やはり俺のアルドノア・ドライブはまちがっている。   作:ユウ・ストラトス

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お待たせしました。17話です。
原作の6話に入りました。
今回はユキ姉のターンから始まりますw


EPISODE.06 記憶の島 -Steel Step Suite-
第17話


「……知らない天井……って訳でも無いのか」

 

ようやく開いた目が捉えたのは知らない天井ではなく鋼鉄の天井だった。

まだ頭がぼーっとしている。

視界の端に移る白いカーテンからして病室?

 

「比企谷君、目を覚ましましたか?」

 

声のする方に頭を向ける。まだ焦点が微妙な状況だが声の人物には覚えがあった。

 

「……耶賀頼先生?」

 

「はい、自分がどうなったのか分かりますか?」

 

どうって……ヴァースが休戦とか言い出して、お姫様にあーだこーだ言って、艦が揺れて…………。

そこまで思考してようやく自分がカタフラクトで戦闘をしたことを思い出した。

 

「KATで……」

 

「ええ、軽い脱水症状などによって戦闘後にコックピットで気を失ったんですよ」

 

ああそれでこんなに頭が重いのか。

何とか体に力を入れて上半身を起き上らせる。

右手を握ってみるが脱水症状の影響か握力が足りないし、まだ頭が少し痛い。

 

「まだ、無理をしてはいけません」

 

駄目だ。思い出しても思考が回っていない。

何とか右手に焦点は合ったけど時間がかかり過ぎている。

でも、耶賀頼先生の言うとおりどの症状も軽度のものだ。

 

「気分はどうですか?吐き気は?」

 

聞かれて確認してみるが吐き気がするようなことは無かった。

それよりも眠気というか倦怠感というか……とにかく思考がまとまらない。

 

「今のところ、吐き気とかはないです」

 

「異常を感じるようなら隠さずに言ってください」

 

「はい」

 

よく考えると、まるで俺が包み隠すような言い方だな。

火星カタフラクトによる揚陸艦のダメージは小さいモノとは言い切れない。破壊された速射砲の爆発で俺よりも重症の乗組員はいる筈だ。軽傷の俺が医務室のベッドを占有して良い訳が無い。

それを伝えると俺の顔色と目の反応を確認しながら耶賀頼先生が答えた。

 

「確かに重症人はいますが、どれも命に別状はありませんし意識もハッキリしています。民間人であることと意識が無い事を考慮すれば比企谷君が一番優先です」

 

「はぁ……」

 

医者にそこまで言われると流石に逆らえない。

 

「今見ている限りでは大丈夫そうですね。私はちょっと席を外しますので、少なくともその輸液が終わるまでは動かないでください」

 

そう言って耶賀頼先生は医務室を出て行った。

医務室に一人残された俺の左腕に繋がった点滴は半分くらい残っていた。

針の太さにもよるけど15分くらいか……?

 

「比企谷君、意識戻ったって……」

 

思考と一緒に視覚や聴覚もぼやけていた俺は耶賀頼先生と殆ど入れ違いで入ってきた人物に気が付かなかった。

点滴もそのままにベッドから立ち上がろうとするが急な姿勢変化に未だ体が追い付いてきていないみたいで視界がぼやけ足がふらつく。

カクンと膝の力が抜けた時に俺の意思とは別の力によって引っ張られた。

 

「比企谷君!」

 

「……へ?」

 

目を閉じる前に見えたのは視界いっぱいの白。

 

「ちょ、大丈夫!?」

 

頭の上から聞こえてきたのは界塚准尉の声?

確認しようにも頭を固定されていて動かせない。そもそも顔に当たっている柔かいのは何?

 

「ええ、体に力が入りにくいだけで」

 

それだけを言うと頭の拘束が強くなった。

それによって柔かい物への圧力が高くなる。

 

「本当に大丈夫?」

 

「何なら、耶賀頼先生に聞いてください」

 

ホント、何なんだろう……この柔かいのって。すっごいいい匂いするが息が上手くできない。

零距離だから目を開けても真っ暗だが、さっき白い色が見えた気はする。

あれ?そこはかとなく嫌な予感がするが……駄目だ。思考が働かない。

 

「だって今、倒れそうに」

 

「立ち眩みです」

 

さっきの戦闘の後にぞんざいに回線を切った。変な事を言えば怒られる。

そもそもとして、あれからどれくらい時間がたっている?

数時間たっているとしたら何も変化がないなんてことはありえない

 

「あの……俺ってどれくらい……」

 

「回収してからだと今は2時間くらいよ」

 

俺の寝ている間に情勢の変化は?追撃の可能性は?スパイの件はどうなってる?揚陸艦の被害状況と進路は?あとついでにお姫様は?

 

「ほっんとうに心配したんだから」

 

「すいません」

 

それに関しては多分、全面的に俺が悪いんだろう。

 

「……随分、素直ね……」

 

「准尉には怒られ慣れてますから」

 

そこまで言うと何かが頭を撫でている事に気が付く。いつの間にか頭を固定している感覚も少し変わっている。

頭のすぐ上から聞こえる声、その頭を右から固定されて、何かが頭を優しく撫でていて……あれ?それじゃこの柔かくて温かいのって……界塚准尉の……。

 

「ちょ、准尉。何してんですか?」

 

「何って比企谷君の頭を撫でてるだけだけど?」

 

俺が聞きたいのそこじゃねぇし!いや、そこも言及したい所ではあるけど……俺の体に力が入らないからって……まぁ、体に力が入ってもこの状況で下手に動くと色々と不味い訳でしてですね。お願いですから右の腿に足載せないでくれませんか?そこまでしなくても動けないですって。

あと柔かいのと柔かいので左右から顔面を優しくデンプシーするのは男子高校生には刺激が強すぎるんですよ。亀仙人のじっちゃんでも鼻血不可避と言いますかですね……くそ、超いい匂いするし、夢と希望とYシャツで息しにくいし。

こんなところ界塚弟にでも見つかったらそれこそ甲板で直火焼きにされかねない。

 

抵抗しようにも点滴による水分補給が完了していない俺の体はまだ力が入らないし、左腕には針が刺さったままでは動くこともままならず、されるがままとなっていた。

 

「その、放してもらえませんか?」

 

「ダーメ。耶賀頼先生からも無理しない様に監視してくださいって言われてるし」

 

あんのヤブ医者ぁ。そんなに俺を弄って楽しいのかよ。

 

「実際、よくやったわ。大きすぎるくらいの戦果よ……今日一日寝ていても誰にも文句は言わせないわ」

 

だからあまり優しい声で言わないでくださいよ。うっかり惚れそうになるから。

 

「そうでも無いでしょ……界塚弟を介入させない予定だったんですから」

 

「それで、あんな作戦立ててたのね……まったく」

 

後頭部を優しくポンと叩かれそのまま抱きしめられた。

だから、ポンコツと言ってもご自身が美人の範疇なのを自覚してほしいんですよ。今度、界塚弟に直すように言っておこう。きっとすっごい睨まれそうな気がするけど。

 

「それで比企谷君が死んじゃ意味が無いでしょ」

 

「別に死ぬつもりは無かったですよ……一番」

 

「効率の良い方法を取ったって言うんでしょ」

 

俺のセリフを先回りして言わないでくれませんか?

 

「これでも……比企谷君の言いそうな事くらい分かるわ」

 

そっか、先生だったら標準装備のスキルなのか……そういや平塚先生もそんなとこあるしな。

 

「普段からどっか危なっかしい子だもの……誰かさんに似て」

 

その評価……特に「誰か」が誰の事なのか分からないが何となく異論を唱えたい所だが更に強く頭を抱き締められて言えなかった。

その腕が、体が、そして声がかすかに震えている事に気が付いてしまったからだ。

 

「効率も成功率も否定はしないわ……私じゃ頼り無いかもしれないし、役にも立たないかもしれないけど」

 

そう言われてしまえば、こっちから反論はあっても言葉には出来ない。

新芦原での事と言い、今回の事と言いで界塚准尉も無力感に苛まれている。多分この揚陸艦の中でも一番感じている事だろう。

非常事態とは言え実の弟や教え子を矢面に立たせている事、そして負傷しているとはいえ自分はその場に居ない事。

いくら効率などから最善策と言っても責任感の強い准尉にとって容認できるものでは無い。

本当に不器用な人だ。だからこそ、生徒からの信用も信頼もある。

だからこそ、死なせたくない。界塚准尉がいなくなれば界塚弟だけじゃなく網文やクラフトマン、鞠戸大尉にだって何かしらの影を落とす。

いや、それは俺も例外では無い。こういう人は俺も正直嫌いでは無い。戦争に絶対は無い以上、その時に俺が冷静でいられる自信は無い。

 

「怪我人なんですから作戦に組み込む訳に行かないですよ」

 

「分かっているわ。分かっているからこそ尚の事、見ているだけの立場は……生きた心地がしなかったわ」

 

そう言うと俺の頭に回された手が少し震える。

それもそうだろう、可能性は低くとも界塚弟、自分のただ一人の肉親が命のやり取りをしている。界塚准尉の立場ならとてもじゃないが理屈だけで納得は難しいかもしれない。

結局その後も下手に動けない状況で俺は界塚准尉のなすがままにされ、戻ってきた耶賀頼先生に盛大にからかわれる羽目になったのだった。

 

 

 

 

 

 

戻ってきた耶賀頼先生に強制的にベッドに戻された俺は、鞠戸大尉が来たのを機に気を失っていた間の出来事を聞いた。

鞠戸大尉が来る直前に界塚准尉は耶賀頼先生が「大変だったんですよ。界塚准尉は応答が無いからアレイオンで回収しに行くって言いだして」とか言った瞬間に顔を真っ赤にして逃げ出した。俺の知らない所で何があったんだ?

 

「正式に宣戦布告……」

 

「ええ、映像データを繰り返し流し続けています」

 

火星側の大きな変化として伝えられたのはヴァース皇帝による正式な宣戦布告。

ご丁寧に映像データでもって見せられた。敬謙なる行いで目覚めさせたとか正義の行使とか聞いてて反吐が出る。誰かこのボケジジイを老人ホームにでも監禁してくれない?

 

「文字通りお姫様は火種になってくれたって訳だ」

 

「どこまで無能を晒せば気が済むんだか」

 

一体何を持って最高権力者であるヴァース皇帝が休戦や宣戦の布告レベルの最高ランクに重たい言葉をひっくり返すに至ったのか……改めて行われた宣戦布告にはその根拠は含まれていなかった。

 

最高権力者が自分の発言をたった数時間でひっくり返すとか言葉への認識が軽すぎる。

それも分からない位に耄碌して無能なのか?それとも裏では皇帝をそこまで動かす情報や動きがあったのか?

火星陣営の情報が入ってこない状況では憶測の域を出ることはないが、どこかで推測はしておく必要がありそうだ。

 

「問題はそこに至った理由だな」

 

「暗殺事件に関して新たな事実が分かったのですかね?」

 

それは可能性としては低いと思う。新事実はそれはねつ造されたものだ。

まず地球側がそんな事になるような情報を即座に出すほど馬鹿じゃない。ってか、そんな情報を出せばそれこそ自分たちの命が危ないし、誰が責任を持つのかで揉めて動けもしない。そもそも、各地での火星人の侵略への対応で調査どころじゃないし新芦原は跡形もなくなっている。

 

「どうせ暗殺を仕込んだ火星人がボケ老人に何か吹き込んだんだろ」

 

「大尉、あまり比企谷君を口悪いとか言えないですよ」

 

ヴァース本国にしても地球から出された情報を受け取るまでのタイムラグもあるだろうし、正否の見極めが必要になる。とても数時間で覆すような結論は多分で無い。

今の段階でボケ老人を動かせるだけの情報は火星陣営の内部からしか出ない。それでも情報の検証は本来するのだがそれを鵜呑みにする程に馬鹿なのか検証も必要が無いほどに信頼を置いているところが情報源になっていると言う事だ。

 

「可能性が高いのは暗殺を企てた一派でしょうね」

 

「問題は何を吹聴したのかですね」

 

休戦布告をひっくり返せるほどのものと言えば暗殺事件のカバーストーリーとそれを示す捏造された証拠だが、それが休戦を即座にひっくり返せるほどの確実な物があるのなら宣戦布告に踏み切らせるには恐らく最強のカードだ。勿体ぶる必要も無い。狡猾なやり口から見ても休戦宣言を許すような失態は犯さない筈だ。

 

「いや、一番の問題は自分でボケ老人が暗君やってますと言っている火星よりも地球側が今回の流れを受けてどう動くのかだと思うんですが」

 

「……お前はオブラートに包むことを覚えろよ」

 

実際、暗君なのだから本当に性質が悪い。

何がお姫様の死が我々を目覚めさせてくれただよ。暗君に目覚められても迷惑だから寝ててくれ。

誰かの言葉で決断が揺らいでしまう。自分を持たない人間が上に居て上手く行った例は多分無い。少なくとも皇帝を名乗るのであればアルドノア以外においても他を従わせるだけの器なりを持ちえないとならない。

 

「もしこれで襲ってきたらそいつがスパイって分かりやすいでしょ」

 

「そんな訳にいかんだろうが」

 

いっそ、火星人の悪口を言いまくってスパイがキレてくれたら炙り出さなくて済むんだけど、地球連合内部に潜りこんでいる人間がその程度でキレてたらそれこそキリが無い。

 

「それで、宣戦布告を受けて戦争に踏み切って徴兵ですか……」

 

「ああ、司令部とは通信が出来ない以上はこの揚陸艦の独断ではあるがな」

 

まぁ、正式に戦争に踏み切るのは理解できる。

休戦を言いだした直後の襲撃、しかも自分の言葉をひっくり返しての宣戦布告。地球連合の司令部がどう判断するかは想像に難くない。

ヴァース皇帝の言葉は信じられないし、軌道騎士を御する事も出来ない。当の軌道騎士は明らかに戦う意思も武力も無い民間人を虐殺するような奴らだ。降伏しても殺される公算の方が高い。

だったら、地球側の選択肢は戦うしかない。後はどこまでやるのかって話だ。大量破壊兵器や非人道兵器のボタンにもう指を置いていても可笑しくない。

そこまで状況が拗れているのだからマグバレッジ艦長の独断といっても妥当な判断ではある。

 

「ついさっき、伊奈帆君たちもミーティングルームで説明を受けてましたよ」

 

そして先の戦闘において失われた人手を補充も含めて正式に戦争をするって事だが……よくよく考えれば本末転倒なんだよな。

この揚陸艦は俺達、新芦原の避難民を守るのが任務だ。職業軍人に太刀打ちできなかった相手だと言うのにそれを軍事教練が義務教育になっているとはいえ、民間人にどうにかできる訳が無い。無駄に戦死者を増やしてしまうのは目に見えている。

ましてや、さっきの戦闘で欠員が出ているのはカタフラクトのパイロットだ。正直なところ、揚陸艦の航行への影響は少ない。

太平洋のど真ん中で襲撃を受けた事から今後も戦闘は免れない可能性を考慮してだとしてもパイロットの欠員補充は各自の適正なども考慮はされるだろうが、界塚弟と網文、クラフトマン、そして俺の最大で4人しか望めない。

まぁ界塚弟と網文を戦力としてカウントできるのは彼らの能力を知っている側からしたら大きいものではあるが、本来ならば目の前の鞠戸大尉と部屋から出て行った界塚准尉が許すと思えない。

それでも徴兵することに異議を漏らさないのはこれが彼らを守るためであると言われたのかもしれない。

 

カタフラクトを学校施設から持ち出し、民間人が戦闘行為に及び、先の戦闘においてはあまつさえ敵兵士を殺めている。全て自分たちが死なないための緊急避難的行動だが軍人による作戦行動の一環と言う事でそもそも問題にすらさせないつもりだ。

界塚弟たちの将来を考えれば確かにその方が良い。

 

人間と言うのは平時、戦時、問わずその時々の正義において残酷だ。

戦争が終わった後、詳細も知らない人間に糾弾される事を防ぐことでマグバレッジ艦長にとって昨日の事と含めてスジを通すことにも繋がっているんだろう。

加えて界塚弟の行動から見てもこれから先も軌道騎士の襲撃があれば迷わずKATで出撃してしまう。だったら軍人として扱ってしまった方が色々と都合が良い。

 

「一応、お前らは界塚をリーダーとした小隊として組み込まれる。小隊名はマスタング。お前のコールサインはマスタング3-3だ」

 

そう言う鞠戸大尉からパイロットスーツを受け取る。ってかいつの間にサイズを調べたんだよ。

小隊は界塚准尉をリーダーに界塚弟と網文、そして俺での構成らしい。クラフトマンはメカニックとしての適性でもってカタクラフトの整備側に回されたみたいだ。

 

「怪我人まで引っ張り出さなきゃならない状況なのかよ」

 

アーマチュアと痛み止めに頼らないとならない人間を最前線に投入しないとならない程にこの艦の人員はひっ迫していると言う事でも無いだろう。

痛み止めは痛覚だけでなく手の感覚までも鈍らせる。当然、カタフラクトの操縦にも少なからず影響が出てしまうにも拘わらず、一瞬の判断ミスが死に直結するような矢面に立たせる。あの艦長だってそれが何を意味しているのか分からない人間では無いし、そんな命令をするまでに愚かでは無い。一番の理由は直属の上官になっているのが姉である界塚准尉で上官命令と言う形なら界塚弟も昨夜のような無茶は自重する。

 

「まっ、早い話がお前らに対する首輪だな」

 

「なんで俺にまで」

 

「当たり前だ。何なら界塚弟よりもお前の方が危なっかしい」

 

何かとんでもなく腑に落ちないと言うか、納得いかない。

俺の作戦は界塚弟の言っていたものを参考に作り替えたものだし、そこまでだとは思っていない。

 

「成功率は高いからってあんな作戦実行するのはお前と界塚弟くらいだ」

 

そんなことはない。火星カタクラフト攻略の最大の鍵は特別な才能などでは無い。

マグバレッジ艦長にも言った様に冷静でいる事だ。不意の初撃で死なない限り、情報はあるのだ。軍人と言う事であれば俺なんかよりも科学技術や心理学にも明るいはずだ。

 

「いや、この艦のパイロットの練度が低いだけだから」

 

判断が正しいかは別にして動くことだ。無意味に足も思考も止める事は鞠戸大尉曰く死に直結する。戦闘データを見てもその通りだ。揚陸艦上はスペース的に無理があったとはいえやりようはあったはずだ。船首側のKAT用エレベーターを使えば挟み撃ちに出来たはずなのにそうしなかった。基地でアパルーサ小隊は脚を止めて乱射していた。

新芦原でも同じだ。足を止めた機体から撃破されている。

火星カタフラクトの武装が防御不能で一撃必殺であることは一見すれば軍人ならば十分に分かるはずだ。

 

「プロが高校生に遅れ取ってる時点で駄目でしょうね」

 

「先生まで耳が痛いな……ゆうても童貞しかいないみたいだからな」

 

この場合の童貞って言うのは戦場を体験したことが無い事を言っているのだろう。

そもそもヘブンズフォールで多くの人が死んだ。特にあの当時、最前線で戦闘をしていた人間は全員……いや、鞠戸大尉を除いた全員が死んだ。

それ以降、火星のヴァース帝国という共通悪を手に入れた地球連合はそれまで以上に結束を高める事となり、そこから15年間、いくつかの内戦や紛争はあってもカタフラクトを投入するようなまでの武力衝突をすることはなくなった。

結局は火星人だけじゃなく地球側のカタフラクトのパイロットですら命の保障をされた模擬戦闘での経験しかない、鞠戸大尉の言う童貞ばかりとなってしまった。

 

「それでも、大尉の方から何とかしてもらわないと」

 

「俺の仕事なのかよ」

 

鞠戸大尉の事だから耶賀頼先生にわざわざ言わなくたって何とかするつもりだったとは思うけどな。

 

「まぁ、別に鞠戸大尉じゃなくても良いんだけど」

 

どっちにしてもマグバレッジ艦長にでも動いてもらう事になるんだけどな。

ここのパイロットの練度をどうこうするのは、この艦の責任者である彼女の仕事だ。昨夜の問答でも自軍パイロットの練度に関しては思うところもあるのだろうし、多分こっちが言わなくても何かしらの手を打つのかもしれないが、念には念を入れておいて損は無い。

俺や界塚弟が火星カタフラクトの交戦経験を語った所でKATのパイロットたちが聞き入れるかと言えば、難しいだろう。

パイロットってのは往々にしてプライドが高い傾向にある。高校生風情にあーだこーだ言われたところで一笑に伏すのが関の山だ。だとしたら、そのプライドを逆撫でして俺への反感を買わせる事で界塚弟や鞠戸大尉の言葉を受け入れやすいように仕向けるか?

そんな思考を遮ってしまったのは耶賀頼先生だった。

 

「ダメですよ。子供である君達が大仕事をしたんですから……大人なら責任を果たさないといけません。私も鞠戸大尉もね」

 

「ちょ、先生」

 

耶賀頼先生はそう言いながら鞠戸大尉の胸ポケットからお酒を没収した。

 

「この後のお仕事に必要ないですよね」

 

「……ちっ」

 

没収したお酒は机の引き出しの中に放り込まれたが既に2本の酒瓶が見えたような気がするが気のせいと言う事にしておこう。

そもそも色々な事情で教官に飛ばされたと言っても15年もあれば軍に戻る機会も方法もあっただろう。それでもこの飲んだくれ大尉が一高校の教官を続け、俺に対しての暇潰しなら他にいくらでもあるだろうに、敢えて実戦でしか役に立たないスキルを教え込ませたのはこの状況がいつか訪れると頭の片隅で想定していたからだと思う。

きっと俺の他にも暇潰しに仕込まれた生徒は居たのだろうが運悪く俺の時に戦端は開かれてしまった。

幸いここまで俺には大きな被害を生まずに来ている。それに鞠戸大尉の暇潰しが大きな要因となっているのは間違いない。今、この状況に直面している当事者としては感謝の念が無いと言えば嘘になる。

なので鞠戸大尉のお酒は後で海にでも投げ捨てるとしよう。

 

「ああ、あとこの艦はこの後は種子島基地へ向かうそうです。修理と補給を兼ねて」

 

「種子島って……大尉の因縁ですかね」

 

「うっせ……黙ってろ」

 

ちょっと。お酒取り上げられたからって露骨に態度悪くし過ぎじゃないですかね?

そんなんだから因縁の地に手招きされたんじゃないの?

種子島、15年前の戦闘の際に起きたヘブンズフォールで甚大な被害を受けた場所だ。種子島という場所は軍事基地があるだけで今は誰も済んでおらず、付近の一般船籍の航行も禁止されている。

連合の隠し基地を本部として集結する為に既に放棄されているだろうが残っている資材で勝手に補給と修理を行うとの事だ。まぁ、さっきの戦闘であれだけ燃料をまき散らした事で本来の目的地までには足りなくなってしまったらしく、どちらにしても補給は必要になってしまった。現在位置から行き付けるのは種子島基地と沖縄基地の二択。

 

第二次世界大戦後の米軍基地をそのまま利用された連合の沖縄基地の方が規模としては大きい。物資の補給やらだけを考えれば距離はあるが沖縄基地の方が良いのかもしれないが規模が大きいと言う事はそれだけ軌道騎士の攻撃対象になっている可能性が高いと言う事でもある。

既に破壊されているかも知れないし、軌道騎士と鉢合わせも考えられる。その点、種子島基地は距離も近いし、規模も小さい。15年前まではロケット基地もあって重要な拠点だったが今となっては一般人は誰も居ない小さな軍事基地。向こうにとっては優先順位は低いから現時点での攻撃対象にはしないだろう。

 

「何とかしてここであの件にケリを付けたい所だな」

 

「……ですね」

 

スパイに関しては目的地である連合の隠し基地の場所が明るみにならない事がに関しては最重要項目だ。揚陸艦から逃亡すると分かっているのであれば放置しても構わない所ではあるのだがその可能性は限りなく低い。

何せ、この揚陸艦は軌道騎士のカタフラクトに対抗する数少ないの存在だ。ヴァースにとっても俺達とそう大きく認識は変わらないだろう。

 

恐らくは今まで被害と言う被害も無かったはずの火星側に軌道騎士レベルの人間で戦死者が出た。向こうとしては強気に一手を打つ訳にはいかなくなったはずだ。

カタフラクトを投入する以外の選択肢も視野に入れておく必要があるって所に来て、種子島基地での補給だ。

補給と修理をするとなれば物資の搬入などで人の出入りが激しくなれば、どさくさに紛れて爆発物などを持ち込まれる可能性もある。

それにタイミングを合わせてもう一度カタフラクトでの襲撃すらも視野に入れておくべきだろうか?

 

「今、スパイは焦りに焦っているはずですね。鞠戸大尉」

 

「先生の言うとおりだ。ただの一揚陸艦にアルドノア兵装のカタクラフトなんて切り札を切った。新芦原の事があるにせよ。現状では過剰戦力の投入に他ならないが、それをこの馬鹿が覆しちまった。今のところボロは出しちゃいないが内心は大変だろうな」

 

「覆したのは界塚弟だっての」

 

賭けの要素が強かった俺の作戦を確実な物にしたのは界塚弟であるのは分かっているくせにこういう事を言うから大尉は面倒なんだよ。

 

一主要都市防衛の主力を片っ端から蹴散らせるアルドノア兵装を持つ機体を戦艦一隻に差し向けるなんてのは通常であれば彼我の戦力差においては過剰だ。通常であればこの艦はさっきの戦闘で沈むのが当然の結果で、それをもってスパイも大手を振ってヴァースに帰還する予定だったんだろう。それが高校生に潰されたとなれば焦りもする。

 

「そうですね。地球を侵略するのであればこの艦よりも優先することがあるでしょうしね」

 

「それだけ昨夜の撤退が癪に障ったんじゃないですかね」

 

お姫様がこの艦で生きているとなれば暗殺派の人間にとってこの揚陸艦は何よりも優先される攻撃対象だが、それ以外の人間にとってはそうは映らない。それがカタフラクト2機目の撃破と合わさって向こうの足かせになってくれると助かるのだが、他力本願過ぎるな。

 

「機体の色だけで宿敵呼ばわりしてたからな」

 

だから、正直判断がしにくい。

昨日のリベンジと言うのは恐らくあっている。問題はそれがあの軌道騎士一人の暴走によるものなのか、それともお姫様の抹殺命令のついでなのかだ。

前者であればもしかしたらお姫様の生存によって回避できた戦闘では無いのか?いや、そもそもこちらの言う事を信じるかの信じないかって話だ。

カタクラフトでもって剣先と銃口を向けあっている状況で相手のそんな言葉を信じるお人好しなんて可能性は多分考えるだけ無駄だ。お互いに命を奪える武器をましてや向こうは俺達を簡単に捻り潰せると思っている状況だ。互角の状況でなら話を聞く余地もあるかも知れないが現状の戦力差ではただの命惜しさのでまかせにしかとられない。

 

「比企谷、お前にも一応渡しておく」

 

「あのカタフラクトからデータ取り出せたんですか?」

 

鞠戸大尉から手渡されたのは外部メモリだ。多分、今も甲板上で沈黙しているであろう火星カタフラクトからコピーされたデータが入っている。

 

「ああ、燃えたのはコックピットだけだからな。内部のCPUは一部の損傷が見られはしたがデータを取り出すには問題無かった。中のデータをそのまんまぶっこ抜いてコピーしているだけだ。確認したが恐らくプロトコル含めて規格が地球のものと違うからな」

 

「マグバレッジ艦長に「教え子は後回しですか」って小言言われてましたね」

 

流石、15年前の戦争を生き残っただけある。

本職の耶賀頼先生が居るのだから俺一人の安否確認なんて一人いれば十分だ。それよりもあの機体から得られる情報の方が優先順位としては高い事をよく分かっていらっしゃる。

 

「ついでに言えば暗号化もされてるでしょうね」

 

いくらヴァースが地球を見下していて負ける事を想定していないとしても、軍事兵器である以上、情報漏洩対策として暗号化は当然しているだろう。

それが地球人への対策なのか、身内への対策なのかは分からんが。

 

「その辺は暗号解読班とお前の出番だな」

 

「それを仕込んだあんたが言うな」

 

全く、毎週のごとく暗号とかの課題を出しておいてどの口が言うんだよ。

先々週のエニグマ解析とか殺意を覚えたっての。大体、それを採点している段階で鞠戸大尉はそれ以上の能力を持っていると考えるべきなんだが。

 

「まぁ、それの扱いに関しては言うまでも無い事だが」

 

「自分の命にもかかわるんで細心の注意なら払いますよ」

 

なんならお姫様の存在で新芦原からずっと細心の注意を払っているつもりだ。

その所為で余計な疲労が溜まっていたんだけど点滴ってスゲーのな……頭の中がスッキリしている。

 

 

 

 

 

 

医務室を出た俺はKATの格納庫に向かった。

格納庫の中には真っ黒に装甲が焦げた火星カタフラクトがあり、技術者と思しき人間が色々と調査をしていた。

それを横目に歩を進めた先は自分のカタフラクト。

 

「徴兵されてもこいつとはな……俺も大尉の事言えないか……」

 

格納庫には余るほどに制式採用されているアレイオンが並んでいるのに対して俺は徴兵されてもこの夜間戦闘型の黒いスレイプニールが俺の愛機となった。

どういう訳だかヨタカとの繋がりが切れないらしい。まぁ、いまさらアレイオンに乗った所で界塚弟たちの様に器用では無いのだから使い慣れた機体の方が良いのも事実だ。

加えて鞠戸大尉の言い分としては、この揚陸艦にはこのヨタカに搭載された特殊兵装であるミミルを十全に使える人間は居ないらしい。と言っても俺だってこいつが感知する情報の全てを十全に活かしている訳じゃない。戦況判断に優先順位で取捨選択しているだけに過ぎない。

全ての情報を正しく処理することが出来れば作戦をもっと緻密で確実なモノにだって出来るかもしれない。

そう言う意味合いではミミルの感知能力をフルスペック処理できるCPUさえあれば多分俺よりも界塚弟向きだ。ただ、それには地球側のCPUでは速度と柔軟性が足りていない。

 

「まぁ、それは流石に無い物ねだりが過ぎるな」

 

一つ考えた事が無いわけではないが、スパイの居る状況下で使えるのかどうかも分からないし、次の襲撃があるかも知れない。リスクが高すぎる。

 

ヨタカのコックピットに乗り込んでOSを起動させ、鞠戸大尉から受け取った外部メモリを繋ぐ。

ここに来た理由は単純だ。揚陸艦の中は何処にいてもスパイの目や耳があるか分からない。

かといってデータの中を調べない訳にもいかない。少なくともカタクラフトのコックピットであれば直接目視される心配は無くなる。

本来ならば制式採用されているアレイオンの方が機体性能の数値は上なのだから通常であればスレイプニールを使う必要はないのかもしれない。実際、界塚弟と網文にはアレイオンが割り当てられる予定になっている。表向きとしては俺もアレイオンに乗る事になっているが、鞠戸大尉の独断でヨダカに乗るようにパイロットスーツにUSBメモリと一緒に挟まれたメモでの指示だ。これはマグバレッジ艦長にも伝えられていない。

俺以外でこれを知っているのは指示した張本人だけ……と言う事はスパイもこれに関しては知らない。

 

艦載されたアレイオンでは盗聴、盗撮の可能性も残っているが急遽この艦に収容された乗らない予定の訓練機にまでそれをするための機材を割くような余裕がスパイにあると思えない。可能性を完全に消す事は出来ないが、ここ以上にそれらの可能性が低く、なおかつデータの解析などが出来る場所は多分無い。

 

「新芦原での解析データが使えるか?」

 

加えてスレイプニールには新芦原でニロケラスとやりあった時の暗号解析のデータが残っている。これがそのまま使えるかどうかと言われれば難しいかもしれないが、このメモリに入ったデータ解析の足掛かりくらいにはなる。

 

「全方位カメラ用の物だからな……あの機体で関係ありそうなのは通信データくらいだとは思うが」

 

いくら俺もこれで全てのデータを解析できるとは思っていない。それでも通信関係の情報解析さえできれば今のところ他は後回しだ。何よりスパイの問題が現状では最優先するべき事柄だという判断に間違いは無い。

 

「ちっ……まぁそう簡単には行かないよな」

 

新芦原でのデータでは、共通となっている部分だけがあのデータで変換されたようだ。でも一割にも満たないと言ってもそれでもデータ量としてはヨタカのCPUでは変換するには時間がかかる。瞬時に変換され表示されたのは機体名称と機体の識別に関しての情報。

ここに関しては敵味方の識別の問題もある。ヴァースの軌道騎士が37の別々の軍隊といってもヴァース帝国に帰属する事に変わりは無い。別の軍隊だからと言って誤射をする訳に行かないのだからこの辺は統一の変換方式を使っていても不思議じゃない。

そしてその識別は機体の情報をやり取りする部分でもある。カメラからニロケラス本体へと送信するデータの変換もその暗号ソースを基に作られている。バリアの外へと送り出す以上は不測の事態によってカメラの損耗は考えられる。複雑化すればデータ送信までにタイムラグも発生する。ましてカタクラフト同士での戦闘を目的としているのだ。たとえそれがコンマ何秒の世界だろうが、そのコンマ何秒で生死や作戦成功に影響を与える。

 

「ARGYRE……アルギュレか……」

 

ダンゴムシの名前がニロケラスでこれがアルギュレね。

どっちも火星の地名だったな。もしかして自分の領地を機体の名称に使っているなんてオチだったりしないよな?

もしそうだったらマジで小学生レベルなんだけど……日本だったらカタクラフト名が鳥取とか言ってるのと同じだぞ。

 

「取り敢えず通信関係の解析が優先だな」

 

アルドノア・ドライブの制御系統なんかも重要ではあるがそれが分かった所で今の俺らにどうにかできるように思えない。そしてアルギュレの開発者とニロケラスの開発者は別人だ。設計思想がまるっきり違う。絶対的な攻撃力による先制攻撃を基本骨子としているアルギュレに対してニロケラスは絶対防御の攻撃転用って感じだ。

開発のラインも違ければ、そもそもの設計思想が違う。開発、発明の世界は早い者勝ちの分野だ。理論の提唱から実用化に至るまで誰が先に認められるかが自身の有能への証明となる。他の技術者に盗作されない様に味方であっても情報にプロテクトを掛けるのはそう珍しい事でも無い。

実際、レーザーブレードの制御系に関しては暗号の様式が全く違うのでまた一から解析のし直しだ。。

界塚弟たちが使っている機体に比べればヨタカはCPU処理速度は高くはあるがそれだって限界がある。倒した相手の武器が使える訳でないのならそんな所に貴重なリソースを割いても仕方がない。

 

「解析結果が出るまで結構かかるな」

 

どうにもコックピットに居ると独り言が増えている気がするが、聞いている人間もいないし、他の奴もどうせ同じだろう。

リソースを通信データに限定させているが、それでもかなりの時間がかかるみたいだ。

処理を走らせて外に出ている選択肢もあるのだが、あいにくとこの揚陸艦内で安心して一人で居られる場所は現状ではこのコックピットだけだ。

 

このままここで処理が完了するまで待つにしても何もしないと言うのもアレだし、昨日の夜の内にKAT用地雷を仕込んでいた際にをヨタカの中に放り込んでおいた自前のモバイルPCを起動させる鞠戸大尉から渡されたUSBメモリの中身を確認する。

 

「……まったく、手回し速ぇな」

 

中に入っていたデータはこの揚陸艦の乗員名簿だった。

それもご丁寧に一応の今までの経歴と揚陸艦内での担当まで記載されている。

 

「しかもシフトまで調べてあるのかよ」

 

揚陸艦の航行は24時間体制である以上どの役回りにも複数人で交代で務める。そのシフト表とでもいうべきデータは揚陸艦のデータベースに繋げばすぐに見れるものだがそれでも全乗組員の分となるとそれでも多い。

これだけの量となれば目を通すだけでも大変だがそれでも6割くらいの名簿には×が付けられている。これはスパイの可能性が無い人物と言う意味なのだろう。

昨日のあの会話からこれを渡されるまでにこれだけの人間を調べたと言う事か……あの人も大概にハイスペックだな。

 

「大尉の調査を信じるとして」

 

残りの中から探し出す事になる。

それこそ今、解析中の通信データの中で名前でも出て来れば一人に絞れるが、そんなに上手く事が運ぶ筈が無い。

声を聞いたところでスパイの証拠にはなるだろうが、絞り込みの材料にはならない。未だ数百人もいる容疑者の声紋がデータベースに登録されている訳でも無い。俺達が乗組員の声を聞き分けられる訳でも無い。まして今から全員に聞いて判断するなんてやっている暇は無い。

少なくとも10人以下まで絞り込む必要がある。

 

「何を持って絞り込むかだけど……」

 

揚陸艦上での戦闘の際もだが、いくつか気になる事がある。アルギュレの行動を戦闘データを確認しながら思考を深めていく。

そのデータを確認すればするほど俺の中の違和感は大きくなり一つの結論に至った。そしてその結論が一人の人物を指し示した。

 

「……そうか……だからあの時」

 

そうだとしたらあの時はこっちを見下していたと思っていた揚陸艦上での行動にもう一つの可能性が生まれる。

それが今の段階では俺の妄想の結論でしかなかったが、それを確かめるカードは手の中で形になりつつある。未だ解析中のこのデータが使えるようになったとしてどうやってケリを付ける?

取り押える手段に関しては俺よりも鞠戸大尉にでも任せるとして、いや、そう選択肢も多くは無い。

今の揚陸艦の状況で捕虜をどうこうするような余裕は俺にはない。何せお姫様の身に万が一があってはならない。やはり一番確実なのは殺してしまう事だろうか。

 

そこまで考えが及んだと同時に解析が終わり、膨大な量の情報が表示された。

新しい方から確認していくと三つ目でスパイの交信記録と思われるものがあった。単純な信号は幾つかの数字を示して、それがその時の揚陸艦の座標であることはすぐに分かった。この交信記録には声は無かったがLoHHと名付けられた交信相手がスパイって事だろう。

 

それが分かればあとはそんなに難しい事では無い。LoHHとの交信記録を遡っていくとようやく音声での交信データを見つけた。

 

『基地……に放棄されています。戦力はKATが……』

『ふん、そ……度など……』

 

恐らくは戦闘の際の熱と衝撃でデータの一部が破損して全てを聞き取ることは出来なかったが片方は明らかにアルギュレのパイロットの声だ。残ったもう一つの声がスパイと言う事なのだろう。

その後、他のデータを確認するともっとクリアな音声も手に入った。これの声紋と容疑者の声紋を調べれば十分な証拠能力はある。あとはいつ行動を起こすかだ。

いざって時の為に既に揚陸艦に爆発物を仕込んでいる可能性は少なからずある。洋上だと追い詰められて自棄になられても困る。やはり種子島基地に着いてからの方が良い。

たった一人に絞り込んだ容疑者の情報を見つめながらコックピットに隠していた拳銃に弾を込める。

 

「今までの借りは返させてもらうぞ……フリッツ・スチュワート軍曹」

 




そんな訳でスパイの名前が判明しました。
ただ、どういった絞り込みをしたのかはこの先の話で明らかにします。
正直、スパイの名前が一番悩みました。
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