この短編で伝えたいこと、それは夏は冷房をつけようということです

本小説は小説家になろう、カクヨム様の方でも投稿しています。

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第1話

 誰が聞いているわけでもないが、それでも敢えて質問の体でいこうと思う。拝啓皆々様、おたくらは幽霊というものを知っているだろうか。

 おばけ、ゴースト、お盆に帰ってくる一同。枕元に佇むあいつだったり、這い寄る混沌だったり。

 ああ、多分最後のは違うけどまあ似たようなもんでしょう。大事なのは存在なんてしない、真っ白で透明で決して触れられない、人を脅かすだけの怪談話の住人だという点だけだ。

 存在しないもの。非実在な存在。いたらいたで家賃が下がる、或いはいなくとも噂と家賃が下がる懐に困った学生や社会人にとってある意味救いとも言えるべき存在。……なーんか違う気がする。

 

 まあいいや。そんなくだらない独り言……メンタルトークなのに独り言? 

 そんなまあいいやなんてまあいいや。ともかくそういうのは置いておいて、実際それが存在しているのだろうか。そんな問いの答えを、まさに今俺は手に入れてしまっているわけで。

 

「なーんかいるんだよなぁ……」

 

 いるんだよなこれが。嘘偽りでも夢でもなく、夏の夜の幻覚ですらない本物が。目の前に。

 真っ白な肌にこれまた真っ白でロングなワンピース。見たことあるようなないような、けれど確かに美少女な幽霊の彼女。ちなみに髪は黒、そこは白じゃないんだね。

 まあそんなぶっちゃけ○子的な幽霊さんが俺の部屋に現れたわけだ。それも何故か俺の臍と腿の中間地点──我が聖剣がちょうど重なり合っちゃうくらいの場所に、つまりは女の子座りで。

 

「……ふむ。感触はなしと。残念」

 

 目を開ければそこにはおばけがっ! なんてこの十七年の人生で一度しかない珍事。

 ましてや相手は美少女。ならば揉むしかないと思い、まだ眠気の残っている目をぱっちりと開眼し、真っ直ぐに手を伸ばしてみるも結果は文字通りの空振り。その程良い大きさの、この世の幸せを詰めたかのようなおっぱいは揉めることな通り過ぎる。

 直後、恥ずかしそうに胸を隠しながら、ぺしぺしとその白く綺麗な手で顔を叩かれてもすり抜けるだけなのだ。やはり古今東西、幽霊というのは触れ合えず分かち合えない宿命なのだろう。

 

 まあ分かってはいたことだ。俺の人生に女の胸を揉むなんて機会、ありはしないのだと。

 だって俺のお腰のお股の、チ○ポの上に美少女が乗っているのに体重のたの字も快感のかの字も感じないんだもん。如何に女っ気のない青春を送っている俺だとしても、これが童貞卒業って言われたら真っ向から否定するねこれは。

 

 ……いかんいかん。そろそろ真剣に考えよう。夏の暑さに頭をまいらせてる場合じゃない。何せこの身に呪いが降りかかろうとしている、まさにその瞬間なんだもの。

 ああでも、本当にあるかもしれないけどないかもしれない怖い話とかでこういう状況見たことあるけどさ。ぶっちゃけこの時点で詰み……CM三十秒前ってところじゃないかな。タリモさんも話し始めようと待ちわびているよ。

 

「…………」

「…………何か言ってくれると……ああはい無理ですよね、分かりますよ」

 

 その黒い瞳で俺を吸い込もうとじっと見つめて……ああいや、怒りを込めて睨んでくる幽霊。

 だがあどけなさに、被害者である俺はホラーのほの字もイメージできず。もう幽霊じゃなくておばけちゃんと呼んでしまおうとこの汚れのないハートは決意をそれはそれはと固めに固めてアイスが如く。

 

 ……その名をおばけちゃん。うーむ、いやでも何か違う気がするなぁ。

 もっとこう愛らしく、これから一世紀弱にも渡る圧倒的マスコット力で人を虜に出来るアイドルネームを提供してあげたい。何故ならこの未知との遭遇と窓から僅かに吹いてくれる熱風で、俺の目がそれはもうばっちしと覚めてしまったからさ。

 バケちゃん、マイハニー、ホウセイ、マイフレンド……違うか。まあおばけちゃん(仮)でいいだろう。こういうのは気取った創作者が真面目に考えた名前(笑)よりも安直な(仮)が付いている時の方が馴染まれたりするからな。知らんけど。

 

 しかし困った。お見合いやら相撲よろしく、いつまでも見合ったままじゃ何も始まらない。

 呪う意志はないのかな。でも乗ろうとする意志があるってことは何かしたいってことだよな。

 だけど残念、この場に行司がいるわけでもないんだ。はっけよい残ったのコールってのは、自分の力でしなきゃならないのが辛いところよ。

 

「あー、んー、しりとりでもする?」

 

 その場凌ぎで言ってみて、そして初めて後悔する。しりとりって話せなきゃ出来ないじゃんと。

 ほら、おばけちゃん(仮)も困ってそうな顔しちゃったじゃん。可愛いからいいけどね。

 でもまああるよねそういうこと。だって人間、生きていようが死んでいようが完璧なんてありえないもんね。だから俺は悪くない。だけれど世界が悪いわけでもなく、じゃあ一体誰が悪なのか。

 しかしどうしようか。アイコンタクトだけで可能な他人と交流出来るレクリエーションなんてすぐにひゃ思いつかない……おっ?

 

『りんご』

「ワンダホウ。さてはやる気満々だったのか。じゃあ、ゴリラで」

 

 なんとおばけちゃん(仮)、どこからともなくスケッチブックを取り出して用意スタート。

 真ん中に大きく一言ではなく、あくまで左上に小さく可愛らしい文字で。

 まさか正解だったとは思いもせず。しかしりんごとは、なんともまあ王道的で幽霊的でない。案外最近死んだのかな?

 だがまあ彼女がお望みのワードダンス。死んでいようと美少女からのお誘いに、健全健常なDKらしい前向きさで手の代わりに言葉で彼女の誘いに応じていく。

 

 ラッパにパンツにつみきに金魚、その他いろいろエトセトラetc.……。

 果たして何分しりとりしていたのか。そもそも俺は真夜中何時に起きてしまい、この美少女おばけちゃん(仮)……ああもうめんどい! おばけちゃんはおばけちゃん! それで決定!

 ともかくおばけちゃんは何時からこの部屋にいたのか。というのかそもそも君の名前は何なのか。

 どこまでいこうが全てが謎のまま。それでも言葉のダンスは続いていき、いつしか思考が舞踏は武闘へと切り替わっていく。

 

「ルール」

『ルビー』

「ビール」

『留守番電話』

「ぅワッフル♪」

『……るつぼ!』

「ボール」

『……っ!!』

 

 我が必殺のる攻めを食らい、バシバシとそのスケッチブックで俺を叩いてくるおばけちゃん。

 まったく痛くないのは幸運か不幸か。少なくとも、感触があれば思い出にはなっただろう。

 しかし恐ろしい。友達すらなくしたこの悪魔の戦法は魑魅魍魎やら悪鬼羅刹の類にすら効いてしまうのか。これはネットのオカルト系のどこかに伝えていかねばならないだろう。

 

 ま、ともあれ流石にもう眠い。今が何時かは知らないが、流石にそろそろお開きか。

 年中有休な幽霊おばけちゃんと違って、健全な学生であるこの俺様は明日も学校なのだ。

 あと単純に喉渇いた。流石に暑い。いつの間にか扇風機くんも止まっちまっていたし、道理で熱気むんむんなわけだよ。

 

「そんなわけで俺の勝ち。なんで負けたか、成仏までに考えておいてね」

 

 頬を膨らませるおばけちゃんを貫通し、どっこいせと体を起こそうとして気付いてしまう。

 もしや重なっている間は一心同体。それはつまり俺は美少女の死人であり、彼女は男子高校生で生人ということ……!?

 ……阿呆らしい。これは本格的に頭が茹だっていそうだ。けれど大丈夫、俺は暑さに強い都会育ちな益荒男さ☆

 

 そういうわけでおばけちゃんを突き抜け、扇風機を付け直し。

 ぶらりぶらりと熱気の籠もる自室を出て、真っ暗闇で静寂なリビングで水分を摂り首を冷やす。

 あー気持ちええー。生き返るわー。首を冷やしてるはずなのに五臓六腑に染み渡るわぁ。

 

「……で、君もくるんだね。びっくり」

 

 がりがりぼりぼりと、誰もいないので音を一切自省せず。

 口内で氷を噛み砕きながら目の前にいる、きょろきょろと室内を見回している幽霊ことおばけちゃんをぼんやりと眺めてみる。

 この何の変哲もない一軒家がこんなにも珍しいのか。ああ、もしかして令和を知らない昭和の霊だったり? 

 まあ答えは結局謎のまま。あのスケッチブックで答えてくれれば楽なのにと思いつつも、秘密は秘密だから盛り上がると思っている自分もいるわけで。

 分かったことはただ一つ。このおばけちゃんが俺の部屋に縛られた霊ではないこと、それだけだ。

 

「お前に実体があれば、えっちなことが出来るのになぁ。ふわぁ……」

 

 そんなくだらないことを零しつつ、そしてそれを聞いたおばけちゃんの良い反応を眺めつつ。

 再び巡ってきた眠気によって俺の口からあくびが一つ、そしてもう一つ。そして追加で更に一つと連続で。

 リビングにあるデジタル時計が示すのは夜の一時と少し。明日であれば主人公に後ろから刺されて次回へともつれ込んだ今期の最推しアニメに釘付けになっている頃だろうが、生憎今日は目を悪くしてまで観る番組はない。というかあったら霊よりそっちが重要だ。

 そんなわけで、そろそろ眠ってしまおうとリビングを立ち去り、そして途中で用を足すためおトイレへ。

 

「あ、付いてくる? ああ、そう」

 

 面白半分で尋ねてみれば、両の手で目を塞ぎながらぶんぶんと首を横に振ってくれるおばけちゃんが。

 多分昭和でも令和でもセクハラで牢にぶち込まれる悪行だろうが、残念ながら死人に口はないのだ。

 でもねおばけちゃん? 君も中々にあれだよ? だってお約束のとおり、その塞いだ目は隙間だらけの指の間で輝いているのだから。

 

 まあ入ってこないのには一安心しつつ。

 無事に長々と用を足し、ふらりふらりと用を足して再び無駄に暑いだけの我が部屋へ。

 一応扇風機でさっきよりはまし……まし? って感じではあるのだが、まあやっぱり暑いねこの部屋は。

 まあいいや。寝れば明日は来るでしょう。そんなわけで、煎餅レベルに薄っぺらい布団へダイブ。

 

「んじゃお休みーおばけちゃんぅ……。愛してるぅ……ぐうぅ……」

 

 枕を抱き、一夜の幻想に別れを告げてそのまま意識を暗闇へと落としていく。

 その最中、最後に何故か淡々と困っているようなおばけちゃんが見えたような気がした。

 

 

 

 

 

 そして明朝。目覚ましの音で起きた俺は、いつもとまるで違う起床具合に首を傾げてしまう。

 なんというか体が軽い。それに夏の暑さの不快さがどこにもなく、むしろ涼しげな空気が絶妙に起床を爽やかにしてくれている。

 しかしなんでこんなに涼しいんだこの部屋は。今日から十一月というわけでもなし、むしろ今日も変わらず真夏の晴天だったはず──。

 

「……んん、んん?」

 

 そして気付く。枕元にはエアコンのリモコンが、そして窓はぴっちりと閉じていることに。

 はて。エアコンなんて付けた覚えはないのだが。もしやマイマザー……いやいや、あの人一度寝たら朝まで起きないから候補にすらあがらんて。

 

 確か昨日は夜に起きちゃってぇ。

 そんで暑くて一回水分補給してぇ。

 そしてまた布団にダイブして……あっ。

 

 そうして俺は思い出す。昨日の夜、この家には家族と泥棒以外に容疑者がいたことに。

 

「……あれ、夢とか妄想じゃなかったのか」

 

 妙な納得をしつつ、それならそれでセクハラしちゃったから祟られやしないだろうかと。

 冷房の風以上の寒気を抱きながら、辿り着いた答えについ微笑んでしまう。

 きっとあれはおばけちゃんではなく、真夏なのに扇風機で頑張ろうとしていた俺を止めてくれた冷房の神様だったのだろう。

 

 ありがとうおばけちゃん。グッバイおばけちゃん。結局おばけちゃんはおばけちゃん。

 今度感謝の気持ちを込めてエアコンを掃除しようと心で決めつつ、冷房を消して窓を開け、そして爽快に立ち上がりながら布団を畳んでいく。

 さあ今日も一日頑張ろう。このうだるような暑さに負けず、しっかりと自分を管理しながら──!!

 

「もう三滝(みたき)くん? 夜はちゃんと冷房付けなきゃ駄目だよ?」

 

 で、学校に行ったら何故か同じクラスの涼川(すずかわ)さんに怒られてしまったのだが。

 何故? というか、なんで冷房付けてなかったの知っているの? ……どうして?




ラブコメとして連載するかもしれないものですが、せっかく夏なので短編としてもどうぞ。
この短編を読んでみんなも冷房、付けようね!

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