イナズマイレブン1・2・3!! 雷電真太郎伝説 作:睾丸Jリーグ
「……く、くそッ!! …焦るな、まだ時間はある ───マーレマーレ、マレトマレ……!」
「───【ゴーストロック】」
「クソッ、またこれか…!」
動かない足と格闘する雷門イレブンに、彼らの間をすり抜けるようなドリブル。
何度も見た光景に、風丸は思わず歯噛みする。
しっかり発動した必殺タクティクスに調子を取り戻してきたのか、いつも通りの不気味な笑みを浮かべた幽谷が再びシュートモーションに入った。
「これで追加点だ───【ファントムシュート】ッ!!!」
分裂した光球が、ゆらりゆらりと不規則な軌道を描いて飛来してくる。
「む……」
(あの
見よう見まねで手刀の構えをとる。
そして、できるだけ多くの光球を巻き込める軌道でその右手を振り下ろし───
そのまま切り裂いた。
ドパッ!!!!!!
瞬間、空気が破裂するような音が響く。
破裂するような、というよりも、実際にボールが破裂していたのだが。
雷電の手刀は、偶然にも本物のシュートを真芯で捉えていた。
しかも振り抜いた腕の風圧だけで周囲のダミーをかき消すおまけ付きである。
そして、元より幻惑する以外にさしたる馬力が込められていたわけでもなかったファントムシュートのエネルギーを難なく粉砕すると。
ただ指を揃えただけにしか見えない雷電の巨大な手刀は、頑丈なはずのボール表皮を容易に突き破り、跡形もなく打ち砕いてしまった。
「は……?」
グラウンドのあちこちから、思わずといった様子で声が漏れる。
超次元サッカーの試合の中で、試合球は様々なエネルギーの発生源としてダメージに晒され続けることになる。
そんな状況下でも、傷ひとつなく品質を保てるように設計された特製のサッカーボール。
それが、あっさり木っ端微塵になってしまった。
それも、ただの手刀によって。
雷電自身のメガトン級な体重で踏みつけたということならまだしも、なんの必殺技でもない単なるチョップ1発でボールを破壊してのけた。
これはいくらなんでも常識外れが過ぎる。
ミドルシュートでゴールの枠を歪めたあたりから何かがおかしいとは思っていたが、ここまでとは誰も思っていなかった。
そんなわけで、
そして、もうそんな空気にも慣れっこの雷電は、何事もなかったかのように口を開く。
「……審判。試合球の予備があったはずなのだが…」
「っあ、は、はいッ! す、すぐにお持ちします…!」
露骨に肩を跳ねさせた審判が、何故か敬語になっていることに首を傾げた雷電は。
「お、おい…! 手を使えとは言ったけど、言ったけどさあ!!!!」
自分の発言が引き起こした惨劇を前にして、思わず頭を抱える円堂をよそに。
「……いくぞ」
怯える審判から平然と新しいボールを受け取ると、そのまま前線めがけて腕を大きく振りかぶった。
そして、棒立ち状態の選手たちの頭上を大きく飛び越すような軌道でボールを投げ放つ。
「……ッ!!!」
砲弾のような勢いで飛来したボールは、帝国学園との試合を終わらせたあの時のように、豪炎寺の足元へと寸分の狂いもなく収まった。
「なっ───ま、まずい! ディフェンス、囲めッ!!!」
そこでようやく立ち直った地木流が、未だ状況の変化についていけていない自軍DFへと慌てて指示を飛ばす。
「ぐ、ふふゥ……ッ!!」
それを受けて、大柄な尾刈斗DFたちがドスドスと足音を響かせながら豪炎寺めがけてタックルを仕掛けてくる。
「───ッ!!」
ものすごい勢いで四方から迫ってくる、不気味な身なりの巨漢たち。
威圧的なその光景を冷静に見据えたまま、豪炎寺はサイドライン際に立っていた染岡へとボールを蹴り出した。
「ッ、なんだ!? どうした、豪炎寺!!」
思わぬタイミングで飛んできたボールに、慌てて足を伸ばした染岡が声を上げる。
「……シュートの前に周りをよく見るんだ、染岡」
「なにを……ッ!?」
意味深な言葉を残して駆け上がっていく豪炎寺に、言い募ろうとした染岡は迫ってきた尾刈斗DFにたまらずドリブルを開始した。
(アイツ……どういうつもりだ!?)
帝国戦での連携をなぞるかに思われた途端、相手キーパーに有効打を持たないこちらにボールを回してきた。
全く読めないあのプレーの意図に目元をひくつかせながらも、豪炎寺へのプレスで開いた空間へとぐんぐん切り込んでいく。
そして、相手DFの隙間をすり抜けた染岡は、三度シュートレンジまでたどり着いた。
(ここで周りを見ろったって……ッ!!)
例の言葉に従ってチラリと周囲を見回した染岡は、絶好の位置でボールを要求する豪炎寺の姿を捉えた。
「なるほど……ッ!?」
これ幸いとパスを送ろうと足を振り上げる寸前、染岡は彼が目線で背後を示していることに辛うじて気がついた。
その視線の先を辿ると───完全にフリーの状態でこちらを見つめる円堂の姿があった。
「ッ!!! ……決めてやれ、豪炎寺ッ!!!!」
「!? ……フッ、誰が打とうと、この【ゆがむ空間】は───ッ!?」
染岡の言葉とは裏腹に、ボールは豪炎寺を僅かに逸れて奥の方へと一直線に進んでいく。
「ッ!?───【グレネードショット】」
そして、自身めがけて飛来するボールに瞠目したのち、円堂は静かに足を振り上げると。
青い輝きを放つボールを、ゴール下隅へと素早く蹴りこんだ。
「ッ、まずっ───」
そして、コンパクトな動作から放たれたそのシュートは、慌てて横っ飛びで対応した鉈の指先をすり抜けていき───
「ゴォォォォルッ!!!! 雷門、豪炎寺を囮にした鮮やかな連携で勝ち越し点を上げましたァッ!!!!」
「この流れが見えてやがったのか!!!
…認めるしかねェ。お前ってやつは、やっぱりすげえストライカーだ、豪炎寺!」
ゴールに収まったボールを見つめ、僅かに表情を緩ませていた豪炎寺のところに。
勢いよく走り寄ってきた染岡が、ご機嫌な様子で彼の背中をバシバシと叩いた。
「よく分かってくれたな。……咄嗟にあれだけ頭が回るヤツがいてくれると、オレも心強い」
「〜〜〜ッ!! ……へっ、相変わらずエラそうな口利きやがってよぉ!」
どこか打ち解けたような雰囲気で言葉を交わす2人をよそに、シュートを決めた張本人であるはずの円堂は、どこか硬い表情で俯いていた。
(真っ向から勝負しても、あのキーパーには絶対に敵わなかった。……隙をついてパスを回してもらったお陰で、どうにか決まっただけだ)
キーパーとしての経験が、彼我の実力差を残酷なまでに浮き彫りにしていた。
「……このままじゃ、ダメだ」
グッと握りしめられた拳に力が入る。
今日も、その手にはキーパーグローブが装着されていない。
「お、おい、円堂……?」
「……」
気遣わしげに様子を伺う染岡と豪炎寺にも反応を返さず、円堂は下を向いたまま自陣へと歩いていってしまった。
§§§
そして、尾刈斗のキックオフ。
「ま、まだだッ!!───マーレマーレ、マレトマレッ……!」
諦めないとばかりに尾刈斗監督、地木流が声を枯らして奇妙な呪文を唱える中。
「……ぐ、む」
雷門のペナルティエリアでは、変色した団子鼻のあたりに小バエがたかり、不快げに眉をひそめる雷電の姿があった。
それを追い払おうと、風切り音が鳴るほどの勢いで膨れた両手を振り回すが、小バエの群れは全く意に介さない様子で飛び回り続ける。
「よし、いくぞッ───【ゴーストロック】ッ!!」
そんなことをしている間に、フィールドでは尾刈斗の必殺タクティクスが発動するが───
ッパァン!!!!!!!!
「えッ!?!?!?」
「な、なんだッ!?!?」
突如響き渡った轟音に、プレイヤーたちは試合中だということも忘れてしきりに辺りを見回す。
「……よし」
我慢の限界から、両手を叩き合わせて小バエたちを叩き潰した雷電は、これでようやく試合に集中できると満足気に顔を上げ───
三度静まり返ったグラウンドに、今頃気がついた。
「ぬう……」
(……今度は何だというんだ)
ひと試合の中で1度くらいならまだしも、繰り返されるこの流れにいい加減うんざりしてきた雷電が、苛立った様子で息を吐く中。
「……あれ? なんか動ける」
ふと足元を見下ろしたマックスが、ぽつりと呟いた。
「お、ほんとだ」
「なんでだろ、あれだけ動けなかったのに…」
その言葉を皮切りに、移動を封じられていたはずの雷門イレブンが次々に走り始める。
「な、なにッ!?!?!?」
単なる特大の柏手でゴーストロックが解除されるという理解不能な状況に、尾刈斗イレブンが棒立ちのまま口をパクパクさせる。
「あんな、
そして、あまりのことに地木流が膝から地面に崩れ落ちる中。
雷門中サッカー部の存続を賭けた尾刈斗中との練習試合は、微妙な空気のまま終わってしまったのだった。
ハエたかられデブ は 手刀 と 柏手 を 覚えた!
尾刈斗中サッカー部 の メンタル に クリティカルダメージ!