イナズマイレブン1・2・3!! 雷電真太郎伝説 作:睾丸Jリーグ
鼻から大きく空気を吸って息を止め、肺を膨らませた状態を保つ。
そうして呼吸を止めていると、何故か心拍音を強く感じるようになってくる。
その心臓の鼓動を10回数えた後、再び鼻からゆっくりと吐き出していく。
この一連の動作が身体に染み付いたのは、いったい何歳の頃だったろうか。
力士としての闘争に身を投じる中で、いつの間にか、勝負事の前にはこの変則的な深呼吸を行うのが雷電の習慣になっていた。
するといつもの通り、スッキリと頭が冴え渡ってくるのを感じる。
そして、センターラインの向こうで陣形を組んだ、帝国学園の選手たちに鋭い視線を向けながら。
雷電は、審判が吹き鳴らしたホイッスルの甲高い音色を、噛み締めるようにして聴いた。
その笛の音とともに、センターサークルの中央で、目金が蹴り出したボールが染岡に渡る。
雷門中サッカー部の存続を賭けた、帝国学園との試合。
そして、雷電のサッカー選手としての初陣が、今ここに始まった。
帝国の隙のない陣形に、染岡は思わずバックパスを選択する。
そして、素早くプレスを詰めてきた
「「「「……ッ!?」」」」
開始数秒でボールの主導権を奪われたことに、雷門イレブンが言葉を失う。
その隙にも、佐久間が単身ドリブルでどんどん攻め込んでくる。
動揺に表情を歪ませながらも、立ち塞がった風丸を前に、佐久間はニヤリと笑みを浮かべ───突如、3人に分身した。
「な───」
「フッ、他愛もないな。【分身フェイント】!」
3人の佐久間がアクロバティックにパスを繋いでいき、最後には風丸の頭上をボールとともに前方宙返りで飛び越して───分身が掻き消える。
「くっ───!?」
1人に戻った佐久間は、ピンクと水色の派手なニット帽を被ったMF、マックスが、
間髪入れずに仕掛けてきたスライディングをノールックで軽く跳び上がって躱す。
そして、そのまま何事もなかったかのように落ち着いてボールを運ぶと。
ペナルティエリアからは未だ大きく離れた位置で、すくい上げるようなミドルシュートを放った。
「ぐ、ぅ───ッ!!」
ふわりと柔らかく弧を描いて飛んだボールは、円堂が伸ばした手の先で、そのままゴールに吸い込まれていき───
「ゴ、ゴォォォール!!!帝国学園、前半3分に先制!
あまりにも鮮やかなゴールに、雷門イレブン、1歩たりとも動けません!」
それは、奇しくも相撲部に対して風丸が見せたプレーに酷似していて。
彼我の圧倒的な実力差を見せつけられた雷門イレブンは、目を見開いたまま硬直していた。
「……フッ、これが"強さ"だ」
衝撃が抜けきらない表情でセンターサークルにボールを持ってきた染岡に対し。
マントにゴーグル、後ろで束ねたドレッドヘアーという、
変態三種の神器を全て装備した帝国キャプテン、鬼道が不敵に言い放つ。
「よ、よぉーし! まだまだこれからだ!」
鼓舞するように円堂が声を響かせるが、その効果は薄い。
「甘い。───【キラースライド】!」
結局、今度はドリブルで仕掛けることを選択した染岡は、
足の残像が見えるほどのスピードで放たれた、
強烈な佐久間のスライディングによって天高く打ち上げられ、そのままボールを失った。
「……む」
そして、先程と同じく自身のドリブルだけで突破してやろうと前を向いた佐久間の、その面前に。
規格外の体格を誇る巨漢、雷電真太郎が立ち塞がった。
並々ならぬオーラを放つ雷電に、自身の華麗なドリブルを想像して軽くニヤケていた佐久間は、ぐっと表情を引き締める。
そんな佐久間のおもしろ百面相には目もくれず、雷電は洗練された所作でその右足を振り上げ───
ズドッッッ!!!
まっすぐ地面に振り下ろし、強烈な地響きを発生させた。
「う、うわっ!?!?」
雷電の動きに危機感を覚えた佐久間は、とっさにその場から飛び退こうとしたものの。
それより早く発生した衝撃波に足を取られ、みすみすボールを奪い返されてしまった。
「な───」
ウオオ───ッ!!!!
誰にも止められないと思われた帝国学園のドリブルを、個人技でひっくり返してみせた雷電に、ギャラリーから歓声が上がる。
「ほう……?」
予想外の伏兵に、鬼道は感心したようにゴーグルからはみ出した眉を上げる。
そして、その熱狂を堂々と受け止めた雷電は、前線にパスを送ろうとボールを蹴り上げ───
それを立ち尽くしていた帝国MFに直撃させ、そのまま奥の帝国DFを数名巻き込んで吹き飛ばした。
「は───?」
空気が凍る。
意味不明なパスコースと、なにより軽く蹴ったボールが屈強な帝国の選手を吹き飛ばす、という理解不能な光景を前にして。
その場にいた全員がいっぺんに黙り込んだ。
「な、何をしてるでやんすか! 雷で───ッ!?」
真っ先に再起動した栗松が、詰め寄りながら眉を吊り上げ───雷電の表情に息を呑んだ。
笑っている。
これだけのカオスな空間を作り出しておいて、雷電はその巨大な顔面を歪め、心底嬉しそうに笑っていた。
(全国優勝チームに、オレの力が通用した。…届く、届くぞォッ!!!)
サッカー全国優勝チームである、帝国学園。
相撲における中学生横綱に等しい彼らに、己のプレーが通用したこと。
サッカーを楽しんでいないわけではないにしろ、根底には「己の相撲の向上による相撲全国大会優勝」という目的がある雷電にとっても、
やはりその事実には込み上げるものがあった。
自分を打ち負かし、後に横綱となった相手と土俵の上で対峙した時ほどの威圧感も、今は感じていない。
その確かな手応えに、雷電の口から思わず声が漏れる。
「───ク、フフ」
「……え、まさか、あいつ───ッ!?」
「フフッ、ハ、ハハ!」
「おいッ!!!誰か、アイツの口を塞げッ!!!!!!」
(まずいッ! このままでは、またあの
「フ、フハハハハハハハハッ!!!!!!」
「これはまずい……ッ!!!」
なにか、ヤツの口内に突っ込める大きさのものは無いか。
そう思って辺りを見回した風丸の目に、とあるものが飛び込んでくる。
「これだ───ッ!!!」
「き、貴様、なにを……!?」
「ハハハハハハ───もごっ」
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」
手にしたものを無我夢中で雷電の口に詰め込んだ風丸は、なんとか止まった爆音に、肩で息をしながら少しずつ冷静さを取り戻していき───
「……え」
肩を震わせてこちらを睨みつける鬼道と、ゴーグル越しに視線がかち合った。
その鬼のような形相に、風丸が恐る恐る手の中を見ると、そこには───
鬼道が先程まで得意気に靡かせていたはずの、真っ赤なマントが握られていた。
「……」
吸水性が高い素材なのか、みるみるうちに雷電のヨダレを吸い込んで変色していくマントを見つめ。
風丸は顔色を青ざめさせる。
「あ、あの、ごめん、これ……」
「……捨てておけ、そんなもの」
パニック状態のまま、わけも分からずヨダレマントを差し出してくる風丸とは目線を合わせようともせず、鬼道が冷たく言い放った。
その後、代わりのマントを身に纏い。
鬼気迫るような指示を飛ばす鬼道のもとで───何故か過剰に雷電のいるあたりを避けながら───攻め込んでくる帝国学園に。
雷門イレブンは、前半だけで35点もの失点を許すこととなってしまった。
冒頭の時点ではシリアスな負けイベ回にするつもりで書き始めたのですが、
気がついたときには鬼道のマントが雷電のヨダレお掃除グッズになり果てていました。