やはり俺のアルドノア・ドライブはまちがっている。   作:ユウ・ストラトス

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遅くなりました。14話です。
スパイのおかげでどうしても行動にも言葉にも制限を掛けないとならないんで、もう何回書き直した事か。
スパイ関係無いところは結構な量のテキストがあるのに・・・・・・何ならスパイの部分さえ無ければ人工呼吸辺りまでの展開はそう時間かからないのに先に進められない。


第14話

鞠戸大尉との話も終わり、艦内に戻ったところで声をかけられた。

 

「君は……確か比企谷君でしたね」

 

「……マグバレッジ艦長」

 

多分、これから艦橋に行くところなんだろうけど、なんでこう行く先々で面倒なのに引っ掛かるんだ?

 

「先ほどはよくやってくれました。お蔭で我々も無事合流できました」

 

「いや、作戦を立てたのは界塚弟ですから」

 

「界塚?」

 

「オレンジの機体、界塚准尉の弟ですよ。俺は黒い方なんで」

 

界塚の名字では艦長の中では結びつかなかったらしい。

まあ、能力関係とか正反対だからな。片や私生活ポンコツだし。

 

「ああ、なるほど」

 

「あいつの作戦に任せただけで俺が褒められるような事は何もないですよ」

 

データ収集とかはともかく、俺がさっきの戦闘でやったのは界塚弟の動きに合わせて、対応しただけだ。

 

「界塚准尉から聞いていた通りね。作戦の穴をカバーしたのはあなたでしょ?」

 

今度の情報源は准尉かよ。

絶対、余計なこと喋ってそうだな。

 

「別に界塚弟の作戦に穴はありませんでしたけど」

 

被害を考えずに詰将棋として考えたら、あの作戦は撃退を目的として充分だと思う。

そういう意味では穴は無い。

 

「コントロールから見ていた感じでは、君のフォローが無ければ誰かが死んでいたと思いますが?」

 

「誰も死ななかったのは界塚弟の作戦が上手くいったからです」

 

大体、スモークグレネードで途中から目視出来なかったはずだ。

確かにクレーンへの攻撃は俺だが、コントロールからの目視ではクラフトマンかもしれないし界塚弟かもしれない。

そもそも上手くいったのは、火星騎士がアホだったのが一番大きい。

あのカタフラクトの搭乗者はお遊戯程度に舐めていてくれているから付け入る隙があった。それだけの事だ。

 

「君は自身を過小評価し過ぎる傾向があるみたいですが、火星カタフラクトを二度の撃退は君の功績が大きいのでは?」

 

どうせ鞠戸大尉か界塚准尉にでも聞いたんでしょうけど、あの二人の事だからどうでも良い事を誇張してんだろ?

 

「そんな事無いです。新芦原の事を言っているなら、それも界塚弟が組み上げた作戦が良かっただけです」

 

「准尉から聞いた限りでは、当初の作戦とは場所を含めて一部が違うみたいですが」

 

撃退できたんだし、手段に関しては渡した戦闘データで確認でもしてくれよ。

情報元は恐らくは界塚准尉か。どうせ、弟の作戦勝手に変更しやがって的な話でしょ?

上官にまでブラコン披露は流石にやめておいた方が良いですよ。シスコンはともかくブラコンは引きます。

 

「想定外の事があったんで、ポイントを変更しただけです。俺の功績なんて大層な代物じゃありません。界塚弟にでも聞けば分かる事です」

 

「そうですか。それではその辺は本人に聞いてみましょうか」

 

「ああ、アパルーサ小隊の後始末で疲れてるんで、仮眠取ってると思いますよ」

 

「正規軍としては耳が痛い話ですね」

 

そら、そうでしょうね。

あえて、そう言っているんだから。

正規でみっちり訓練しているはずの職業軍人が、学校で教練を受けていると言えど高校生に後れを取っている。

マグバレッジ艦長はそれで尻拭いした人間をいきなり呼び出したりしないだろう。

その間に界塚弟とお姫様は休息がとれるし、質疑対策もたてられる。

 

「君が思う対火星カタフラクトの鍵はどこだと思いますか?」

 

「大したコメントなんて出来ないと思いますが?」

 

何よりいい加減に解放してくれませんかね?

 

「それでもです」

 

なんかもう、一言でも言わないと放してくれなさそうだな。

適当なコメントでお茶を濁したいけど、下手な事を言うと突っ込まれそうだし、ある程度真面目に答えるか。

 

「一番はどれだけ冷静でいられるかと物量じゃないですかね?撃つだけならCPUでも出来ますから」

 

戦闘データを見ればアルドノアの特性を認識するのは難しくない。だったら、作戦の一つでも思い浮かぶ。

まずはデータを集めて分析、対策をしてから戦闘をするのは正攻法中の正攻法だ。

相手が常識外の特性を持っているからって、こっちまで常識外の行動をする必要はない。

初見殺しが多いなら無人偵察機でも飛ばせば良いだけの話だ。

戦場でドンパチするだけが戦争じゃない。

 

「まあ、俺たちの場合はたまたま相手の相性が良かっただけってのが、大きいとは思いますが」

 

「まあ、今はそう言う事にしておきましょう」

 

そういう事じゃなくてそれが純然たる事実です。作戦と運が良かっただけ。

今はそんな事よりも潜伏している可能性が高いスパイを何とかしなきゃならない。

鞠戸大尉が行動を起こす前に幾つかやっておくべきことがある。

 

「それじゃ失礼します」

 

話が一区切りしたタイミングで脇を通ってマグバレッジ艦長から離れる。

火星カタフラクトの襲撃のタイミングに関して聞かれなかったってのは、マグバレッジ艦長はスパイに気が付いていないと決めつけるには早計だ。

歳は知らないけどあの若さで艦長職を任されている以上、優秀な人なんだろう。

俺が気が付く程度の分析が出来ないってことは無い。

色々と一段落してようやく艦橋に向かうところだろうし、まだアパルーサ小隊の交戦データを見ていないかもしれない。

鞠戸大尉に明かしたのは俺の行動パターンをいくらか知っているから先手を打つって意味もあったが、艦長は俺のその辺の情報は持っていない。早すぎる先手を打つ理由は無い。

まあ、スパイの存在に行きついたとしても現状では憶測の域だし、佐官クラスとなれば責任を負わなければならない部下は一人二人ではない。

憶測の段階でそこまでのリスクを取れない。動かすとしたら自分の副官くらいだろうな。

 

「とにかく、今の内にやる事やらなきゃな」

 

俺も出来る対応なんて大差はないんだけどな。

一介の高校生が軍部のスパイなんて普通は相手にもならない。

明日出来る事を今日やるなって言いたいところだけど、その前に追撃が来たら意味が無い。

まずは揚陸艦の構造把握と喫緊の応戦準備かな?

他の避難民と合流したら下手すると行動を制限されかねないし、合流する前にやっておこう。

 

 

「まったくよー仕事ばっか増えちまってさー」

「補給物資の振り分けの……」

「1時間後に定時チェックだから」

 

すれ違う人の話している会話の全てが怪しく聞こえてくる。

スパイの存在ってものが可能性があると、普通に言葉ですら全て裏があるように思えてくる。

この揚陸艦に10や20もいるとは思えない。

スパイを送り込むような奴がそんな効率の悪い事をするとは思えない。

 

「おい、そろそろ交代時間だ」

「了解、行程表の引継ぎがあるから」

 

「機関長なんか来月定年退役だってのに火星のタコ共が」

「あの人、機関部一筋だっけか?」

 

「だからヘブンズフォールの時に核でも撃ち込んじまえば」

「まあまあ。ともかくさっさと飯に行こうぜ」

 

「避難民の護衛なんかじゃなくて前線で」

「お前じゃ無理だろ。それよりも避難民に可愛い子居たぜ」

 

「さっきの東京で暴れてたやつだぜ」

「マジかよ……主力隊が敵わないんならムリゲーじゃねーか」

 

会話の内容も色々だな。

今すれ違った人間が当たりって確立は1000人以上はいるこの揚陸艦だから単純計算で1%にも満たないだろう。

でもそれは無視していい確率では無い。

 

「マジで誰も彼も怪しく見えてきやがる」

 

そういった意識で聞いていると全てが伏線に見えて仕方が無くなる。

普段は気にも留めないちょっとした事の裏を見ようとしてしまっている。ただの目線の動きだったり、言葉と言葉の間だったりが気にしたって分かる訳が無いのに気になってしまう。

 

「はははっ、それでさ」

 

また2人組とすれ違う。

片方は笑っている。もう片方は聞いているだけなのか?

口元は笑っているが目の奥は少し迷惑そうだ。

これは話が嫌だからなのか?それとも意味の無い情報だからなのか?

 

「……駄目だな。こんなんじゃ1日と持たないぞ」

 

こんな調子ですれ違う人間全ての挙動言動に神経を研ぎ澄ませていたらとてもじゃないが精神が駄目になる。

それでも、鞠戸大尉はまだ動く前だし想定外であろう火星カタフラクト撃退の直後でもある。

いや、それだったら情報収集じゃなく上に指示を仰ぐところか?

だとしたら、こんなところで会話じゃなく。人の目の届かない所で通信している?

でも、そうだとすると何処で?

いや……今まで誰にも気が付かれなかったものがそう簡単に分かる訳が無い。

まして、俺にはこの揚陸艦の構造すら分からないのだから、どこが人目に付かないとか分かる訳が無い。

この多数の人間の中で対象を見つけるってのが、手掛かりのない現状としてはほぼ不可能だ。

それならば、自分から名乗り出てもらうしかない。

かといっても呼びかけて手を挙げるわけもない。

それならば、どうするか?

スパイとそれ以外の人間を分ける違いは何だ?

地球連合軍は多国籍だから人種で見極めるのは不可能だ。

ヴァースの誹謗中傷で反応を見るか?

その程度で尻尾が掴めるはずないか……むしろお姫様とチビ侍女にぶっ飛ばされる。

それに乗組員全員もやっている時間は無い。

ミミルでもって定時連絡を傍受してみるか?

定時連絡がいつされるか分からない。気が長すぎるし、そもそもニロケラスのカメラのように傍受できればいいけど、出来なかったら無駄骨過ぎる。

現状でとれる手は少ないな。

 

はあ……駄目だ。こんな事を考えている段階で見つかる訳が無いな。

むしろ無駄な思考で疲れてしまう。認識してしまった以上、まったく気にしないってのは恐らくは不可能だ。一度、どこか一人になれるところで考えを纏めたいな。

 

今、この艦内において異物は俺達、新芦原の避難民だ。

その中でも俺や界塚弟辺りは特に異質だろう。

制服を着た高校生でありながら、型落ちの訓練機を駆り火星人を退ける。

そんな俺や界塚弟が動けば否が応でも目を引いてしまう。

避難民と行動を共に合流した中で軍人である人間に動いてもらう事で、俺達に対する視線も少しは外してもらわないとな。

 

「……だとしても、この状況じゃ後手しかないか」

 

一先ず、ここから先は更に情報の管理は厳重にしなくちゃな。

お姫様の正体に関しては誰にも気が付かれない様にしなくてはならない。

さっきの基地でのように襲撃してきた相手に交渉なんて事は言い出さないように念を押しておこう。と言っても、スパイの事は言えないからチビ侍女にブレーキ役をやってもらうしかないな。

 

 

 

 

250m級の揚陸艇内で注意を受けない範囲で回れるところを一通り回ったがどこが人目に付かない場所かまでは到底わからない。

1時間弱をかけて、ぐるっと一周した様な格好で格納庫のスレイプニールのところまで戻る。

揚陸艇で搬入したスレイプニールの腕のパーツは、界塚弟の乗っていた機体の前に置かれていた。

わざと少し大きめの木箱に詰め替えさせてラベルを付け替えてここに運び込ませた。

理由は、一緒に色々とこの艦に持ち込むためでもある。

 

爆散したアパルーサ小隊以外の被害が無い以上、格納庫は静かなものだ。

忙しそうなのは補給科の連中とこの格納庫の資材管理担当くらいだ。

学校の訓練機でしかない俺たちの機体に興味を示すものが居る訳も無く格納庫の一番端の区画で4機が固まって置かれている。

各区画ごとの作業班を仕切る為だろうかシャッターが8割がた降りている。

まあ、こっちで作業するのに見られなくて済むから助かるけど。

 

あのチャンバラ野郎が来るとした前提で用意をするとなると、今回はヨダカを使えない。

俺の立てた策では必ず機体を破損させる。今は換えの効かないミミルを搭載しているこのヨダカを使う訳にいかない。感知特化型のコイツにはこの先にも多分、役割がある。

 

2度の戦闘で分かったことは火星のカタフラクトのアルドノア兵装はどの機体もかなり強力だという事。でも強力なのはアルドノアによる特殊兵装であって機体そのものじゃない。たしかに技術は地球よりも上の水準ではあるが、常識の範囲内だと思う。

機体に関してのスペックは向こうが上ならそれ以外の何かで補わなきゃならない。

 

機能の戦闘から得られた情報はカタフラクトの機体情報だけじゃない。むしろ、何かしらの手を打てる可能性としては機体よりも搭乗者の方だな。

無意味な建築物の破壊やミサイル発射管への死体蹴り、俺達との戦闘だって想定外のはずだけど一切の後退をしなかったどころか回避行動も無かった。いくらブレードが強力と言えど相手を舐めているとしか思えない。

圧倒的な武力によってゴリ押しプレイをしているから、戦局を見誤る。

流石にAP弾が自機の装甲に与える影響が分からないような奴にカタフラクトを与えるとも思えない。それすら警戒するようなチキン野郎だったら、あんな近接戦闘純特化型に乗らない。

 

あの戦況、俺ならあんなに撃たせない。

装甲に付けた傷から見てもAP弾一発程度のダメージはたかが知れているのだ。

余計な事をさせずに間合いを詰めて両断する。機体の速度も本来その為のモノだ。

そうしなかったのは相手に自身に届く刃があると想定していないから、大丈夫だと好きにさせている……ともかく迂闊な奴だ。

 

確かにあの装甲は堅い。AP弾であの程度のダメージでは装甲を貫くには時間がかかりすぎる。その割には頭部に関してはコンテナぶつけられただけで半壊していた。

重量や可動域にもよるけれど、戦闘や搭乗者の生存に大きく関わったりする所で機体強度が違う事は設計上ままある。そして、兵器を設計するうえでもっとも優先されるのは搭乗者の生存だ。逆にいえば頭部を狙った所で搭乗者を死に至らしめるには足りないと言う事だ。

頭部を潰すことが搭乗者の死に直結するのであれば、それこそ頭が飛んで口からビーム吐くぐらいしても驚かない。でも、だからと言ってそう言った部分が失われて何も支障が無いわけじゃない。

現に頭部を破壊された後、火星カタフラクトの反応が遅れ気味だった。それは搭乗者による要因の可能性もあるが、頭部破壊による機体の影響が無かったとも言えない。

だったら多分、何かを優先する為に強度を犠牲にしている部分が他にもある。

当然ながら胴体は論外。あのどっかのサードギアみたいな前腕も無理だろう。

いつもの事だけどマジで選択肢が少ない。有効打の可能性が高く、それでいて相手が想定している可能性の低いとなれば少ない選択肢の中でも二つしかない。

さらに実行できるものと言えば一つだけだ。

 

界塚弟の作戦は確かに計算上は可能なんだろう。

それでもブレードそのものに対応する策をやらせる訳にいかない。

計算ってのは入力側の数値が一つでも違えば大幅に答えが変わってしまう。気象条件が変われば、ヨダカが読み取ったデータは違っていた可能性もある。そもそもアレが本当にプラズマである可能性は100%ではない。

 

それならば、こっちの方が確実ではある。

これならプラズマだろうがビームだろうがフォトンだろうが関係ない。

最大の問題は崖底に向かうアクセルを踏めるかって事と、ヘッドギアがあっても多分痛いって事か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スレイプニールへの仕込みも終わらせて、避難民との合流する為に格納庫を後にすると格納庫から比較的近くの区画で界塚弟がドアの近くに寄りタブレット端末を弄っていた。

お姫様を別の場所で休ませろと言ったし、その護衛だろう。

わざわざ通路に出てお姫様とチビ侍女だけにするあたりさすがイケメン様と言うべきなのかね。

 

 

避難民の居る場所が分からなくてウロウロしていると通路の端でしゃがみ込んでいる人物がいた。

最初はスルーしようかとも思ったが、スンスンとすすり泣かれては後で社会的に面倒な事にされそうな気がする。

 

「おい、網文。泣くなら他行け」

 

何せ男女は違うが俺と同じ学校の制服を着ているのだから。

 

「グズッ」

 

「それ、鼻を啜った音なの?それとも俺がグズって意味?」

 

「後者です」

 

このアマ。

 

「泣くなら界塚弟をティッシュ代わりに使えよ」

 

「伊奈帆、さっきから見当たらなくて」

 

ああ、そういやお姫様の護衛を押し付けたっけ。

俺が界塚弟と合流しないと動けないんだったわ。

 

「だからってこんな所で一人で居るな。揚陸艦内だからって気を抜きすぎだ」

 

お前だって、一応はルックスはうちの学校内でも上位に入るんだからその自覚をしなさい。

規律を重んじる軍人って言ったって、男所帯な場所だし、今は戦争中だ。

どこで何かが可笑しくなって下賤な目に遭わないとも限らないだろうが。

 

「軍人なんざ男子高校生なんて足元にも及ばない性欲の塊なんだからあまり一人でいるなよ」

 

それとスパイに目を付けられないかも気掛かりだから。

 

「でも……」

 

深夜だし他の避難民を気遣っての事だろうけど気を使う相手が違うだろ。

つーかあの鉄仮面に気を使わせるくらいしてこいって

クラスメイト以外は赤の他人だろうが気を使う必要も無い。だいたい、新芦原でも俺達学生に丸投げして何の役にも立たなかった奴らが言えた義理かよ

今生きていられるのは紛れも無く界塚弟や網文の行動のお蔭だ。

部屋の空気が悪くなることも許容出来ないというなら、今すぐに海に飛び込め。

 

「はぁ……なら、ずっとそうしてろ」

 

まったく面倒くさい奴だ。

来た道を引き返しながら、この後の展開を修正を考える。

マグバレッジ艦長は襲撃タイミングの異常にはまだ気が付いていない。

鞠戸大尉の動きにもよるだろうが、知った所で動けやしないだろう。

チビ侍女にはスパイに関しては言っておかないとならない。俺と界塚弟が常に近くに入れる訳ではないのだ。火星カタフラクトと戦う事になれば今まで同様に2人とも出撃してしまう。朝になってからと思っていたが、ちょうどいいからこのタイミングに切り替えるか。

 

「先輩?こんな時間までどこに?」

 

「色々とな。そっちは護衛だろ?交代するからお前はそこから上のフロアに行って左に道なりに行け」

 

「そっちって避難民の部屋の方向じゃないですよ」

 

「いいから行って来い。お前のが適任だ」

 

網文のアレは戦闘で発生した脳内物質が引いて今になって恐怖が来たんだろう。

界塚弟はフォローしたんだろうけど、こればっかりは時間差で生じるものだし、どうにもしようがない。

理解は出来ても、感情をコントロールできる高校生はそうそう居ないしな。

普段なら俺にとってどうでも良い事なんだけど、今こいつらの連携悪化は俺の命に関わる事になってしまっている。

 

「ここは良いから行ってこい。俺もチビに話があるしな」

 

「……分かりました」

 

意味が分からないって感じで言われた通り上のフロアに上がっていく界塚弟を見送る。

さて、お姫様が起きてるか寝てるか、寝たフリしてるのかにもよるがチビ侍女には説明しておくか。

バッグの中を小分けにするために小町に入れられたポーチ。

そこに入れ替えた中身を確認してドアをノックする。

 

「何ですか。半死人」

 

少しだけドアを開けて俺を睨むチビ侍女。

刺々しい言い方しやがって。また睨んでやろうかな?

 

「話がある。入るぞ」

 

ドアを半ば強制的に開けて室内に入る。

何かしらの資材置き場なのだろうが今はそんな事はどうでも良い。

ドアを閉めて内側からロックをかける。

 

「何の用ですか、刺しますよ?」

 

「ナイフすらないのに敵意を剥き出しすぎだろ」

 

いい加減、俺相手にその警戒心は少しは緩めても良くないか?

どうやらお姫様は壁にもたれて座り、目を閉じている。

 

「そっちは寝てるのか?」

 

「あなたに関係ありません」

 

「寝かせろって指示したの俺なんだけど……まぁいいや。話があるのはお前にだよ」

 

実際、寝ていようが寝たフリだろうが俺には支障が無い。

 

「どういう事ですか」

 

「そんな警戒しなくても俺はシスコンであってもロリコンじゃないからな」

 

「どうだか」

 

「はぁ、とにかくこれを渡しておく」

 

手に持っていたポーチをチビ侍女に渡す。

見た目に反した重さに動揺したのか表情が強張っている。

 

「これは?」

 

中には基地でくすねてスレイプニールの補給品に紛れさせておいた小径の拳銃とその弾。後は小さなメモ帳とペンを入れてある。

メモの一番上の文字を見て強張った表情に焦りの色が窺えた。

 

「なっ!?これは!?」

 

メモには、この揚陸艦の中にスパイがいる可能性が高い事と、この場で質問があれば筆談でなら応じる旨を書いてある。

 

『護身用だ。口径は小さいからチビ侍女でも比較的扱いやすい筈だ』

 

そのまま問い詰められそうだったのでスマホに前もって入力しておいた拳銃に関しての説明文を見せる。

 

「確かにこ……」

 

反射的に出た言葉を飲み込みペンとメモを手に筆談を始める。

流石にお姫様就きの侍女だな。状況の理解が早くて助かる。

 

『確かにこれなら使えますけど』

 

メモの拙い文字をこちらに見せつつ困惑しているようだ。

まあ、無理もないか。いきなりこんな形でスパイの存在を示唆されては。

 

『この話は姫さんに聞かれる訳に行かないし、スパイの耳も警戒が必要だ』

 

存在を知れば何をするか分かったもんじゃない。

そんなリスクを負うくらいなら、俺が意地悪して教えないって状況にした方が建設的だ。

だけど、護衛する側としては知っておく必要がある。

知っているかいないかで、いざと言う時の生存率に大きく関わる。

 

『スパイがこの船の中にいるっていうんですか?』

 

『さっきの襲撃タイミングがそれを示唆してるからな』

 

お互い文字を見せるのには時間がかかる。

向こうは日本語に慣れていない。

KATのOSは英語表示だから俺はある程度は英語も分かるけど、そっちに合わせるのは面倒だし、会話レベルの単語は分からない。

こういう時に由比ヶ浜のメールの打ち込み速度が欲しくなるが、ここ以外で使い道が無いな。

別に俺は池袋によく出没すると噂の通りすがりの都市伝説って訳でもないしな。

 

『何故、姫様に内密にする必要が?』

 

『知っての通り、姫さんの性格の問題だ。そんなリスクを背負うと護衛する側としては面倒しかないだろ?』

 

駄目なものを駄目なままにしておけない性格は、人としては正しいのかもしれない。

でも正しい事が正解かと言えばそうとは限らない。

 

『その拳銃もその対策だ。この先、俺と界塚弟が常に付くことは出来ない状況もあり得るがお前なら一緒にいても不思議はない』

 

『それはそうですが』

 

『やる事は今までと変わらない。必ず姫さんと一緒に居る事』

 

『言われるまでも無いです』

 

『そして、何があっても正体を隠し通せ。スパイ抜きにしても、火星の要人と分かれば女が無事で済むとは思えない』

 

『その為には誰かを撃つ事になってもですか?』

 

それが最適解だとは思っていないが、最悪だけは回避する手段ではある。

傷付けたくないとか争いたくないとかのお姫様の信念は俺にはどうでも良い。

 

『最優先すべきはお姫様と界塚弟たちの命だ。その為には死なれては困る。今日初めて会った揚陸艦の誰かの命なんてものは勘定に入れる必要はない』

 

正直に言えば、こんな選択を取りたい人間なんてサイコパスくらいだろう。

一般人じゃなくても、同族殺しなんてしたい奴はいない。

 

『必要なら殺せ。それによって起こる事態は界塚弟が何とかしてくれる』

 

『そこはあなたがやるって普通言いませんか?』

 

『悪いが俺は普通じゃない。そういう期待をされても困る』

 

ほんと、そういう主人公的な役割はイケメンリア充がやるって昔から相場が決まっている。

俺みたいなのがやる事なんて精々人間の壁役だ。

 

『スパイはどうするんですか?』

 

『一応、身元がはっきりしている軍人に動いてもらっている。俺の方でも手は打つつもりだ』

 

『その人は信用できるんですか?』

 

まあ、この文面じゃお姫様の事を漏らされていると思われても可笑しくは無いな。

念のために説明を付け足しておくか。

 

『少なくともこの揚陸艦に居る人間では一番な。それと姫さんの事は伏せてあるから、その点は心配するな』

 

『わかりました』

 

『護衛は極力、まあ界塚弟がフォローする。今とか眠いだろうが耐えてくれ』

 

それ以上の回答を待たずにチビ侍女のメモを全て回収する。こういった物が残っていると、後々でお姫様に見つかると面倒事にしかならない。

これで今の段階でできる最低限のセーフティネットは構築できたか?

あまりやり過ぎると、スパイ側に気取られかねないしな。

 

20分後に起きたお姫様と共に避難民に合流した。

だけど、多分お姫様は寝たフリだよな。筆談に切り替えておいてよかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝となり、補給の際にくすねておいた携行食を手にスマホを弄ってみるが電波は相変わらずだし、データを漁ってもスパイに関しては参考にもならない。

界塚弟と網文たちは暇つぶしにトランプでなんかやっている。

 

「昨日、火星カタフラクトを撃退したのは君達ですね?」

 

「はい、そうですけど」

 

声をかけてきたのは女性の軍人。

どっかで聞いた声だな。

君達って言いながら俺は数にカウントはされて無さそうだな。

 

「私はこの艦の副長の不見崎と言います」

 

あぁ……聞いたことあるわ。マグバレッジ艦長がモテないって言ってた人か。

なるほど、これが平塚先生予備軍って奴か。

 

「マグバレッジ艦長がお呼びです。艦長室まで来てください」

 

昨晩に言ってた通りに話を聞きたいって事か。まあ今更言わなくても界塚弟なら上手い事、対応する。

もう、昨日の話した内容だし俺が行ったら絶対に面倒事になる状況しか思い浮かばない。

 

「やったのはこっちの界塚……イナゴ?イカホ?……何だたっけ?」

 

「伊奈帆ですよ。先輩、いい加減に覚えてください」

 

「い、伊奈帆が怒ってる……珍しい」

 

おい、網文。

少しは助け舟を出してくれよ。

ってか、これで怒ってんの?表情殆ど変ってないじゃん。

これの変化具合が分かるって凄いな幼馴染と実の姉って。

 

「分かったから、そんなに見るな」

 

あと無表情で近づくなよ。怖いし、海老名さんが悦に浸っちゃうと面倒なの知らないの?

 

「俺、昨日の内に艦長とは話しているし、わざわざ追加の話も無いだろ。昨日の戦闘は界塚弟の功績だって言っておいたし」

 

それに2人揃ってお姫様の護衛から離れる訳に行かないからな。

 

「それって面倒事を僕に押し付けてませんか?」

 

「どこがだよ。実際、俺の手柄じゃないだろうが」

 

俺は事実を言っているだけだ。

作戦立案したのは界塚弟だし、ニロケラスの気を引いたのも、チャンバラ野郎に一撃喰らわせたのは網文の功績だ。俺はそれをフォローしたに過ぎない。

俺のやった事なんて誰でも出来る事だし、大した事でもないのは俺が一番分かっている。

何だかんだ言っても網文も馬鹿じゃない。クレーンでの事だって、網文自身もリスクは承知していたと思う。

俺だったらビビりまくって遂行できずに死んでいる。

それでも網文はやってのけた。それは界塚弟に対する信頼から来るものなのかは知らんが。

だから、称賛されるべきは界塚弟と網文であって俺じゃない。

何せ俺は自身や揚陸艇を守るために一番確実な選択肢を取ったとはいえ、ヨダカに乗っていながら一番艇とアパルーサ小隊を見殺しにしたのだから。

 

「よろしかったのですか?」

 

不見咲副長が界塚弟と網文を連れて行ったのを確認したところでお姫様とチビ侍女が近寄ってきた。

 

「何がだよ?」

 

「昨夜の事は詳しくは存じませんが、新芦原での事は」

 

「……どうでも良い事だ」

 

俺は仕事なんてしたくない。中学生の小町は対象では無いし、俺も両親もそんな事させないが劣勢を強いられている地球連合側が俺たちをKAT乗りとして徴兵するのは時間の問題だ。

 

界塚弟に実績があれば徴用されたときにある程度の条件に融通が利くかもしれない。

どっかのニュータイプとかじゃないから、たった一人の兵士が戦局をひっくり返すなんて思っちゃいないが、アルドノア・ドライブに対抗するためには、俺なんかよりも界塚弟の頭脳の方が必要になる。

界塚弟がきっちりと戦える状況がお姫様を守る事になる。それがひいては停戦なり休戦、小町の安全に繋がる。

 

そもそも俺たち学生が旧式の機体で撃退できたのに正規軍は何やっているんだよ。

恐怖で乱射するだけならCPU制御の無人機でも開発しとけ。

 

「昨日も言ったが不用意な行動は避けてくれ……それと一人になるのもな」

 

「そんなことは承知しています!」

 

「あ?」

 

話の腰をへし折ってくれた仕返しにドスを効かせてチビ侍女を睨みつけた。

 

「ぴゃ!」

 

「ぴゃ」って初めて聞いたんだけど。

何かショックを通り越して楽しくなってきた……いかんいかん、特殊性癖はいかんぞ、俺。

 

「バルス、バルス、バスルバルスバスル……」

 

縁起でもない呪文の連呼は止めてくれ。

飛行石なんてものは存在しないし、せめてアルドノア持ってきなさいよ。

 

「それよりもだ。もう少し立ち位置を考えてくれ」

 

「理解しています」

 

いや、してねーから。

網文がそのままにしていったトランプを手に取る。

 

「いいか、ここに伏せたカードは最後の最後に開いて初めて効力を発生させる。そして、このカードを切る事が俺たちの絶対勝利条件だ。それ以外のルートはない」

 

大貧民ってリア充専用ゲームだからやったことないけど、ルールは知っている。

お姫様の存在はスペードの3みたいなもの。

他のカードすべてには負けるがジョーカーに唯一対抗できる。でもその為に切るに切れない。

火星の切り札次第ではあるがそれに対するたった一回だけの反則技。でもそれ以外には何の効果も無い。

 

「俺たちの手札は条件が揃わないと何の効力を持たないものばかりだ。出し方とタイミングが決まっているが、誰も攻略方法を知らないが……少なくとも今はその時じゃない」

 

「ですが、それでは」

 

「戦術で負けて戦略で勝つなんて出来ない。俺たちは戦術で負ければ終わりだ。俺たちは戦術で勝ち、なおかつ戦略でも勝たなきゃならない」

 

戦闘での戦術においても、そして戦略でも「負ける=死」の図式である以上、優先順位の絶対阻止線を引いてそれ以下は全てを駒として被害を覚悟してでも守る。

今、俺たちの置かれている現状を考えればそのレベルで物事を考える必要がある。

 

たとえシスコンと言われようが小町を戦火に巻き込まない事が俺にとっての最優先事項だ。その場合、最も有効な事は終戦だがそれが無理なら休戦、最低でも停戦にすることだ。

その為には目の前のお姫様は絶対に必要なピースになる。そしてそれを護るには界塚弟の力が必要だ。網文韻子や姉である界塚准尉、鞠戸大尉は界塚弟を支えるのに欠かす事は出来ない。

ニロケラスにクラスメイトを殺されたときの界塚弟の反応からしても、カーム・クラフトマンとニーナ・クラインにも死なれると困る事になりそうだ。

そして、当然の事だがチビ侍女はお姫様の護衛としても精神的支柱としても死なれると困る。絶対阻止線としてはこの辺だろうか?思ったよりも多いな……。

 

わだつみの乗組員や他の避難民には悪いがそれ以外はその他大勢って事だ。

当然、被害が無いのならそれに越した事は無いが、何が何でもってラインを引くとしたらこの辺だ。揚陸艦が沈むのなら揚陸艇を奪ってでも逃げる。

余裕があれば回収するだろうが無ければ見殺しだって覚悟しなくちゃならない。

最終的に連合本部に辿り着き、戦争を止める事が至上命題であって辿り着く方法はこの際、問わない。

その過程でその他大勢が何人死んでも、気にしてなんていられる状況じゃない。

 

「それが必要なら協力だってする。何度も言うがこの伏せたカードを開くのは今じゃない」

 

一応、直接的な単語を避けてはいるし、他の人に聞こえないであろうくらいに声は潜めてはいるが、ここでの会話も可能ならしたくはない。

それでも、このお姫様はそのリスクを冒してでも釘を刺さないと後ろで涙目になっているチビ侍女を振り切って艦長の所に行きかねない。

 

「とにかく今は我慢の時だ。あんたの場合、ここでカードを開けば周囲の全てが敵になりかねない。そんなの流石の界塚弟でも対応できないぞ」

 

「それは……」

 

実際、この状況下でお姫様の正体が明るみに出ればスパイによる暗殺を警戒しなくちゃならない程度じゃ済まない。

避難民も乗組員も火星に対する感情は最悪だ。

正義の名の下であれば人間の感情はどこまでも残虐だ。そして、正義ってのは不変ではない。

普遍的な正義など存在しない。

 

「あんたにとっての正義は、あんたにとって都合で他人にとっての正義と共有できるとは限らない」

 

正義が悪を倒すってのは幻想だ。現実において悪を倒すのは悪だ。

それは相手にとっての正義が悪であるだけの話だ。

法律も宗教も多数が思う正義であって万人の正義ではない。

この揚陸艦において火星人は悪って図式となっている。この状況ならスパイが直接動かなくても、唆すだけで行動を起こす奴が出ても可笑しくは無いだろう。

避難民も面倒だが、乗組員は軍人だ。その気になれば武器だって簡単に手に入るし、扱いにもなれている。そうなれば、お互いに話し合って無血解決って訳にはいかない。

 

「俺はバトルランナーをする気は無い。身内殺しは見たくないだろ?」

 

「……っ!」

 

流石に卑怯な言い方だな。

こう言えば、さすがのお姫様も下手を打てないどころか、動けないだろ。

相も変わらずの罪悪感を量産する表情してるけど、罪悪感で曲げる訳にいかない状況だ。

 

「分かったら大人しくしていろ」

 

少なくともスパイの問題を解消しなければ、お姫様の正義感を警戒して眠れやしない。

 




ご覧の通り、スパイ要素だけでこんだけ苦しんでるってのに、空白の19ヵ月間の話と2クール目の話に入れたい話が色々思いついた。
デザイナーベビーとかクローンを絡めた話と、ヴァースと地球連合の暗部、ヴァース建国の本当の理由とかって描いてみたいけど絶対に書くの大変な事になりそうなんだから自重しようか……
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