イナズマイレブン1・2・3!! 雷電真太郎伝説 作:睾丸Jリーグ
雷電による土門ブチかまし事件で有耶無耶になってしまっていたが、彼らが今サッカー部として向き合うべき問題はこのデブなどではない。
次なる対戦相手、野生中のアクロバティックなサッカーに対抗するための手段を見つけることだけを考えるべきだった。
大騒ぎしてしまった病室から半ば追い立てられるように退出した雷門イレブンは、その本題にようやく目を向けようとしていた。
「…そうは言っても、ファイヤートルネードより上の高さで勝負できる選手なんて、このメンツの中にはいないでやんすよねえ」
栗松がお得意の陰湿さを発揮して、チームが盛り下がるような口調で問題の本質を提示する。
「うーん、とりあえず、みんなの跳躍力をテストしてみようか?」
この円堂のキャプテンとしては真っ当な提案が、あんな事態を招くことになるとは。
そして、結果的には事態を急激に加速させてゆくことになることなど、この時点では誰ひとりとして知る由もないのであった。
§§§
「うーん、数値が良いのはやっぱり豪炎寺と、少林、風丸か。あとは…え、壁山?」
「お、オレッスかぁ!?」
計測した数値をまとめたバインダーを覗き込む円堂の言葉に、壁山が丸っこい巨体をびくりと揺らした。
「……いや、普通に衝撃映像だったよ?壁山のでっかい体が何mもブチ上がってさあ」
「ハハ、あれは凄かったよなあ。…さて、もう1人の巨体の持ち主はどうかな、っと」
あの細い脚からすれば有り得ないレベルの、物理法則を無視した跳躍力。
そんな異常な能力を備えている自覚が無い様子の壁山に、『雷電で霞んでるけどアイツも大概だよな』という考えで部員たちの内心が密かに一致していた。
そんな
雷門イレブンが誇る"もう1人のデブ"、雷電真太郎が今にも跳躍力テストに臨もうとしていた。
「───よーし、それじゃ、雷電!思いっきりいこーう! とりあえずさあ、跳べるだけ跳んでみてくれよー!」
「ヌッ、構わないのか? 本気で跳んでしまっても…」
「あぁー? いいっていいってー! どうせそんなに期待してないしさー!!」
「…そうか。そういうことなら、なにも気にせず跳ぶとしよう」
なんとも軽はずみに言葉を投げかける宍戸と、ロクに考えもしないでそれを受け入れてしまう雷電。
彼らの相性は、有り体に言って最悪だった。
「では、いくぞ────むうんッ!!!」
「ぇ───────」
ヒュゴッ!!!!!!!!!
その瞬間、ロケットもかくやとばかりの颶風が、あたり一面に吹き荒れる。
凄まじい勢いを伴って跳び上がった雷電の姿は、どんどん上昇して見えなくなっていく。
宇宙センターで衛星の打ち上げでも見学しているのかと錯覚するほどの風圧に、宍戸の異常に明るい蛍光オレンジ色のアフロが激しく靡いて振り回される。
「お、おいおい!」
「いや、マジかよ…」
地上の生徒たちがざわめく声など、もはや一塊の砲弾と化したバケモノ肥満児には届きもしない。
慌てて駆け寄ってくる雷門イレブンを一瞬で置き去りにして、雷電のビバンダムじみたボディは宙を舞った。
空気抵抗を受けまくっているはずの鈍重なフォルムが、空を切り裂いてぐんぐん上昇していく。
(こ、これは……!)
引き続き風圧でバサバサとたなびいているアフロヘアーの下では、大粒の冷や汗が続々と流れ落ちていく。
「ま、まずい───! 絶対に俺が怒られるッ!?!?」
その現実離れした光景は、軽率にも雷電に本気を出していいと許可してしまった宍戸の顔を、今更すぎる後悔で青ざめさせるには充分すぎるものだった。
「お──── おぉぉーーーい!!もう分かった!!分かったからッ!!!!
らい、雷電ッ!!!降りてきてくれぇぇぇ!!!」
米粒大にまで小さくなった、遥か彼方の雷電に、声を枯らして想いを伝える。
とにかく、これ以上の大ごとにしたくない、その一心で────。
「降ぉぉぉりぃぃぃろぉぉぉぉぉ!!!!!」
「…む?」
ぐわんぐわんと残響を伴う程の大音声が、地上から浴びせかけられている。
その内容までは聞き取れなかったものの、なにか急を要する事態が発生したのだろうと当たりをつけた
ひとつ頷くと、なにを思ったか天に向かってその野球グローブのように分厚い掌を突き出した。
(一旦勢いを殺さないと…よし)
ゴッ!!!!!!!!!
雷電が空中で繰り出した、超速の掌底。大気中に衝撃波が伝播するほどの勢いで突き出された手のひらが、雷電の推進力を一撃で殺しきってみせた。
(うん、イメージ通りだ)
「───ちょっ、なんだ今の音ぉぉぉ!?!?さっさと降りて来いってばぁぁぁ!!!!」
地上の宍戸の顔色がますます蒼白になってきていることなど知る由もない雷電は。
腹と頬の肉をブルリと揺らしながら空中で器用に方向転換すると、重力の軛に身を委ねて一目散に地表へと落下しはじめた。
「こ、今度はなんなんだよォッ!?」
「……お、おいおいッ、アイツ、降ってくるぞッ!!!」
「なっ────に、逃げろォ!!!!!!!」
蟻の子を散らしたように逃げ惑う雷門中の生徒たちの頭上から、ひとつの肉塊が飛来してくる。
その肉塊は、足を大きく開いて、膝が直角になるまで腰を落とした股割りの体勢をとっている。
着地のことしか頭にないと言わんばかりの不安定なポーズを、持ち前の驚異的な体幹で維持しながら、跳び上がった時よりも凄まじいスピードに乗って落下してくる悪夢のようなバカデブ。
その異常な飛翔体の弾頭が地表と接触した瞬間、本能的に怖気立つほどの破壊音が周囲の生徒たちに浴びせかけられた。
ズズゥ───────ン……!!!!!
稲妻町の住民の大半が、作業の手を止めて思わず音の出処を探して振り返るほどの衝撃。凄まじい轟音が、あたり一帯に響き渡る。
砂嵐と見紛うほどの土埃が晴れた先には、亀裂やらクレーターやらでボッコボコになったグラウンドの変わり果てた光景と─────その中央で、股割りの体勢のまま微動だにしない雷電の姿があった。
「う、嘘だろッ……!?」
どう見ても中学生の力だけでは元通りに復元できないほどの有り様。
それを見て、反射的に理事長の厳しい顔面を脳裏に浮かべた円堂は、思わず天を仰いだ。
そんなこととは露知らず、何故か跳躍力テストに手応えを感じている様子の雷電が、めくれ上がったコンクリートのタイルなどをバキバキと踏み潰しながらホクホク顔で円堂たちの元へと近寄ってくる。
「フッ、どうだ? これで野生中対策も万ぜ────」
「……っ………わけ、ぇだろうが」
「────って、どうした、円ど……」
「こんなこと、やっていいわけ、ねえだろうがッ!!!!!!」
「え、」
「こんなもん封印だッ、封印ッ!!!!!───グスッ、ウッ、ゥ、ゥ……」
「え、円堂ッ!?」
そのまま泣きべそをかきはじめた円堂の様子を見て、雷電の動きがピタリと止まる。
キャプテンの責任に押しつぶされそうなその肩に手を添えて支えながら、風丸は怒りに震える口を開いた。
「お前…! うちのグラウンドをこんなグチャグチャにしただけでも大目玉確定なのにッ、公式戦でお邪魔した相手チームの学校でこんなことになったら、一撃で出場資格剥奪も有り得るんだぞッ……!!」
「え、ええっ!?」
怒りに震える風丸によって指摘されたいかにも有り得そうな未来に、そこまで頭が追いついていなかったその他の部員たちも目を見開く。
「し、しかし、これは少し本気を出しすぎてしまっただけで、」
「
「……いま、何かおかしかったような、」
「いいからさっさと片付けるぞッ!!手を動かせェ!!!」
「あ、ああ……」
なにか釈然としないものを抱えながらも、雷電ならびに雷門イレブンは瓦礫の撤去作業に移ることとなった。
────ボグンッ!!!!
「ら、雷電、お前、それ……!」
「むっ?」
その後、風丸のあまりの剣幕に動揺した雷電が、勢い余って壊れていない位置のタイルまで余分に剥がしてしまう一幕もありつつ。
なんとか先生に見せても卒倒されないレベルまで破壊痕を整えてから、サッカー部全員で理事長の元へと報告に向かうのだった。
§§§
「あーあ、また振り出しに戻ったでやんすねぇ……」
理事長室からの帰り道、頭の後ろで手を組んだ栗松が、ため息混じりにポツリと呟く。
「そ、そうだな、ハハ……」
いつもはモチベーターとして明るく鼓舞する円堂も、今回ばかりはフォローのしようがなく。
どことなくどんよりした空気を纏いながら、サッカー部たちは部室へと帰っていった。
そうして、野生中対策を考えるための現状把握に過ぎなかった跳躍力テストは、斜め上の身体能力と斜め下のオツムを兼ね備えた肉体戦士・雷電真太郎によってめちゃくちゃになり。
野生中との試合に向けた特訓は、またしても一切進展しないまま有耶無耶になってしまったのだった。
パワーデブ × 本気跳躍 = コンクリ粉砕テロ