イナズマイレブン1・2・3!! 雷電真太郎伝説 作:睾丸Jリーグ
「あのぅ……」
「む? どうした、目金」
理解らせの後遺症なのか、怯えが残った様子でおずおずと話しかけてくる目金に、作戦が成功してご機嫌な様子の雷電が朗らかに返答した。
「雷電さんのあの四股踏みって、もう必殺技ってことにしていいんじゃ……」
「む、そうか?」
「だって、風丸くんどころか、帝国のFWまで止めちゃうなんて、あんなのスゴすぎますよ!!」
「む……」
(普通に身体能力の差なんだけどな……)
釈然としない様子の雷電をよそに、目金のボルテージがどんどん上昇してくる。
「なので、必殺技の名前があった方がいいんじゃないかと思って!…名付けて【しこふみ】! どうですか!?」
「…そのままじゃないか」
グレネードショットの命名を褒められたことに生命線を見出したのか、いきなり必殺技(ということにされた四股踏み)の名前を考案しようとしてくる目金に、雷電は呆れたように言った。
「だって、それ以外に言いようがないじゃないですかぁっ! 普通に四股踏んでるようにしか見えないですし!」
「……」
(だからそうなんだってば……)
渋い表情を浮かべる雷電に、大人と子供ほどの体格差がある目金はぴょんぴょん飛び跳ねてアピールしてくる。
「そうと決まれば、早速練習しましょうよ!」
「む、練習だと? 別に成功率が低いわけでは…」
「そうじゃなくて! 叫ぶ練習ですよ!」
「…は?」
「必殺技を使うなら、その前に技名を宣告しなきゃいけないんです! これは公式に定められたルールなんですよ!?」
「……」
(そんなバカバカしいルールが、本当に…?)
一気に中二病チックになった超次元サッカーのルールに、思わず雷電は呆然とするが、
それにも構わず目金は早速
「ほら、言ってください!『うおおおっ!【しこふみ】ィ!!!!』って!」
「…は、恥ずかしすぎるッ!?!?」
あまりのことに、雷電は冷や汗をダラダラと流し、顔を青ざめさせて太い二の腕をさすった。
そんなやり取りもありつつ。
その日、正ゴールキーパーが交代するという衝撃の事態に、
雷門イレブンが動揺のあまり練習にならなくなったところで、その日はお開きになった。
§§§
夕方、人気のなくなった河川敷のグラウンドに、誰かがボールを蹴る音だけが響き渡る。
「───うおおおっ!!!!」
円堂のグレネードショットを難なく習得した染岡は、しかし満足することなく1人でシュート練習を繰り返していた。
(所詮は、ずっとキーパーだった円堂が、あんなおふざけみたいな練習で習得できるような技だ。
……こんなんじゃ足りねぇ!)
雷門イレブンに、そして染岡にとって念願の必殺シュートではあったが。
全国屈指のストライカーである豪炎寺のシュートと比べれば、些か見劣りするものでしかなかった。
「くっ……」
焦燥感から、深くソリコミを入れた染岡の額に汗が浮かぶ。
「───お前、まだやってたのか!」
そこに、円堂の声がかかった。
「!! 円堂、いつからそこに……!」
思わぬ人物の登場に集中力を削がれた染岡は、円堂と2人で土手に寝そべって、オレンジ色に染まりつつある夕暮れの空を眺めることにした。
「実は、走り込みの途中で通りかかった時から気にはしてたんだけどな。
30分くらいして通ったらまだやってるから、流石に声かけようと思ってさ!」
「……練習終わりに走り込みしてるお前にだけは、言われたくねえよ」
絞り出すような染岡の声にも構わず、円堂は心配するように言った。
「なあ、染岡。───お前、豪炎寺になろうとしてないか?」
「ッ!?」
「確かにアイツはすっげえストライカーだけどさ。別にアイツのやり方だけが正解じゃないんだ!」
「───」
お前には、お前のサッカーがあるだろ?と。
寝っ転がったまま軽い調子で言ってくる円堂に、思わず息が詰まる。
「……でも、チームのヤツらはずっと豪炎寺の影を追ってる。1年連中なんかは特にそうだ。
……"雷門の点取り屋"の俺が、みんなに安心してボールを任せてもらえるストライカーにならなきゃいけねぇんだよッ!!!」
染岡は、帝国戦からずっと溜め込んでいた鬱憤を吐き出すようにして叫んだ。
「できるさ、お前なら。だって、"雷門の点取り屋"なんだろ?」
可笑しそうに笑いながら言ってくる円堂に、染岡は肩の力が抜けたのかスッキリした表情を見せる。
「───ああ、任せとけ!」
「おう!」
日没間近の紅く染まるグラウンドに、拳を突き合わせる2人の長い影が映し出される。
「なあ、円堂。このグレネードショットには、まだまだ先があるような気がするんだ。俺が思うに───」
それからというもの、完全に日が暮れて互いの顔が見えなくなるまで、2人は必殺技の特訓を続けたのだった。
§§§
そして、次の日。
土曜日にもかかわらず、ただ2人河川敷グラウンドに集合した円堂と染岡は。
「やっぱり気合いが足りないんじゃないか? もっとこう、『うおおおーっ!!!』って感じでさ!」
「…そんなんで必殺技ができちまったら、サッカー界はもっと色んな技で溢れかえってるだろうよ」
更なる強力な必殺技を編み出すべく、互いに意見を交わしていた。
「……ほぉ。精が出るな、若人たち」
そこに、どこからか嗄れた声がかかる。
「えっと……おじさん、誰?」
恐る恐る返答した円堂に、ニット帽と丸眼鏡、そして恰幅のいい体格が特徴のその老人は笑いながら近付いてくる。
「ああ、すまないね。私は、この河川敷で子供たちにサッカーを教えている会田という者だよ。
"稲妻KFC"というのだが、聞いたことはないかね?」
「あーっ!!」
円堂が思わず声を上げる。
いつも、河川敷のグラウンドを貸してもらうにあたって。
KFCキャプテンの少女と交わす会話の中でもよく話題にのぼる、彼女の率いるチームの監督。
しかし、実際には目にしたことがなかった存在に、円堂は顔を輝かせた。
「すっげえ教えるのが上手なおじさんがいるって、まこが言ってた! おじさんがそうなの!?」
「…ほぉ、あの子がそんなことを? それは嬉しいことだね」
思わぬ所で耳にした教え子からの評価に、会田は顎の無精髭をさすりながら目を細めた。
「……じゃあ、そんなアンタに聞きたいことがある」
そこに、目をギラつかせた染岡が、静かに口を開く。
「俺たちは、この必殺シュートにまだ先があるんじゃないかと睨んでる。……アンタの目にはどう映る?」
そう言うと、染岡は眼前のゴールに向かってグレネードショットを打って見せた。
初めて成功させた時と同様、シュートの後には咆哮のような音がうっすらと聞こえる。
「…! その技は……」
「ッ!! おいおっさん、何か知ってやがんのか!?」
思わずといった様子で目を見開く会田に、手がかりの存在を感じ取った染岡はその厳つい顔を輝かせる。
「ああ、よーく知ってるとも。……そのシュートに足りないのは、素早い足の振りと身体の回転だ」
なにかを懐かしむように遠くを見つめながら、会田は面前の子供たちに言って聞かせる。
「それは、どういう……」
「まあ、見せた方が早いな。…ボールを借りるよ───【ドラゴンクラッシュ】」
後ろを振り向くほど身体を捩った会田が、老人とは思えないほど天高く足を振り上げると。
ボールには、グレネードショットと同じような青いエネルギーが集まってくる。
違いはといえば、その頭上に全身真っ青な龍が現れたことだ。
龍が猛々しく咆哮すると同時、素早いモーションで振り抜かれた会田の右足から、
極太の光線と化したシュートが龍を伴って飛翔する。
鋭くゴールネットに突き刺さったボールは、そのまましばらく回転した後、プスプスと黒煙を上げながら地面に落下した。
「───すっげえ!!!!!」
「おい!!! どうやるんだそれ!? 教えろ、おっさん!!!!」
途端に駆け寄ってくる2人に、会田は穏やかな笑みを浮かべてみせた。
「ほっほ。どちらの子も素養はあるが───特に向いているのは、ピンク頭の君だろうね」
「!! お、俺が……!」
円堂に励まされたとはいえ、未だ自身のアイデンティティを確立しきれていなかった染岡にとって。
この会田の言葉は、一筋の光明に等しかった。
「そうだとも。このシュートに必要なのは、無茶な体勢に耐えうる柔軟さと、足を素早く振り抜く強靭な筋肉だ。
……このドラゴンクラッシュは、君にふさわしい」
「お、おお……!!」
感動に打ち震える染岡は、そのまま会田が見せた通りにシュートを放とうとして───無茶な体勢に、そのままひっくり返った。
「うわあっ!?!?」
「……せっかちな子だな。このシュートを習得するには、もっと段階を踏む必要がある。
まずは回転しながらボールを蹴るところから───」
そうして、会田に付きっきりで指導を受けた染岡は。
「ゼッタイ、豪炎寺に、負ける訳にはいかないんだァーッ!!!!───【ドラゴンクラッシュ】ゥ!!!」
日が暮れる前には、グレネードショットよりも数段強力な必殺シュート、ドラゴンクラッシュを見事モノにしてみせたのだった。
そして、その様子をじっと見ていた円堂は。
「……オレも、何かしなくちゃ」
キーパーグローブを着けていない裸の拳を、ぐっと握りしめた。
後半唯一のデブ要素であり、ガチムチDFのくせにドラクラ使いのイナズマOBこと会田おじさん