐げられていたんだ。そんなに要らないんだったらこの際私が貰ってしまおういうことで彼女を攫ったんだ。その後攫ったお嬢様に告白したら二つ返事でオッケーを貰えてね。お嬢様と愛の逃避行をしながら、王国軍とドンパチやった訳さ。…いやあ、あれは楽しかった。おっと、ちなみに、誘ったお嬢様が、そこにいるお方だよ。どうだい、鎖骨のラインが美しいだろう。」
キールが指す方を見ると、ベッドに横たわる白骨化した骨がある。大切に保管しているようで、骨一本欠けていなかった。
「…大切にされているのですね。未練や無念というものを少しも感じません。」
「当たり前さ。…それにしても君は何者なんだい?アンデッドでも無さそうなのに彼女の遺骨を見ただけで未練や無念がないことに気付くなんて。」
…うっかりしていた。魂や遺体から未練を読み取る事が出来るのはアンデッドか神格ぐらいだったことをすっかり忘れていた。
「えっと…ですね…。」
動揺でうまく言葉が出てこない。
「…これは私の推測に過ぎないのだが、君は女神エリスその人だったりするかい?」
「えっ!?」
な、何故わかったのでしょうか?とりあえずは誤魔化さないと…。
「無理にとは言わないが、出来ることなら誤魔化さないで欲しい。私はこんなことで未練を作りたくない。」
…そうですね。私は女神。死者を導く存在。未練を残さず成仏してもらえるようにするのが役目です。ここは誤魔化さずに言ってしまいましょうか。
「…その通りです。私は幸運の女神エリス。今日は諸事情で下界に降りて来ていたところでした。…どうしてわかったのですか?」
「君からはとても強い神力を感じたし、何より昔エリス協会で見た壁画に描かれていた姿と良く似ていたからさ。それにしても、私は本当に運がいい。まさか最期を女神様によって迎える事が出来るなんて。」
「どういうことでしょうか…?」
このリッチーは自殺願望があるとでもいうのでしょか?いやアンデッドに限ってそんなことがあるはずは…
「単刀直入に言おう。私をここで浄化しては貰えないだろうか?」
…あるみたいですね。
「私がリッチーになったのは、妻を最後まで守り抜くため。だが彼女はすでに亡くなった。ならば私がこの世に残り続ける理由はない。しかしリッチーが自殺なんて滑稽なことも出来ないわけで。そこで私は、私を浄化してくれる程のプリーストが現れるまでここで長い眠りにつくことにした。そして今、私の目の前にはプリーストどころか本物の女神様がいるという状況なのだ。もしこの機会を逃せば、次にプリーストが来るのがいつかわからない。だから頼む。私をここで浄化して欲しい。」
彼からも未練を感じなかったのはそう言う理由だったからですか。…であれば、女神である私がやることは一つです。
「わかりました。この女神エリス、責任を持って貴方の願いを叶えましょう。」
◇
私は彼を浄化する為の魔法陣を床に描いていく。魔法陣は彼を浄化出来るだけの大きさで十分だったので、描き終わるまでにそこまで時間はかからなかった。
「…これで後は詠唱をするだけです。」
「本当にありがとう。」
そう言ってキールは深々と頭を下げた。私はそんな彼に優しく笑いかけながら詠唱を始める。
「神の理を捨て、自らリッチーと成ったアークウィザード、キール。幸運の女神エリスの名において、貴方の罪を許します。…次に目が覚めると、貴方は恐らく私とは別の女神か天使に出会うでしょう。たとえ年が離れていても、それが男女の仲でなく、どんな形でもまた妻に会いたと言うのなら、彼女達に頼みなさい。きっと、貴方の願いを叶えてくれます。…では、お行きなさい。『セイクリッド・ターンアンデッド』!」
魔法陣が光り輝き、キールが光に包み込まれていく。やがて彼は浄化され、この部屋に再び静寂が訪れた。
◇
「それにしても…まさかリッチーに対して羨ましいなんて思う日が来るなんてね。」
アクセルの街に戻る道中。あたしはキールがもう要らないからと譲渡されたお宝を手にしながら物思いに耽っていた。彼とその妻は逃避行という普通ではない人生を歩んでいたにも関わらず、互いを心の底から愛し合い、最期はどちらも未練なくこの世を去った。別に逃避行をしたいわけではない。でも…彼等の様に、互いを心から愛し合える恋をしたい。
キールは愛する人のために自ら国を敵に回してみせた。愛する人を守るために自ら人間を辞めることも決断した。だが自分はどうか。一方的に想いを募らせるだけで、告白どころか正式にパーティメンバーにして欲しいと頼むことも出来ていない。
「あたしは…もっとカズマくんに積極的にアプローチした方が良いのかな…。」
あたしは貰ったお宝の中からキキョウの模様が施された金の懐中時計を取り出して眺める。夕日に照らされた時計は、まるで肯定するかのように光り輝いた。
キキョウの模様が施されている理由ですが、この世界戦ではエリス様管轄の世界に転生者の1人が地球の花のあれやこれやを持ち込んだという設定です。ご了承の程よろしくお願いします。
ちなみにキキョウの花言葉には「永遠の愛」「変わらぬ愛」「気品」「誠実」などがあるそうです。