やはり俺のアルドノア・ドライブはまちがっている。 作:ユウ・ストラトス
ヴァース側とか救援隊とかの部分は書いてはあるんですけど、文字数も少ないので貯まってから番外で
それと八幡の機体の設定も最後に入れてます。これ自体は名称以外は仮の段階から変わらず想定していたものです。
朝食を終えて、格納庫から出したトレーラーのところに界塚姉弟、網文、クラフトマン、姫さん、アリアーシュと集合している。
あと10分もすれば日の出だ。
「時間だな。」
そんじゃ、各自の最終確認でもするか・・・
「先輩の公開処刑のですか?」
「えっ、なんで俺、処刑されんの?」
ちょっと、網文さん?
「早朝から女の子にセクハラした疑いで・・・・・」
朝からって何?俺、完全に身に覚えが無いんだけど
「疑いであって罪状確定してないよね?」
「・・・そう・・・朝からセクハラなんてしてたの・・・・」
ちょ、界塚准尉・・・・その今にも俺のコメカミにめり込みそうな感じになってる右手を治めてください。
「アリアーシュか・・・」
思い出した。そういえば、朝から面倒くさいのに絡まれたんだった。
「ユキさん、罪状確定したみたいです。」
「平塚先生直伝・・・衝撃の・・・・」
ちょ、それは物理的に地獄に落とされる!
「濡れ衣だ。冤罪だ・・・・」
ってか、おいアリアーシュ!我、関せずで携帯弄ってるんじゃない。
つーか、それ電波とか繋がってるの?
「ユキ姉、韻子も冗談はその辺で・・・」
おぉ、界塚弟!?いいぞ、もっと言え!
「処刑は避難先で雪ノ下先輩たちと合流してからの方が効果的だから」
「それもそうか!」
「そうね、そうしましょう!」
俺、この戦いが終わったら処刑されるんだ・・・・
何この死亡フラグ?戦死か処刑って斬新すぎるんだけどこの二択
界塚准尉が空に向かって信号弾を発射する。
通信が途絶しているフェリー埠頭の人たちにもこれでこっちの状況が分かるだろう。
撃つのは3発、色は全て赤
意味は戦闘開始
フェリー埠頭は基地から近いんだし、誰かしらが気が付いてくれるだろう。
先頭は囮となるトレーラーにスレイプニールを載せて界塚弟と姫さんとアリアーシュ
それに続いてスレイプニールに乗って網文とクラフトマンが出る。
俺の出撃は5分後だ。
「それじゃ、私は他の人たちを連れて行くわ。」
「はい、准尉も気を付けてください。」
「私たちが一番危険が少ないのに?」
「それでもですよ。」
界塚准尉は他の避難民の誘導が役割だ。
人数もいるし、怪我人もいるから共同溝を使っているとはいえ輸送車までは15分以上かかるだろう。輸送車に乗ったままのアレイオンは昨日から救難信号を発信し続けている。
元々は火星カタクラフトを引き付けるための案の一つだったが、作戦が開始した今となってはあいつはトレーラーに向かうだろう。
それにもし救助隊が組織されていれば迎えが来るかもしれない。まぁ、このジャミングの中で救難信号が基地まで届いてるかどうかは疑問だが
救助が来なくても残った役立たずな大人で輸送車の運転くらいはやるだろう。
界塚准尉が校舎内に消えてから俺も自分が乗るスレイプニールを載せたトレーラーに向かう。
トレーラーのエンジンを始動させて、モバイルPCも助手席で立ち上げる。
後ろに載せたスレイプニールはアイドル状態で短距離通信と戦術データリンク、各種観測データを有線で画面に表示されるようになっている。
『あぁ、道幅きっつい!』
『構うな。今日は減点なんてされねーよ。』
先行している網文たちの通信がPCから聞こえてくる。
『見つけた。十字の方向!』
『出たな・・・・ダンゴ虫・・・・』
囮のトレーラーが出て4分25秒か・・・観測用ラジコンを飛ばして検証したデータで発見されるまで推測した時間から予定通りだな。
『作戦開始』
界塚弟からの通信
「さて・・・・行くか・・・・」
先行している網文とクラフトマンは、敵カタフラクトがトレーラーに引っ張られたのを確認してたら上空に向かって発煙弾を発射する。
界塚弟と俺の予想通りなら煙幕であいつは視界を奪われる。
その際にあいつが取る行動は動きを止めるか、バリアを解除して動くかの二通りだが、あいつの今までの行動から見てバリアを解除する可能性は低い。
トレーラーを作戦予定ポイントへ向けて走らせながら左のインカムに耳を傾ける。
『奴の動きが止まった!』
『伊奈帆の言った通り!』
予測通りだな。あいつは機体性能で暴君を気取っちゃいるが、その実は臆病で調子に乗りやすい、精神的に未熟な兵士だ。
故に昨日は俺たちを弄んで取り逃がし、朝まで新芦原に何をするでもなく俺たちが巣穴から顔を出すのを馬鹿みたいに待ち続けていた。
トレーラーを運転しつつ助手席に置いたPCの画面を確認する。
通常の通信域はやっぱり駄目か・・・・
視界が塞がれたここからだろうな。何としてでも視界を確保したいあいつは必ず何かしらの行動を起こす。その痕跡を捕まえられれば、それを辿れる筈なんだが・・・・
何発もの発煙弾で煙幕が張られている新芦原に一瞬の影が差し煙幕にムラが生じる。
黒い翼の輸送機・・・あいつがあのカタフラクトをここまで運んだ黒塗りハイヤーって訳か・・・
「こちら、比企谷・・・・界塚弟、聞こえるか?」
界塚弟へ直接通信を開いて、トレーラーを止める。
『こちら界塚です。先輩どうしました?』
輸送機の存在を報告しようとしたが、
『あいつむちゃくちゃ!』
その前に敵カタフラクトが動き出したみたいだ。
このタイミング、輸送機からのバックアップでも受けているのか?
網文たちの方でも輸送機を視認したみたいで
『こちら網文、上空に火星の輸送機を確認。』
『ゾンビ先輩の言ってた通りだ。』
おいこら誰がゾンビ先輩だ。この金髪豚野郎!
あれ?金髪豚野郎はどこぞの落語家だったっけ?
『韻子、援護してくれ!あんのコウモリ!』
コウモリね・・・たしかにあの黒い翼はコウモリみたいだな。
『あいつの気流で煙幕が乱れる!落とさねーと』
『ちょっと!カーム!』
そう言う訳に行かないな。お前らにはお前らの役割があるんだから。
ここからの移動距離を考えると輸送機にかまけてる時間は無い。
「コウモリは俺がやる。」
『比企谷先輩!?』
「状況は聞いてのとおりだ。作戦予定を変更、昨日のプランをAからBに移行、少し早いが俺もKATで出る。」
トレーラーの荷台に載せている自分の機体に乗り込みながら、プラン変更を指示する。
『でもプランBはバリアの隙間が分からないから廃案に!?』
「それな・・・・・」
前もって用意していた外部メモリを接続して戦術データリンクを介して情報を更新する。
『これ・・・・いつの間に?』
『朝まで何かやっていると思ったら・・・・』
『カームにラジコン用意させてたのって』
三者三様のリアクションをありがとう
「そういう訳だ。合流時間はそのままにプランを移行」
「網文とクラフトマンは変更した予定ポイントに向かえ。敵の通信傍受を避けるために以降の回線は切断!」
『言われなくても!』
『了解です。それで先輩のお仕事の方は?』
コックピットでシートベルト締めて、コンソールを操作する。
モニターにはセンサーが拾ったいくつかの情報が記録されていた。
「やってる最中だ。さっき、センサーにヒットしたみたいだ。コウモリを落とす頃には終わっている。」
『先輩がちゃんと仕事するなんて、明日は隕石ですか?』
「縁起でも無い事を言うな。」
今の情勢じゃ洒落にならん。
切られた回線を弄り、界塚弟とあらかじめ相談しておいた回線で通信を始める。
「界塚弟、聞こえるか?」
回線の傍受とは言ったが、多分それはしてこない・・・それをしているのなら、電波を出しまくっている基地が先に襲われている筈
それをしないって事はこっちに聞き耳を欹てる事はしていない。
『良好です、先輩』
「作戦変更の連絡をお姫様にしておいてくれ。さっきも言ったように俺は空のコウモリを潰す」
姫さんの正体の問題があるので、界塚弟と話し合ってでもう一つの回線を用意していた。
俺と界塚弟、そしてお姫様を繋いでいる通信回線
これで、口の軽そうなクラフトマンには気が付かれない様に会話ができる。もっとも、アリアーシュの存在が頭を悩ませたが、リーダーである界塚弟と連絡が取れないのは面倒だ。
って言うか、超短波通信が通じるって事はだいぶジャミングは薄れたのかね?
「メインシステムをアクティブ、特殊索敵システム<ミミル>をサブシステムに」
「FFCPスタート」
「戦術データリンクをスタンドアロンモードからアクティブに移行」
操縦桿を握る。
「ホールドオープン、その他システムチェックは省略」
機体のOSは既に立上げっていて、各部に関しては散々ぱらチェックしている。何より今は一刻を争う状況でご丁寧にシステムチェックをやっている暇はない。
トレーラーから機体を起こし、脇に載せておいた長距離用のロングレンジライフルを手に目の前の大通りの交差点から上空のコウモリを視認する。
距離などのデータが網文から送られてくる。
この機体のそういった機能は今は別で手一杯なのでこの情報は助かる。
ロングレンジライフルを構えさせて、ターゲットスコープを覗く。
こいつは先週の教練でも使ったライフルだから試射はしない・・・。
その時の誤差を思い出せばいい・・・・500メートルで確か下に023、右に015だった筈だ。昨日まで兵科教練で使われている事で生じた誤差は予測で微調整
「南南東の風、2.3m、気温11.2℃、気圧1015.21hPa、湿度42.3%」
カタフラクトのレーダーで記録されるデータをもとに照準を修正する。
「標的までの距離とそれによる重力影響曲線を設定」
銃弾は直線には飛ばない・・・地球の重力に引かれるからその曲線を計算する必要がある。
だから、自分の頭の中で感覚で描く曲線とCPUが計算した曲線が違っていないかを確認。
ロックオンを気が付かれない様に赤外線などのコンピュータ補正は切っているので、色々と手間ばっかりがかかる。
とにかく、これでターゲットスコープの真ん中付近には行くだろう
「悪いが死んでもらうぞ・・・・コウモリ・・・・・」
鞠戸大尉に扱かれたあの補習を思い出せ・・・・・相手の行動を予測しろ。
データをもとに目測分を修正している間に、急旋回して高度を下げて飛行するコウモリ
戦術データリンクの位置情報から恐らく網文とクラフトマンを狙うつもりなんだろうけど、ちょうどいい。
攻撃の照準をつける為にまっすぐ飛べば、行動を予想しやすい。
これ以上、俺の周りで好きにはさせない。
狙うのは恐らくコックピットがあると思われる場所
「うちの後輩に手ぇ出してんじゃねーよ、コウモリ野郎・・・・・ファイヤ」
網文たちとの通信切ってて良かった。こんなキャラじゃないこと言ってたってバレたら、トラウマ化してSノ下にフルボッコされるわ。
いや、待てよ・・・界塚弟に聞かれてんじゃん!
絶対、後でネタにされるぞ・・・・・
ドォン!
トリガーを引くと大きな音を立てて弾丸が飛び、コウモリの翼から煙と炎が見えた。
「ちっ、上空の風で計算より流れたか」
あのコウモリで気流が乱れているのか、標準よりも左に逸れた。
あんな、セリフ吐いといてコックピット外すとかマジ恥ずかしい・・・・・殺せんせーだったら羞恥心で死んじゃうレベル
追撃するべきか・・・・・・いや、この距離じゃ射程ギリギリなのもあって威力が減衰している。距離が半分ならコウモリの翼ごと貫いている筈なのにジェットエンジンを壊した程度だ・・・・あの様子じゃ飛行継続は不可能だろうし、これ以上時間を食う訳に行かない。
コウモリの動きをメインモニターで追いつつ、サブモニターの状況を確認する。スキャンに引っかかったいくつかの項目を確認する。
『あいつには弾が当たるのね・・・・』
マイク感度を上げ過ぎたのか、インカムの奥の方でアリアーシュの声が聞こえた。
『スカイキャリア・・・ヴァースの戦術輸送機です。機銃やミサイル以外の特殊な装備・能力は有していないと聞きます』
姫さん、情報は欲しいって言ったけど、正体ばれる様な発言は控えようぜ。
インカムから入る音声を聞き流しながら、サブシステムで動いているミミルが拾った情報をもとにデータの発信元を探ると上空の何か所を示していた。
一つはコウモリの可能性もあるが、複数、それも上空となれば件の外部カメラの可能性が高い。
「こちら比企谷・・・・界塚弟、ようやく目が取れた」
『思ったよりも時間かかりましたね』
「暗号化されているからな」
モニターにはあの火星カタフラクトが見ているであろう外部カメラの送信情報がそのままの状態で表示されている。
これが、この黒いスレイプニールを選んだ理由だ。
元々は有視界戦闘が難しい夜間作戦を想定して作られたタイプのバリエーション機だ。電波吸収材で黒く塗装されているのと、レーダ機能が強化されている。
この夜間戦闘型自体は珍しいモノでもないんだろうけど、こいつだけは少し事情が違う。
詳しい事は知らないが高度な情報収集能力が最大の特徴である特殊レーダーシステム<ミミル>ってやつを搭載している。何か試作されたが失敗作だったらしい・・・・・何が駄目だったんだろうか?鞠戸大尉にはこればっかり乗せられているからか、俺からしたら愛着もあるし結構使いやすいから良いんだけど・・・・・・ちょっと疲れるんだけどね。
そもそも、そんなものが何で高校の実習機になってるのかは知らんが。
それにしてもこの名前ってスレイプニールの主人であるオーディンの相談役の名前から取ったんだろうけど、なんでこういうのって厨二の香りが漂うのかね?
暗号化されたデータをメインモニターに表示する。
夥しいまでの記号の連続を読みながら、修正を加えていく。
「ここからここの文字を反転させて、こっちはドイツ語変換、んで・・・・・ここの辺は偽装数列だな」
ミミルの最大の欠点はCPUの処理速度だと言っていた。
実際、この傍受した火星カタフラクトへの送信データの暗号解析は戦闘行動中には出来ないし、そうでなくても時間がかかりすぎる。その為に、マニュアルでの解析が必要になる。
暗号の数列から暗号製作者の意図を読み、偽装しようとする心理を逆に辿る事で暗号の解読方法を確立させる。解析方法さえ分かればあとはそれに沿ったデータを送ってやればいい。
ほんと、鞠戸大尉の補習がこんな所で役に立つとは思わなかったな。
KATの訓練に射撃訓練、それと論理思考の訓練
今日一日で全部使うことになるなんて、大尉って予知能力者?レベル5?
火星カタフラクトの傍受したデータを解析すると、カメラの映像情報がサブモニターに表示された。
複数のカメラのお互いの情報をリンクさせているのだろうがこれであいつの視界をこちらで確認しながら作戦を進められるのは大きい。
視界ジャックとか某ホラーゲーム思い出すわ。
取得した情報を戦術データリンクで送信する。
「分かっているとは思うが、傍受しているだけで視界データを書き換えたりは出来ないし、カメラの位置なんかはまだ特定できないぞ」
こいつの特性は感知特化型であって情報操作ができる訳じゃない。そもそも、ジャミング内でもこれだけのデータを送信できるあのカメラの出力が異常で、それに割り込むなんてそれ以上の出力が無ければできない。
俺達が通信できているのはレーザー通信を併用しているのと通信量が向こうと比べて圧倒的に少ないからだ。
『分かっています。それでも相手の死角を突きやすくなりました』
まぁ、そんなことしなくても界塚弟ならあんな未熟な騎士様(笑)をやり込めるような気がするけど
傍受しているデータのパターンからカメラ数は5以上10未満って所か?
界塚弟もスレイプニールに乗り込むための距離を充分に稼ぎつ停車するトレーラー
『煙幕を』
『はい!』
これで煙幕が晴れたときに敵カタフラクトに界塚弟を認識されなければ8割がた作戦通りだ。
『電圧チェック、油圧チェック、温度チェック、回転数ノーマー』
『フォースフィールドバックチェッキングプログラムスタート』
もっとも、網文たちKATを無視してでもトレーラーを追っかけているのを考えると問題なさそうだけどな。
『エジェクションシート正常、IFF確認』
『戦術データリンク、アクティベート』
『システムオールグリーン、ホールドオープン』
界塚弟がスレイプニールを起動させたのを確認した俺はロングレンジライフルをその場に捨ててお姫様たちのトレーラーを追いかける。
界塚弟はトレーラーから離れて敵カタフラクトへの決定打を決める為に、合流予定ポイントから一番近いビルの合間に向かって移動する。
あの火星カタフラクトの視界から死角を突いての移動になるので合流予定時間に間に合うか危惧したが、その心配はなさそうだ。元々、網文たちの乗るスレイプニールを無視してまでトレーラーを追っかけている以上、誰が乗っているか分からないモノより乗っている人間がはっきりしているモノが優先・・・・つまり極端な話、戦闘は目的じゃないという事だ。そうなると、アリアーシュか姫さん、もしくはトレーラーそのものが狙いということになる。
トレーラーはまずありえない。最新鋭機ならともかく、たかが輸送車にそれほどの価値があるとは思えない。
そうなるとお姫様か?相手が暗殺の失敗に気が付いている可能性は確かにあるが、お姫様の変装姿まで知っているってのは無いだろう。それなら、こんな方法じゃなく他の効果的なやり方もあったはずだ。
やはり可能性が高いのはライエ・アリアーシュだろう。あいつがこっちの陣営で唯一顔を知っている存在だ。遊んで殺せなかった事にムキになっているって事なのか?それとも・・・・・・まぁどちらにしてもあの火星カタフラクトはストーカーかよ。
俺と界塚弟は別としても網文とクラフトマンに関してはアイツだって存在を認識していたはずだが、全く興味を示さない。
目の前の目的に頭がいっぱいで周囲に気が回らないんだろう。
邪魔をされる可能性がある俺達を無視してまで追いかけるんだから、よほどの理由があるんだろう。
取り合えず、界塚弟には前進のサインを出して、俺は作戦通りトレーラーを追うか・・・
「こちら比企谷、あー・・・・・セ・・・・・姫さん聞こえるか?」
アリアーシュには通信機を渡していないから、わざわざ名前呼びとかレベル高いの要らないだろ?
『はい、どうかしましたか、八幡さん?』
「悪いが少し予定より距離が開いた・・・合流予定時刻を+8秒に修正」
『了解です。ライエさん、合流予定を+8秒です』
『何やってんのよ。あのゾンビは!』
おい、誰がゾンビだ・・・聞こえないと思って何言ってんだ?
そんで姫さんも声押し殺してるけど笑ってるよね?
「アリアーシュにこれでもスラスター全開なんだって言っといてくれ」
スタビライザーを広げて可能な限りスラスターを吹かしている。+8秒とは言ったが、多分これなら+4秒くらいで追いつけそうだ。
そうこうしている内に敵カタフラクトが作戦エリアに侵入した。一応ここまではジャックした視界の死角を突く形で急いだがここから先が問題だ。
南地区、海の公園、俺の位置からはお互いに遮蔽物が無いから隠れようがない。ビルに隠れている界塚弟はともかく、俺は見つかる可能性が高い。
かといって、遅れるのは論外だ。
『目的地まで1,200m・・・修正後の合流予定時刻は93秒後です。』
予定よりも時間が早いがなんとか追いつけそうだ・・・・
敵カタフラクトのテンパり具合だったらスラスターを焚いても大丈夫かな?
『時間を稼ぐ・・・少し黙ってて』
アリアーシュさんがイケメンな件についてってか?フラグ立てるなぁ・・・・・てか、やっぱりマイク感度上げ過ぎてるな。
それにしても、この期に及んでまだバリアを解かないとかもうアホじゃない?そんなに被弾が怖いなら戦場に来るんじゃねーよ。
左右にトレーラーを蛇行させて、敵カタフラクトの腕を避ける。二度三度と避けると敵カタフラクトが急に腕を横に薙いだ。
それによって街灯が数本飛んでいく。
さすがに5~6メートルの金属棒を複数ともなれば躱せない。
その内の一本がトレーラーに激突して停車してしまった。
『・・・いつ・・・・・を・・・・』
どうやら二人とも生きてるみたいだな。
とは言っても、これはヤバいな。あと60秒で追いつくか?
『いいえ』
トレーラーから降りて敵カタフラクトを見つめる姫さん・・・・・ってまさか!?
『合流予定時刻まで54秒』
おいおい、姫さん
どうする気だ?
『あとは私が』
まさかと思うが、ここでジョーカーは切れないぞ!
「セラム!やめろ!」
『いえ、トレーラーが動かない以上、逃げ切る事は出来ません。なら、可能性に賭けます。』
だから、このお姫様は肝が据わりすぎだから!
分の悪い賭けなんてアルトアイゼンだけにしておいてくれ。
『見苦しいな。今になって命乞いとは』
敵カタクラフトの外部スピーカーから男の声がこちらにも聞こえた。
あれがパイロットか・・・ネチネチしてそうな声だ。
くそが!いくらアレイオンよりも装甲が薄い分速度が出るにしても、賭けに負けてもフォローできないんだぞ!
『控えなさい!』
生身でカタフラクト相手に啖呵切るとか、イケメンが過ぎませんか?
『目に余る狼藉、許しません!』
『ヴァース第一皇女の名に置いて・・・・』
姫さんの胸元が光り、元々の姿に戻る。
『なっ!?・・・・・アセイラム・ヴァース・アリューシア姫殿下!?まさか!?』
カタフラクトの動きが止まったか・・・まったく賭けに勝ったから良いものを・・・
『下がりなさい!無礼者!!』
ほんと、イケメン過ぎて八幡うっかり告白して、振られて公開処刑で晒し首にされるレベル
って、晒し首までいくのかよ・・・・
『馬鹿な・・・そんな馬鹿なぁ!』
ここまで効果覿面だともう笑えるな。
さてと、姫さんが時間を稼いでくれたおかげで俺も間に合いそうだ。
武装を確認してた時にメインモニターに反応があった。
それと同時に海の方から敵カタフラクトに何発ものミサイルが放たれた。
あのバリアがある以上、ミサイルでは破壊できない。でも、無意味ではない。
『くっ!』
高感度カメラで発射元を確認する。
揚陸艇?って事は救援隊?
バリアによって消えてはいるが、何発ものミサイルは良い陽動になったようだ。
これで俺も射程圏内だ。
「セラムとアリアーシュはトレーラーの後ろに!界塚弟、始めるぞ!」
ここから数分にも満たない間、通信が出来なくなる。
スラスターを吹かして射程圏内に入り、ライフルに付属されているグレネードランチャーを撃つ。
狙うのは敵カタフラクトの頭上と足元
バリアに邪魔される事なく着弾した弾頭は破壊をもたらすことは無く、ある物質を散布する。
『なっ、なんだ!?モニターが!?』
さっき撃った弾頭の中身は様々な金属の微細片で散布されると通信が阻害される。
『くそ!どうなっている!』
チャフ・・・使い捨てのパッシブ・デコイ
風に流されやすく、拡散して濃度が下がると効果が薄くなる為、こんな沿岸地区である新芦原は風が強いので普通は相当数を使用しないと効果が無い。まして、ジャミングの中で外部カメラと通信をする程の出力じゃ余程だ。
けど、お前は知らないだろう。
この時間、日の出と共に海水表面温度と地表温度の上昇率の差によって風向きが変わる・・・・その瞬間、ほんの10分にも満たない時間の間だけこの街では確実に風が止まるんだよ。
そして、このチャフは一つでも近距離で散布されれば地球のカタフラクトなら一発で充分通信障害を起こすものだ。それを複数発・・・・・いくら高出力の通信を使っていたとしても十全に使うことは難しいはずだ。
視界を奪われれば、バリアによる事故を恐れてお前は動けない。
そして被弾の怖いお前はバリアを解く事も出来ない。
実際、棒立ちでその場で腕を振るくらいしか出来ていない。
「これでどこぞのファンタジーよろしく、大気ごと薙ぎ払われたら終わりだけどな」
そのまま、ライフルでもって火星カタフラクトの上に銃口を向ける。
さっきまでの視界ジャックで外部カメラの位置は割れている。
この機体の高感度カメラなら充分に視認可能だし、界塚弟の機体には直前でデータを送信している。
的は小さいがチャフのおかげで火星カタフラクトは動くための視界を確保できない。
その代りにセンサーが阻害されて補正が使えないが、こちとら鞠戸大尉にマニュアル補正を嫌ってほどに叩き込まれている。
トリガーに力を籠めてライフルを3点バーストで発射、
ガガガッ!ガガガッ!ガガガッ!
『何をしているこのクソネズミがぁぁぁぁぁぁ!』
何ってお前の目玉をちょん切っているんだよ。カタツムリ野郎・・・・
外部に頼り切り自身の目を使わないからこうなるんだよ。ぼっちは他人の目による情報なんて信じちゃいけないんだ。
客観的な視点が不要とは言わないがまずは自分自身の目を信じる事が重要だろう。
火星人があたふたしている間に界塚弟とで5機の外部カメラを破壊する。
「つーか、網文はまだか?」
6機目を破壊
凪の時間が終わり風が吹き始めた事でチャフの効果が切れ始める。それと同時に海上の橋からの砲撃が火星カタフラクトに命中する。
「網文・・・・ようやくかよ」
7機目破壊
当然、バリアがある以上はダメージは期待できないが・・・試射で機体に当てるってあの子エグいなぁ
『無駄だ!我がニロケラスは鉄壁の防御!貴様らなんぞに』
はいはい、鉄壁鉄壁(笑)
つーか、ニロケラスって言うのか・・・・たしか火星の土地の名前だったな。
バリアで消してる際に反応を感知しているのか、網文の居る方向を向くニロケラス
だが網文はまだ撃たない・・・
チャフが完全に風で流されたことで戦術データリンクを含めた通信系統が復旧したようだ。
更新されたデータによってお互いの位置がモニター上に表示される。
『こちら界塚、作戦を最終段階に移行』
「フォローはしてやる。好きにやれ」
公園に一番近いビルの陰に身を隠していた界塚弟はスレイプニールを動かしニロケラスに詰め寄る。
狙うのは背面装甲、インテーク右下、爪の隙間
前日の夜・・・・・
資材倉庫から持ち出した何機もの観測用ラジコンをセッティングをしていた。
ラジコンにはクラフトマンに頼んで改造を施している。
トンネルから火星カタフラクトが居た方向に観測用ラジコンを飛ばす・・・
手元のモニターによって進行方向を確認しつつ操作をすると火星カタフラクトが映る。
火星カタフラクトの腕が動き出す前にラジコンを急上昇させ
ボン!
ラジコンに載せた爆薬を起爆させる。
まぁ例のバリアがあるし、ラジコン程度に載せるのは爆薬だけじゃなくある液体も載せるので、精々ラジコンを自爆させるくらいしかできない。でもそれでいい。何せ目的はそこじゃない。
爆発したラジコンからは500ccほど透明な液体が火星カタフラクトに降る。
「・・・・・よし・・・・・・・んじゃ、始めるか・・・・」
最初は30分後・・・・そこからランダムに時間の感覚を開けてラジコンを飛ばしては自爆をさせている。
かといって、適当に飛ばせば良いものでもないので神経を使う作業だ。
「はぁ・・・・・疲れるな・・・・・」
さっきからぶちまけている液体は不可視インクの一種で特殊な波長に反応する
次は今までのような自爆用の改造機じゃなく通常の観測機を飛ばす。
相変らず、たかがラジコンを馬鹿みたいに追いかけてくる火星カタフラクト
ほんと、馬鹿なのかねぇ・・・・この子
悪竜の血を浴びた事でいかなる武器も通さない肉体を持つジークフリートですら唯の一点だけ血を浴びなかった場所があり、それが弱点となった。
ニーベルゲンの歌で言えば俺は重臣のハーゲンってところかね?
「さてと・・・・聞かせてもらおうか・・・・菩提樹の葉の位置を」
ニロケラスに迫るスレイプニール
その手にはナイフ
弱点が小さいので銃火器では外す可能性が高い。
バリアに近づかなければならない分、リスクはあるが度重なる観測ラジコンで大まかな発生エリアは割れている。
そして、あいつは眼が見えない・・・・
オレンジのスレイプニールがニロケラスにナイフを突き立てる。
『貴様ぁ・・・・・一体何処から・・・・・!?』
そりゃ分らんだろうさ、その為にお前の目は完全に潰しているんだ。
ジークフリートと同じ投槍じゃなくて悪いがな・・・・
『お前のバリアに穴があるのは分かっていた。たとえば接地面、そこまで覆ってしまえばお前は立つことすらできない。その鎧は強すぎるが故に全身を覆い尽くす事が出来ない。そして、外部カメラのデータ受信部、バリアの隙間の一つだ。』
そう、強力すぎるが故に穴がある。それは普段は気が付かないだろうが、想定外の状況下や特定の条件下では致命的な事になる。
どんなにテストや計算を繰り返しても、初期ロットには不良品やバグが出るのは機械製品以外でも常識だろうが・・・・・
そして、その穴を探す方法はいくらでもあるんだよ。
プランAの様に海に突き落として調べればいい。これなら確実な弱点が分かる上に海水で動きを妨げる効果も狙える。
それに狙撃しやすいし、囮からお前を引き離す事で囮の人間の安全も確保できる。
ネックなのは海面より上にバリアの穴があった場合なんかだろう・・・
夜間のラジコンがばら撒いたのは一種のペンキだ。
冷戦の遺物である不可視化インク
その研究は情報技術が進んだ今でも商業目的で行われている。
無色透明なインクはある波長の光などで可視化できる。
お前は自分の弱点にマーキングされているのに気が付かず、ノコノコとここまでおびき出された訳だ。
プランBでは囮の安全面と事前情報の不確実性ってのがあるからな・・・・
数回に分けての観測で可能性はかなり低いとは思っていたし、さっき追いついたときにもユミルで確認してはいたんだけど最悪のケースだってあり得る。
とにかく何とかなったな・・・・
界塚弟がナイフで抉り装甲の穴を広げる。
ゴン
その穴にアサルトライフルの銃口を突っ込み
『友達の分だ!』
やっぱり、クラスメイトの事、気にしていたんだな・・・・
ガガガガガガガガッ!
ゼロ距離で放たれた鉛玉がニロケラスを襲う。
ここまでは伊奈帆の予想通りだった。
バシュウウゥゥゥ
弾薬を打ち切っての沈黙のあと肩から光を放ちニロケラスが一瞬だけ黒くなった。
あれが界塚弟の言っていたバリアの内側って事か?
って事はバリアが解けたって事になるが
『舐めるな!』
フィィィィィィン
再度、黒くなりバリアを展開するニロケラス
そしてその直前に機体から小さいものが2つ飛び出しているのが見えた。
『くっ!』
直前で界塚弟はニロケラスの動きに気付き距離をとったが
ギュン!
ついさっきまでいた所をニロケラスの左腕が薙いでいく。
『破壊しきれなかったか・・・・』
先程まで無敵だった鉄壁さん(笑)にダメージは与えたが、バリアを停止させる事は出来なかった。だが、右腕はどうやら動かないようだし他の部位にも損傷が出てるようだ。
『くそ!右腕モーターか・・・』
外部スピーカーがオンになっているのにそんなこと言うと、自分は馬鹿ですって吹聴しているようなものだぞ、火星騎士
アルドノア・ドライブそのものに対抗することなど出来ない筈だと思ったんだろう?それが、この場所に来てから命を脅かす攻撃をしてきたんだ。焦りもするか・・・・・
でも、まだ絶望に足りない。
俺は新たに射出された外部カメラを狙う。
ドン!
先ほどの界塚弟の攻撃でメインのアルドノア・ドライブは破壊できたのかもしれないし、バリアの発生器が壊れたのかもしれない。
でも戦場で使う以上、不測の事態を想定するものだ。
ヴァースの戦力の最大の弱点は実戦経験が無い事だ。それは俺たちの様なパイロットは同じ条件なのかもしれないが、技術面では違う。
確かに進んだ技術を持ってはいるが、成熟していない。30年前に生まれたばかりで、ヘブンズ・フォールの時の実戦経験しかない技術局にはテストでは分からない現場でしか起こらないトラブルを知らない。
破壊された際のサブドライブもしくは予備の発生器に切り替わったのかもしれない。
でもあくまで予備だ。だから外部カメラも二つだけなのかもしれない。
これが、地球の各国だったらどうだろうか?
2度の世界大戦と冷戦、各地で今も存在する内戦や軍事介入
火星とは気象条件から始まり、ありとあらゆる面で状況が違う。だからこそ、その地域特色に合わせて、または相手に応じて、そして作戦内容によって同じ機体を改良に改良を重ねたものが戦場に残っていく。
そして、使い手もそれに順応した者が生き残る可能性を得るのが戦場だ。
それなのにこいつらは机上の理論と火星でのテストをしてはいるが地球上でのテストもなしに実戦投入している。そうなれば、意図していない状況において不具合やトラブルくらいあっても何の不思議もない。
アルドノア・・・・確かに脅威の技術力だとは思うが最強無敵の技術ではない。ましてや絶対無敵でも熱血最強でもない。あれは地球の小学校6年生限定だからね。
そして、仮想敵の設定を甘く見積もり過ぎだ。自分も同じ地球出身のくせに、劣等人種とか言って見下しているから、こうなるんだよ。
アルドノアがあるから技術上の無理が効くだけで、作り出す人間は同じなんだから、同じものを作られるくらいの想定はすべきなんだ。
この程度の弱点に俺と界塚弟だけが気が付いたなんてそんなご都合主義ないと思う。俺たちのように時間さえあれば、由比ヶ浜は・・・・まぁ無理にしても、雪ノ下なら気が付くだろう。
「界塚弟!仕上げに入るぞ!」
『了解!』
俺はスレイプニールはスタビライザーを展開してトレーラーの位置まで距離を取る。
網文の撃った弾丸が次々とニロケラスの足元へ着弾して、地面を抉る。
『っ!?』
事ここに至ってようやく状況を理解したらしいが、もう遅い。
これで回復した視界も完全に奪われた。外を見たければその鎧を脱ぐ他無い。
その度胸があればな・・・・・
それにしても網文の射撃能力すげぇ・・・・
この場所の要所を連続でピンポイントかよ。
そう言うと鞠戸大尉にまた特別メニューで補習やらされるからやめとこ・・・・
『おおおおおおおぉぉぉぉ!?』
足場を壊されて海に落ちるニロケラス
この場所は公園内でも桟橋の様に海に突き出ている。足場にダメージを受ければカタフラクトの重量を支えきれない。
とは言っても海底からの高さはせいぜい5~6mと言ったところだから、脚部にダメージを与えることは無い。
俺は海に落ちたのを確認して、トレーラーから界塚弟の乗っているスレイプニールと一緒に載せていたドラム缶状のモノを取り出しニロケラスの周囲にばら撒く
『・・・水が・・・・・・・』
あのバリアは相手が流体でも機能するみたいで、ものすごい勢いで水が消えていく。
『おのれぇ!』
もう、声だけでも精神状態がやばいな・・・あいつ
『このネズミ風情がぁぁぁ!』
界塚弟に迫ろうと足を前に出すニロケラス
それと同時に水柱が上がる。
先ほど、ばら撒いたのは爆雷
本来は潜水艦などを攻撃するための水雷の一種で現在では浅海面で威嚇程度でしか使われないが、今回は輸送時の誤作動を起こさない様に水を感知して初めて信管が有効化されるようにして、重さも調整して海底で爆発するように界塚准尉に設定してもらった。
足元はバリアがない。踏めばバリアで消す事も出来ずに爆発する。
もっとも、それで破壊できるとは思っていない。
本来ならば、ほぼ唯一の弱点だ。地雷対策くらいはしているだろう・・・・
でも土台となる足場はそうはいかない。
軍事施設の港湾部ならともかく、たかが公園の一区画の海底だ。整備されているとは言え、そこまで頑丈ではないしコンクリートもそこまで厚くはない。
数個の爆雷で足場を砕いて、元の砂地が顔を出させるのはそう難しい事じゃない。
こうなれば被弾と事故が怖いチキンなお前はもう動けない。
衝撃であいつの足元にあたる海底が吹き飛ぶ。
足元の地形が急に変われば、いくら性能の高いバランサーを積んだところで海中で直立するのは難しいだろう。それにコンクリートと違い、砂地の場所も出ているはずだ。接地圧が違うし、摩擦係数も違う。それと砂地は爆発の振動で半流体と化す・・・
機体のバランスを取るための数値がリアルタイムで変動すれば、どんなに計算能力が高くても対応は難しい。
さらに、
ドン!
これで予備の外部カメラも2機も破壊されれば、お前は今度こそ視界を確保できない。
爆雷の所為で前進も後退も出来ない状況で視界も確保できない・・・・いや視界を確保する方法はあるがそれをすれば集中砲火に晒される。
まぁ、俺としては直立してることも許す気はないけどな。
ガシュ!
ライフルのマガジンを外し、新しいマガジンに交換する。
ガチン!
銃身に新しい弾を送り込み、ニロケラスの足元に狙いを定める。
ガガガガッ!ガガガガッ!
4発づつ足元を撃つ。
ドドドドン! ドドドドン!
着弾からタイムラグをもって小さな破裂音が響く。
弾頭は炸薬の入っているHE弾でも、金属の塊であるAP弾でも無い。
APHE弾・・・・・徹甲榴弾と呼ばれるものだ。
着弾貫徹後に炸裂するこの弾頭でニロケラスの足場を砕く。
ガガガガガガガガッ!
界塚弟もAPHE弾に切り替えて銃撃を始める。一部は機雷に当たり誘爆して次々に水柱が上がる。
直立では耐え切れないくらいに足場が崩れたのだろうか?ニロケラスの右足が後ろに動く。
それで新たに機雷を踏んだのか大きな水柱が上がる。
もう、持ちこたえられないだろうな。
そんな事を考えながら銃身が熱を持ち始めているが構わず撃ち続ける。
銃火器なんてものは撃てて当たれば良いんだ。
『くっ、くそおおおおおぉぉぉぉぉぉ!』
遂に海に全面から倒れこむニロケラス
倒れるのと同時にさっき界塚弟が一撃くれてた時と同じ現象が起きる。
バシュウウゥゥゥ
水が吸い込まれなくなった。
あれだけの機能だ。使っている間はスラスターは干渉して使えない以上、倒れた時も発動していればそれこそ重力の井戸に引かれてしまう。
それを避けるための安全装置・・・・接地面というよりは倒れた時には使えない。
接地面で言えば今なら後ろだけとか前だけとかで使えても可笑しくないが、それが出来ない・・・・・・ヴァースでもまだ制御しきれてない技術と考える方が適切なんだろう。
ガガガガガガガガッ!
倒れたニロケラスへ銃撃が降り注ぐ
撃ち尽くしたマガジンを排出して新しいものを装填しようと操作をする。
ニロケラスに次々と撃ち込まれる弾丸で外装はボコボコになって沈黙している。
このまま、撃ち続ければパイロットを殺す事は難しくない。
『あの・・・・伊奈帆さん・・・・・八幡さん・・・・・・』
お姫様からの通信は小さな声だった・・・・だから銃撃を続ける界塚弟には聞こえて、マガジン交換中の俺にだけ聞こえたのかもしれない。
サブモニターが映す周囲の映像にはお姫様が映っている・・・・・。
まったく・・・・なんて顔してんだか・・・・・
大方の機能は停止していると思われるが、こいつはセラムの正体を知ってしまった。
さっきの動揺した様子から見ても暗殺派の人間だろう・・・・殺さなければ後で刺客を送り込まれることになる。
それは理解しているんだけどな・・・・・何なんだ?この感じは?
「・・・・・っ~あぁ、くそ!」
界塚弟にあれだけ言っておきながら俺も甘いな・・・・
マガジン交換の終わったライフルをニロケラスの関節部分に向けて撃つ。
機体の四肢、特に脚部が破壊されたのを確認するしたところで俺はライフルを収め、銃撃を続けている界塚弟のライフルを手で制するように押さえる。
「接触回線オープン。界塚弟、あまりやり過ぎるな」
『先輩?どうしてです!?』
その声は、少なからず怒気を感じた。
普段から感情が外に出さない奴だが、姉である界塚准尉には何となく分かるらしい。そうでない俺が分るんだから涼しい顔して内心はキレてた訳か・・・・
まぁ・・・・・気持ちはわかるが・・・・・
「目的は対象を行動不能にする事だ。それに機体がある程度の原形を留めていれば回収隊を組織せざる負えない。機密保持のためにな」
「それにこいつには、本隊に戻ってアルドノアがあっても勝てませんでした。って泣きっ面で報告してもらう」
あとでクラフトマンとアリアーシュが五月蠅そうだな・・・・
まぁ、生かしておくメリットもなくは無い。アルドノアがあっても地球側に負けると認識させるだけでも、この侵略の足は鈍る。暗殺派の追撃だって返り討ちの可能性が出てくれば二の足を踏むだろう。その間に地球連合本部まで駆け抜ければいい。そして、休戦交渉の際には血を流さなかった事は有効なカードにもなるかもしれない。
・・・・・いや、言い訳だ・・・・・きっと俺の覚悟が足りなかっただけだ。
「弄んだ相手に情けをかけられるなんて、騎士様にはこれ以上ない恥辱だろうさ」
かといって、自死を選べるほどの度胸は無いだろう・・・・
『・・・・・・・分かりました』
不機嫌ですって声色に書いてあるな・・・・
実際、俺も殺しちまった方が良いと理解はしているんだけどな。
『ちょっと!このくそゾンビ!何で殺さないのよ!?』
あぁもう五月蠅いなぁ・・・・・コイツ殺して戦争終わるんなら、この訳の分からん感覚なんて無視してでも殺してるよ!
「界塚弟、外部回線をパッシブオンリーに切り替えろ」
『?・・・・了解・・・・パッシブにしましたよ先輩。それで何です?』
「今回の戦闘データを消去しろ」
『・・・・それはセラムさんの正体がって事ですか?』
「分かってるじゃないか」
連合でも敗走続きの相手を仕留めたんだからそのデータを必ず見るだろう。
そのデータにお姫様の正体暴露なんて残しておく訳にいかない。
「正体部分を削除したデータを俺の方で用意する。消去の手順は」
『知ってます。昔、ユキ姉が言ってましたから』
何教えてんだよ、准尉・・・・・きっと軍内部で自分のミスを隠す裏ワザみたいに代々伝わっているんだろうなぁ・・・・作戦時間に遅刻したり遅刻したり遅刻したり
いや、ダメだろそれ・・・・・あの私生活ポンコツブラコンは・・・・・
『みんな、無事?』
『ユキさん!』
通信回線を通常モードに戻すと海上の揚陸艇からの通信が入る。
海上からのミサイルはやっぱり救助隊だったか・・・・・これなら避難民連れて基地までハイキングしなくて済むな。
『全員、被害状況を報告!それと死んでるやつは返事しろ!』
鞠戸大尉、古典的な無茶振りですね。
『こちら界塚伊奈帆、損傷はありません』
『こちら網文、問題ありません!』
『こちらクラフトマン、被弾ゼロです!』
よくいうよ・・・・・スカイキャリアだっけか?それに攻撃しようとした時はどうしようかと思ったぜ。
「はぁ・・・・・比企谷、腐ってます」
『『『おい!』』』
『先輩、ベタですね』
わざわざ、みんなでつっこみ ご苦労さん。
結果的に殺さなかっただけでスレイプニールを動かしている間、自分の中に殺意がなかったかと言えば嘘になるし、それによって引き金を引いた。
それなのに殺す事が出来なかった。
「・・・・ほんと、何なんだよこれ・・・・・」
自分の取った行動を自分自身が否定している感覚
俺の理性を止めるのは・・・・感情?
・・・まさかな・・・・・・どうせ殺す事への心理的なストッパーがかかったんだろ・・・
『揚陸艇を岸につけます。合流ポイントは戦術データリンクを参照してください。』
『了解です。民間人を回収の後に合流ポイントへ向かいます』
「んじゃ、俺はアリアーシュを回収するから」
未だに何を隠してるか分からんし、お姫様と一緒にしない方が良いだろう。
それに、なんかお姫様を避けたい気分。
『くそゾンビはお断りよ!』
『だそうですよ。先輩』
案の定かよ・・・・そんなに殺したいの?
まぁ、殺したいんだろうな・・・・・・
「はぁ・・・・じゃあ界塚弟はアリアーシュの回収を頼む。俺はもう片方の回収をするから」
『了解です』
「まったく、女の子を助けるのはリア充イケメンって決まってんじゃないの?」
「先輩じゃ美女と野獣・・・・・失礼、美女と喰種ですもんね』
「ほんとに失礼だな」
お姫様も言ってたけど気兼ねしなさすぎでしょ?もう少し俺に気を使って・・・・
界塚弟がアリアーシュを回収して移動を始めた段階で俺もトレーラーの前にスレイプニールを座らせる。
「そういう訳でエスコート役が醜いヨダカで悪いですが手に乗ってくれ」
『いえ、そんな事ないです。それとお気遣いありがとうございます』
いつの間にか変装し直しているお姫様は俺の機体の左手に乗る。
人員を乗せるための手すりを出すためにコンソールを操作しながら話を続ける。
「気にすんな、こんな事そんな大したことじゃない」
『いえ、八幡さんと伊奈帆さんが火星の民を殺さずにいてくれた事です』
自分の右手がピクッと反応したのがわかる。
「何の事だか・・・・あいつはこれから自分の上司に殺されると思うぞ」
『それでも、この地に火星の民の血が流れなかったことには大きな意義があります』
「はぁ・・・・・・買いかぶりが過ぎるぞ」
『でも!』
「揺れるぞ。喋ってると舌噛むからな」
俺は機体を合流ポイントに向かって歩かせる。
『八幡さっ!・・・・・・』
お姫様が言おうとした何かはスレイプニールの足音にかき消され、お姫様は口元を抑えてプルプルしている。あれって・・・・案の定、舌噛んだ?
外部スピーカーとインカムを切り呟く
「火星のタコの次は木星のトカゲとか侵略してこないよな?」
そんなボソンジャンプ的な展開要りませんからね。
まして、北辰とか来たら即無条件降伏だからな。
「あ~もう仕事したくないなぁ・・・・・」
まぁ無理なんだろ?誰かがゴキブリに言ってたもん。
火星に神は居ないって・・・・それじゃ社畜の俺にも当然、神は居ないんだろ?
比企谷八幡の搭乗機
戦術カタフラクト
KG-6 Type-N 夜間戦闘型スレイプニール(試作レーダーシステム<ミミル>搭載)
KG-6 スレイプニールの夜間戦闘用に塗装を黒く塗られた機体
電波吸収体を含んだ塗料によって一般的な期待に比べて15%のステルス性が向上している。
黒くステルス性が向上している事からヨタカ、ナイトホーク、ナハトと呼ばれることもある。
夜間の無視界戦闘を想定されているので元々がレーダー系統を強化した機体だったが、八幡の機体は試作レーダーシステム<ミミル>を搭載したはいいが使いこなせなかった事と、スレイプニールの後継機であるアレイオンが開発された事で倉庫で埃を被っていたものを鞠戸大尉が機体補充の際に新芦原高校に持ってきた。
試作レーダーシステム<ミミル>
火星からの亡命者から齎された技術によって作られたレーダー強化パッケージ
ハード面であるセンサー強化によってデータの取得能力は高いがカタフラクトのOSとCPUでは処理速度が足りず、一部では今でもソフト面に関しての研究が続いていている。