やはり俺のアルドノア・ドライブはまちがっている。 作:ユウ・ストラトス
第6話
「とにかく、この人たちを連れて学校に行くぞ。」
あの火星カタフラクトは何か理由があって追って来れない可能性が高いが、このままトンネルで戦うか、救助を待つかの押し問答するよりは建設的だろう。
「でも共同溝の扉、鍵掛かってますよ。」
網文が扉を確認しているが、ロックがかかっている。でもまぁ、共同溝自体は軍事施設じゃないんだ。何かあれば充分壊せるだろう。
「まぁそうだろうな・・・ほれ、金髪!これで壊せ。」
兵員輸送の性質上、シャベルとかはこんな状況でも積んであるもんだよな。
「なんで、俺が!」
「キレるだけの体力あるなら、体動かして冷静になれ。網文は市民の怪我を確認しろ。」
キレ気味の野郎に話しかけられても好い気はしないだろうしな。
金髪が向こうで「おりゃー」って言いながら、ドアを壊そうとしている。
その間にアレイオンから准尉を降ろして耶賀頼先生に容体を見てもらう。網文は他の避難民で怪我をしていないかの聞き取りをしている。
それにしても、さっきまで生きるか死ぬかの賭けの連続だったからな。さすがに、ちょっと気が緩むわ。
「比企谷先輩は追いつめられると真価を発揮するタイプだって、鞠戸教官が言ってた理由が分かりましたよ。あと、彼はカーム・クラフトマンです。覚えてあげてください。」
ここんとこ、お前俺の隣に来過ぎじゃない?それとお前の連れてた北欧系は放置か?
「そんなんじゃねーよ。働きたくはないけど、覚悟も出来ないまま死にたくもないしな。お前ら盾にすれば生存率上がるだろ。それと暇があったら覚えてやるよ。」
「あぁ、これが妹さんが言ってた捻デレって事か」
「ちょっと待て、なんでお前が小町と面識がある?俺、会わせた事ないよね。」
「ユキ姉経由で由比ヶ浜先輩から紹介されました。」
あんのアホの子がぁ、小町に男を近づけるんじゃありません。俺、こんな弟要らないからね。
「大丈夫です。どっちの場合でも、僕もこんな義兄、要りません。」
なんかdisられた?なんで?つーか『どっち』ってなに?
「耶賀頼先生、ユキ姉は?」
「おい、急に話そらしたな。」
確かにちょうど准尉の診察してた耶賀頼先生きたけどさ
「左腕を少し痛めていますが、命に別状は無いと思います。今は気を失っているだけですね。」
「そっか、左腕も万全なら俺が働かなくて済むのに残念だ。」
「すいません。捻デレって言うやつらしいです。」
「あぁ、知っていますよ。昨日ぶりですよね、比企谷君。」
ほんと、こんな時に再会するとは思ってなかったですよ。
でも、この状況下で医師が居るってのは大きいな。
しかし、この人って心療内科だと思ってたけど外科もいけるのか。どーして、こう優秀な人が多いのかね?
「おーい、伊奈帆。共同溝のドア開いたぞ。」
おい、指示したの俺だけど?まぁいいか。コイツの方がリーダーには適役だろう。その分、俺は働かなくて済む。
「それじゃ、移動しましょうか。比企谷君、界塚准尉をおぶって貰えますか。」
はい?何言いやがりましたか、この医者?
「それは、俺がやっても界塚准尉があとで嫌がるでしょうが・・・」
「それはどうでしょうかね?何ならお姫様抱っこします?」
何ニコニコしていやがりますか?そんなリア充専用で俺にはトラウマ確定だからね。
それと、界塚弟のその目は何だよ?
「それに私は他の人を視なくてはなりませんし、この中で君たち以外に他に現役で救命教練を受けてる人はいませんからね。」
「あそこの金髪がいるだろ。」
「彼はドアの破壊で疲れてますからね。」
「それにこんな事で時間を食う訳にいかないでしょ?」
くそ、外堀埋められていってないか?心療内科だからかこっちの心理を読んで逃げ道塞がれる。これ以上やっても時間の無駄だな。
命に別状が無いとはいえ、これ以上アスファルトに寝かせる訳にもいかないしな。
「はぁ、わかりましたよ。やりますよ。」
不意打ちならともかく、事前に分かっているんだからキョドったりしない・・・多分。
しゃがむ俺の背中に界塚准尉を乗せていく耶賀頼先生
「なぁ、やっぱ先に行って担架持ってきた方が・・・っ!」
界塚准尉が俺の背に乗せられた瞬間に背筋がビクッってなる。
柔かい柔かい柔かいいい匂い柔かい柔かい
なんか背中に夢と希望の何かが当たってんだけどぉ!
こんな時は素数を数えるんだ!
ってしらねぇよ!俺、数学出来ないんだよ!
素数素数素数素数小町素数素数小町戸塚小町戸塚小町戸塚
よし、何とかならない!
共同溝の中は普段開かれない所為で埃っぽかったが、避難路としても使うことも想定している為、ちょっとやそっとじゃ壊れそうになかった。
共同溝を通って学校へと向かうが、もう気が散って散ってしょうがない。
いやね。背中の柔かいのとか、時折耳元で「んっ」とか「はぁ」とか健全な男子高校生には毒ですよ。
おい、網文!写メ撮ってんじゃねぇぞ。
「先輩、この写メ、顔が酷いことになってますよw。」
うっせ、マジでテンパってるんだから話しかけるな。それとニヤニヤすんな。
そして、界塚弟は瞳に殺気込めるのやめてくれる?あと耶賀頼先生、いい大人なんだから男子高校生の劣情で遊ばないで代わって!
「韻子、次の角を左に曲がってあとは真っ直ぐ」
共同溝は幾つかの道に分かれているし地下なのでマップを見ながら進んでいく。
指示通りに左に曲がり突き当りには扉がある。明らかにトンネル側よりもしっかりした構造みたいだ。
「ここも壊すんですか?」
網文が聞いてくるが、扉と言ってもここは学校に直結している。しかも学校にはカタフラクトと火器弾薬があるのに、俺らで壊せる扉になってる訳が無い。
「いや、見てわかるだろ。人力じゃ無理だ。暗証コードが必要だ。」
「じゃあ、何のためにここまで来たんだよ!」
おい、金髪。人の話は最後まで聞こうぜ。
「暗証コードは俺のポケットにメモ紙があるからそれを見ろ。」
「「は?」」
お前ら驚きすぎだからな。
「前もって鞠戸大尉から聞いといただけだ。」
「先輩って予知能力持ち?」
界塚弟が俺のブレザーの内ポケットからメモ紙を取り金髪に渡す。
「そんな大したもんじゃない。昨日の事件で火星の奴らが攻撃してくるのは予測できたからな。」
今朝の内に鞠戸大尉に聞いといてよかったよ、マジで!
「攻撃が予測出来たとはどういうことですか?」
おっと、北欧系居たのかよ。急に話に入ってこないで、きょどっちゃうから
「べっ別に大した事じゃないだろう。普通ならまず外交努力だけど、昔っから帝国を名乗るのは脳筋で短慮って相場が決まってる。」
「・・・なっ!」
何をそんなに驚くことがある?それとあんた可愛いんだから連れの子供と一緒に睨むのやめてね。
「比企谷先輩って噂通りの毒舌?」
おい金髪、誰が毒舌だ。
「そういえば先輩ってこの前のヴァースに関するレポートでも呼び出し再提出だったらしいですね?」
何で、お前がそれを知っている・・・あぁ准尉経由で聞いたな。
「なんでもヴァース皇帝を全否定してて、火星協調派の先生から呆れられたってユキ姉が言ってたっけ」
「あぁ・・・あの書き直し大変だったな~」
「ユキ姉の話じゃそれ絶対にヴァースの関係者の前じゃ禁句の羅列だったって」
「なにそれ?」
おい、網文。何ドサクサに紛れて聞いてんだよ。
はぁ、まぁいいか。
「お前らだって近代史でヴァース建国の流れは勉強してるだろ。たかが研究者が手に余る力を手にして、とんでもない勘違いをした結果がヴァースだ。」
「勘違いってどういうことですか!」
なんか急に北欧系が絡んで来るな。
それにしてもスッゲー睨んでる・・・ちっこいのと一緒に・・・
俺なんか悪いこと言った?
「30過ぎた大人が急に自分の事を皇帝なんて言い出したら、地球じゃ精神科の隔離病棟行きだ。
周囲がそう出来ないのは、力があるからだ。癇癪起こして暴れられると、こっちが物理的に病院送りだ。
アルドノアって強力な武力を元に無理やり下を従わせている。身分制度なんてものを取って下を「自分たちは優秀だ」って洗脳して、自分たちが貧したりしてる原因を外に向けている。貧する理由は地球では無く火星だって事に気が付かないようにしているんだ。お前らだって純粋な火星人なんて何人いるよ?って話だ。大人の殆どが生まれは地球のくせに優等人種で地球は劣等?自分の生まれ考えてから言えよ。
皇帝陛下(笑)からアルドノアなんて威を借りて偉そうなこと言う割に自分の生まれを全否定して「俺は火星生まれの高潔な血筋だ―。」って、そんな中年、見てて哀れだろ。」
「比企谷先輩、それをレポートに書いたんですか?」
聞かれたから答えたのに、なぜ界塚弟からそんな目をされなきゃならない?
「まぁ、オブラートには包んだ。」
「先輩、それは包めてない人のセリフですよ。」
なんか網文にもジト目されてるんだけど・・・
そして、怖くて振り向けないけど北欧系から殺意にも似た視線を感じるのは勘違いだと思いたい。
「それはそうと早く扉を開けてくれ。こっちは人を背負ってるんだから」
「それ、暗にユキさんが重いって言ってますよ。」
だから界塚弟はそこで殺気を出すな。
シスコン認定するぞ。あれ、もう認定されてたっけ?
「気を失ってる人間はすべからく重いんだよ。救命講習で習ったろ。」
ピー
ガチャ
そうこうしている内にコード入力が完了したのだろう。乾いた電子音と共にロックが外れる音がした。
「玄関奥の所に出るんだっけか?」
「そうだったと思います。2学期頭の避難訓練で使いましたから」
「韻子、他の人達に窓とか外から見えるところに近づかない様にって」
「わかった。」
「他の怪我人の治療もありますから、階段を上ったらとりあえず保健室に行きましょう。」
耶賀頼先生の指示に頷きながら、共同溝の出口に向かって階段を上っていく。
その振動がいけないんだろうか。
「・・・んっん・・・」
20段に1回くらいの頻度で耳元で声出さないでください准尉!
八幡の八幡が人為変態してゴキブリと戦い始めちゃう!
「比企谷君、生物学上でいうと人間はすべからく変態なんですよ。」
「なんでこのタイミングでその話?」
ちょっと、耶賀頼先生とんでもない爆弾を投下するのやめてくださいね。いや、ほんとマジで
「これ以上のタイミングは無いと思いますが?」
「確実に後ろで女性陣がドン引きしているんでやめてください。」
男子を含めて特に約二名の視線がグサグサと刺さってるんですよ・・・・
先を歩いている金髪が学校側のドアを開けて俺たちは芦原高校の校舎内に入っていく
「怪我をされている方は僕と一緒に保健室に来てください。」
「それ以外の人は食堂に・・・韻子、案内お願い」
耶賀頼先生と界塚弟の指示に一往に頷く。
「で、伊奈帆君はどうするんだい?」
「僕はとりあえずユキ姉に」
「はぁ、シスコンも大概にしとけ。人手が足りないんだから優先順位が高い事をやってこい。」
「そうですね。この調子じゃ1時間は起きないと思いますから」
「命に別状はないんだ。一通り確認してからにしろ。」
ここまで言っても界塚弟は渋々といった感じで頷いた。
「それに比企谷君に襲うほどの甲斐性はありませんから」
おい、このヤブ医者
言うに事欠いてそのセリフは無いだろ。
「そうですね。わかりました。」
さっきまでの不機嫌オーラ霧散してんじゃねーよ。
「それで分かられる俺ってなんなの?」
「「聞きたいですか?」」
ユニゾンで言うな。
いや、ヘタレの自覚はあるけど、そこまで?
界塚准尉をベッドに寝かせもう一度容体を確認する。にしても、ほんと心臓に悪い。
まだバクバク言ってるんだけど。柔かいし柔かい、なんで女性ってこんなに柔かいんですかね?
それと共同溝じゃ重いといったがホントは軽かった。
高身長って訳じゃないけどそこそこの身長だってのにマジで何で出来てるの?ユメとキボーとアシタのアタシ?ミストルティンって何だったろうね?
あと男子高校生にこんなことさせちゃダメだからね、耶賀頼先生。
「それでは界塚准尉が起きましたら状況の説明をしておきます。君たちはやることがあるのでしょう?」
耶賀頼先生はこっちに退出を促す。
他にも怪我をしたり、気分を悪くしている人もいる。俺が居ても出来る事など無いし、他にやる事がある。
何よりこれから准尉を着替えさせるらしい
そら居られないわ。
保健室を出て一人軍事教官室に行く。
界塚弟とクラフトマンは多分、カタフラクトの格納庫だ。今頃、クラフトマンがスコップとか片手に「おりゃー」とか言ってるんだろう
授業教材と言えど兵器だ。
厳重な鍵くらいかかっているし、扉やシャッターだってそう簡単に壊せる訳が無い。
俺が教官室に来た理由はここに鍵があるからだ。
今朝の鞠戸大尉と電話で、鍵の場所を教えてもらっている。
ここまで、悪い予感が当たるのも我ながら嫌になってくる。
もっとも、予想していた状況とは違うが、でもフェリーに乗っているあいつらを守るんだから、やることは変わらない。
あの火星カタフラクトを引き付けてフェリー出航の時間を稼ぐ。結果、破壊・撃退するのが理想だが、あの能力だからな本来なら足止めできれば御の字なんだろう。
今日見た能力は確かに凄まじい。バリアって中二病の発想だよな。どこぞの第3新東京市の人型決戦兵器じゃあるまいし・・・いや、あれより性質悪いかもな。
あれは拒絶して入れない性質だが、あのカタフラクトは触れる物を吸収というか消滅というかとにかく触れた物を例外無く消している。
アルドノア・ドライブと言えど物理法則に則っていると思うがそんな事はどうでも良い。
問題はあの能力が強力な事、それも異常なまでに強力すぎる事。
強すぎる力はそれなりのリスクがあるはずだ。それが何なのかが攻略の鍵になる。
それと、あの機体のパイロットも逃げる輸送車を追って遊んでいた。
あのバリア以外に装備が無い可能性も充分にあるが、それでもアレイオンが沈黙している事は見れば分かるはずだ。
アルドノア・ドライブの特殊兵装を搭載しているんだから、状況判断のできない新兵って事は無いだろう。あの状況で悠長に歩いて追いかけるなんて、遊んでいる以外にありえない。
そこが付け入る隙になりそうだな。
「あったあった」
そんな事を考えながら、鞠戸大尉の机を漁り目的のカードキーを見つける。
それにしても、鍵の置き場所もう少し何とかした方が良くない?セキュリティってモノを考えようよ。
これで、格納庫と弾薬保管庫は何とかなりそうだ。あと必要なモノは何かあったっけ?
にしても、酒のボトルばっかりじゃないか。一応、去年の単位の恩もあるから仕返しに耶賀頼先生にチクっておこう。
格納庫に行くと案の定クラフトマンがシャベルを振りかぶっていた。
ドアに疵いっぱいだけど何回試したの?疲れない?
「カーム、さすがに別の方法を考えよう」
網文も来ているが、界塚弟が居ないな
「界塚弟はどこ行ったんだ?それとクラフトマンは目立つ事するな」
「何でだよ!?」
「先輩、居たんですか?」
「だから半ギレすんなよ。あのカタクラフトが単独で大気圏内飛行できるとは思えん。この街に運んだ輸送機がいるはずなんだ。どこ飛んでるかも分からん。」
「仲間がいるって事か。」
「そういう事だ。後で他の人にも伝えとけ。」
理屈が分かれば、これくらいの言う事は聞くみたいだな。頭ごなしの拒絶や否定をしないだけ、うちのクラスの奴よりましだな。
「それで界塚弟は?」
「伊奈帆なら弾薬保管庫の鍵を確認に」
やっぱ、鍵がなきゃどうにもならないのは分かってんだな。あいつだと准尉の関係で鍵、手に入れそうだな。
「そうか、んじゃ、網文。これで格納庫の鍵開けておけ。それと奴に見つかるから、あまり外に居るな。」
網文にカードキーを投げ渡す。
「格納庫の確認が終わったら、カードキー、界塚弟のとこにも持って行ってやれ。」
これで機体と弾薬の確認はこいつらがやるだろし、俺は仕事しなくて済むってもんだ。
大体、整備とか苦手だし、俺も腹が減った。
昨日から普段の俺じゃ絶対やらない事の連続だ。食事くらい一人で食いたいんだよ。
それと作戦、考えなきゃな・・・
食堂に残っていたパンと飲み物を手に校内をうろつく。
いつものベストプレイスは外だから見つかる可能性があるので使えない。
結局、行き着いたのは奉仕部の部室だった。
ぼっちの修練進化の結果、選択肢が少ないのか、うちの部長様の調教が無意識にここに足を運んでしまうレベルに達してしまっているのか・・・・後者で無い事を切に願おう。
カーテンを閉めて外からの視界を遮断する。
人の気配を感じさせない為に、この寒い中ではあるが暖房は使えない。
本当は寒くて少しでも暖を取りたいところなのだろうが、体と頭の奥の部分が熱を持っている気がして、少しだけ窓を開けて椅子に座る。
食事を摂り、自販機に残っていたMAXコーヒーを片手にいつもの席に座り、火星カタフラクトにどうやって対抗するかを考え始めようとして、さっきまでの追撃を思い出す。
きっと道を一つでも間違えていたら俺はきっと死んでいただろう。そしてそれは俺だけじゃなく、あの輸送車に乗っていた全員に言えることだ。
ついさっきまで命の危機に晒され、准尉を背負ってからかわれて・・・いや昨日の暗殺事件からの緊張の糸がここに来て切れたんだろう。
右手を見ると微かに震えているのがわかる。
火星の影武者が死んだ。
名前も知らない後輩が死んだ。
それじゃ、次に死ぬのは?
「知るかそんな事・・・・」
火星の影武者は、見殺しにしたんじゃないのか?
「無理に決まっている。」
輸送車で後輩が死んだのは誰のせいだ?
輸送車を運転していたのは網文だ。殺したのは火星人だ。でも本当に俺の所為で無いと言い切れるのか?
自分でも網文に言ってたじゃないか。
あれはお前が死なせたんだろう?
「・・・うるさい。」
これは俺の感情からくる言葉なんだろうか?
「くそっ!」
暗殺事件の時は一歩間違えば俺が吹き飛んでいた。
さっきの逃走劇なんて俺だけでなく輸送車に乗っていた全員が死んでも可笑しくなかった。
逃げる事しか出来ない状況でよく生きのびられたものだ。
思い返せば思い返すほどに俺の判断で全員が死んだかもしれない事実が重く圧し掛かっているみたいに体が重く感じる。
多分それだけじゃないな・・・生理的なものを含めた色々な感情が俺の中で渦巻いている。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・・・っくっ」
張りつめていた糸が切れた反動なんだろうか?
体がガタガタと震えてしまう。目が熱くなりかけた所で唇を噛み、自分の体を抱いて無理矢理にでも体の震えを止める。本当の俺は泣きたいのかもしれない。
でも、こちとら強化外骨格を持つ病的シスコンから、理性の怪物・自意識の化け物とまで言わせる俺の理性が本能的な恐怖も、後悔の念も全てを飲み込む。恐怖に膝を折るのも、涙を流すのも今は必要ない。感情を排除しろ。
「うぅ・・・はぁ・・・・・はあぁっ」
今一度、大きく息を吸い込む。
震えを止めるために力の限り緊張していた筋肉が弛緩していくとともに、新しい酸素が脳に回り、頭の中が冷えていく感じの中で、思考回路がリセットされていく。
後にして思えば、防音性なんて気の利いた機能のない部屋である事と、ドアの向こうの視線に気を付けておくべきだったと思う。
「ナオ君!居るんでしょ、ナオ君!」
15分も要すると思わなかったが、とにかく精神を落ち着けた俺は、必要機材の確認に行こうとすると、界塚准尉の声が聞こえた。
「目を覚ました途端によく動けるな。」
命に別状が無いと言えど、アレイオンが倒れた時に脳震盪くらい起こしていたはずなのにタフだな。それとも軍人ってみんなそうなの?
声の先を見ると・・・って界塚准尉そこ男子トイレですよ。
弟と何か話しているがよくは聞こえない。大方、ブラコンがシスコンを危ない事しないでって説得しているんだろう。多分無理だけど
それどころか、逆に説得されるんだろうな。ここは無茶する場面だって
耶賀頼先生も入口に見えるし、面倒くさいから俺はパスしとこう
准尉がここに居る内にアレイオンから戦闘データをコピーしてこよう。
共同溝からトンネルへと戻り、アレイオンのコックピットに潜り込む。
メインコンソールを弄って、自前のモバイルPCに火星カタフラクトとの戦闘データを吸い出しをやっている間にスマホを確認するがアンテナ表示が圏外のままだ。軍用通信が短距離でギリギリ通じそうってレベルだ。一般用通信系統は絶望的だな。
データの吸い出しが終わり、戦闘データを再生し始めると、網文とクラフトマンがやってきて何やらごそごそとやっている。
「何やってるんだ、あいつら?」
まぁ、いいや。こっちは戦闘データの検証で手一杯だ。
それにしても何度見てもえげつない能力だな・・・でもこの戦闘でもこのカタフラクトはブースターとかの推進装置を使っている気配がない。
「俺たちを追って来た時だけじゃなく、通常戦闘時でも使わないって訳ないもんな。」
そうなると、使わないのではなく、あのバリアに干渉して使えないのが正解みたいだな。
視界の謎はある程度の説明が付くし、バリアの理屈は理数系を苦手としている俺に分かる訳が無い。下手の考え休むに似たりだ。
なら、考えるべきはあの不細工なカタフラクトの乗り手だ。
「分からんのはそこまで俺たちに固執する理由だな」
他にも逃げ遅れがいた可能性は拭いきれないが、あいつはカタフラクトが居るにしても敗走している相手を深追いする理由はないはずだ。
あれほどの兵装だから返り討ちを考えていないにしても程がある。であれば、何か俺たちを追いかけるだけの理由がなければ説明がつかない。
データを見る限りじゃ准尉があいつに何かやった訳じゃないだろう。
むしろ、何もしていないって言っても良いくらいだ。そうなれば准尉が連れてきた、あの娘か?
俺たちと同年代の人間に生身でカタフラクト相手にどうこう出来るとは思えない。そんなマスターアジアが居てたまるか。
となれば、何かを所有しているか都合の悪いことを知っているってところか?
火星の騎士にとって何としてでも処理しなければならない事って・・・いや、まさかな・・・
それに関しても考えておくべき内容だが、パズルのピースが足りなすぎる。
それよりも考えるべきは、どうやってあのカタフラクトを攻略するかだ。
破壊する必要はない。俺としては作戦の第一条件はフェリーの出航だ。
先に考えるべきはあのカタフラクトの乗り手の穴だろう。
乗り手が歴戦の軍人とかだったら、俺たちはもう死んでいる。仕留めるときに仕留めるってのがプロの仕事だ。でも奴はそれをしなかった。
捕獲命令が出ていた?それは無いな・・・だったらもっと気を使った動きをする。あいつは殺意をもって輸送車を追いかけまわしていた。
こちらが反撃できないのを良い事に遊んでいたと考えるべきだろう。猫が戯れに虫で遊ぶように・・・
それこそが最大の隙なのは間違いない。あとは、どうすれば相手の心を掻き乱すかだ。
それも俺得意の言葉で無く。相手に見える視覚情報だけで・・・