イナズマイレブン1・2・3!! 雷電真太郎伝説   作:睾丸Jリーグ

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雷電七太郎 帝国がきた!大江戸もきた!

 

 

 

 雷門中、正門。

 

 少しずつギャラリーが集まりつつあるそこに、全員集合した雷門サッカー部は。

 帝国学園がどこからやって来るのかと辺りを見回しつつ、対戦相手のお出ましを今か今かと待ち構えていた。

 

 

「……オ、オレ、ちょっとトイレ行ってくるっス〜!!!」

 

 すると、先程から緊張で顔色が真っ青になってきていた壁山が、その突き出た腹を押さえて校舎の方へと駆け出していく。

 

「お、おい! 壁山!!!」

 

 制止する円堂の声も虚しく、壁山の巨体は昇降口に消えていった。

 

 

「……まさかあいつ、このまま試合もサボるつもりなんじゃ…」

 

「えっ!? そ、それはまずい!!!!」

 

 思わずと言った様子で風丸が零したひと言に、雷門イレブンが泡を食って校舎の方に駆け出していく。

 

 

 

「……」

 

 そして、ただ1人その動きに乗り遅れた雷電は。

 

 せめて自分だけでも帝国学園を出迎えようと、そのひん曲がった口から小さく息をついて、正門の方へと向き直った。

 

 

 

§§§

 

 

 

 校舎中の男子トイレを全て捜索するも、全て空振りに終わった雷門イレブンは、

 廊下の突き当たりで、なにやらガタガタと震える掃除用のロッカーを発見した。

 

 よく耳をすませてみると、その扉の中から「助けてほしいっス〜!!!」という、

 壁山のくぐもった悲鳴が情けなく聞こえてくる。

 

「……おい、壁山?」

 

「ッ!? キャ、キャプテン! ここから出してほしいっス!!!」

 

 鉄扉の向こうから、静かに名前を呼ぶ円堂の声に、壁山がロッカーを更に大きく震わせて助けを求めた。

 

 

「……なあ。お前、怖くなっちゃったのか?」

 

「───」

 

「確かに、どんな試合になるかは分かんないけどさ。それでもやってみなきゃ分かんないだろ?」

 

「その、キャプテン。オレ───「あんたたち、ちょっと待つでごわす」───ッ!?」

 

 今にも心情を吐露しようとした壁山の独白を遮るようにして、どこからか聞き覚えのない野太い声が響いてきた。

 

 

「嫌がっているのを無理矢理とは、とんでもない人たちでごわすなあ」

 

「誰だッ!!」

 

 風丸が鋭く誰何すると、

 巨大な腹を引っさげた生徒が4人、ドスドスと足音を響かせながら、鈍重な駆け足で彼らの前までやってくる。

 

 

 その先頭に立つ、隈取に髷の大男。

 言わずと知れた相撲部1年(雷電ガチファン)、大江戸が、おもむろに口を開いた。

 

「おいどんは相撲部のものでごわす」

 

「……???」

 

 

((((え、相撲部……?))))

 

 全く無関係に思える人物の登場に、雷門イレブンは驚愕して目を見開いた。

 

 

「壁山どんは、サッカーよりも相撲に向いているのでごわすよ」

 

「───おいおい、なに勝手なこと言ってるでやんす?」

 

 唸るような声で挑発的なことを言い放つ大江戸に、栗松がせせら笑うように反論する。

 

「壁山は、相撲がしたいなんてひと言も言ってないでやんすよ?」

 

「……ふ。サッカーがしたいようにも見えないでごわすがな。

───壁山どんは、どっちがいいでごわすか?」

 

 そんな栗松の言葉をあっさり切って捨てると、大江戸はロッカーの方に向き直った。

 

「え……。

オレ、オレは───そんなのわかんないっスよぉ〜!!」

 

 中で壁山が縮こまってしまったのか、再びロッカーがガタリと揺れる。

 

「しかたない。こうなったら、そのサッカーとやらで決めようじゃないでごわすか」

 

「……なに?」

 

 訝しげな風丸をよそに、大江戸はさらに言葉を続ける。

 

「おいどんたちのディフェンスを破り、このロッカーにシュートを当てることができたなら。壁山どんは潔くあきらめるでごわす」

 

「!! ああ、望むところだ! 壁山をロッカーに閉じ込めたままにはさせないぞ!」

 

 明らかに雷門イレブン側が有利な条件を突然提示してきた大江戸にも、全く不審に思う様子のない円堂が勇ましく返答する。

 

 

「───サッカーなんて軟弱の極みィ……日本男児ならば、相撲でごわすよォ、どすこぉーい!!!」

 

「……さあ、かかってこい!!!」

 

 こうして、サッカー部と大江戸率いる相撲部による、変則的なサッカーバトルが始まった。

 

 

 

 ボールを踏みつけ、ピッチ中央に陣取る円堂の背後には、風丸と栗松。

 そして、お調子者なメカクレオレンジアフロこと、宍戸の3人が控えている。

 

 対する相撲部は、縦に並んだ大江戸、阿後を中央に配置した陣形。

 そこに、彼らが必死に声をかけてかき集めた相撲部の1年生、近藤と厚井の2人が脇を固める。

 

 キックオフとともに短いパスを素早く回し、両サイドから迫ってくる大柄な両者をあっさり躱すと。

 

 風丸はそのままピッチ中央を切り裂くかのように、スピードに乗ったドリブルで駆け上がっていく。

 

 

 慌てて直線的なプレスをかけてくる大江戸、阿後の両方を、ボールの横移動だけでするりと突破した風丸は、

 壁山が詰まったロッカーめがけて、強烈なシュートを叩き込んだ。

 

 

「わ、わわっ───へぶ」

 

 ボールの衝撃でロッカーの扉が開き、その弾みで汗だくの壁山がきりもみ回転しながら飛び出してくる。

 

 

「……よしっ」

 

 直前に脳内でイメージした通り、完璧な試合運びでシュートを決めた風丸は、小さくガッツポーズを作った。

 

「───くっ。おいどんたちのプレッシャーをものともしないだなんて、サッカーもなかなか侮れないでごわすなあ!」

 

 そんな調子のいいことを言いながら、大江戸たちはゆっくりとロッカーに、そして今にも起き上がろうとしている壁山に近づいていく。

 

 

「ここは一旦───退くでごわすよぉ!!!」

 

 持ち前の怪力で壁山の首根っこを引っつかむと、再びロッカーに詰め込み、それを4人がかりで担ぎ上げて走り出すという一連の動作を。

 

 流れるような連携で完璧にこなしてみせた大江戸たちは、未だ理解が追いつかない様子の雷門イレブンたちの前からあっさりと姿を消した。

 

 

「……え、ああっ!!壁山を返せーっ!!!」

 

 ようやく我に返った円堂の声が、がらんとした廊下に虚しく響く。

 

 サッカーバトルを挑んであっさり負けたのは、ひとえにサッカー部を油断させるため。

 そんな、円堂たちの意表をついた奇襲によって。

 

 雷門イレブンは、壁山の奪還に失敗した。

 

 

 

§§§

 

 

 

「おいどんは相撲部のものでごわす」

 

 サッカー部の面前に進み出て。

 

 数日前にふざけて使ったあの口調で、"意地悪な相撲部"を演じる。

 

 

 

「壁山どんは、サッカーよりも相撲に向いているのでごわすよ」

 

 

 ……どうしてこんなことになってしまったのか。

 

 

 彼の理不尽な物言いに憤慨し、こちらを睨みつけるサッカー部と相対して、大江戸はひとりごちた。

 

 髪型やフェイスペイントからも見て取れるように、彼は江戸時代のものに強い憧れを抱いている。

 

 

 そんな大江戸にとって、江戸時代の大横綱、雷電 爲右エ門(ためえもん)の生き写しかのような、

 隔絶した肉体と華々しい実績を持つ雷電は、彼が雷門に入学する前からずっと憧憬の対象だった。

 

 もっと言えば、私立への進学を渋る両親を説得してまで雷門に入学したのも、雷電との接点を作りたかったからだ。

 相撲自体は前々から始めていたが、あくまでも自分の体格と趣向に合致していたからやっていただけで、大して熱意を注いでいたわけでもなかった。

 

 

 それでも、成り行きで出場し、早々に敗退した小学生の相撲大会。

 その決勝戦で見た、雷電の凄まじい取り組みと鮮やかな勝利に。

 

 その姿が瞼の裏に焼き付いてしまってからは、もうダメだった。

 

 それからというもの、人が変わったように自分の相撲を追求し始めた大江戸に、周囲は素直な称賛を送った。

 

 しかし、その原動力が「最近できた憧れの人に出会うため」という、

 ある意味不純なものであるとは誰も知らなかったが。

 

 その後、必死に勉強を重ねて中学受験を突破、雷門中相撲部に入部届を提出して。

 

 

 そして、いよいよ相撲部の練習に初めて参加できるとなった日の早朝。

 念願の雷電との初対面に、テンションが振り切れてしまった大江戸は。

 

 あろうことか、顔面を白の絵の具で塗りつぶし、目の下に赤い絵の具で涙のように線を引いた、

 とんでもないフェイスペイントを施して登校した。

 

 

 家族との観光で訪れた、ねぶた祭り。

 そこで見た隈取をモチーフに考案した、大江戸こだわりのデザインであった。

 

 その前日までの時点ですら、気合いの入ったちょんまげスタイルの髪型で、クラスメイトから若干遠巻きにされていた大江戸だったが。

 この日の更なるバージョンアップによって、決定的に中学デビューを失敗することとなった。

 

 

 しかし、そんな周囲の視線などは一顧だにせず、大江戸の意識は雷電真太郎ただ1人に向けられていた。

 

 その日、初対面の大江戸に、そのパンチの効きすぎた容姿にも臆することなく。

 むしろ「気合いが入っているな!」と背中を叩いてくれた雷電に、大江戸は心底感激した。

 

 

 それからというもの。

 その巨体に似つかわしくない子犬のような振る舞いでいつも雷電について回り、

 少しでも彼から学ぶことがあればその全てを心に刻んだ。

 

 まあまあ重めの憧れから生じた、雷電との密接な交流によって。

 

 未だ入学して間もない大江戸の中で育ちつつある、雷電へ向けたその感情は、既に崇拝の域にまで達しようとしていた。

 

 

 あの時サッカーバトルに協力したのだって。

 さっさとサッカーを体験し終えてしまえば、きっと雷電の気持ちが相撲部に戻ってくると思っていたからだ。

 

 あくまでも未知の競技に気まぐれで興味を示しただけのはず。

 

 これからも、自分たちだけの頼れる雷電先輩でいてくれるはずだと、大江戸は信じて疑わなかった。

 

 

 それがまさか、バトルを経たことで更にサッカーへの思いが強まってしまうだなんて、思ってもみなかった。

 

 このままサッカー部に移ってしまえば、1・2年生だけで構成されている雷門イレブンの中で、

 雷電は年長者としてのポジションを瞬く間に確立してしまうだろう。

 

 それができるだけの人徳と頼りがいを持っていることなんて、俺たち相撲部が1番よく分かっている。

 

 

 だからこそ、サッカー部に言いがかりをつけてでも、ここで止めなければならなかった。

 

 …それを、雷電自身が望んでいなかったとしても。

 

 このまま無理に引き戻したとして、あっさり未練を切り捨てて相撲部に専念してくれるはずがないとしても。

 

 

 それでも譲れないくらい、"相撲部主将の雷電 真太郎"は。

 (大江戸)に、そしてなにより彼ら(雷門中相撲部)にとって必要な存在だった。

 

 

 ざわめく気持ちを押さえつけ、再びステレオタイプな"相撲部"の仮面を被り直して感情を覆い隠す。

 

「……さあ、かかってこい!」

 

「───サッカーなんて軟弱の極みィ……日本男児ならば、相撲でごわすよォ、どすこぉーい!!!」

 

 

 

§§§

 

 

 

 そんなことになっているとはつゆ知らず、帝国学園の来訪を真面目に正門付近で待ち構えていた雷電。

 

 彼の眼前で、勢いよく敷かれていった長いレッドカーペットの両脇に、

 何らかの中国拳法のような構えをとった男たちがずらりと整列する。

 

 

ブシュ───ッ!!!!!

 

 

 バスの側面から突然もくもくと吹き出した、ミルク色のガスの中を切り裂くようにして。

 仰々しい花道の中央を、帝国学園が誇るサッカー部の精鋭たちが堂々と歩いてくる。

 

 

「……いや、はぁ??」

 

 単なる中学校同士の練習試合とは思えないほど無駄に金がかかった演出に、雷電は開いた口が塞がらなかった。

 

(……こいつらは、何がしたいんだ?)

 

 こんな回りくどい方法で自分たちの資金力を誇示して、私立中学としての格差を見せつけたいのか。

 

 

 いや、それだけのためにここまで凝った演出を考案する必要などない。

 そもそも、装甲車のような外見の改造バスが正門に停まった時点で、雷門の生徒たちは盛大にザワついていた。

 

 せいぜい300人程度しか在学しておらず、確実にそれ以下の人数しか観戦しに来ることなどない雷門中のギャラリーに、

 こんな札束でぶん殴るような真似をしてまで得られるものなどあるのだろうか。

 

 いくら考えてもそのメリットが思いつかなかった雷電は、無駄な思考を頭から追い出して踵を返した。

 

 

 成金趣味を拗らせて、こんな不可解な行動に出るような学校だとしても、

 40年連続全国優勝という異常な実績を築き上げてきたことは揺るぎない事実。

 

 

 目前に迫るキックオフに向け、改めて気持ちを引き締めると、雷電は試合の準備をするべく部室に向かってゆっくりと歩いていった。

 

 

 

§§§

 

 

 

「あー! もう帝国があんなところに! やい相撲部、早くここから出すっス!!」

 

 内側からガタガタとロッカーを揺らす壁山をよそに、その扉を塞ぐように背中を預けて座り込んだ大江戸は、そっと溜め息をついた。

 

(これで、あいつらは試合もできないはず。……そうしたら、相撲部に戻ってきてくれますか、雷電先輩…?)

 

 埃っぽい廊下の天井を見上げながら、大江戸は校庭にいるであろう雷電に心の中で語りかける。

 

 

 

 実のところ、転校してきた豪炎寺の敵情視察を目的としてやって来た帝国学園は、

 雷門のメンバー(ザコ)が1人くらい足りなかろうと試合を強行しただろう。

 

 しかし、ドタドタと校舎に駆け込んできて、震えながらロッカーに身を隠す壁山の姿を偶然目にしたとき。

 

 その瞬間、大江戸の頭にとっさに浮かんだ考えは、

 あの壁山を連れ去ってサッカー部のスタメンを1人減らすという、いかにも無謀なものでしかなかった。

 

 それでも彼の生命線は、これに縋ってなんとかサッカー部の廃部を祈るというところにしか残されていなかった。

 

 

 そして、なぜか最近参謀的なポジションを求められることが増えてきた冷泉を急いで呼びに行くと。

 

 彼が組み立ててくれた作戦をもとに、見事大江戸は壁山の誘拐に成功したのだった。

 

 

 

 

 そんな経緯を、ロッカー越しにわざわざ語って聞かされた壁山は。

 

(……それで、どうしてオレがこんな目に遭わなきゃいけないんスかぁ〜!!!)

 

 やりきれない思いとともに、ふるふるとロッカーを震わせることしかできなかった。

 

 

 

§§§

 

 

 

 その後、結局校内を探し回っても相撲部たちを見つけることができなかった雷門イレブンは、

 壁山を欠いた状態でピッチ横のベンチにまで戻ってきていた。

 

 

「壁山、やっぱり全然来ないでやんすねぇ」

 

「……もう、雷電に出てもらって試合を始めるべきなんじゃないか? 円堂…」

 

 校庭から校舎の方を見つめる栗松のぼやきに反応するようにして。

 審判に頼み込み、キックオフを遅らせてまで壁山を待ち続ける円堂に、たまらず風丸が進言する。

 

「……イヤだ! 俺は壁山を待つ! あいつがいなきゃ、雷門サッカーじゃない!」

 

 

 壁山を信じて、それからしばらくベンチに留まり続けた円堂だったが。

 審判から苛立った口調で急き立てられると、観念したのか肩を落としてセンターサークルの方へと歩いていった。

 

 

(…何かあったか知らないが。とにかく、お前のポジションは預かったぞ、壁山……!)

 

 

 そんな円堂の様子を見つめて。

 

 もし壁山が聞いていれば『アンタのせいだよ!!』と絶叫されるようなことを考えながら、

 壁山に代わってセンターバックのポジションについた雷電は、呑気に闘志を燃やしていた。

 

 

 

 

 




雷電を差し置いて、地味にアニメでもゲームでもセリフをもらっている超優遇モブこと、大江戸。

そして、ゲーム本編における唯一の相撲部イベント、壁山救出お邪魔バトル。
せっかくなので、原作における大江戸のセリフを全て組み込む形でいっぱい喋ってもらいました。

また、ハーメルンの空気感に冒された弊害として、大江戸が「激重感情白塗りストーキングデブ」というゲテモノ属性と化してしまいました。
こんな、こんなはずじゃ……
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