イナズマイレブン1・2・3!! 雷電真太郎伝説 作:睾丸Jリーグ
「とりあえず、たった今あなた方が説明してくれた内容をまとめてみますけど、」
そう言うと、土門は病院のベッドから身を起こし、申し訳なさそうにベッドの周囲に立ち竦む雷門サッカー部の面々を冷たく一瞥する。
そして、まるで菩薩のような印象を与える、もっと柔和で人好きのする外見の人間に相応しい───率直に言って彼の悪人面には似つかわしくないような、超然とした微笑みを浮かべてみせた。
「転校生として部室に訪れたオレが、できるだけ第一印象を良くしようと寝る間も惜しんで考えてきた自己紹介を? 完っ全に聞き流していた上に?
クソどうでもいい床のゴミなんぞに気を取られて、それを拾おうとしゃがみ込んだ拍子に───今にも完璧な自己紹介を終えようとしていたオレに向かって、強烈なヘッドバットをかましてくれやがったと、そう言いたいんですか?」
「…いや、あれはゴミではな───」
「ああ、もう結構です! これまでのお話で、あなたがその無駄に発達した身体に全ての栄養を吸われた
「え、あ、」
あんまりにもあんまりな内容に思わず口を挟んだ雷電の言葉は、流れるようにまくし立てられた土門の怒りの声によって瞬時に封殺される。
「その上で! あなたに言いたいことがあります。───なぜ平気な顔して人間社会のド真ん中でのさばっていられるんですか?」
「…え?」
「あなたの図体がこんなに巨大になったのは昨日や今日の話ではありませんよね? 10年以上もの歳月を、あなたはその肉体と共に生きてきたはずだ。
それでいて、どうして未だにこんな初歩的なミスを犯しているんですか?」
「…それは」
「100歩譲って、あなたが人里離れた山奥でひっそりと孤独に暮らしているバケモノだったなら、それでも構わないのでしょう。
しかし! あなたは! こうして雷門中学校のいち生徒として、集団行動を余儀なくされる立場にあるッ! そうですよね!?」
「…はい」
「だというのにッ! あろうことか、あなたは!! 集団社会に迎合するどころか、ありのままの醜態を晒し、現在進行系で他の生徒たちに迷惑をかけ続けている!」
「…う、うう」
「ここまでの話を理解する知能があなたにあるならば! 何かしなければならないことがあるのではありませんか!?」
「…あやま」
「今すぐ、人里から、出ていけッ!!! この怪力バカデブモンスターめがッ!!!!」
「────ッ!?」
その言葉が病室に響き渡ると同時。
雷電は膝から床に崩れ落ちると、グズグズと見苦しくすすり泣き始めた。
これまでの人生では、身も心も強靭な外皮に包まれていたことで一切揺らぐことのなかった雷電の精神に、初めて明確なダメージが与えられた瞬間だった。
「そしてそれは、負け知らずの肉体戦士が初めて痛みを知った瞬間でもある。
しかし、これは単なる挫折に留まらない。
痛みを知るバケモノほど恐ろしい存在はない。この瞬間、彼はまた一段と手の施しようがないバケモノへ進化するためのきっかけを手にしたのだ。
この先どんなことがあろうとも、雷電は今日という日を、その痛みを忘れることはない。
より悪辣さを増したバケモノに手を焼かされる度、彼らは思い出すことになるだろう。雷電に痛みを教えてしまった、恐るべきガリガリの
「なるほど、確かにそうかもしれない。…って、んん?」
うずくまって嗚咽を漏らす
その異質な空間に、突然モノローグのような語り口の長台詞が挟み込まれる。
その矢鱈と不安を煽るような内容に、思わず声を上げて共感を示してしまった円堂は、そこに至ってようやく声の主に一切見覚えがないことに気がついた。
「ふふん、そうでしょうそうでしょう! 私の洞察力にかかればこのくらい言い当てられて当然なのです!」
「いや、その前に────キミ、誰?」
「へ───うわっ!? なんだこの子、いつの間にッ…!?」
円堂の訝しげな目線は意にも介さず、彼の言葉を受けて得意げな表情を浮かべる彼女の存在に、その他の面々もようやく気付き始める。
「むむ、失礼ですねぇ、最初からいたじゃないですか! こ、こ、に!」
そう言って自分の立ち位置を指さす小柄な少女のことを知っている者は、雷門イレブンの動揺の声でざわめく病室には誰ひとりとして存在しないようだった。
すっぱりと顎のあたりで切り揃えられた鮮やかな青髪に、赤いフレームのメガネが印象的な彼女は、
これだけアクの強そうな人間の存在に、声をかけられるまで全く気がつかなかった。
このあまりにも異常な状況に、気配察知にも長けているはずの超次元サッカー選手の端くれである雷門イレブン一同が密かに戦慄する中。
「…それで、結局のところ君は何者なんだ?」
そんな空気を意にも介さない今回の
「え。聞かされてませんか?…おかしいな、ちゃんと入部届出したのに……」
周囲のサッカー部員たちから完全に不審者を見るような目で見られていることにようやく気がついたのか、彼女は険しい表情でブツブツと何やら呟いて自分の世界に入り込んでいこうとする。
「えぇっと、それで?」
「あっ…ハ、ハイ! 今日から雷門中サッカー部でマネージャーとしてお世話になります、音無春奈です!よろしくお願いします!」
その思考に割り込むようにして円堂が声をかけると、音無は我に返った様子でハキハキと自己紹介を始めた。
「マ、マネージャー!? ウチには秋がいるのに、なんで!?」
「ふっふっふ、それはですねぇ、私が新聞部出身で、情報収集担当のマネージャーとして入部したからです!
…今日ここに来たのだって、私の情報収集力を皆さんにお見せしようと思ってのサプライズ!…のはずだったんです。
それも、あの冴えないメガネの監督のせいで台無しですけど」
再びブツブツと不満げに言葉を漏らし始めた音無を尻目に、何故か影野、マックス、メガネの顔色が急激に悪くなってきていた。
「…影が薄くて」
「皮肉屋で」
「敬語キャラ、ですって……!?」
3人が茫然とした様子で漏らした声。思わず零れ落ちてしまったというようなその無防備な声色が、キャラ被りに対する深刻な危機感を物語っているかのようだった。
「…ん? ど、どうした3人とm「「「ま、まずい!!!!!」」」
…え?」
明らかに様子がおかしくなった彼らは、突然叫び声をあげると部室から走って出ていこうとする。
そのうち、最も足が遅かった影野を、近くに立っていた風丸が辛うじて腕を掴んで足止めした。
「ッ!? は、離せッ!!」
「お、おい、落ち着け、影野! …なあ、どうしたっていうんだよ、こんないきなり走り出したりして」
周囲を見回して逃げ場がないことを悟ったのか、影野はフッと諦めたような笑みを漏らした。
「ふ、ふふ。…後輩系快活美少女なのに、俺と同じ影薄いキャラ、か。
ただただ見た目通りに影が薄いだけの俺より、よっぽどキャラクターとして強い、そうだろう…?」
「キ、キャラって… いや、仮にそうだったとしてもお前はプレーヤーで音無はマネージャーなんだから、」
風丸が説得を試みたその瞬間、影野は一転して不敵な笑みを浮かべると───その場に両手足をついてガックリと項垂れた。
「ふっ───終わった…!!」
「か、影野がめちゃくちゃ絶望してる!?」
§§§
なお、雷門イレブンから見た土門の第一印象は、本人の望む"陽気なお調子者"というところから大きく変質した。
彼らに植え付けられたのは、"あのバケモノに初めて膝をつかせたネチネチ冷酷黒ゴボウ"というあまりにも不名誉な印象。
その風聞は、瞬く間に学校中へと広がっていった。
その結果として、土門飛鳥は雷電以上の危険人物として全校生徒から畏れられることとなり。
雷電の不注意で吹き飛ばされた被害者でしかなかった筈の彼は、全校生徒から明確に心の壁を作られた状態で今後の転校生生活を送っていく羽目になったのだった。
理詰め系細ゴボウサッカー少年 と 隠密系キャラ被りマネージャー少女 が 仲間 に 加わった!