やはり俺のアルドノア・ドライブはまちがっている。   作:ユウ・ストラトス

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第12話

自分の乗ってきたスレイプニールのコックピットでシートベルトと耐衝撃ヘッドギアを装着しながら考える。

 

このタイミングでの襲撃か。

揚陸艇が到着してから動いたとしたら動いたのか?

それとここは放棄されているとは言え軍事基地だ。

そこに揚陸艇が向かっている段階で普通なら戦力が残されている可能性も考慮するのに、襲撃なんてするものだろろうか?

ただでさえ今日、俺たちはアルドノア・ドライブ搭載の火星カタフラクトを経緯はどうあれ破壊している。

普通なら警戒する。そんな実績を持つ人間がいる場所が無防備だったら、まずは航空機とかで斥候くらいはする。

 

あのニロケラスのパイロットは恥辱のあまり真実を話さなかった?

それとも指揮官も馬鹿?もしくは全て見通したうえ?

敗因が分かった上でこっちの準備が整う前に追撃してきているとしたら厄介だ。

相手にするのは骨が折れる。

 

どれにしても、俺の思惑とは裏目だ。

最低でも警戒して追撃が今日中に行われるとは思っていなかった。

 

「メインシステム起動、IFF確認」

 

友軍機の位置を取得して位置関係を確認するが交戦エリアまで距離がありすぎる。

マグバレッジ艦長は正規軍では敗走続きと言っていた。

今回に限り、勝てるなんて希望的観測はするべきではない。

今、起動したこの機体じゃ、多分合流した時には戦闘は終わっている。

 

「戦術データリンク、アクティベート」

 

交戦中の機体から戦闘におけるデータを取得する。

動体センサーに反応だけじゃなくレーダーに引っかかっている。

反応が返ってきているって事はニロケラスとは違うのだろう。

 

お姫様は火星の兵器は全てアルドノアの力で動いていると言っていた。

放棄された基地とはいえ、カタフラクト隊が哨戒しているところに単機で来ている以上、アルドノア兵装を搭載していると見ていいだろう。

 

最優先すべきはこの揚陸艇の守りだ。

敗走続きなのは軍人の考え方では駄目だからだと思う。

そういう意味ではニロケラスの弱点を見つけた界塚弟の頭脳はこの先でまた必要になる。

そしてお姫様を守ることは戦争の終結へ必要な事だ。

それがこの先の小町たちを戦火から守る為にもなる。

 

「特殊レーダーシステム ミミル・・・・・アクティベート」

 

ミミルは感知機能特化型であって処理能力は通常の夜間戦闘型とは大差がない。

情報が多すぎてCPUが処理しきれない。

アレイオンのCPUならもう少し速いかもしれないけど無い物ねだりしてもしょうがない。

処理能力不足でも処理をしないままでデータを表示するだけならこいつのCPUでも充分だ。

 

「さて・・・・・・まずはデータだな・・・・・・」

 

データリンクで基地のマップデータは既に取得している。

各種センサーが感知した情報を照らし合わせて何が何処にあるのかを確認する。

理想を言えばアパルーサ小隊が撃破してくれることだがそれは思考停止で希望にすがっているに過ぎない。

戦闘は避けられないと想定しておくべきだろう。

昼の戦闘と違い今回は前もった準備が出来ないし補給も受けている訳じゃない。

だとしたら、今あるここにあるモノで手札を揃えるしかない。

 

『敵カタフラクト1 ビルの陰に潜伏 現在交戦中』

 

相変らずの単独行動か。

軍事基地を攻撃するのに単機ってのは、彼我戦力を知っているって事なのか、それとも舐め腐ってるのか?

まあ、こっちは対応が楽になるから助かるけどな。

相手の動向を細かく確認するためにデータリンクを介して交戦中のアレイオンのメインカメラの映像を表示する。

 

『包囲して一斉に仕掛ける。全機散開』

 

アパルーサ小隊の3機は横並びの陣形から左右に広がっていく。

その時、メインカメラに映るビルから青白い光が見えた。

光の根元にあたる部分が赤熱して・・・・・融けている?

ちょっと待てよ。コンクリートが破壊されるならわかるが融けるってどういうことだ?

 

青白い光は斜めに動きビルを両断する。

舞い上がる煙の中なら現れたのは白い機体。

右手には青白い光の・・・・・あれはブレードなのか?

 

「また、とんでも兵装かよ・・・・・・・・」

 

レーザーなのかプラズマなのか分からんが、地球の技術であれだけの出力を出そうとすれば、きっととんでもなく大きなジェネレーターが必要になる。

現状ではカタフラクトに搭載するのは不可能なはずだがアルドノア・ドライブでなら可能ってご都合主義が過ぎるだろ。

 

『攻撃開始!』

 

3機から放たれる銃弾は火星カタフラクトに届かなかった。

ブレードを振るたびにHE弾は空中で爆発してしまう。

 

『レーザー兵器・・・・いや、刀だと!』

 

それにしても何なんだよ、この熱量。

あれは着弾で信管が作動しているんじゃなくて、ブレードの高温に晒されてHE弾の炸薬ってTNTだろ?

温度で発火しているにしても爆発はしない筈だ。そうなると何かしらの要因で信管が誤作動を起こしているのか?

 

サーチ能力がヨダカより低いアレイオンから取得したデータじゃ情報量が少ないが、あのスピードでブレードを振って金属を溶断できるている。

熱伝導とかって次元の話じゃない程の熱量だ。

 

『う、う、うわぁぁぁぁぁーーーー!!・・・・・・・ザッザザザ・・・・・』

 

瞬く間にブレードだけでアパルーサ小隊は全滅した。

 

『アパルーサ33!』

 

マグバレッジ艦長の言葉通りなら俺たち以外には火星カタフラクトを退ける事は出来ていない。

アパルーサ小隊には悪いが、精鋭が束になって敵わなかったのに避難民護衛をやらされる部隊に一線級の乗り手が居るとは思っていない。

この結果は予想していたけど大人の正規軍人なんだから、もう少し持ちこたえてくれよ。

 

データで見る限りあの機体はブレードしか使っていないし、手持ちのライフルなどを持ってはいそうにない。

確かにあのブレードは強力で初見殺しかもしれない。

でも勝ち目がないかと言えばそうでもないだろう。

ブレードの特性が分かっていれば対応策はある。

問題は他の武装だ。剣一本なんてファンタジーラノベじゃあるまいし流石にないだろう。

 

他にも初見殺しな武装をあの機体に内蔵している可能性は十分にある。

それによって、こちらの取るべき作戦の方向性は大きく変わるはずだ。

 

「使わない」のか「使えない」のかは大きな違いだ。

 

防御兵装ならさっきの状況下で使わない理由は多分ない。

少しでも自分の被害を少なくってのは戦争においては当り前なことなのに、複数を相手にしている状況で使わないなんてあるか?

 

攻撃兵装にしても、あの熱量のブレードを使っているから火薬や燃料などの発火物質は使っていないだろう。まかり間違って誘爆でもしたら意味が無い。

そうなると伏せているカードはあのブレードと同じようなエネルギーを使うタイプの可能性が高い。

データが少ない現状では出来れば逃げの一手なんだけど、揚陸艇が動かない。

このままじゃあのカタフラクトと一戦交える事になる。

 

その上で最大の脅威はレーザーブレードじゃなく、あのスピードだ。

速度を出す要素は2つだ。

 

出力と質量だ。

脚力が強いのか機体が軽いのかのどちらか、もしくは両方だろうが、そういった物理学の計算は俺よりも界塚弟の領分だ。

 

対応出来ないほどのスピードではない。

結局は人間が乗って動かしているのだから速度には限界がある。

向こうでは重力制御の技術も確立しているらしいが、カタフラクトに搭載は出来ていない。

それが出来るならニロケラスの動きはもっと速くなっている筈だし、コウモリの様な輸送機も必要なく大気圏内飛行も出来ても不思議じゃない。

例外があるとすればご都合機関のアルドノアを使った兵装だ。

 

装甲の強度に関してはデータが無い以上、実際に銃弾でも当てないと分からない。

ただニロケラスへの攻撃で分かっているが装甲の素材に関しては地球側より硬いがスレイプニールのナイフで貫通できる程度だ。まぁ例外もあるかもしれないが、あれより上って事は無いだろう。

 

「搬入用クレーンが6基に倉庫群と・・・・流石に弾薬庫は無いよな・・・」

 

弾薬庫が近くにあれば、ライフルとグレネードの補給とか近づかせて誘爆狙いとかを念頭に入れるんだが、基地のマップデータを見る限りでは近くにはなさそうだ。

既存のデータとリアルタイムで取得した情報を照らし合わせつつ、相手の動きを監視する。

 

「クレーンの数が違うな・・・・増設したんならマップデータ更新しとけよ」

 

あの火星カタフラクトはブレード以外の兵装を使う気が無いだろうか。

悠長に基地内を歩いてこっちに向かってくる。さっさと海上に出ちまえばこっちの勝ちなんだが、そう簡単にはいかない。

怪我の治療で降りていた避難民の収容作業はそろそろ終わりそうだが、揚陸艇は新芦原からここまで来るのに燃料を使ってしまって現在給油中だ。

 

火星カタフラクトの歩行速度と歩いているコースからいって、揚陸艇上のここから攻撃するのは建物があるので無理がある。

 

モニターに通信電波の検出を知らせる表示。

受信したのは一番艇と揚陸艇の通信だ。

 

『マグバレッジ艦長』

 

『状況は?』

 

『良くありませんね・・・・そちらは?』

 

給油が終わり、最後の人員を収容したらしく、ようやく揚陸艇が動ける状態になる。

これでこっちも動けるが、エンジン始動してあいつの攻撃範囲から逃れて攻撃するまでの時間を稼ぐ必要がありそうだ。

 

ヨダカのメインカメラが倉庫群の隙間から一瞬だけ白い機体が見えた。

 

『こちらも発進します。距離を取ってSSMで一気に片を付けます。海上で・・・・ザザザ・・・・・』

 

通信が途中で途切れると同時に轟音が響く。

 

一番艇にブレードが突き刺ささっていた。

 

熱源反応の変化から見て可能性としては射出したの投擲したんだろう。

ブレードが突き刺さったままって事は少なくともレーザー部分は実体化させているのか、内部に芯みたいなモノがあるのかだろう。

 

機体から離れてもブレードを維持できるのかよ。

機体の手から離れてもブレードを展開できていることを考えると、あれは柄の中にエネルギーを貯めておける構造なのか?

 

倉庫群から姿を現した白い機体はゆっくりと一番艇に近づき、突き刺さったブレードを引き抜きこちらを振り返るついでに一番艇のミサイル発射管を切り裂く。

ブレードの熱量がミサイルへの誘爆したのだろう、起きた爆発で揚陸艇が激しく揺れる。

 

「くっ・・・・・・・野郎・・・・・・」

 

コントロールを潰されている以上、ミサイル発射管が動くことはない。

単に目についたから斬ったんだ。

完全なまでのオーバーキルだ。

 

アパルーサ小隊と交戦した時も建物を斬っていたけど、明らかに必要ない行為だ。

他の兵装を使わないのか使えないのか知らんが、ブレード一本で戦うのであれば遮蔽物は必要なものであって、あんな無意味に破壊する事に戦術上の意味は無い。

威嚇ってのも少し違う気がする。

 

今からこうやって殺す。もしくは俺の武器はこんなに凄いんだぞってひけらかしたい。

そういうところが見え隠れする。

圧倒的な差を見せつけて優越感に浸りたい。スクールカーストでもときたま見られるそんな心理が近いかもな。

 

腹を括ろう。

通信が通じたとしてもこの手の奴は交渉できない。

自分の手札を見せびらかした上で殲滅するつもりなんだ。お姫様の存在も通じると思えない。戦闘は不可避だ。

揚陸艇が海に出るまでの時間はどれくらいかからうだろうか?

 

いまだ、エンジンが始動していないところを見ると、トラブルでも起きているのだろう。

修理が必要だとなれば足止めじゃなく撃退が最低条件になる。

 

モニターの端に界塚弟たちが話しているのが見える。

まぁ、あいつの事だからこの状況じゃ出るだろうな。

集めた情報を基にあの火星カタフラクトを見てみる。

 

切れ過ぎる刃と近接オンリーな戦闘方法、ビルや砲塔などの不必要な破壊行動、この艇のKAT4機を視認してなお未だノンビリと歩いて近づいてくる心理。

周辺情報と自分の戦力。

AP弾もHE弾もそう多く残ってはいないし、グレネードはスモークと通常弾頭が数発。

他の機体にどれだけ残っているかにもよるが、割ける人員も限られるこの状況じゃとれる選択肢も多くはない。

 

『先輩・・・・ヨダカに居ますよね?』

 

「なんで俺のサボり場所知ってんの?」

 

つーかピンポイントで居場所を言わないでくれる?

通信聞いている奴に俺とお前が友達なのかと勘違いするだろ。

 

『船室に居なければ其処くらいしかありませんから・・・・』

 

「どんな様子だ?」

 

『そこまで混乱はしていません』

 

そうじゃなく、お姫様が無茶言い出していないかを聞きたかったんだがな。

船室にいる時点で避難民がパニックを起こそうと冷静であろうと事態は変わらない。

 

「聞き方が悪かった、護衛対象は?」

 

『・・・・目標と交渉しようとしてました』

 

「・・・・・ったく」

 

さすが界塚弟、この聞き方で直ぐに対応できるとは流石イケメン後輩。

にしてもあのお姫様は・・・・・あとで今一度、立場ってのを説明する必要があるかな?

 

「取り敢えず、お前らの機体にもアレのデータは送る。」

 

界塚弟とクラフトマンがスレイプニールに乗り込むのを確認して、取得したデータをレーザー通信で送り、自分の機体のシステムも戦闘モードに移行させる。

 

『先輩はどう見ます?』

 

「昼間のバリアよりは驚異的とは思えないが面倒臭い事に変わりはないな。アパルーサ小隊はHE弾を使って効果が無かった。取り敢えずAP弾を使え」

 

『了解です』

 

それにしても、動くのは界塚弟とクラフトマンだけってのは少し意外だ。

界塚弟が動いているのに網文が大人しくしているとは・・・・

 

『カームと挟み撃ちにします』

 

「数の暴力ってわけか」

 

あいつのブレードが一つである以上、複数方向からの攻撃に対応できないって訳か。

流石に作戦立案能力高いな。

 

『違います。人海戦術です』

 

全く、うちのクラスのいけ好かないイケメンリア充のゾーン様と同じ事言うんじゃありません。

 

「プロぼっちの俺からしたら同じ意味だから」

 

『ぼっちってどこからプロなんですか?』

 

「知らねぇよ・・・・・」

 

軽口が叩けるだけの余裕があるのは流石だな。

まぁ、こいつが取り乱したところなんて見たことない。

って、そんなにぼっちの俺と無表情イケメンのこいつにそこまでいう程の接点も無いけどな。

 

「気を付けるべきはスピードが昼の奴より数段速い。それとあのブレードは触れれば人体なんて一瞬で蒸発しちまうぞ」

 

反応速度なんかも高いが、全ての弾丸を避けるか切り裂くなんて事は宇宙世紀のニュータイプでもなければ不可能だ。

HE弾は、物理学の細かい内容は知らないが直接触れなくてもブレードの1m範囲内のごく近くであれば、信管が誤作動を起こすとでも考えればいいだろ。

 

『了解です』

 

鋼鉄を一瞬で焼切るあの刃は確かに強力だが穴がある。

昼間のバリアにしても、このブレードにしても攻防一体の兵装だ。

でもバリアのように攻防を同時に熟すのではなく、適時自分の判断で切り替える必要がある。つまり人間の判断が必要な武装だ。

それはつまり乗り手に付け入る事で無力化は可能と言う事だ。

 

「そんじゃ、やるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

界塚弟が機体を跪いた状態から立ち上がらせる。

それと同時に再スキャンして一番艇の爆発による周囲の変化を探る。

 

『いつも通りで先輩は機体の陰からの展開をお願いします』

 

「それ俺の影が薄いってdisってない?」

 

誰がステルスヒッキーだ。コンチクショー!

 

界塚弟はライフルにAP弾を装填し火星カタフラクトに照準を合わせる。

そのタイミングで俺も機体を中腰で動かし反応を窺う。

 

ニロケラスは煙幕の中での無視界戦闘に対応できなかったのだから、一応は確認しておく必要があるだろう。

アパルーサ小隊との戦闘データからこいつは遠距離武装が無いか使う気がない。

そして、恐らくは前者だ。

残っているのは防御用なのか間尺が合わないんだろう。

 

もし使える武装を持っているのだとすれば、得物を投げるなんてしない。

自らの手を離れた得物は二度と使えると思うなってのは、世界蛇のクレイジーサイコレズの台詞だし、俺自身も鞠戸大尉からそう教わった。

わざわざ得物を手放してまで遠距離武装を使わないなんてありえない。

 

近接武装だけだというのであれば、近づかなければいい。

スピードは確かに速いがどこぞの十本刀の縮地使いじゃなければ、GNのライザーさんがトランザムって量子化する訳でもない。

俺や界塚弟なら見てから反応できる速度だ。

 

「作戦目標は揚陸艇の機関が動き、海上に出ることだ。無理な追い討ちはするなよ」

 

『分かってます』

 

界塚弟のスレイプニールから放たれたAP弾を火星カタフラクトが切り裂くが、軌道が僅かにずれただけで、装甲に当たる。

しかし、想定通りに装甲は地球のカタフラクトよりも固く小さな傷を刻んだだけだった。

 

「割には合わないが・・・・足止めにはなるか・・・・」

 

続けて放たれる弾丸に火星カタフラクトはこちらにブレードを向けて払わずに切っ先で弾頭に触れていく。

 

「弾頭が弾かれてやがる」

 

触れた先から弾の軌道が不自然に曲がり周囲のコンテナにまで弾かれる。

 

『弾頭が蒸発して弾かれている・・・・・ライデンフロスト現象・・・・なんて熱量だ』

 

蒸発した気体が膜になるってアレか。

なるほど、弾頭に触れる時間を増やしてやる事で弾頭を蒸発させてるのか。。

つまり、炸薬と質量で対応が変わるってる。それは大きな質量物なら対応しきれない可能性も出てきた。

界塚弟の機体の隠れるような形でデータを取得していくが、そろそろ動くとするか。

 

「界塚弟、タイミングは任せる」

 

『了解です・・・・・・・』

 

依然として俺は界塚弟の後ろで中腰の状態で待っていた。

相手のブレードは超が付くほど強力だが1本しかない以上、複数方向からの火線には対応できない。

急に銃口が増えた時に向こうがどう対応するかにもよるが、ニロケラスのパイロットレベルの馬鹿ならパニックで動きが一瞬でも止まる可能性もある・・・・

 

今回の目的は揚陸艇が火星カタフラクトの攻撃圏外の沖まで動く時間を稼ぐことであって、撃破は出来るならついでにってレベルだ。

 

『3,2,1、散開!』

 

界塚弟の合図を言うや右に動き出す。それに合わせて俺はヨダカを反対側へ走らせる。

オレンジの派手なカラーリング、それもライフルで攻撃を続けてくる存在はどう考えたって視線を曳きつけられる。

そんな奴が大きく動いた瞬間にこの夜の闇の中、黒い機体が高速で反対側に動けば機械は誤魔化せないにしても、乗り手が対応できない。派手な方に視線と注意が持って行かれるのは人間の視覚や脳の構造として仕方のないことだ。

ましてや右手にブレードを持ち界塚弟を追えば必然的に左に動いた俺には背中を見せることになる。俺の存在に気付いたとしても対応には一瞬遅れが発生する。

本来は手品の必須テクニックであるミスディレクションってやつだけど最近はバスケだかでも使うらしい。

っていうか、俺なんて存在自体がステルスだからな。うっせぇよ。

 

予想通り頭部が少し俺を追っているが、ブレードは界塚弟に向けている。

 

「まったく、予定通りだよ!」

 

俺の放つ弾丸はHE弾。

界塚弟のAP弾の対策で切り払いが出来ないんだから、破壊力の高いHE弾を発射する。

 

数発が敵カタフラクトの右腕に当たり爆発、その衝撃によってブレードが界塚弟の銃口からズレてAP弾が装甲に先ほどよりも大きな疵を作る。

 

敵カタフラクトが俺の方を見ているが、手を休める気はない。

HE弾を次々と放つとそれを迎撃するために右手のブレードを振るう。するとがら空きの左側からAP弾が装甲の表面を削る。

 

くそ、ホント硬い装甲してやがる。ガンダニュウム合金かってんだ。

 

このままライフルを撃ちながら更に左右に展開して、倉庫の陰に回り込んだクラフトマンとで3方向攻撃に移行しようと機体を動かすと、火星カタフラクトが動いた。

界塚弟の方に向けていたブレードを右手に持ち替えて俺のHE弾を切り払う。同時に左手を腰から出ているグリップを掴み界塚弟の方に向けた。

そこにもレーザーの光が見えるって事は

 

「ちっ!・・・・・ビームサーベルの二刀流って典型的な廚二病だよな」

 

もう一つの兵装までブレードってアパルーサ小隊相手に使わない訳だわ。

遠距離攻撃をしてこないところから防御用の兵装なのかとも思ったが、まさか二刀流とはな。

とはいえ、これで分かった。

あの機体は近接型じゃなく射撃兵装、防御兵装無し、ブレードオンリーの近接攻撃純特化型だ。

 

AP弾を弾き、HE弾を切り払う膠着状態になるが、ライフルの弾を撃ち尽くしマガジンを交換しようとする隙に界塚弟との間合いを詰められ状況が変化する。

 

「ちっ!界塚!」

 

マガジン交替時のタイムラグを突かれた。

こっちはHE弾だから軽くブレードを払うだけで無力化されちまう。

ライフルの弾丸が急所に当たらなければ決定打を打てないのを見越してか?

 

チャンバラ馬鹿の初撃を躱して、界塚弟は今までとは逆方向に旋回する。

 

なぜ、距離をとらない?この機体相手に近距離に居るメリットは無いぞ。

その時、サブモニターにクレーンの操縦席に乗り込む網文の姿が映る。

 

「くそっ!そういうことか!」

 

このシスコン馬鹿が!幼馴染に固定砲台させる気か!

 

界塚弟のスレイプニールが左腕をライフルごと斬られて弾の炸薬が爆発する。

 

その爆炎を利用して更に間合いを詰め、火星カタフラクトの右手を掴む界塚弟。

確かに、ブレードのさらに内側に踏み込めば安全度は増すがもう一本あるんだぞ。

 

「左はフォローしろってか」

 

ライフルを足元に捨てて、振りかぶられた左のブレードが動く前にワイヤーウィンチをブレードの柄の穴に向けて射出する。

あぶねぇ・・・・ギリギリじゃねーか。

あのブレードの柄がハンドガードが付いているからできた芸当だ。

とっさの事とはいえ、良くもまぁ成功したもんだ。

 

『くそっ!』

 

「こっの・・・・馬鹿力が!」

 

クラフトマンの位置からじゃ界塚弟の機体が邪魔で撃てないし、俺は出力差がここまであると奴の左手のブレードを抑えるので手一杯だ。

 

力ずくで押し込まれて界塚弟のスレイプニールは片膝を着く。

 

『・・・・もう少し右かな』

 

右かなじゃねぇよ。綱渡りな作戦なら詳細まで教えろっての!

 

網文の操作するクレーンが吊り下げたコンテナは弧を描き火星カタフラクトの頭部に激突し、その瞬間に抑えていたワイヤーを切り離す。

コンテナアタックで頭部を損傷した火星カタフラクトはそれでも衝撃を受け止めきれず、十数mの距離を吹き飛ばされる。

 

つーか、当たったよコンテナ・・・・・・

 

『当たり』

 

何をちょっと嬉しそうにしてんだよ。この後、どうフォローするつもりだよ?

網文を逃がさないと狙われるぞ。

 

それにしても、何の変哲もないコンテナなんかが通用するなんて。

レーダー系が弱いのか?それとも目の前の敵に集中しちゃうタイプ?

 

『カーム!』

 

『待ってました!』

 

界塚弟の合図で倉庫の陰の伏兵が攻撃を開始する。

 

『もう一発!』

 

網文はクレーンを操作して火星カタフラクトに向けてもう一度、コンテナをぶつけようとするが、あっさりと切り裂かれた。

 

『ですよね~』

 

「ですよね~じゃない、さっさとクレーンから撤収しろ!」

 

長距離ならともかくこんな近距離で固定砲台で2連撃とか何考えてやがる。

ワイヤーを使う際に地面に落としたライフルを拾いスモークグレネードを地面へ。

これで、せめて網文の逃げる時間くらいは稼げるか?

 

「いや、もう一手が必要か・・・・・」

 

さっきの攻撃で網文の位置はバレている。

撤収を始めてはいるがクレーンごと薙ぎ払われでもしたら。

一応、俺の機体を網文のいるクレーンと火星カタフラクトとの間に入れてはいるが、あんなブレードを投げられたらなす術は無い。

 

今、使える一番効率の良い手札はどれだ?

無視界での近距離戦闘はあいつにやるのは自殺行為。

このまま銃撃を続けても多分ジリ貧だ。

何より、揚陸艇との位置を考えるとこれ以上の接近を許す訳に行かない。

 

AP弾では弾かれた。HE弾では切り払われる。

なら弾かれないほどの質量だったら?

 

クラフトマンは未だに煙の中に銃撃を続けている。

まぁ、俺の機体からの情報があるから目視できないこと自体はたいした問題じゃない。

 

「クラフトマン!敵カタフラクトを弾幕で止めておけ!」

 

頭部のメインカメラを潰されている為か反応を見る限り動きが鈍いが、それでもクラフトマンの弾幕に対応している。

 

界塚弟は機体に標準装備されているKAT用ハンドガンを取り出し火星カタフラクトを狙う。

 

俺は通常弾頭に切り替えたグレネードを火星カタフラクトではなくその奥へ向けて放つ。

弾頭は火星カタフラクトの左に大きく逸れて、クレーンに着弾する。

破壊されたクレーンは軋みを立てながら少しずつ傾き始める。

 

「・・・・もう一発だな」

 

次のグレネードを装填して再度同じ場所へ放つ。

 

支えを大きく抉られたクレーンは十分な重力加速度によって、火星カタフラクトへと倒れ込む。

 

煙が晴れるのとほぼ同時に火星カタフラクトに向かってクレーンが倒れるが、さすがにそれだけで当たる訳はない。

火星カタフラクトは避けようと機体の足を動かすがその足元に向かってライフルで攻撃を加える。

 

ほんの一瞬の動作の遅れだったがそれが原因となってクレーンは火星カタフラクトに激突した・・・・・・・・筈だった。

 

「おいおい・・・・・・あれも切り裂くのか」

 

両手のブレードがクレーンを十文字に切り裂きカタフラクトにダメージを与えられなかった。

あれだけの金属というか質量の塊を切り裂くとかマジ相手にしたくない。

 

「界塚弟の機体は片腕・・・中破ってところか・・・・クラフトマンの機体は無事だけど俺共々、残弾が心許無い・・・・・・」

 

昼間の奴から補給無しの2連戦だ・・・・俺のライフルはAP弾がマガジン一つ分だし、クラフトマンもそう多くない・・・・・・界塚弟はハンドガンの弾が数発だし、なにより中破している。

そして、丸腰の網文って枷を抱えた状況だ。

 

これは誰かしらの戦死を覚悟する必要があるかと思っていた所に響く電子音。

表示されたのは戦術データリンクの・・・・・更新?

識別は・・・・・・・・・はぁ・・・・・これで何とかなるか。

流石にあいつもこのタイミングでの、これは分が悪いはずだ。

 

地面を抉る衝撃に火星カタフラクトの動きが止まる。

 

『遅くなりました・・・・マグバレッジ艦長。安全航路の確保に手間取りまして』

 

揚陸艇と海上の戦艦との通信がこっちにも聞こえてきた。

そういやミミルの通信傍受モード、そのままだったな。

 

『不見咲君・・・君がモテない理由を教えましょうか?』

 

『少し焦らす方が良いと聞きましたが?』

 

『それはモテてからやる戦術です』

 

マグバレッジ艦長・・・・マジ怖い・・・・・

この人の皮肉に形があったらきっと妖刀・村雨だと思うんだよね。

マジ切れ味良すぎて平塚先生辺りがきっと泣いちゃう。

 

直後、海上からの攻撃を示す信号がモニターに表示される。フレンドリーファイアに気を付けろってか。

それと同時に揚陸艇のタービンからの反応を検知する。

 

『撤収しよう』

 

『『了解』』

 

界塚弟はワイヤーウィンチを使い倒れている自分の機体を起こす。

念の為に俺の機体だけは火星カタフラクトから銃口は離さずに少しずつ後退する。

 

一瞬、火星カタフラクトはこっちに向かってこようとしたが、海上からの砲撃で足を止められた事で諦めたのか、直ぐに後退していった。

海上の艦艇の到着が5分遅かったら揚陸艇は守れても俺や界塚弟たちは死んでいたんじゃないのか?

 

「まったく・・・・ギリギリだったな・・・・・・・」

 

それにしても急な戦闘で準備も儘ならないとは言え、あんな賭けみたいな作戦なんて界塚弟らしくもない・・・・・もうちょっと、緻密に計算するタイプだろ、あいつ?

 

「おい、界塚弟」

 

あんなので後輩が死ぬとか夢見が悪すぎるからな。

一応、忠告しておこう。

 

『なんですか?先輩?』

 

「お前、幼馴染に固定砲台なんてやらせんな・・・・・無傷のスレイプニールがもう一機あるんだから方法はあるだろう」

 

『っ!・・・・・・はい・・・・・・・』

 

ちょいと言い過ぎた?

いや、でもこんな近距離で固定砲台役なんて普通に考えたら死ぬしな。

火星カタフラクトが一番艇にやったのと同じようにブレードを投げてたら今頃網文は跡形もない。

網文がどうとかって訳じゃないが、近しい人間が死ねば今後の戦闘に支障が出て俺が困る。

昨日の作戦立案とかから見ても界塚弟はその辺のフォローとかしっかりやる奴だと思ったんだけど俺の勘違いだろうか?

 

「・・・まぁいいや・・・・・・・・界塚弟は網文を回収、クラフトマンには後処理を頼んでおいてくれ」

 

『僕の機体、中破してるんですけど』

 

「それでも回収くらいできるだろ。網文にフォローしてやれ」

 

『はぁ、わかりました』

 

一応、膝枕の礼くらいは返しておけよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一足先に揚陸艇に戻った俺はヨダカを座らせて各システムを待機状態にする。

沖にはわだつみ本隊が来ている。一番艇が沈んでしまった以上、すぐに合流して補給作業をやり直すことになる。その時に再起動する事になるし、更なる追撃を警戒しておくべきだろう。

 

「まったく、面倒事ばっかりだな・・・・・」

 

「比企谷君、お疲れ様」

 

「准尉・・・・そちらこそ」

 

ヨダカを降りた俺に声を掛けてきたのは界塚准尉だった。

愛しの弟君は幼馴染の回収に手間取ってまだ帰ってきてないから、俺以外に甲板上じゃ話し相手がいないんだろう。

機械油があっちこっちについたままの状況を見る限り、メインエンジンの起動に結構な無茶をしたんだろう。

 

「まったく、また戦闘に出たって聞いてビックリしたわ」

 

「ええ、まぁ・・・・戦わなきゃ死ぬんで・・・・・・」

 

ほんと、正規軍人がしっかりしてくれればこんな事にならないんだけどな。

昼のもさっきのも確かに初見殺しな武装だとは思う。掠っただけでもアウトだ。

でも対応できない訳じゃない。

現に俺たち高校生たちだけで2回も撃退できている事実がその証明になる。

網文じゃないけど「大人ぁ!」って叫びたくもなる。

 

「それでナオ君は?」

 

「あぁ・・・・あいつなら網文に無茶させた罰でフォローさせてます」

 

「無茶?」

 

今の今までメインエンジンと格闘をしていた准尉は今回の戦闘の顛末を知らないのだろう。

 

「まあ、全員無事です。詳しくは弟にでも聞いてください」

 

「そう?ならそうさせてもらうわ」

 

さっきのやり取りであいつも自分の作戦を客観的に見直しただろう。

俺からよりも界塚弟自身から説明させた方が分かりやすいと思うし、何より余計な仕事を増やしたくない。

 

「それにしても、よく使えるわね。これ」

 

黒い機体を見上げながらシミジミと言われましたも

 

「別に普通のスレイプニールと大差はないでしょ?」

 

実際、通常戦闘などにおいて何かが違うなんてことは無い。

夜間の無視界戦闘を想定して作られたモデルだからレーダーとかレスポンス系は少し上かも知れないけど

 

「ミミルの事よ」

 

そうでした。こいつは他の夜間戦闘用と違うんでしたね。

 

「そんな難しい事でもないでしょ?」

 

戦闘稼働時に使えない関係上、使っている時は精々歩かせるくらいしか出来ない。

だったら、そこまで難しくもないだろう。

CPUの処理能力の関係でフルスペックは使えていないからな。

確かに膨大な生の取得データを取捨選択しなければならないが、必用な情報が分かっていればそう難しくもないと思うけど。

 

「私が知る限りじゃ、使えてるの比企谷君だけなんだけど?」

 

「そうなんですか?准尉でも・・・・あぁ准尉は無理か・・・・」

 

ちょいとアレな所があるからな・・・・・適正としては弟の方があってそうだ。

 

「ちょっと・・・・それは私には頭脳労働は無理って事かしら?」

 

「そんなこと言ってないじゃないですか」

 

だから、その左手は降ろしてください。

徹底的な理詰めの弟と違って、感覚タイプだから向いてないってだけ・・・・・あっ、頭脳労働向いてないわ。

 

「それより、なんか飲み物ありませんか?」

 

昼の戦闘と違って、結構ギリギリだった事もあって喉が渇いた。

基地で補給したものが何処にあるのかと思い聞いた。

 

「ええ、水でよかったらあるけど」

 

予想と違ったのは、准尉が持っていたペットボトルを差し出してきた事だった。

 

「・・・・・えっと・・・・・・・・」

 

これ、准尉の飲みかけとかじゃないよな?

ラベルとか持っている場所とかの所為で減っているのか分かり辛い。

 

「・・・どうかしたの?」

 

「いえ・・・・その・・・・・・・」

 

言えねぇ・・・・・。

「それ准尉、口付けてないですよね?」なんて言ったらマジでこの寒空なのか海に叩き込まれると思う。

受け取ってから返すと左腕が飛んできそうな気がするし、受け取らなければ受け取らないで、物理的なオハナシが始まる気がする。

 

「ん?・・・・まぁいいわ。分かっていると思うけど一番艇があの状況だから護衛艦本隊の補給作業を再度行います。その間に私たちの割り当てられている補給を再開、終了次第、本隊に合流、本隊の補給が終わるのは1時間後を予定してるから」

 

どうするか悩んでいる間に、しびれを切らした准尉はペットボトルを押し付け、今後の予定を通達して行った。

准尉の向かった方向を見ると、その理由はすぐに分かった。

あぁ、ようやく網文を回収して戻ってきたのか。

 

「それはそうと、これ・・・・・・どうしよう・・・・・・・」

 

その後、ペットボトルをどうするかを真剣に考えた結果、意を決してキャップを捻るがどうやら開封済みだったらしく、更に長い時間を悩む羽目になった。

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